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2022年1月 7日 (金)

「ただ悪より救いたまえ」

Deliver-us-from-evil 2020年・韓国    108分
製作:Hive Media Corp.
配給:ツイン
原題:Deliver Us from Evil
監督:ホン・ウォンチャン
脚本:ホン・ウォンチャン
撮影:ホン・ギョンピョ
製作:キム・チョルヨン

引退を決意した腕利きの暗殺者と、その男に義兄弟を殺された殺し屋が壮絶な死闘を繰り広げるバイオレンス・アクション。監督は「チェイサー」「哀しき獣」などの脚本に参加し、監督作は「オフィス 檻の中の群狼」に次いでこれが2作目となるホン・ウォンチャン。主演は「新しき世界」以来7年ぶりの共演となるファン・ジョンミンとイ・ジョンジェ。共演は「それだけが、僕の世界」のパク・ジョンミン、「パラサイト 半地下の家族」のパク・ミョンフン。また日本から豊原功補と白竜も出演。

(物語)凄腕の暗殺者インナム(ファン・ジョンミン)は、引退前の最後の仕事として、日本のヤクザ・コレエダ(豊原功補)を殺害する。その後、8年前に別れた恋人がバンコクで殺害され、インナムとの間に生まれた娘ユミンが行方不明だと知らされる。初めて娘の存在を知ったインナムはバンコクに飛び、関わった者を次々と拷問にかけて娘の居所を突き止める。一方、インナムが殺したコレエダの義理の弟で殺し屋のレイ(イ・ジョンジェ)も、復讐のためにバンコクに降り立ち、死体の山を築きながらインナムに迫っていた。2人の戦いは、タイの犯罪組織や警察も巻き込んだ壮大な修羅場へと発展して行く…。

韓国製ノワール・アクション映画は相変わらず秀作、力作が作られ続けている。しかも監督が「チェイサー」(2008)、「哀しき獣」(2010)、「殺人の告白」(2012)といった秀作の脚本(共作)を手掛けて来たホン・ウォンチャンだというからこれは期待したくなる。しかも主演がこれも秀作だった「新しき世界」(2013)で共演したファン・ジョンミンとイ・ジョンジェと来ては、見なずばなるまい。これが2021年最後の鑑賞作品となった。

(以下ネタバレあり)

主人公インナムは元秘密警察にいた凄腕の殺し屋。ほとんど失敗した事がない。だが長年この仕事をやって来て、そろそろ引退したいと思っている。そして最後の仕事として、日本のヤクザ・コレエダ殺しを依頼される。東京に飛び、首尾よくコレエダ暗殺に成功する。

これで引退すると決めたインナムに依頼主は、もう一人殺して欲しい相手がいると告げるが、インナムはそれを断る(これが伏線になっている)。

そんな時インナムに、かつて愛していたが、事情があって別れたままだった女がタイのバンコクで殺されたとの情報が入る。しかも彼女には8歳になる娘がおり、行方不明になっている。どうやら彼女はインナムと別れた後に密かに娘を産み、タイで暮らしていたという事らしい。インナムはバンコクに飛ぶ。

バンコクを訪れたインナムは、さまざまなルートを使って、我が娘ユミンを探すべく行動を開始する。
英語とタイ語を話せる、トランスジェンダーのユイ(パク・ジョンミン)を通訳兼助手として探索するうち、ユミンはどうやら子供の臓器を売買する闇組織に誘拐された事が判って来る。急がなければユミンは臓器を取り出され、命を失う事になる。一刻の猶予もない。

そして一方、コレエダには韓国籍の義弟がおり、そいつはレイという名の凶暴な殺し屋で、兄を殺された復讐の為、彼もバンコクにやって来て執念深くインナムの命を狙う。
前述の殺しの依頼主がもう一人と言っていた相手は多分このレイだろう。

という訳で、物語は娘を助け出そうとするインナムと、復讐心に憑りつかれた凶暴なレイとの一対一の対決へとなだれ込んで行く事となる。


“殺し屋が、一人の少女を守って戦う”
という話はリュック・ベッソン監督の秀作「レオン」以来数多く作られて来た。韓国でも、殺し屋ではないが暗い過去を捨てて生きて来た男が組織に拉致された一人の少女を助けるべく戦う「アジョシ」という傑作が作られている。

