新世界の映画館探訪
緊急事態宣言が始まって、大阪では主要な映画館がほとんど休館。話題の映画がまったく観られない状況が続いている。
興行団体は大阪府に、感染対策が十分行われているので文化貢献の為にも映画館の再開を、と要望しているのだが、再開の目途は立っていない。映画ファンには辛い時期が続く。
前に、大阪で営業している映画館は、十三の第七芸術劇場、併設のシアターセブン、九条のシネ・ヌーヴォ、シネ・ヌーヴォ✕など小規模ミニシアター2箇所4館くらい、と書いたが、その後調べてみると、実は新世界の2つの映画館、東映系の新世界東映と洋画の新世界国際劇場も開館している事が判った。
七芸でもシネ・ヌーヴォでも、これといった観たい映画が上映しておらず、映画館主義の私としては、開館している映画館があるならどこへでも行きたい気分である。
特に新世界の映画館は、私が学生時代や若い頃、大変お世話になった。ここで見逃していた名作、傑作映画を観る事が出来たり、今も交流を続けている映画仲間とも出会ったりした、私の映画人生の中でも忘れられない場所である。
ここ数十年間は、家から遠い事もあって訪れる事はほとんどなくなった。全盛期には10館以上もあった新世界でも、残っているのはこの2館だけである(正確にはどちらも成人向けピンク映画の上映館が同じ建物内に併設されているが)。
この2つの映画館は、今では全国的にも希少となった、2本立て、3本立てで旧作やロードショー落ちの作品を上映する、いわゆる二番館である。シネコンの普及で、今ではそうした映画館もほとんどなくなった。そういう意味でも希少価値と言える。
そんな訳で、こんな時でもあり、久しぶりに新世界を訪れる事にした。
地下鉄・恵美須町駅を降りて、3番出口を出ると、目の前に通天閣が見えた。これも懐かしい。
通天閣に向かって歩き、少し行くと新世界東映がある。
ここは東映作品の旧作上映が専門である。以前私の友人が勤めていて、よくタダで映画を見せてもらった(笑)。
今上映しているのは「博奕打ち」と「新仁義なき戦い」の2本立て。週変りで若山富三郎出演作品を連続上映しているそうだ(右は表に貼ってあったチラシ。クリックすると拡大)。
料金は大人1,400円、シニア・障害者は1,200円。
観たかったがどちらも以前観ているし、新世界国際と上映作品を見比べて決める事にする。
ちょっと行くと新世界国際劇場が、昔のままの姿でそこにあった。若い頃に入った頃と、ほとんど変っていない。まるでタイムスリップして50年前の世界に戻ったようだ。
ちなみに新世界東映は一度建て替え、リニューアルしている。
料金はこちらが大人1,000円、シニアが800円と安い。しかも3本立て。こちらに入る事にした。入る時に検温とアルコール消毒された。座席は1席づつ空けて、座れないようロープで固定する徹底ぶり。館内は結構な観客の数。ざっと30人以上はいた。
今の、特にシネコンで映画を観るのが当たり前の若い人には信じられないかも知れないが、ここは3本立てで、入替えなし、ずっと一日中居続けたって構わない。座席指定もない。空いてる、どの席に座っても自由。
しかも出入り自由。途中から入って、途中で出るのも問題なし。一巡して見始めた所で出て行く事も可能である。昔はどこの映画館も(封切館も!)そうだった。私も若い頃はそうやって映画館をハシゴしていた。途中から見始めて、見た所まで来ると、家に帰って頭の中で映画を1本に繋げるという芸当もよくやった(笑)。
手塚治虫は若い頃、ディズニー・アニメの「バンビ」を、朝一番に映画館に入って、最終上映回まで繰り返し何度も見て頭に映像を叩きこんだそうだ。座席指定・入替え方式の今の映画館ではそんな事不可能だ。5回見ようと思ったら5回分の入場料金を払わなければならない。
この映画館では、場内に入るドアの一つが上映中も開けっ放し!途中で出入りする人が多いからだろう。実際、上映中も入って来る人、出て行く人がひっきりなし。上映中でも通路を数人がウロウロしてる。初めてここに来た人は面食らうだろう(笑)。
上映中の作品は「どん底作家の人生に幸あれ」、韓国ホラー「クローゼット」、フィリピン製アクション「ネバー・ダイ」と、ディッケンズからB、C級エンタメまでバラエティ豊か。
全部は観る時間がなかったので、最初から最後まで観たのは「クローゼット」だけ。ハ・ジョンウ主演。まあまあの出来。採点は(★★★)という所。
ただ残念なのは、画面がやや暗い上に、映像のヌケが悪い事。暗い場面ではよく分からない箇所もあった。プロジェクターをメンテナンスする予算もないのだろうか。
しかし1本当り330円(シニアなら267円)という低料金で、DVDより早く新作を大画面で観れるのはやはり魅力である。これから行かれる方は、その点を頭に入れた上で。
館内のレイアウトも昔のまま。レトロな雰囲気がある。なんと二階席もある。昔の映画館は多くがそうだった。
