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2021年4月18日 (日)

「JUNK HEAD」

Junkhead2017年・日本   99分
制作:MAGNET=やみけん
配給:ギャガ
監督:堀貴秀
原案:堀貴秀
脚本:堀貴秀
キャラクターデザイン:堀貴秀
絵コンテ:堀貴秀
アニメーター:堀貴秀、 三宅敦子
撮影:堀貴秀
照明:堀貴秀
編集:堀貴秀
音楽:堀貴秀、近藤芳樹

環境破壊が進んだ未来を舞台にしたSFコマ撮りアニメーション。独学で映像制作を学んだ堀貴秀が、監督・原案・脚本・キャラクターデザイン・絵コンテ・編集・撮影・照明・音楽・声優とほとんどの作業を兼任し、7年を費やして完成させた異色作。ファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を受賞。

(物語)環境破壊が止まらず、もはや地上は人間が住めないほど汚染された。人類は地下開発を計画し、その労働力として人工生命体“マリガン”を創造する。だが、自我に目覚めたマリガンが反乱を起こし、地下世界を乗っ取ってしまう。…それから1600年後、人類は遺伝子操作により永遠と言える命を得たが、その代償として生殖能力を失ってしまった。さらに新種のウイルスによって人口の30%が失われ、人類は絶滅の危機に瀕していた。そこで人類は独自に進化していたマリガンの生殖能力を探るべく調査員を募集し、応募したダンス講師・パートンが地下世界に潜入する事となるが…。

これは…とてつもない衝撃の問題作である。なにしろ、これまで映画界で働いた事もなく、アニメの作り方も知らない、堀貴秀という一人の人物(本職は内装業だそうだ)が、独学で映像制作を学び、前述のように監督から撮影・編集その他のほとんどのスタッフパート、さらに声優まで一人で兼任し、人形を1コマづつ動かしては撮影する、ストップモーション・アニメの作業も一人でこなし、7年の歳月をかけて完成させたという労作である。総ショット数は約14万コマに及んだそうだ。

これだけでも感嘆してしまうが、さらに凄いのが、その作り上げた世界観である。あらすじにあるように、遥か未来、環境汚染が進んだ地球において、地上の人類は永遠の命を得た代りに生殖能力を失い、ウイルスによって絶滅の危機を迎えている。一方地下には人類が作った人工生命体がいるが、人類に反乱を起こして独自の文明を作り上げている。
登場する人物、クリーチャーも数多く、マリガンと呼ばれる人口生命体だけでもいろんな階層・種族があって、科学者から労働者、貧困層、武装兵士、詐欺師と実に多彩、クリーチャーも小さなワームのようなものから凶暴な殺人獣、巨大な怪物まで何種類もいる。
背景のセット造形、美術も実に手が込んでいる。サビが浮いて薄汚れた建造物や外壁、キャビネット類のリアルさ、地下通路の巨大感(人物が豆粒のように見える)、どれを見ても惚れ惚れする出来である。それらを眺めるだけでも飽きない。

たった一人で、これだけの壮大な世界観を作り上げた堀貴秀の頭の中はどうなっているのだろう。まさに天才である。
あの、ギレルモ・デル・トロ監督が絶賛したというのもうなずける。

一人だけで何役も兼任して作ったアニメ、というと、今年1月公開された、ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督による「Away」を思い起こさせるが、あちらはパソコンでCG製作しているので、コマ撮りの本作ほど手間暇はかかっていない。事実製作期間は本作の半分ほどである。またコマ撮りアニメと言えば昨年の「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」などのスタジオ・ライカ作品が有名だが、あちらは多数のスタッフと、3Dプリンターなど最新の機材で金をかけて作っている。気の遠くなるような根気と手間と時間、手作り感という点において、本作はこれらを圧倒していると言えるだろう。


物語も、地下世界に潜入した主人公パートンが、体を何度も改造させられたり、迷路のような地下通路をさ迷ったり、命の危険に晒されたり、数々の冒険の末に、最後は巨大なクリーチャーと壮絶なバトルを繰り広げたりと、まさに波乱万丈の冒険エンタティンメント作品に仕上がっている。

グロなシーンもあれば、時にクスリと笑えるシーンもあり、やや下ネタ的なエピソード(モザイクかけられてるが、ウ〇コも出て来る)もあり、そしてラストのアクションは細かいカット割りでスピード感があり楽しめる。
トボけた、どこか鶴瓶を連想させる(笑)詐欺師が怪物に上半身を食いちぎられるシーンは、切断面を見せず、血の噴出もなく、極力スプラッター度を抑えているのには好感が持てる。
Junkhead2
特に、3バカ兄弟と呼ばれる戦士たち(右)のキャラクターや活躍ぶりは見ごたえがある。最後に、パートンを助ける為に兄弟の2人が身を犠牲にするシーンは泣ける。