またそのベッソンが脚本を書き、リーアム・ニーソンが主演した「96時間」も、元特殊工作員だった主人公が、人身売買組織に誘拐された自分の娘を救うべく奮闘する物語だった。

これだけなら目新しい題材ではない。
だが本作が面白いのは、殺された身内の復讐の為、どこまでも主人公を追う殺し屋を登場させている点である。

このパターンの映画もこれまでいくつかある。2019年に作られた「ライブリポート」という作品でも、警察官である主人公(アーロン・エッカート)に兄を殺された凶悪な犯人が、執念深く主人公に復讐すべく追って来る。ちなみにこの作品でも主人公は、誘拐された一人の少女を助けるべく孤軍奮闘する。
主人公を付け狙う男が、無茶苦茶暴れ、殺しまくるという点でも本作と共通する。

そういう点では、本作は、「ライブリポート」のバリエーションであり、これに韓国風に残酷味と派手なバイオレンスを加えた作品と言えなくもない。

だが、もう一つ重要な要素として、タイでは実際に横行していると言われる、幼児誘拐、人身売買、臓器密売というおぞましい実態を物語の中に取り入れている点がある。

これも、梁石日の原作を基に、阪本順治監督により映画化された「闇の子供たち」(2008)で描かれており、実は前記の「アジョシ」の中にもその子供の臓器売買の話が出て来る。

本作はそうした、過去のいろいろな犯罪、サスペンス映画に登場した題材を巧みに縒り合わせ、1本の作品にうまく纏め上げた作品と言えるだろう。その点ではホン・ウォンチャンの脚本は周到に練り上げられていて見事である。

終盤はマシンガンから手榴弾まで武器を集めて、警察の特殊部隊まで敵に回してひたすら暴れまくるレイと、我が子ユミンを命を賭けて守り通すインナムとの対決が続き、スリリングで飽きさせない。
レイの凶暴ぶりは、「孤狼の血 LEVEL2」に登場する最恐の怪物・上林(鈴木亮平)を彷彿とさせる。

この終盤の対決で面白いのは、兄の復讐であったはずの戦いが、いつの間にかその目的を離れて、インナムと戦う事に喜びさえ感じるようになって行くレイの心境の変化である。
「なぜそこまで?」と問われて、レイが「理由なんて忘れた」と返す言葉のやり取りにもその事が窺える。

だから最後は、ほとんど相打ち=無理心中のような形で、決着を迎えるのである。
最良の好敵手に出会えた、レイの至福感、我が娘を、命を賭して守り通す事が出来たインナムの満足感。
二人のそれぞれの思いが凝縮されれたこのラストシーンにはホロリとさせられた。

最初は単なる脇役だと思われたトランスジェンダーのユイが、終盤にかなり活躍し、ラストではユミンと、インナムが行きたがっていたパナマに着く辺りもいい気分にさせられる。ユイに扮したパク・ジョンミン、なかなかの好演である。

まさにこれぞ韓国映画、バイオレンスありカーチェイスあり、我が子に寄せる父の思いもありと、最後まで楽しめるウエルメイドなアクション・エンタティンメントの良作である。

ややツッ込みどころもあったりで(レイがあれだけの人数の手下を異国のタイでどうやって調達出来たのかとか)、傑作と言えるほどではないが、韓国製ノワール映画が好きな方なら十分楽しめるだろう。ホン・ウォンチャン監督の今後にも注目しておきたい。

(採点=★★★★

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(付記)
ホン・ウォンチャンが「チェイサー」「哀しき獣」「殺人の告白」の脚本に参加していると上に書いたが、この情報はYahoo!映画のスタッフ欄を見て知った事で、不思議な事に、普段スタッフ情報の参考にしているKINENOTE映画.comのいずれにも、3本とも脚本は監督一人だけしか記載されていない。Wikipediaでも「チェイサー」「哀しき獣」に名前がなく、やっと「殺人の告白」の脚本にホン・ウォンチャンの名前があった。

これはどういう事なのだろうか。1本だけならまだしも、3作続けて名前が掲載されないとは。謎である。

ついでに調べたが、allcinemaと海外のIMDbにはいずれもちゃんと名前があった。KINENOTEさん、映画.comさん、出来たらこれらに合わせてスタッフ欄に追加していただく事を願いたい。

 

 

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