「ブレット・トレイン」
2022年・アメリカ 126分
製作:フークア・フィルムス=コロンビア映画
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
原題:Bullet Train
監督:デビッド・リーチ
原作:伊坂幸太郎
脚本:ザック・オルケウィッツ
撮影:ジョナサン・セラ
音楽:ドミニク・ルイス
製作:ケリー・マコーミック、 デビッド・リーチ、 アントワン・フークア
製作総指揮:ブレント・オコナー、 カット・サミック、 寺田悠馬、 三枝亮介
伊坂幸太郎原作のクライム・サスペンス小説「マリアビートル」のハリウッド映画化作品。監督は「デッドプール2」のデビッド・リーチ。主演は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のブラッド・ピット。共演は「ザ・ウォール」のアーロン・テイラー=ジョンソン、「ゴジラvsコング」のブライアン・タイリー・ヘンリー、「グレイテスト・サマー」のジョーイ・キング、「ザ・ロストシティ」のサンドラ・ブロック、「モータルコンバット」の真田広之など豪華な顔ぶれ。
近況報告にも書いたけれど、入院→手術等もあって、映画館はしばらく行っていなかった。
ようやく先日、体調も良くなったので、映画館に行く事にした。劇場で映画を観るのは約1ヶ月ぶり。それがこの作品。
(物語)いつも事件に巻き込まれてしまう世界一運の悪い殺し屋レディバグ(ブラッド・ピット)。そんな彼への新しい依頼は、東京発の超高速列車に乗り、ブリーフケースを盗んで次の駅で降りるという簡単な仕事のはずだった。だが乗り合わせた9人の殺し屋たちから次々と命を狙われ、降りるに降りられなくなってしまう。そして終着駅・京都では世界最大の犯罪組織を率いる冷酷非道なホワイト・デス(マイケル・シャノン)が待ち受けていた…。
やっぱり大きなスクリーンで観る映画はいい。本作は原作をうまく生かした物語展開、個性的な登場人物もいいが、ダイナミックなアクション、走る列車のスピード感は劇場で観てこそ楽しめる。久しぶりの劇場鑑賞作品に選んで正解だ。
(以下ネタバレあり)
原作は伊坂幸太郎の「マリアビートル」。これは「グラスホッパー」に続く“殺し屋”シリーズの2作目である。原作はどちらも読んでいるが、かなり前に読んだので内容はウロ覚え。「マリアビートル」はいつも必ず仙台が出て来る伊坂作品らしく、東北新幹線が舞台となっているが、映画は東京から京都に向かう東海道新幹線に舞台を移し、ハリウッド映画らしくド派手でスケール大きな作品になっている。
…が、実は映画での舞台はJRならぬ日本高速電鉄(と車内の壁面に表示されている)が運行する、「ひかり」ならぬ「ゆかり号」。停車駅は品川や静岡、米原と一応「ひかり」の停車駅に合わせているが、終点は新大阪(又は博多)でなく京都、と少しづつ実際の東海道新幹線と異なっている。そう言えば冒頭の東京の風景もネオンがけばけばしく、「ブレードランナー」に登場するアジアン・タウンのようだった。JR新幹線なら深夜零時~午前6時の間は運行されていないはずなのに「ゆかり号」は朝日の昇る頃に京都着とデタラメ(東京発は何時なんだ?(笑))。そして富士山が何故か名古屋の西にある(笑)。
つまりは現実とは異なるパラレルワールドの世界である。だから何でもあり。列車の乗客がほとんど殺し屋ばかりなのもこの映画ではアリなのだ。もっとも、伊坂幸太郎の原作自体もそうなっているのだが。