ロビーには、これも昔のままの、駄菓子を売ってる売店があった(右)。
外に出ると、劇場の正面の高い位置に、なんと手描きの絵看板が。これも懐かしい。
昔は封切館でも、大抵はこうした手描き絵看板があった。実物と似てる、似てないと友人たちと盛り上がった事もよくあった。
今はこれらもほとんど絶滅状態。かつては天神橋六丁目の天六ユウラク座にもこうした手描き絵看板があったが、2012年に閉館してしまった(当ブログ記事はコチラ)。
何もかも、昭和の映画館そのままに残っている。まさに「三丁目の夕日」の世界だ。懐かしくて、なんだかウルウルして来た(笑)。
やはり行ってみて良かった。久しぶりに訪れた新世界の空気に浸る事も出来たし、昔のままに残っている古い映画館で映画を観るのも、映画ファンとしては得難い経験だ。
緊急事態宣言でほとんどの映画館が休館しなかったら、こんな映画館を訪れる事もなかっただろう。何が幸いするか分からない。
映画全盛期には、こうした二番館が全国にあり、ロードショーや封切を終えた作品を順次低料金で上映してくれ、封切作品は料金が高くてなかなか観れない学生や安月給のサラリーマンにとっては有難い存在だった。私も若い頃はずいぶんお世話になった。
しかし映画界が斜陽になり、大手会社のチェーン館でない、こうした弱小の二番館、名画座は経営が成り立たず、次々と潰れて行った。代りにシネマ・コンプレックス(シネコン)が全国に登場し、大作、話題作はシネコン、良質のアート系作品はミニシアターでという方式が一般化した。
今ではおそらく、二番館方式の映画館はほぼ絶滅状態、ロードショー館以外では、一部のユニークな作品を上映する名画座がかろうじて生き残っているのが実情である(その他では、ピンク映画上映館も生き残っているが、私はあまり興味がないので)。
こうした昔のままの映画館は、いつまでも残して欲しい。昭和のノスタルジーに浸れる、文化財、文化遺産ではないかとさえ思う。興味が沸いた方は、是非訪れて欲しい。
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コメント
私は徹底して映画は映画館でしか観ませんので、今でも名画座や二番館に行きますね。近くにあるというのも理由です。封切り直後に何でも観たいわけでもないので、しばらくしてから二番館で観ることもしばしば。一番忘れられない思い出は、かなり若い頃ですが名画座で私の日本映画オールタイムベスト1と言ってはばからない「太陽を盗んだ男」を池袋の名画座新文芸坐で観た時、長谷川和彦が来ていて、ちょっと話したことです。あくまで噂ですが、長谷川和彦が東京の下高井戸シネマという二番館によくいると聞いたことがあるんですが、まだ出くわしたことがありません。
なお、緊急事態宣言延長とともに、バカバカしくなったのか、背に腹はかえられなくなったのか、東京はいくつかのミニシアターが営業を再開しました。
で、緊急事態宣言直撃の中でも営業していた数少ないミニシアターであるポレポレ東中野という映画で「海辺の彼女たち」という日本映画をやってるんですが、これが何と2週間に及んで毎回満席。それこそ、オンライン予約が始まるともうその瞬間くらいに埋まってしまうというレベルです。いくら他に行ける映画館が少ないからって、そこまで客が集まる理由は何なんだ?と気になってるんですが、クレジットカードを持ってないのでオンライン予約ができずに未だ観てません。
なお、あまりに理不尽で頭に来たので、「Save The Cinema」主催の首相官邸前デモ「文化芸術は生きるために必要だ」に、参加してきました。コロナ禍なので「We Need Culture」と書かれたプラカードを持って1時間黙って立ってるだけのデモです。
新聞やテレビも取材に来てましたが、知り合いのキネマ旬報編集部の方も来ていました。
話を聞くと、その編集部の方と深田晃司、井上淳一といったあたりは、こういう場でしょっちゅう会ってるそうです。
キネマ旬報も頑張れ、と思いました。
投稿: タニプロ | 2021年5月15日 (土) 01:37
◆タニプロさん
東京では新作を上映するミニシアターの営業再開がかなり増えましたね。
シネマート新宿、テアトル新宿なども上映してますね。うらやましい。
大阪ではいまだにほとんどのミニシアターが休館したままです。不思議なのはシネマート心斎橋、テアトル梅田など、東京と同じ系列の映画館が大阪では休館を継続中。大阪府知事が認めないようですが、大阪でも要請無視して再開して欲しいですね。テアトル梅田なんか、面積は上映を続けている新世界国際、シネ・ヌーヴォよりも狭いと思えるのですがね(笑)。
大阪でも再開要望のデモがあれば、参加したいです。
投稿: Kei(管理人 ) | 2021年5月15日 (土) 21:52