いやあ、凄い、圧倒された。何度でも繰り返し観たくなる。

ビジュアル、世界観も凄いが、テーマ的にも、環境破壊が進み、人間が住めなくなるほどに地上が汚染された地球という、まさに本当にそんな未来が到来しかねない現実への鋭い批判が込められているし、永遠の命を、と願った結果が生殖機能の喪失という代償を払わされ、そこにウイルスによって人口が激減し、結局は人類滅亡を招きかねないと言う皮肉も痛烈だ。
特に新種のウイルスが地球上に蔓延し、全人口の30%が失われた、というくだりについては、まさに新型コロナウイルスが全世界に蔓延している現在を予見しているかのようで驚かされる(本作が完成したのは4年前の2017年)。

まさに本作には、不安と混沌の現在の世界や人類に対するアイロニーや警告といった、痛切なメッセージが込められているのである。その点でも素晴らしい。

エンドロールには、堀監督がストップ・モーション撮影を行っているメイキング映像を早送りで見せてくれており、これも楽しい。

エンディングがやや尻切れトンボ的なのが残念だが、監督によると最初から3部作として構想され、既に続編の準備にもかかっているそうだ。
そんなわけで、本作だけに限れば、途中でやや単調になったり、間延びする箇所もあるが、壮大な3部作の序章と考えて、本作ではとにかく、精緻に作り込まれた地下世界のビジュアルをじっくり眺めて愉しむのが正解だろう。多分、見直す度に新しい発見があるかも知れない。

3部作が完成された時にはどのような結末が待っているか、楽しみである。最終的な作品評価はその時まで待ちたいが、それでも本作に限っても、(★★★★)と高く評価したい。続編が待ち遠しい。

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(で、お楽しみはココからである)


思い返してみると、本作にはいろんな過去のSF作品にヒントを得てるというか、オマージュを感じさせるシーンも多い事に気付く。

上層から落下して来た生命体の身体の一部が、ドクターによってボディや手足を加えられてロボットのような体型となって活躍する、という話は木城ゆきと原作のコミック「銃夢」、およびその映画化作品「アリータ:バトル・エンジェル」を思わせる。

人類が作った人口生命体が反乱を起こす、という設定は、人造人間レプリカントが反乱を起こす「ブレードランナー」を想起させる。

Junkhead5地下世界の凶暴なクリーチャー、特にグロームと名付けられた怪物(右)は、「エイリアン」に登場するエイリアンを思わせる。

パートンが2番目に改造させられる、サビが浮いてる機械型ロボットのデザインは、ピクサー・アニメ「WALL・E/ウォーリー」の主人公ウォーリーと似てるし、ゴミゴミとしたガラクタや、リアルなサビだらけの機械装置といったビジュアルまで似ている気がする。
ついでに、パートンが最初に改造させられる白くて丸っこいロボットは、「WALL・E/ウォーリー」に登場してウォーリーと仲良くなる白いロボット・イヴを連想したりもする。
なお、この作品も、“環境破壊が進んで人類が住めなくなった地球”が舞台で、これもテーマ的に本作と重なっていると言える。

Walle2

その他、いろんなディストピアSFや、サイバーパンクSFも参考にしているようだ。探せばもっとあるかも知れない。

おそらく作者の堀貴秀は、こうしたいろんなSF映画、ストップモーション・アニメ(特に数多くのクリーチャーをデザインし動かしたレイ・ハリーハウゼン作品)を見まくって参考にして、アイデアを膨らませて行ったのだろう。
海外では、スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカス、ジョー・ダンテ、ティム・バートンといった作家が、無数のB級SF映画、古典的ホラー映画などを観て映画作家を志し、最初はアマチュア作家としてそうした作品に影響を受け、オマージュを盛り込んだ自主製作映画を作り、やがて認められて一流作家となって行った。

そうした作家が日本にはなかなか出て来なかった。わずかに「鉄男」の塚本晋也がいるくらいである(そう言えば本作は「鉄男」からの影響も感じられる)。

堀貴秀は、もしかしたら前述のような、B級SF映画を血肉として、やがて世界に名をとどろかす一流映画作家になる、初めての日本人になるかも知れない。
本作は、そんな期待をもつい抱いてしまうほど、魅力的な映画なのである。

 

 

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コメント

いやぁ、ものすごい世界観。ただただ驚き引きずり込まれました。
天才は1%の才能と99%の努力という言葉が納得できる映画でした。
いや堀氏については100%の才能と100%の努力の結実かもしれませんね。
例の3兄弟、笑わせられてかっこよさにしびれて泣かされて。これからパートンの冒険がどうなるのか、本当に続編が待ち遠しいです。
またよい映画を教えてもらった。
ありがとうございます!

投稿: 周太 | 2021年4月22日 (木) 16:54

◆周大さん
気に入っていただけて何よりです。
仰る通り、堀監督は才能があって、なおかつ根気強く努力も積み重ねる、きわめて特異な作家と言えるでしょう。
公開については、最初は少数のミニシアター上映だったのが、評判を呼んでシネコンでも上映されるようになりましたね。これも凄い事です。続編に期待したいですね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2021年4月23日 (金) 23:32

堀監督がほぼ独力で作っているのが凄いですが、その世界観、映像も素晴らしい。
またいい映画を教えてもらってありがたかったです。
ラストがお話として終わっていないのが残念ですが、三部作の完成を楽しみに待ちたいと思います。

投稿: きさ | 2021年4月24日 (土) 09:13

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