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2022年10月17日 (月)

「四畳半タイムマシンブルース」

Yojouhantimemachineblues 2022年・日本   92分
配給:KADOKAWA、アスミック・エース
監督:夏目真悟
原作(著):森見登美彦
原作(原案):上田誠
脚本:上田誠
撮影監督:伊藤ひかり、関谷能弘
音楽:大島ミチル
アニメーション制作:サイエンスSARU

森見登美彦のベストセラー小説でTVアニメにもなった「四畳半神話大系」と、劇団ヨーロッパ企画の人気舞台「サマータイムマシン・ブルース」がコラボレーションした青春SFコメディのアニメ化。監督はTVアニメ「四畳半神話大系」と、アニメ映画「夜は短し歩けよ乙女」で、湯浅政明監督の主要スタッフとして参加した夏目真悟。声の出演に、アニメ版「四畳半神話大系」のキャストが再結集した他、劇団ヨーロッパ企画の舞台俳優も多数参加している。

(物語)京都のおんぼろアパート「下鴨幽水荘」に住む大学生の「私」は、後輩の明石さんが気になりつつも、悪友の小津や謎の自由人・樋口師匠たちに振り回される日々を送っていた。そんなある夏の日、下鴨幽水荘で唯一のクーラーが使えなくなってしまう。小津が誤ってコーラのビンを倒してクーラーのリモコンを水没させてしまったのだ。「私」が住人たちと対策を協議している時、物置からおかしな装置を発見する。どうやらそれはタイムマシンである事が判る。これを使って昨日に戻り、壊れる前のリモコンを持って帰れば問題は解決すると住人たちは考え実行に移すが、やがて過去を変えてしまうとタイムパラドックスが生じて宇宙消滅の危機となる…と気が付いた「私」は慌ててそれを回避すべく奔走するのだが…。

元の原作は、2001年に初演された劇団ヨーロッパ企画の舞台劇「サマータイムマシン・ブルース」。これが好評で何度も再演され、2005年には本広克行監督により実写映画化もされた。

映画の方は私も観ているが、とても面白かった(拙批評はこちら)。タイムスリップものは数多く作られているが、“過去の歴史を変えてしまったら、タイムパラドックスで今の歴史がなくなってしまう、だから過去を変えてはならない”という、あまり他のタイムスリップものが深く考えて来なかった点に着眼し、その危機を回避する為に悪戦苦闘するドタバタ劇を実に周到に作り上げ、しかも随所に配された伏線を見事回収する、脚本の見事さに唸ってしまった。

その「サマータイムマシン・ブルース」を、森見登美彦原作の「四畳半神話大系」の舞台と登場人物をそっくりそのまま配して森見が小説化し、それを原作としてアニメ化したのが本作である。

森見登美彦原作によるアニメ化作品(「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「ペンギン・ハイウェイ」)の脚本を書いているのがいずれも「サマータイムマシン・ブルース」の原作者でもある上田誠。
こうした流れから、両氏それぞれの代表作である2本の作品を合体させて本作が出来上がったのも自然な成り行きだろう。

「四畳半神話大系」も数話だけ観ているが、本作ではその個々のキャラクターが見事に違和感なくアダプテーションされ、まるで「四畳半神話大系」のワン・エピソードと言ってもいいくらいの作品に仕上がっている。

主人公の「私」は「四畳半神話大系」そのまんまに早口でモノローグを喋っているし、妖怪みたいな顔の小津はやはりネチネチと悪さを繰り返してるし、長いアゴの樋口師匠は相変わらず飄々としているし、美女の明石さんに「私」がなかなか近寄れない辺りもそのまんま。
だから「四畳半神話大系」を観ていればより楽しめるが、観ていなくても全然問題はない。

(以下ネタバレあり)

物語は「サマータイムマシン・ブルース」とほぼ同じ。ただ、「四畳半神話大系」に合わせて舞台となる場所や登場人物キャラクターが変更されている。クーラーが設置されている部屋は、「サマータイム」ではSF研究会の部室だったが、本作ではアパート「下鴨幽水荘」の「私」の部屋だけ(いくらおんぼろアパートでも、今どきクーラーのない部屋があるアパートなんてないと思うが、まあそこは深く考えずに)。

序盤から、少しづつ変な事が起きたり(銭湯で樋口のヴィダルサスーンが消えてしまうとか)、「私」と相手の会話が全然かみ合わなかったり(突然、覚えがないのに裸踊りをする約束だと言われたり)するのだが、これらがすべて後の伏線となっている。

