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2020年12月27日 (日)

2020年を振り返る/映画界総括

2020年も、まもなく終わろうとしています。久しぶりに、映画界全体について1年を振り返ってみたいと思います。

今年は、世界中に新型コロナウイルスが蔓延し、映画や小説中のフィクションでしかなかった、パンデミックが現実となった、大変な年でした。後世にも記憶される大事件でしょう。

映画界にも激震が走りました。4月の緊急事態宣言を受けて、4月8日あたりからほぼ全国的に映画館が休館。ようやく大阪では5月22日から、一部のミニシアターを中心に五月雨式に劇場上映が再開されました。約1ヶ月半、映画館で映画が観れない状態が続いたわけです(東京周辺ではもっと遅かったと聞いています)。
こんなに長期間、全国の映画館が閉館されたのは、映画の歴史始まって以来ではないでしょうか。それだけでも大変な事です。
なお、再開後の映画館の状況については過去記事に書きましたので参照ください。

また、コロナ禍によって外出を控えた人が多くなり、それによって3月頃から映画館の観客が激減し、さらに緊急事態宣言による休館が追い打ちをとなって、多くの映画館が経営的に苦しい状況となりました。中でも小規模のミニシアターは深刻です。そこで苦境に陥ったミニシアターを救う為に、映画監督の深田晃司氏・濱口竜介氏が発起人となって「ミニシアター・エイド基金」が設立され、クラウドファンディング方式で応援資金を募る事となりました。
これが反響を呼び、当初の目標額、1億円を大きく上回る3億円以上の基金が集まり、これを分配する事でミニシアターの危機は回避され、閉館に追い込まれた映画館はごく少数に留まりました。素晴らしい事です。無論私も及ばずながら募金しました。

劇場が再開されても、しばらくは1席ごとに空ける市松模様の座席指定となり、満席になっても座席数の半分しか埋まらず、苦しい状況は続きました。
幸いだったのは、映画館では皆が前を向いて、しかもほとんど喋らずに鑑賞するので、観客のマスク着用と、劇場内の換気をきちんと行っていれば感染はほぼ防げる事が明らかになり、多くの劇場が6月には全面再開となった事です。1席空ける座席指定も、一部ですが後に解除された劇場もありました。
この点、俳優が大声でセリフを言ったり、観客も合いの手の掛け声をかけたりする舞台演劇では、一部でクラスターが起きたりして、かなり劇場再開が遠のいたのとは対照的でした。

そういう訳ですので、映画館の経営を救う為にも、映画ファンは出来るだけ、映画館に行っていただきたいと思います。


さて、そんな状況下にあっても、いくつか明るい話題が。

Parasite まず、1月に公開された韓国映画、「パラサイト 半地下の家族」が、前年の第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し、さらに本年開催の第92回アカデミー賞で、韓国映画初(と言うかアジア映画初)の最優秀作品賞(プラス国際長編映画賞も)を受賞するという快挙を達成しました。日本での興行も高収益を上げました。
とりわけ、アジア映画でも、アカデミー賞最高の栄誉である、作品賞獲得が可能である事を示したのは大きいと思います。日本映画にもチャンスがあるわけです。いつか、日本映画がアメリカ・アカデミー賞で作品賞を受賞する…そんな夢に日本の監督がチャレンジして欲しいですね。


Umibenoeigakan そしてこんな状況下でも、日本映画に数多くの秀作が生まれました。4月に亡くなられた大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は、まさに大林映画の集大成にして最後の大傑作。既にヨコハマ映画祭でベストワンを獲得しています。キネ旬はじめ多くの映画賞を総ナメする事も期待したいですね。
その他にも、「朝が来る」「本気のしるし 《劇場版》」「アンダードッグ」等は例年ならベストワンクラス、さらに「浅田家!」「スパイの妻」「ラストレター」「宇宙でいちばんあかるい屋根」「アルプススタンドのはしの方」「罪の声」と続きます。
新人監督の力作が多く登場したのも今年の特徴でしょう。「37セカンズ」「ソワレ」「佐々木、イン、マイマイン」と、ベストテンか準ベストテン級の秀作が目白押し。コロナ禍の中で、こうして素敵な日本映画が続々登場した事で心が洗われました。詳しくは正月発表の「マイ・ベスト20」にて。

ドキュメンタリー映画の秀作がいくつか公開され、しかも“政治と政治家”に関するものが多かったのも今年の特徴です。原一男監督のベストテン級の秀作「れいわ一揆」を筆頭に、「なぜ君は総理大臣になれないのか」「はりぼて」「ムヒカ、世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」と秀作揃い。同じテーマのドキュメンタリーがこんなに揃ったのも珍しい事です。嘘を118回も重ねた(笑)安倍前総理に往生際の悪いトランプ大統領と、政治(特に国のトップ)の劣化が顕著だった今年を象徴しているのかも知れません。
政治以外のテーマの作品でも「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」「精神0」「つつんで ひらいて」「ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶」「島にて」と秀作が続きました。
洋画でも「彼らは生きていた」「馬三家からの手紙」「ようこそ映画音響の世界へ」「行き止まりの世界に生まれて」等の秀作が公開されました。ドキュメンタリーだけでもベストテンが作れそうです。

