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2022年2月26日 (土)

小説「デンデケ・アンコール」

Dendekeanchol  芦原すなお・著

 作品社・刊

 初版発行日:2021年10月19日

 2,700円+税 単行本:399ページ

 

小説「青春デンデケデケデケ」の主人公、ちっくんのその後を描く30年ぶりの続編。

1991年に発刊された芦原すなお原作「青春デンデケデケデケ」は、私の最も好きな小説である。その年の文藝賞と直木賞を受賞し、翌年には大林宣彦監督によって映画化され、その年のキネ旬ベストテンで2位にランクインする等、当時かなり話題になったので、ご存じの方も多いだろう。

だが私が個人的に大好きな理由は、その大林監督が亡くなられた時の追悼記事にも書いたが、原作の舞台が、私が高校を出るまで暮らした町で、地元の方言(讃岐弁)がふんだんに登場するわ、描かれている時代が、まさに私が高校生活を送ったその時代で、当時に流行った歌謡曲、洋楽ポップスが盛大に登場するわ、主人公が夢中になるのが、当時日本をエレキ・ブームに巻き込み、私自身も夢中になった伝説のバンド、ザ・ベンチャーズ…といった具合に、あらゆる点で私の青春時代とぴったりシンクロする小説なのである。
そんなわけだから、読んでいてもう感動しっぱなし、何度も涙が出て来たほどである。

私にとっての、永遠の青春のバイブル、と言っても過言ではない。


さて、その「青春デンデケデケデケ」からちょうど30年後の昨年、なんとその続編がまさかの登場である。

前作は、主人公藤原竹良(ちっくん)が東京の大学受験を目指し上京する所で終わっていたが、本作は、まさにそのちっくんの、その後の人生を描いた物語である。

無事早稲田大学に合格し、大学生活を始めて、前作での本人の希望通り、プロのシンガー・ソングライターを目指し、作詞作曲に励む。作詞はなんと英語で書く凝りようで、やがてロック中心の音楽雑誌、「ローリング・タイム」(これは当時売れていた「ローリング・ストーン」誌か「ミュージック・ライフ」誌がモデルか)に歌を聴いて欲しいと売り込みに行くのだが、あっさり「プロは無理」と却下されてしまう。
いくら英米のロックに夢中だからと言って、全編英語で書いた歌が日本で売れるわけがない(ビートルズの「ヘイ・ジュード」よりザ・タイガースの曲の方がよく売れたという編集長の言葉には笑った)。

その後も何度かコンテストに応募するが、まったく相手にすらされず、ミュージシャンの夢は挫折する事となる。そしてちっくんは音楽の道を諦め、小説家の道を志すのである。

この辺りは、作者の芦原氏のほぼ自伝だろう。結婚、離婚、再婚の事も簡単に触れている。そして40歳を越えた頃に、再びエレキを手にして、今度はアマチュア・バンドを結成しようと動き出す。

そして50の歳を数えた頃、ふと立ち寄ったスナックかパブで、ちっくんは運命の出会いをする。そこの常連客らしい男・忠夫はエレキギターの名手で、マスターはドラムの達人だった。彼らとすっかり意気投合したちっくんは、突然「バンドを作ろう」と二人に語りかけるのである。

面白いのは、この二人、ギターマンの忠夫と、ドラムのマスター・まもる君のこれまでの人生を、「越後のギターマン」、「八王子一の孤独なドラマー」と章を設けて詳細に描いている点で、ほとんど一人づつで1冊の本になるくらいのボリュームがある。

こうして、50を越えてオヤジ・バンドを結成したちっくんは、再び、“デンデケデケデケ~~”と高校時代と変わらぬベンチャーズ、ビートルズをはじめとするエレキ・セッションに勤しむ事となるのである。

芦原氏も前作発表後、実際にエレキ・バンド、小説と同じ名前の“ロッキング・ホースメン”を結成しているし、驚いたのが、ちっくんが1990年に小説「青春デンデケデケデケ」を発表したと書かれている所。つまり小説の中のちっくんと作者・芦原すなおがほとんど同化している(それでいてフィクションも混ざっている)、これはなんとも奇妙な味わいの小説である。

最終章に至っては、「青春デンデケデケデケ」発表後の出版社とのやりとりやファンとの文通の事も書かれており、ちっくんと言うより芦原氏自身による「あとがき」に近い内容である。


読後感としては、芦原すなお氏の自伝に近い私小説といった印象を受けた。そして全編を覆うのは、芦原氏が過ごして来た時代のロック・ミュージック、ミュージシャンについての膨大な蘊蓄で、ビートルズ、ベンチャーズは序の口、ジョー・コッカーにCCR、レオン・ラッセル、ニール・ダイヤモンドと、今の若い人は知らないだろうミュージシャンの名前が頻出、作者と同世代の音楽ファンでなければついて行けないかも知れない。さらにコード進行に関するマニアックなまでの蘊蓄は、ギターを弾いている人でなければ理解不能だろう。

まあそんなわけで、この小説は、「青春デンデケデケデケ」に感動した、かつ60歳以上のロック・ミュージック・ファンの方にはお奨めの、読者を選ぶタイプの作品と言えるだろう。
それでも、中年になっても、いくつになっても夢を追い続ける事の大切さを描いている点では、胸に沁みる作品である。

残念なのは、前作で全編に溢れ、前作の魅力の一つでもあった、あの讃岐弁が本作では全く登場しない点。まあ舞台はほとんど東京だから仕方ないけれど。
せめて、例えば何年ぶりかで田舎に帰って、昔の仲間、合田富士男や白井君、しーさんと再会して、盛大に讃岐弁で会話する場面などがあったらもっと楽しめただろう。これは入れて欲しかったなぁ。

 

小説「デンデケ・アンコール」

  

小説「青春デンデケデケデケ」
新装・私家版「青春デンデケデケデケ」

 

 

 

 

 

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