「DUNE/デューン 砂の惑星」
2021年・アメリカ 155分
製作:レジェンダリー・ピクチャーズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Dune
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:フランク・ハーバート
脚本:ジョン・スパイツ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、エリック・ロス
撮影:グレイグ・フレイザー
音楽:ハンス・ジマー
製作:メアリー・ペアレント、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ケイル・ボイター、ジョセフ・M・カラッシオロ・Jr.
フランク・ハーバート原作の古典SF小説を映画化した壮大なスケールのSFスペクタクルアドベンチャー。監督は「メッセージ」、「ブレードランナー2049」のドゥニ・ヴィルヌーヴ。主演は「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメ。共演は「スパイダーマン」シリーズのゼンデイヤ、「アクアマン」のジェイソン・モモア、「ノー・カントリー」のハビエル・バルデム、「アベンジャーズ」シリーズのジョシュ・ブローリン、「スター・ウォーズ」新三部作のオスカー・アイザック、「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」のレベッカ・ファーガソン等の実力派俳優が結集した。
(物語)西暦10,190年の未来。人類は地球以外の惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた。この世界では1つの惑星を1つの大領家が治める厳格な身分制度が敷かれており、レト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)は皇帝の命を受けて、通称デューンと呼ばれる砂漠の惑星「アラキス」を治めることになった。そこは抗老化作用の他、宇宙を支配する香料“メランジ”の唯一の生産地である為、アトレイデス家には莫大な利益がもたらされるはずだった。しかし妻のジェシカ(レベッカ・ファーガソン)と息子のポール(ティモシー・シャラメ)を連れてデューンに乗り込んだレト公爵を待っていたのは、メランジの採掘権を持つ宿敵ハルコンネン家と皇帝が結託した陰謀だった。壮絶な戦いで父を殺され地位を追われたポールとジェシカは、現地の自由民フレメンの中に紛れて力をつけ、帝国に対する反撃を行う決意を固める…。
フランク・ハーバートによる原作は1965年に発表され、その壮大な世界観と波乱万丈のスペクタクルな物語で人気を呼び、早い時期から映画化が企画されたが、余りににスケールがデカ過ぎて映画化は何度も頓挫した。ようやく1984年にデヴィッド・リンチ監督により映画化されたが、長い原作を137分に押し込めた為か、評判は悪かった。
私もこのリンチ版は観ているが、クリーチャーやビジュアルにリンチらしさは感じられたが、やはり時間が足りなかったのだろう、後半は駆け足になった感もあり、も一つ楽しめなかったと記憶している。
二度目の映画化となる本作は、監督がドゥニ・ヴィルヌーヴと聞いて期待していた。ヴィルヌーヴ作品は、2014年の「複製された男」は難解ながらも私には刺激的で、この時から注目していた。そして2017年の「メッセージ」が期待をはるかに上回る傑作で、これで一気にヴィルヌーヴ監督のファンになった。続く「ブレードランナー2049」も見応えがあった。
ヴィルヌーヴ作品は、どれもイマジネーションが豊かで、独特の世界観がある気がする。原作の映画化には持って来いの起用だろう。
(以下ネタバレあり)
冒頭、メイン・タイトル「DUNE」の下に“Part One"と表示される。つまりは少なくとも2部作以上の長編として作るつもりなのだろう。膨大な原作の映画化としては妥当な所である。
原作は未読だが、リンチ版を観る限り、前半はあまり派手なアクションはなく、盛り上がるのは後半、ポールが父を殺したハルコンネン男爵軍に対し反撃を開始する辺りからなので、このパート1については派手なアクションは期待出来ないと考えた方が良さそうだろう。
実際、映画を観れば、その予想通りだった。
物語の基本ラインは、“権力者の謀略で父を殺され、領地を追われ逃げ延びたその息子が、やがて仲間を集めて反撃を開始し、最後に権力者を倒す”という、古今東西、昔からよくある王道パターンである。
日本の時代劇でも数多く作られており、「笛吹童子」や「大魔神」1作目等もこのパターンである。
しかし、ハーバートの原作が魅力的なのは、遥か8,000年以上も未来が舞台であるはずなのに、登場人物は皇帝や男爵、伯爵、また「スター・ウォーズ」に登場するような未来科学兵器やコンピュータ、ホログラム等の科学技術はまったく登場せず、戦いは剣での決闘と、その世界観はまるで現在公開中の「最後の決闘裁判」で描かれたような、中世封建社会そのものという点である。
この点が同じ宇宙SFものでありながら、「スター・ウォーズ」や「アベンジャーズ」シリーズのような娯楽大作とは決定的に異なるポイントである。
皇帝が絶対権力を持つ階級社会という背景も含め、ある意味、未来を舞台にした“中世宮廷劇”と言っていい。
