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2021年7月25日 (日)

「SEOBOK ソボク」

Seobok 2021年・韓国    114分
製作:CJ ENM
配給:クロックワークス
原題:Seobok
監督:イ・ヨンジュ
脚本:イ・ヨンジュ、イ・チェミン、チョ・ミンソク、ヨン・ギュフン 
撮影:イ・モケ
製作: キム・ギョンミン、キム・ヒョンチョル 

永遠の命を持つクローン人間と彼を守る事となった元情報局員の行動と運命を描く韓国発のSFサスペンスドラマ。監督は「建築学概論」のイ・ヨンジュ。出演は「新感染 ファイナル・エクスプレス」のコン・ユ、ドラマ「青春の記録」のパク・ボゴム、「国家が破産する日」のチョ・ウジンなど。

(物語)余命宣告を受け、死を目前にした元情報局員・ギホン(コン・ユ)は、国家の極秘プロジェクトによって誕生した人類初のクローン人間・ソボク(パク・ボゴム)の護衛を命じられる。だが任務早々、何者かの襲撃を受け、なんとか逃げ抜くも、二人だけになってしまうギホンとソボク。危機的な状況の中、逃避行を続ける二人は衝突を繰り返しながら徐々に心を通わせて行くが…。

珍しい、韓国発の近未来SFポリティカル・サスペンスである。

クローン人間を扱ったSFドラマはこれまでにも数多くあった。有名な所ではカズオ・イシグロ原作「わたしを離さないで」(2010)とか、アクション系ではアーノルド・シュワルツェネッガー主演「シックス・デイ」(2000)、アニメでも「ルパン三世 ルパンVS複製人間」(1978)など、思いつくだけでも数本あり、決して目新しい題材ではない。

本作はそこに、クローン人間抹殺を図ろうとする国家機関からの逃亡劇、クローン人間と彼を護衛する任務の男とのバディ・ムービー的要素、クローン人間が永遠の生命を持っている事による、生と死をめぐるテーマ、さらにクローン人間がサイキック能力を持っている事による、まるで「AKIRA」を思わせるサイキック・バイオレンス・アクションに至るまで、あれもこれもといろんな要素をゴッタ煮にした欲張った物語展開になっている。

しかしそれらを手際よく繋げる巧みな脚本、テンポいい演出によって、なかなか楽しめる作品になっている。最後はちょっぴり泣ける所もあるし。

(以下ネタバレあり)

主人公の元情報局員、ギホンは病で余命宣告を受けている男。そんな彼がクローン人間・ソボクを誕生させた研究機関から、ソボクを移送する護衛役を任じられる。

面白いのは、ソボクの骨髄ではiPS細胞が常に作られており、永遠の生命を持っているという点。

ノーベル賞受賞の山中教授が開発したiPS細胞が早速物語に取り入れられているのはさすがである。

ギホンは研究機関から、任務が成功すればソボクの細胞を移植する臨床実験への参加が認められると聞かされる。うまく行けば、死を宣告されている自分の命を永らえる事が出来るかも知れない。

これが後に、どんな危険な目に会おうとも、ソボクの命を必死で守り通そうとするギホンの行動の伏線になっているのがうまい。

一方で国家権力側は、永遠の生命という技術が普遍的になってしまったら、人類のバランスを崩壊させる“災厄”になるかも知れないと恐れ、ソボク抹殺を図る。

かくしてギホンとソボクの二人組は、行く先々で敵が繰り出す暗殺部隊から命を狙われ、逃亡劇を続ける事となるのである。

最初のうちは、ソボクのイノセントな感情と、逃走中なのに好奇心のままうろつき回る行動にギホンは呆れ、時には苛立ちを露わにする。

しかし、逃亡を続けるうちに、二人の心は次第に打ち解け、心を通わせて行く。カップラーメンがその小道具になっているのもうまい。

この辺り、いわゆる逃走バディ・ムービーものの定例パターンを巧妙に踏まえている。

ソボクには、クローン技術の副産物としてサイキック能力も備わっており、敵との攻防戦でそれを使ったりするうちに、徐々にそのパワーがアップして行く。

海辺で、海の波や石ころを自在に動かしたり、念力で石を積み上げたりするシーンもあるが、この積み上げた石はラストシーンにもうまく使われている。

ソボクを追う行動部隊のリーダーは、ギホンの元上司でもあるアン部長(チョ・ウジン)。このアン部長の感情の無いような目つきが不気味である。

印象的なシーンがある。ソボクはギホンに無理に頼んで、ある教会に向かうのだが、そこには事故によって亡くなった、ソボクの父とソボクの元の身体である子供の遺骨が安置されていた。ソボクはこの子供のDNAから、研究員である彼の母によってクローン化されたのである。

