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2021年1月13日 (水)

「映画 えんとつ町のプペル」

Poupelleonchimneytown 2020年・日本   100分
製作:吉本興業
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:東宝=吉本興業
監督:廣田裕介
原作:西野亮廣
脚本:西野亮廣
製作総指揮:西野亮廣
演出:大森祐紀
アニメーション監督:佐野雄太
キャラクターデザイン:福島敦子
音楽:小島裕規、坂東祐大 

お笑いコンビ、キングコングの西野亮廣が原作とプロデュースを手掛けた同名のベストセラー絵本のアニメ化作品。西野は製作総指揮の他脚本も担当している。監督は「ハーモニー」の廣田裕介。声の出演は「初恋」の窪田正孝と「星の子」の芦田愛菜、落語家の立川志の輔、小池栄子など。アニメーション制作は「鉄コン筋クリート」「海獣の子供」などで高い評価を受けるSTUDIO4℃。

(物語)空が黒い煙に覆われた、煙突だらけの「えんとつ町」。住人たちは青い空や星が輝く夜空を知らずに生活していた。ただ一人、ブルーノ(声:立川志の輔)だけは紙芝居に託して星を語っていた。しかし一年前にブルーノは突然姿を消してしまった。その為、ブルーノの息子・ルビッチ(声:芦田愛菜)は学校を辞めてえんとつ掃除屋で働き家計を助け、父の教えを守り星の存在を信じ続けた。そしてあるハロウィンの夜、ルビッチは危うくゴミ焼却炉に送られかけたゴミ人間プペル(声:窪田正孝)を助ける。二人は仲良くなるが、人間と明らかに異なる風体のプペルは異端審問官に目を付けられ、排除すべき異端者として追われる事となる。

私はお笑い番組をまったく見ないので、西野亮廣なる人物は全然知らなかった。その西野がプロデュースしたという絵本の事も知らない。ただ、アニメーションを制作したのが、一昨年に公開され、その緻密な絵作りと豊かなイマジネーションに感動した「海獣の子供」を制作したSTUDIO4℃と聞いたのでちょっと食指を動かされた。予告編を見ても、画面の隅々までびっしりと描きこまれたビジュアルに感嘆し、これは観なければと思った。

Poupelleonchimneytown2

(以下ネタバレあり)

町には無数の煙突が立っており、そこから吐き出される煙は空を覆い尽くし、青空も星が輝く夜空も、町の人々は見た事がない。
実はこの町を統治する支配者が、人民に希望や夢を持たせない為に、意識的に広い空の存在を見せなくしているという設定のようだ。
美しく広がる星空を見たら、人民が自由を求め、政府に反旗を翻す事を恐れている、という事らしい。

ジョージ・オーウェルの小説「1984」に出て来る全体主義国家を思わせる。街中には“異端審問官”と呼ばれる武装兵が、不審な動きがないか目を光らせている。

ルビッチの父・ブルーノはただ一人、あの煙で覆われた空の向こうには星が輝いているはずだと、紙芝居まで作って人々に訴えかけた。
そのブルーノが、一年前に忽然と姿を消した。理由は分からないが、多分不穏分子として異端審問官に拉致されたか、あるいは殺されたのかも知れない。
父の教えを守り、星の存在を信じ続けるルビッチを、町の人々は嘘つきと言って後ろ指をさし、ルビッチはひとりぼっちになってしまう。

Poupelleonchimneytown3 こうした状況が一通り描かれた後、空から光る物体が地上に落ちて来て、ゴミ置き場に着地すると、その辺のゴミ(傘、バケツ、ホウキ、双眼鏡等)を寄せ集めて、人の形になって行く。ヨタヨタと歩き出したこのゴミ人間が、誤ってゴミ焼却場行きのトロッコに乗せられてしまい、助けを呼んでいるのを見つけたルビッチがトロッコに飛び乗り、危うく巨大な焼却炉に落ちる危機一髪の所で助ける事に成功する。
こうして、互いに孤独な存在であるゴミ人間とルビッチは友達となり、以後二人は力を合わせて、“町に星空を取り戻す為”に闘う事となるのである。
ルビッチはゴミ人間に「プペル」と名付けるが、これは父ブルーノの紙芝居に登場する主人公の名前である(紙芝居のタイトル自体が本作の題名と同じ「えんとつ町のプペル」である)。

二人が乗ったトロッコが暴走して、ジェットコースターさながらに猛スピードでレール上を疾走するシーンは、明らかに「インディー・ジョーンズ 魔宮の伝説」のトロッコ・シーンのオマージュだろう。その他にも、あわや焼却炉に落ちそうになるスリリングなシーンは「トイ・ストーリー3」、二人が地下の坑道内に迷い込むシーンは「天空の城 ラピュタ」を思わせる等、随所にいろんな映画からの引用、オマージュが仕込まれていて楽しい。そう言えば「天空の城 ラピュタ」には高架レール上の暴走アクションもあった。

