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2021年1月30日 (土)

「Away」

Away 2019年・ラトビア   81分
製作:DREAM WELL STUDIO
配給:キングレコード
原題:Away
監督:ギンツ・ジルバロディス
脚本:ギンツ・ジルバロディス
製作:ギンツ・ジルバロディス
編集:ギンツ・ジルバロディス
音楽:ギンツ・ジルバロディス

飛行機事故で孤島に不時着した少年が、島からの脱出を目指し旅を続ける姿を美しい映像で描いたアニメーション。ラトビアの新進クリエイター、ギンツ・ジルバロディスが3年半かけて一人で製作・脚本・監督・編集・音楽を手掛けた。アヌシー国際映画祭コントルシャン賞初代グランプリ、新千歳空港国際アニメーション映画祭審査員特別賞、他8冠を達成。

(物語)乗っていた飛行機が事故で墜落、パラシュートで脱出した少年はどこかの島に不時着する。たった一人生き残った少年は、森で島の地図が入ったリュックとオートバイを見つける。地図で島の北端に港がある事を知った少年は、仲良くなった黄色い小鳥と一緒にオートバイで北へ向かうが、その後を謎の黒い巨人がどこまでも追って来る。

珍しいラトビア映画。この映画が異色なのは、弱冠25歳のアニメーター、ギンツ・ジルバロディスが、製作・脚本・監督・編集に音楽までたった一人で3年半もの歳月をかけて完成させたという点。そして全編、セリフもナレーションも一切なく、CGで作られた映像はシンプルでCGらしさは感じられず、手書きセルアニメの感触に近い。

Away4

人物の輪郭線はなく、この点では一昨年公開されたフランス製アニメ「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」と似ているが、少なくとも鼻の線やしわは描かれていた同作に比べて、それらすらも描かれないシンプルさである。その為顔の上に手が重なった時は、指の形さえ判らない。まあこれはジルバロディス監督が一人で作っている故、ある程度簡略化せざるを得ない事は理解出来るが。

その点はともかく、映像は極めて美しい。全体は「禁断のオアシス」「鏡の湖」「眠りの井戸」「霧の入り江」と題する4つの章に分かれていて、第1章では緑の草木に覆われた美しい風景が広がり、まさにオアシスである。そこで見つけた地図を頼りに、少年はオートバイで島の北端に向かって旅立つ。第2章では、まるで鏡のように空の風景が写る湖が登場し、その上をオートバイが走行するシーンは惚れ惚れする美しさである。第3章の、時折間欠泉のように水が噴出する井戸、第4章の雪山も、1、2章ほどではないがそれなりによく描きこまれている。
よく見ていると、少年を追った映像がまるで手持ちカメラで撮影しているかのように揺れたり回り込んだりしている。少年が運転するオートバイが走る姿を上空から追う移動映像も含め、実写並みに動き回るカメラワーク(CGだからカメラはないけれど)は実に手が込んでいる。製作に3年半かかったのも当然だろう。

(以下ネタバレあり)

Away3

そして印象的なのが、少年をどこまでも追って来る黒い巨人の存在。目の部分だけが白い穴で、黒い部分が不定形に揺れている点からも、これは“死の象徴”(もしくは死神)だろう。少年は必死に生き延びようとするが、たった一人である事の孤独感、絶望感は心のどこかにある。その隙間を死の誘惑が狙っている。それに対し、仲良くなった黄色い小鳥は、“生きる希望”の象徴だろう。それは最終盤、目的地を目前にした雪山で少年が疲れと睡魔で倒れた時、黒い巨人が少年に覆いかぶさる事と、そこに黄色い小鳥が助けにやって来て少年を目覚めさせると、黒い巨人が消滅するという展開でも明らかだろう。

第3章「眠りの井戸」における黒猫の集団、飲むと眠くなってしまう井戸の水、家族を探している大きな亀、等も観た人によってさまざまな解釈が可能だろう。
私なりの解釈を加えると、「眠りの井戸」については、雪山で眠れば死に至ると言われるように(実際終盤で少年はその事態に直面する)、“眠り”とはまさに“生と死のあわい”にあり、これもまた本作のテーマである“生と死”に大きく関連している。

大空を自由に飛び回る白い鳥と、地上で1箇所に留まり惰眠を貪る黒猫たち、という何もかも対照的な生き物たちも、まさに“生と死”をそれぞれビジュアル的に象徴しているのかも知れない。


Away2

最後に到着した入り江の向こうには、何隻かの船が浮かんでいる。だが道は行きどまりで切り立った崖になっている。少年は最後の勇気を振り絞り、オートバイを走らせて高い崖から海に向かってジャンプし、泳ぎ切って遂に生還を果たすのである。ここはまさに、何度も襲い来る死の誘惑を振り切り、生きる意欲が勝利した瞬間で感動的である。


この物語には、さまざまな寓意、暗喩が込められている。「禁断のオアシス」では水も果物等食料も豊富で、その気になればずっとここで生きる事も可能だろう。だが何もせず、怠惰に過ごす事が果たして生きていると言えるのだろうか。それよりは、苦難の旅に出発してでも、生きる目的を見つけること、生きる為に闘う事の方が大事だと作者は訴えているのかも知れない。

わずか25歳(製作を開始した時は22歳!)で、こんな哲学的なテーマを持った作品をたった一人で作り上げたギンツ・ジルバロディスは天才だ。
もっとも本人によると、最初は脚本も絵コンテも作らず、即興で思いつくままに作っているうちに段々と物語の骨格が出来て来たのだという。それでもきちんと破綻なく一貫したストーリー展開になっているのだからやはり凄い。この監督の今後が楽しみである。

昔はアニメは、作画監督、背景画家、アニメーター、セル彩色係と、もの凄い人数のスタッフが必要だったが、現在ではCG作画ソフトがあるので一人で作る事も可能になった。「君の名は。」の新海誠もそうやって初期の頃の作品は一人で作っていたと聞く。その新海誠も今や日本を代表するアニメ作家となった。
これからも、こんな形で新しいアニメ作家が登場するかも知れない。期待したいと思う。

なお本作は東京では昨年の12月11日に公開されているが、当方(大阪)では1月22日封切と公開が1カ月半も遅れた。よって昨年度のマイ・ベスト20には入れられなかったのが残念。一応、私の本年度ベスト候補に入れておこう。 
(採点=★★★★☆

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