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2022年5月15日 (日)

日本映画の名匠ランキング

朝日新聞で毎週土曜日に掲載している「今こそ見たい・読者のRanking」で、5月14日には「日本映画の名匠」が発表されていた。

映画ファンとしては気になるランキングなので、じっくり読ませてもらった。

年齢層によって好きな監督は異なると思うので、私の好みと違ってもある程度は仕方ないとは思っていたが、うーんと首を傾げてしまった。

調査方法としては、編集部作成の50人を対象に1,576人が複数回答した結果を集計したとある。また“故人に限定”とあるので現役・存命の監督は対象外である。

結果は以下の通り。

1位 伊丹十三
2位 黒澤明
3位 小津安二郎
4位 大林宣彦
5位 市川崑
6位 木下惠介
7位 深作欣二
8位 大島渚
9位 森田芳光
10位 新藤兼人

ちなみに11位以下は順に、⑪今村昌平 ⑫鈴木清順 ⑬降旗康男 ⑭野村芳太郎 ⑮相米慎二 ⑯山本薩夫 ⑰今井正 ⑱溝口健二 ⑲岡本喜八 ⑳藤田敏八

どの監督も私の好きな人ばかりで、まあ悪くはないけれど。
ちょうど10年前に同じここのアンケートで「日活映画ベスト20」を見た時には、あまりのトンチンカンなランキングに呆れ酷評した事があったが(その時の記事はこちら)、それに比べればまだましな方である。

1位が黒澤明でなく伊丹十三とは意外。当然黒澤が1位と思っていたのに。まあわずか2票差!ではあったが。

それにしても…日本映画史に残る名匠がかなり漏れている。「雨月物語」「西鶴一代女」の巨匠・溝口健二が18位とは低過ぎる。

そして、成瀬巳喜男が20位にすら入っていない。映画史上の監督ベストテンを選べば必ずベスト5に入る名匠なのに。「浮雲」はオールタイムベストでも常に上位にランクされる不朽の名作である。

他にも、映画史に残るいくつもの名作を発表した以下の名匠もランク外。

内田吐夢(「宮本武蔵」5部作、「飢餓海峡」他)
山中貞雄(「人情紙風船」「丹下左膳餘話・百萬両の壷」
吉村公三郎(「安城家の舞踏会」「偽れる盛装」他)

個人的には川島雄三(「幕末太陽傳」「しとやかな獣」)、清水宏(「有りがたうさん」「按摩と女」)、加藤泰(「沓掛時次郎・遊侠一匹」「明治侠客伝・三代目襲名」)なども入れて欲しい所だが、少々マニアック過ぎるので(笑)、あとの3方についてはランク外も仕方ないだろうが。

まあ、日本映画の名監督を挙げて行けば、とても20人では収まらないだろうし、もう溝口健二や成瀬巳喜男をリアルタイムで観ている人も少ないだろうから、どうしても劇場で封切作品として観た作品(あるいはリバイバル上映された作品)の監督が上位に来るのはやむを得ないかな、とは思ってしまう(そう考えれば小津監督の3位はすごい事だ)。

それにしても、「日本映画の名匠」というタイトルなのだから、「名匠」と呼べる監督をもっと選んで欲しかった。森田芳光、鈴木清順、岡本喜八らは、名匠と言うより、「鬼才」「奇才」の称号がふさわしい。

編集部が作成したという50人のリストの中身も知りたい。まさか成瀬巳喜男、内田吐夢、山中貞雄を外してはいないだろうな。

回答者の年齢(抜粋)を見ると、60歳以上の方がほとんどなので、昔の映画も観てるとは思うのだが、やはり諸外国と違って、古い名画が観られる環境があまりにも少ないのが問題なのだと思う。それとテレビで古い名画を放映する事が最近激減しているのも影響しているのだろう(つい十数年前まではNHK-BSで溝口健二、成瀬巳喜男、小津安二郎らの秀作を特集放映していたが、最近まったく無くなってしまった)。困った事だ。

ちなみに、キネマ旬報が2000年11月下旬号で発表した「20世紀の映画監督・日本編」における監督ランキングは以下の通り。

1位 黒澤明
2位 小津安二郎
3位 溝口健二
4位 木下惠介
5位 成瀬巳喜男
6位 山田洋次
7位(同点) 市川崑、内田吐夢、大島渚、深作欣二
11位 川島雄三