そして列車に乗り合わせた殺し屋たちのキャラクターもユニーク。主人公のレディバグは世界一運の悪い男で、殺し屋と言いながら拳銃も持たずトラブルを極力避けたい性格、犯罪組織のボス、ホワイト・デスの息子を護送中の蜜柑(アーロン・テイラー=ジョンソン)とレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)の二人組は、レモンが「きかんしゃトーマス」の大ファンだったり、毒蛇使いのホーネット(ザジー・ビーツ)とか、妻を殺され復讐の鬼となったウルフ(バッド・バニー)とか、女なのに名前がプリンス(王子)という殺し屋(ジョーイ・キング)は女子高生のコスチュームだし、元殺し屋のキムラ(アンドリュー・小路)は息子を人質に取られホワイト・デスの言いなりに動いているし、途中から乗り込んで来るキムラの父、エルダー(真田広之)は剣の達人…と実に多彩。ただ蜜柑とレモンのコンビはこれまで何人も殺している凄腕なのに、この列車内では大金の入ったブリーフケースはレディバグに簡単に奪われるし、ホワイト・デスの息子は目を離した隙に殺されたりと、どこかマヌケでドジである。
これら殺し屋の設定は伊坂原作にほぼ沿っているが、ウルフなど何人かについては、原作ではあまり描かれていない過去をかなり細かく描いている。
そして何より原作と異なるのは、コミカルでトボけた味わいである。戦っているレディバグと蜜柑が、車内販売員がやって来ると途端に休戦して販売員をやり過ごしたり、「Quiet Car」という車両ではなるたけ音を立てずに戦い、うっかり音が大きくなるとその都度女性の乗客に「シーッ」と注意されて謝ったり、レモンが途中駅で待っていたホワイト・デスの部下たちに、死んでいる息子がさも生きているように二人羽織で見せかけたりと、ほとんどマルクス兄弟並みのギャグ(笑)で笑わせてくれる。さすが「デッドプール2」のデビッド・リーチ監督ならではである。
エルダーが仕込み杖でバッタバッタと座頭市ばりに斬りまくるシーンはカッコいい。さすが真田広之。これとか、女子高生風のプリンスが派手に暴れたりとかのシーンはタランティーノの「キル・ビル」(栗山千明扮するGOGO夕張等)を意識している気がする。
終盤になると原作からどんどん離れ、京都に着いた「ゆかり号」を暴走させた後に大転覆させるスペクタクル・シーンもある。ここらがいかにもハリウッド。
伊坂作品同様、前半や途中の回想シーンに散りばめられたいくつもの伏線が終盤に回収されて行く辺りも楽しめる。
個人的には、「時には母のない子のように」「上を向いて歩こう」等の'60~'70年代にヒットした日本製の曲が流れて来るのもツボだった。思えばこれも「キル・ビル」と同じ趣向だ。
いやー楽しかった。頭をカラッポにしてスピーディなアクションを堪能し、そんなアホなとツッ込みたくなるシーンに笑い、観終わった後も、随所に仕込まれた小ネタを思い出してニンマリ出来る、実に痛快なウエルメイド・エンタティンメントの快作であった。こういう映画も、シンドい映画の合い間の息抜きにはもって来いである。
そして思い返すと、これは一つの乗り物に乗り合わせた人たちのそれぞれの人生と運命を描きつつ、終着点に向かって疾走する物語なのだが、それで思い出すのがジョン・フォード監督の名作西部劇「駅馬車」である。途中にはインディアン襲撃というスペクタクルな見せ場もあり、アクションと人生ドラマが絶妙に配分された傑作だった。
本作も、乗り合わせた殺し屋たちの過去をじっくり描いていたり、終点に到着後、悪のボスとの対決があったりと、「駅馬車」との類似点は多い。ここらも意識して観るとなお面白い。
年末に選ぶベスト20には入らないけれど、私の選考する「愛すべきおバカ映画賞」には一押ししておきたい(笑)。
(採点=★★★★)
(付記)
邦題の「ブレット・トレイン」だが、原題のBullet を「ブレット」と読ませていたのにちょっと引っかかった。
と言うのは、映画の題名に Bulletが含まれている場合(原題になく邦題のみの場合も含む)、多くは「バレット」と表記していたからである。いくつかの例を挙げる。
2000年 「BULLET BALLET バレット・バレエ」(日本・塚本晋也監督)
2003年 「バレット モンク」 チョウ・ユンファ主演
2006年 「ワイルド・バレット」 ポール・ウォーカー主演