一度は死んだ身でありながら、今は不老不死の命を持つソボク。自分のアイデンティティは何だろうかとソボクは悩む。一方でギホンは死を目前にしている。

この対比を通して、生と死という、生命に関する永遠の課題がより鮮明となる。

そして終盤、組織に捕らえられ、ソボクは危うく抹殺されかけるのだが、ギホンによって助けられ、そして母が組織によって殺された事を知ったソボクは怒りにかられ、サイキック能力を全開にして敵を次々と倒して行く。

ソボクのサイキック・パワーは、その辺の機材を持ち上げたり潰したりするくらいは序の口。なんと自分に向かって飛んでくる銃弾を撥ね退け、ぶ厚い船の鋼板も破壊し、遂には地面を宙に持ち上げたり、深い大穴を開けたり、AKIRAも顔負けの超能力ぶりである。

さすがにここまで来ると、やりすぎでは、何でもアリか?という疑問も湧くが、映画を面白くする為のありったけの工夫をぶち込む韓国映画のパワーには素直に敬意を表したい。

いくつか印象的というか皮肉なセリフもある。捕えたソボクの身体から骨髄を抜き取ろうとする技師にギホンが「彼は人間だぞ」と言うと、「人間じゃなくて人工的に作った生き物だ。豚からインスリンを摂って何が問題だ?」と返される。
研究者にとってはソボクは単なる実験体というわけだ。ここにも、“命とは何なのか”という本質的な問いかけがなされている。

そして最後のクライマックス、ソボクはある行動に出る。敵の兵士たちが、ソボクのサイキック能力によって作られた深い穴の底に落とされ、破損したパイプから液体燃料が流れ出て穴の底に溜まって行く。ソボクは炎上する車を念力で移動させ、穴に落とそうとする。そうすれば燃料に引火し、多くの兵士が死ぬ事になる。
ギホンはさすがにこれはいけないとソボクを止めようとするが、車は落下寸前まで移動する。
そして已む無く、ギホンはソボクを撃ってしまう。だがソボクのこの行動は、不老不死である自分の命を自ら絶とうとする、究極の決断だったのである。

ギホンの腕に抱えられて、笑みを浮かべながら死んで行くソボク。このシーンには泣けた。

ソボクが死んだ事で、命を永らえる望みも絶たれたギホンだが、その表情は爽やかである。短い人生であっても、それを精一杯生きる事こそが大事なのだと、ギホンはソボクにむしろ教えられたのかも知れない。
ラスト、あの海辺の積み上げた石の山に、一つの石を乗せるギホンの姿も感動的だ。この石の山こそ、ソボクの墓標なのである。


観終わってみれば、いくつものテーマが浮かび上がって来る。“永遠の命は、果たして人間を幸福にするのだろうか”、“生きるとは何なのか、死は人間にとって恐れるべき事なのか”…。さらに国家権力の独善ぶり、巨大企業のエゴイズムを痛烈に皮肉る時代批判まで。恐れ入りました。

ちょうどつい最近、やはり不老不死をテーマとした「Arc アーク」(石川慶監督)を見たばかりだが、あちらがやや観念的で地味な内容だったのに、こちらはド派手なアクションが展開するエンタティンメントで、方向性は正反対である。
しかし、作品から伝わって来るテーマ、問題意識は多くの点で共通しているように思う。むしろ、楽しめるエンタメ作品でありながらより鮮烈にテーマを押し出している点では、私は本作の方に軍配を上げたいと思う。

韓国映画はますます面白くなって来ている。ポン・ジュノは米アカデミー賞を獲ってしまうし。日本映画も是非負けずに頑張って欲しいと願う。 
(採点=★★★★

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コメント

 ようやく観賞できました。パワーのある演出、エッジの効いた脚本、哀愁溢れるラスト。上映館は多くないけど良作ですね。

投稿: 自称歴史家 | 2021年8月 7日 (土) 17:19

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