ただ反面、これまでいくつもの秀作ドキュメンタリーを劇場公開して来た東海テレビ製作のドキュメンタリー、「さよならテレビ」「おかえり ただいま」が、いずれも物足りない出来だったのはちょっと残念でした。


劇場用映画でありながら、コロナ禍もあって、ネット配信に切り替えた作品も続出しました。

日本では、行定勲監督「劇場」がまずネット配信、ほぼ同時に一部の劇場でも上映されました。
洋画では、ディズニー実写版映画「ムーラン」が、3月公開を大々的に宣伝してたのに、コロナの影響で劇場公開が延期になり、いつ公開するのかと待っていたら、9月にディズニー公式配信サイト、ディズニー・プラスで配信、劇場公開はしないという事になりました。
ピクサー・アニメーション「ソウルフル・ワールド」も同じくディズニー・プラスで配信される事になりました。映画ファンとしては劇場で観たかったのに。これからも、こんな事が続くのでしょうか。落ち着いてからでもいいので、劇場公開して欲しいですね。

ちなみに、前記の映画「劇場」に関連してネットで見つけたのですが、日本アカデミー賞の選考基準には、「先に配信、TV放送されたもの及びそれの再編集劇場版は新作映画とみなしません」と記載されているそうです。それが事実なら、「劇場」も、先にテレビで放映された「スパイの妻」「本気のしるし 《劇場版》」もいずれも日本アカデミー賞受賞対象外になるわけです。どうなる事でしょうかね。まあ私は日本アカデミー賞なんて映画賞と思っていませんが(笑)。


Kimetsunoyaiba そして話題と言えば何と言っても、アニメ「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の爆発的大ヒットでしょう。興行収入が、絶対破れないと言われていた宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」の歴代最高収入を遂に破る所まで来ました。とんでもない大ヒットです。
これは、コロナ禍の影響で上映予定作品が軒並み延期で、劇場スクリーンが空いていた事も幸いしたのでしょう。公開当初、シネコンの上映時間表を見たら、1日に15~6スクリーンも占拠されてて驚きました。そうした話題が話題を呼んで、テレビでもどんどん取り上げられ、一つの社会現象にまでなりました。コロナ禍で収益が悪化した映画業界にとって、このヒットはかなり業績回復に貢献したと思われます。
ヒットの要因は、コミック原作、テレビアニメで先に話題となり、テレビ放映後もdTV、Netflix、Hulu、U-NEXT等の配信サイトでも放映され、それらがSNSの口コミで広がって行った事。さらに戦略としては、テレビ放映終了後、映画版がその続きの物語であった為、テレビ版の続きを観たい観客が劇場に押し寄せた、と言われています。確かにうまい戦略でしたね。ただ、仕掛けた側もここまでヒットするとは思っていなかったでしょう。
あまりにヒットしているので、「話題に乗り遅れたくない」という心理が働いて、普段映画を観ない人までも劇場にやって来た、と言う相乗効果もあると思います。この心理効果は「千と千尋の神隠し」の時にもありました。
SNSや、ネット配信が大きく作用した事も、今の時代を象徴していると言えるでしょう。
まあ個人的には、こんなに一極集中してしまうのも困った事で、もっと他の映画も観て欲しいと思いますがね。


…とまあ、いろんな事があった2020年も間もなく終わり。来年はどうなるか、コロナ禍が早く収まって、普段の生活が戻って来る事を心から願いたいですね。

なお、物故人の追悼記事は、例年通り大晦日までに掲載いたします。年末のご挨拶はその時に。

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コメント

私の先輩の某脚本家は、「鬼滅の刃」をケチョンケチョンに叩いて、とうとう観客の映画観る視点が下がるところまで下がったみたいに嘆いてました。

それにしても「アルプススタンドのはしの方」の城定秀夫、急に名が知られるようになったなあ、と。結構前から彼の作品観てますが、ピンク映画やVシネマではこのくらいの出来の映画はたくさん作ってるので、そこまでの驚きは無いんですよね。

投稿: タニプロ | 2021年1月 2日 (土) 03:42

◆タニプロさん
「劇場版『鬼滅の刃』」、私の評価は普通によくあるチャンバラ・アクションでそれ以上でもそれ以下でもないという所です。こんなのが何で「タイタニック」や「千と千尋-」以上に客が入るんだ!と嘆く人がいるのも分かる気はします。まあ付和雷同、行列が出来てたら何か知らないけど並ぶ、という日本人の国民性もあるのかも知れませんね。

城定秀夫、私はピンク映画まで手が回らないので、これまでこの監督の作品は見た事はなかったのですが、しっかりした演出で見ごたえありましたね。
昔から滝田洋二郎や廣木隆一、瀬々敬久といったように、ピンク映画で修業して一般映画に進出した監督は多くいますね。最近そんな監督が出なくなってたので、久しぶりのピンク→一般映画進出監督と言う事になりますね。今後大いにに期待したいと思います。

投稿: Kei(管理人 ) | 2021年1月 3日 (日) 17:36

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