2012年 「バレット」(ウォルター・ヒル監督) シルヴェスター・スタローン主演
2012年 「バレット・ヒート 消えた銃弾」 ニコラス・ツェー主演
2019年 「ラスト・バレット」 ジャン・レノ主演
そして今年公開された阪元裕吾監督(「ベイビーわるきゅーれ」等)の新作の題名が「グリーンバレット」である。
上に挙げたうち「バレット モンク」、「ワイルド・バレット」、「バレット」なんかは有名スター主演で結構ヒットし、記憶に残っている。つまりは日本で"Bullet"と言えば「バレット」の方が馴染みがある。
もっとも「ブレット」と表記された作品も僅かだがある。ミッキー・ローク主演「ハード・ブレット 仁義なき銃弾」(1995・ジュリアン・テンプル監督、原題:Bullet)、キーファー・サザーランド主演「レイジング・ブレット 復讐の銃弾」(1996)など。後者はなんと名匠ジョン・シュレンジャー監督作なのに日本未公開。いずれもほとんど知られていない。
"Bullet"の発音は「ブァレット」のような感じで、やや「ブレット」に近い「バレット」という所か。しかし上に挙げたように、日本では(特に21世紀に入ってからは)「バレット」が大勢を占めている。語感からしても、「ブレット・トレイン」より「バレット・トレイン」の方が聞こえがいい。なんでこちらにしなかったのだろうか。
どうでもいい事には違いないが、なにしろ杉下右京のように細かい事が気になる性分でして(笑)。
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コメント
映画館での鑑賞復帰、おめでとうございます‼ お元気になられて、本当に良かったです。やっぱり映画、とくにアクションなどは大きなスクリーンで観なきゃ!ですよね。
こちらは、近年、乳幼児相手のパート仕事を始めてバタバタ&グッタリの毎日で、新作は日本映画だけで手いっぱいでして、たぶんこの作品もスルーしちゃうと思うんですが、真田さんの海外でのご活躍は嬉しいですね。
私が最近観た中では、『さかなのこ』『川っぺりムコリッタ』『よだかの片想い』が良かったです。アイドルに疎く、テレビドラマも見ないので(これまでの出演映画も見逃している)、松井玲奈さんを『よだか』で初めて知りましたが、安川有果監督ともども今後も注目していきたいなと思いました(私のテアトル梅田ラスト作品はこれになりそうです。ロミー・シュナイダーとミシェル・ピコリの『マックスとリリー』は観たかったのですが、時間が合わず…泣)。
投稿: ぴよ | 2022年9月19日 (月) 18:26
私も見ました。
原作は読んでいますが、原作の主人公は木村雄一ですしかなり脚色されています。
中盤まではかなりとっちらかった展開でこれちゃんと終わるの?と思いますが、最後は割とまとまっています。
まあお話はともかく、出番は割と短いものの真田広之がかっこいいので楽しかったです。
日本誤解映画ファンとしてはもうちょっと誤解して欲しい気持ちもありましたがこれはこれでいいかな。
サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムもちらっと出ているし、ブラッド・ピットもちらっと出ていた「ザ・ロストシティ」とのバーターなのかな?
「ザ・ロストシティ」もおバカ映画としては楽しかったです。
投稿: きさ | 2022年9月20日 (火) 17:04
◆ぴよさん
ありがとうございます。
まだ万全とは言えないのですが、徐々に散歩や外出増やして体調管理に努めてます。
映画ももっと観たいのですが、なかなか時間が合わず、この連休は台風の影響で風が強くて出かけられず、お預けです。
挙げられてた映画、どれも観たいですね。特にテアトル梅田は閉館までになんとか行きたいですね。
投稿: Kei(管理人 ) | 2022年9月20日 (火) 17:53