これが順当な日本映画の名匠ランキングだろう。異論はない。山田洋次のみご存命なのがある意味凄い。

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コメント

伊丹は何が評価されたのでしょうか。「お葬式」でしょうね。「マルサ・・」
は普通の娯楽映画になってしまった。溝口は絶対にありえない、もっと上です。反戦の「雨月・・」より「西鶴一代女」が好きです。娼婦に堕ちてからの田中絹代の生き生きとして居ること。女、それも底辺の女を描かせたら溝口には敵わない。黒澤は映画にかける情熱とパワーは凄いと思います。映画「乱」は制作に2年ですか。大島、森田は上過ぎる。新藤は「ある映画監督の生涯」で溝口を描き、「竹山ひとり旅」で高橋竹山を描き僕の好きな監督だ。もっと上。加藤泰は「遊侠一匹沓掛の時次郎」がある。もっと上だ。映画「天城越え」の脚本も書いている。小津を評価しても良いのだが、何を評価してるのかが問題だ。「東京物語」とか、原節子のファミリードラマの監督としてですかね。その題材は偶然松竹にいたからだと思います。大映で撮った「浮草」は撮影宮川一夫で松竹色はなく大映映画になっている気がします。器用なのですかね。山田洋次とクリントイーストウッドだけです、この歳で現役は。「男はつらいよ」は好きです。寅は厄介者ですけども、インテリではなく馬鹿だからパワーは凄い。

投稿: 広い世界は | 2022年5月19日 (木) 19:05

◆広い世界は さん
こういうベストテンは以前の日活映画ベストも同様ですが、マニア的ファンか、朝日新聞読者のような普通の映画好きかでランキングは大きく変わるでしょうね。後者を対象にしたベストテンならこんな結果になるのも仕方ないでしょう。加藤泰と聞いてピンと来る読者はほんの数パーセントでしょうから(1%以下かも?)。
小津作品は、私も若い頃はどこが面白いのかまったく分かりませんでした。山田洋次監督も松竹入社当時、同じような事を言ってましたが、年齢を経て、やっと良さが分かったと言ってます。私も同感で、何度も何度も見るうちに、だんだんと凄さが分かって来ました。「東京物語」の人間観察眼の鋭さには、見る度に打ちのめされます。詳しくは私のHP「20世紀ベスト100」を参照ください。

投稿: Kei(管理人 ) | 2022年5月21日 (土) 10:36

小津作品は、山田洋次ですら分からなかったのですから。「てなもんや商社」の本木克英監督は小津派ではなく木下恵介派です。山田洋次派でもありません。本木監督は松竹が採用した最後の助監督2人のうちの1人です。早稲田の政治経済学部卒の富山出身の方です。もう一人は山田洋次派の京都大卒のかたです。現役の監督は本木さん1人です。最新作映画「大米騒動」は未見です。山田洋次の側にいるとダメになる。朝間義隆もそうだ。山田に利用されて才能を消耗してしまうのだろう。巨匠とはそういうものだ。嫌なら近づくな。話し戻します。僕も小津作品の面白さは分かりませんでした。ビデオで大映映画「浮草」を最近見ました。松竹以外で小津が監督した3本の内の1本がこれです。「薄桜記」と同時期の封切りです。脚本野田高梧です。松竹テイストになってもいいのに、なっていません。撮影「羅生門」の宮川一夫、出演中村雁治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、「欲望という名・・」のブランチデュボア役の杉村春子、松竹と同じにならなかったのは役者でしょう。原のような健気な女はいないし、京と鴈治郎は喧嘩腰でどなりあう。「東京物語」のような話ではなくて、もう一花咲かせようと言う前向きな話で後味がとても良いです。途中のバトルはすごいですけども、だから歩み寄り、京と鴈治郎が仲直りするラストシーンが生きている。

投稿: 広い世界は | 2022年5月21日 (土) 23:14

◆広い世界はさん
「マイスモールランド」の方に書き込みされてた上のコメントは、こちらのコメントの続きになってましたので、勝手ですがこちらに移動させていただきました。そうしないと話が繋がりませんので。悪しからず。
「浮草」は戦前に小津監督が作った「浮草物語」(昭和9年)のリメイクです。「彼岸花」で大映専属の山本富士子を借りた交換条件で、大映で1本作る事になったので、戦前の作品を引っ張り出して来たわけです。小津が自作をリメイクしたのはこれ1本だけのはずです。
物語は「浮草物語」をほぼ忠実に移し替えています。座長と女役者(リメイクでは京マチ子)が雨の軒下で口論するシーンも前作そのままです。雨の量は大映作の方が多いですが。
戦前の小津作品は結構怒鳴り合い、殴り合いが多くて「浮草物語」でもそんなシーンがよく登場してます。「浮草」がこの頃の松竹作品とタッチが異なるのはそのせいです。ラストの後味の良さも前作通りです。見比べるのも面白いでしょう。

投稿: Kei(管理人 ) | 2022年5月22日 (日) 08:03

「浮草」は東京物語のような小津らしさが出ていない。小津の演出は役者のセリフ、動きは1ミリでも小津が指示を出す。カメラも据えっぱなしで動かさない。これが小津の特徴だが、大映「浮草」の撮影ではそれがやれたのか。ノーだ。理由は役者とキャメラマンが言う事を聞かない。カメラは厚田ではない。それが逆に、役者の動きの有る伸び伸びとした作品に仕上がった。

投稿: 広い世界は | 2022年5月22日 (日) 19:10

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