そういう意味では、「スター・ウォーズ」のような爽快な宇宙活劇―スペース・オペラを期待すれば、はぐらかされる事になるだろう。そのつもりで観るべきである。
さらに、監督が「メッセージ」という、きわめて哲学的、文学的なストーリーと、荘厳かつシュールなビジュアルに圧倒されるSF大作を作り上げたドゥニ・ヴィルヌーヴである。どんな作品になるかは、だいたい予想がつくだろう。
そして映画は、グレーを主体にしたほとんど色彩を感じさせない映像に、コスチュームも黒が主体で色彩感に乏しく、さらにこれも中世を思わせる天井が高く荘厳なイメージのセットと、ビジュアルは凝りに凝っている。
ヴィルヌーヴ監督は、多彩な登場人物も含め、原作の世界観を徹底的に緻密に映像化する事に全精力を注ぎ込んでいる。これには感服させられる。
冒頭辺りの、中空に岩石のような飛行物体が浮かぶシュールな映像も「メッセージ」を思わせてニヤリとさせられる(下)。
砂漠の巨大生物、サンドワームの造形も圧倒的巨大感があって見事。VFX技術が各段に向上した事もあるが、リンチ版のサンドワームは今観るとチャチに見えてしまう(笑)。
物語は、主人公ポール・アトレイデスが母ジェシカと共にデューンの砂漠を放浪し、やがてフレメンと呼ばれる先住民たちと出会うまでの過酷な冒険の旅を通して、ポールがアトレイデス家再興の最後の希望として己の使命を自覚し、戦う意思を固めて行くまでの、彼の成長を描くビルドゥンクス・ロマンの一面も感じ取れる。
その意味では、最初の頃はひ弱に見えるティモシー・シャラメをポール役に起用したのは正解だろう。
パート2以降で、ポールがどれだけ逞しい戦士に変貌して行くか、それを観るのも今から楽しみである。
本作は前述のようにアクション・シーンは少ないが、その分細部に亘り作りこまれた映像をじっくり眺める楽しさがある。その点では、I-MAXのような巨大スクリーンで観た方がより楽しめるだろう。
ところで、本作を思い返してみると、“メランジ”と呼ばれる利用価値の高い天然資源の採掘権をめぐっての利権騒動や、フレメンと呼ばれる原住民がゲリラ戦で皇帝軍との戦いを続けていたりと、メランジを石油、フレメンをアラブ・ゲリラに置き換えれば、そのまま中東で今も繰り広げられている石油利権や強大国の介入、反政府ゲリラ抗争の構図そのままになる。舞台も砂漠地帯である。
もしかしたら原作者のハーバートは、そうした中東情勢を巧みに物語に取り入れたのかも知れない。
中世から近代に至る、さまざまな権力抗争や民族間の争いの歴史等も頭に入れながら、この映画を観るのも一興である。
作品評価としては、パート2以降の全作を通して観ない事には評価しづらいが、パート2への期待を込めて。 (採点=★★★★☆)
(付記)
未来的な兵器は少ないと書いたが、中で一つ、オーニソプターと呼ばれる、羽根を羽ばたかせて飛行するトンボ型航空機が面白い。
このオーニソプターは、リンチ版には登場していない。本作のオリジナルである。もっとも当時のSFX技術ではこれを映像化するのは難しかっただろうが。
ところでこの“羽根を羽ばたかせる飛行機”って、宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」に登場するフラップターと飛び方がそっくり。
宮崎監督の「風の谷のナウシカ」は、その世界観や、サンドワームを思わせる王蟲(オーム)の登場等、「砂の惑星」からの影響が著しいと言われているが、もしかしたらヴィルヌーヴ監督、そんな宮崎アニメのファンなのかも知れない。
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コメント
結構、映像化の難しい原作を良く見せました。
まあ一族が滅びるという暗い話ですが、原作の前半を映画化。
主人公が復活する後半も作って欲しいです。
ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソンら俳優陣も好演していました。
ちょうど原作の半分くらいなので、早くpart2を作って欲しいです。
投稿: きさ | 2021年10月28日 (木) 09:01
見事な映像に圧倒される。原作は読んでませんが、独特な世界観を上手く作り込んでいる。パート2が楽しみなので、IMAX版を見て少しでも貢献したい。
投稿: 自称歴史家 | 2021年10月29日 (金) 12:08
◆きささん
幸い、興行成績が好調なようなので(全米初登場1位)、Part2が作られる可能性は高いと思われます。
て言うか、これだけ続編への期待持たせて作られなかったらファンの暴動が起きます(笑)。
◆自称歴史家さん
私も通常版見て本稿書いた後、IMAX版も見に行きました。1回見ただけでは分からなかった細かい設定もよく理解出来ました。見る度に新しい発見がありそうです。
投稿: Kei(管理人 ) | 2021年10月30日 (土) 11:38
続編の制作が決定したそうです。
全米で2023年10月20日だそうでまあ順当な所かな。
投稿: きさ | 2021年11月 1日 (月) 11:27
◆きささん
続編製作決定しましたね。
ただ、公開が2年!も先だなんて。待ちきれませんよ(笑)。
なお、監督へのインタビューによると、ヴィルヌーヴ監督はPart2の次に「デューン」シリーズの第二作目「デューン/砂漠の救世主」の映画化も構想にあって、計三部作にするつもりだそうですね。これも楽しみです。
投稿: Kei(管理人 ) | 2021年11月14日 (日) 13:52