空を煙突から出る煙で覆い尽くすだけで、人々の支配者に対する反抗心を抑え込めるとは思えないのだが、むしろこれは“政府にとって都合の悪いことは隠ぺいして、国民の目に触れさせないようにしている”どこかの国家を暗喩しているのかも知れない(笑)。
また中国では以前、経済発展の為に工業生産を推し進めたせいで、空が煤煙で覆われて大気汚染が進み、青空が見えなくなった事がある(現在でもPM2.5など、大気汚染問題は続いている)。ここらもヒントになっているのかも知れない。

異様な風体のプペルを異端者とみなした異端審問官たちが彼を逮捕しようとするくだりも、不法移民を強制排除するアメリカをはじめ、マイノリティを異端視し差別・排除する時代の空気に対する批判が込められている気がする。

そう考えれば本作は、エンタティンメントでありながらも、この世界で起きている環境問題、独裁的、権威主義的な国家の台頭等に対する、さまざまな文明批判がテーマとして内在されているように思われる。それらのテーマを意識的に取り込んだのなら、原作・脚本・製作総指揮を担当した西野亮廣氏、なかなか大したクリエイターである。


後半は、海から突然船が浮かび上がった事から、ルビッチとプペルがこの船に、地下の坑道で知り合った鉱山泥棒のスコップ(藤森慎吾)から譲り受けた大量の無煙火薬を積み込み、気球で上空に運び上げて爆発させる事で、空を覆う煙を吹き飛ばそうとする計画の実行がクライマックスとなる。

船から分離させた、火薬を搭載した風船気球が上昇する途中、強風で船の鎖が気球に絡みつき、それをルビッチがよじ登って外そうとするくだりはスリリングでハラハラさせる。
このシーンも、初期の宮崎駿アニメや、スピルバーグ製作の娯楽アクションにしばしば登場する危機一髪サスペンスを思わせてドキドキさせられる。

そして火薬の爆発が成功し、煙が晴れて、無数の夜空の星が現れ、街の人々は驚嘆し感動する。
ルビッチと、彼の父・ブルーノの願いは遂に実現したのである。

それを見届けたプペルは、もう役目は終わったとばかりに、夜空の彼方に去って行く。
途中でいくつか伏線が出て来るが、プペルの正体は実はあの人ではないかと思わせるシーンがあり、ラストでもそれを匂わせている。
ここでのルビッチとプペルの別れのシーンは、並みの日本映画なら、涙の愁嘆場を長々と描く所だが、意外とあっさりしている。ここが物足りないと思う人もいるだろうが、あえて日本的な泣かせは避けたのかも知れない。


あまり期待していなかっただけに、予想外の拾い物、と言えば失礼になるが、社会問題も取り入れながら、随所にスリリングな展開も盛り込まれた、よく出来たウエルメイドなエンタティンメントの快作であった。父を信じ、勇気と信念をもって行動するルビッチの戦いぶりにも感動させられる。

ただ一部物足りない所やツッ込みどころもあり、特にプペルの正体と、それまでの気弱そうな態度やルビッチに対する丁寧な喋り方とが整合性が取れない点はやや難点。
特に父親が江戸っ子のような気っぷのいいキャラクターになっていただけに余計。

脚本が西野亮廣単独なのだが、出来ればプロの脚本家が加わって細かい所まで念入りに修正を加えれば、もっと優れた作品になったかも知れない。惜しい。

それでも、映画作りは素人の西野亮廣が、ここまで楽しめる作品を作り上げた点は大いに評価したい。またSTUDIO4℃のさすがクオリティの高い映像も素晴らしい。この映像と廣田裕介監督のテンポいい演出で大分点数を稼いだと言える。

ルビッチの声を担当した芦田愛菜はやはりうまい。ちなみに芦田はSTUDIO4℃の前作「海獣の子供」でも主人公・琉花の声を担当していた。STUDIO4℃づいてる。

細かい所は気にせず、スリルと冒険と感動の娯楽活劇として楽しむのが正解だろう。アニメ・ファンなら観ておいて損はない。 
(採点=★★★★

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(付記)
“ルビッチ”という名前、我々映画ファンはたちどころに、名匠エルンスト・ルビッチ監督を思い出す。

そう思えば、エントツはなんとなく語呂が似ている。エントツ・ルビッチてね(笑)。この連想でルビッチという名前を思いついたのかも知れない…というのは映画ファンの勝手な思い込み。ご容赦。

 

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