そんな騒動の最中、小津が誤ってコーラのビンを倒してクーラーのリモコンにコーラをぶっかけてしまい、リモコンが使用不能となってしまう。これがすべての発端である。

リモコンでしかクーラーが作動しない為、「私」以下住人たちは大騒ぎ。真夏にクーラーが使えなくては大変だ。電器店を回っても型が古い為修理は無理だと言われる。

そんな時、物置に見覚えのない装置が置かれているのを発見する。
年、月、日の数字が書かれたパネルがあり、日付は今日のようだ。誰かが「タイムマシンではないか」と言う。無論冗談のつもりだ(「ドラえもん」のタイムマシンをうんとチャチにしたようなデザインが笑える)。

小津が試しに日付を昨日にしてレバーを下げると、小津ごと装置が消滅する。やがて戻って来た小津は「実際に昨日に行った」のだと言う。これは本物のタイムマシンだったのだ。

全員でこの機械の有効な使い道を思案している時、「これで昨日に行って、壊れる前のリモコンを持って帰れば問題は解決する」という案が出て、早速それを実行し、無事壊れる前のリモコンをゲットする事に成功する。

その後も住人たちはタイムマシンを使って自由に過去に行ったりとやりたい放題、段々収拾がつかなくなって来る。

そんな時、「私」はふと、「昨日の世界からリモコンが消えたなら、1日後の今日、リモコンがあるのは矛盾する」事に気が付き、“過去の歴史を変えてしまうと、タイムパラドックスが起きて今の歴史は存在しない事になる、このままだと、もしかしたら全宇宙消滅かも”と最悪の事態を想像してしまう。

かくしてくだんのリモコンを昨日の世界に戻しに行ったり、タイムマシンの所有者である未来人の田村君が登場して、未来からリモコンを持って来た事からさらに事態がややこしくなったりのドタバタ騒動が繰り広げられる事となる。

1回観ただけではストーリーが呑み込めないほど複雑な設定になっているが、ボードにリモコンの移動経緯を絵解きしてくれているので、これを見ればなんとか理解出来るだろう。

25年後の未来から99年前の過去まで、124年間に亘る壮大なリモコンの旅が、安アパートの四畳半という小さな世界だけで展開するというミスマッチも面白い。

明石さんを五山の送り火に誘おうとしてもなかなか打ち明けられない、優柔不断な「私」のもどかしさも、いかにも青春真っ只中である。明石さんが既に誰かと行く約束をしていると聞いて気を揉む「私」だが、その相手と言うのが実は…とここにもタイムリープが仕込まれていたりと、周到に練られた脚本が実に見事。

未来からやって来た田村君の母親が、あるアクセサリによって判明する等、小道具の使い方もうまい。

アパートの庭に昔からある「カッパの石像」の正体も、やはりタイムマシンが絡んでいたりするのだが、重要なのはその石像があの先輩が過去に行く前から既にあったという点である。
つまり、“過去にタイムリープして何かを行う事で、過去を変えた”のではなく、“タイムリープで過去を変えた事が、逆に今の歴史を作った(タイムリープは前々から必然だった)”という事なのである。歴史の流れは何をしようと動かない…この発想には膝を打った。
もっとも、作者がそこまで考慮していたかは知らないが(笑)。

実にうまく作られた、タイムトラベルものの秀作である。「運命じゃない人」「カメラを止めるな!」と同様、前半で撒かれたいくつもの伏線が後半で見事に回収されて行くタイプの作品でもある。


ただ、ツッ込みどころも細かく探せばいくつかある。いくらサランラップで厳重に包もうとも、水に落ちて100年近くも年月を経過すれば、さすがに水は沁み込むだろうし、ラップだって劣化してボロボロになるだろうし、リモコンも電池が液漏れして腐蝕するし金属部分は錆びついてしまうだろう(これは「サマータイム-」評にも書いた(笑))。

まあ映画を観てる間はテンポよく進む物語に、タイムリープの複雑さに気を取られてそこまでは気が回らないかも知れない。あまり深く考えずに楽しむのが正解である。

一度観ただけでは分かり辛くても、もう一度観れば細部のちょっとした伏線にも気が付いて面白さが増すだろう。私は既に「サマータイムマシン・ブルース」を観ているが、17年前なのでさすがに記憶が薄れており、いくつか知ってる部分もあったがそれなりに楽しめた。

そういう点で、この映画は「四畳半神話大系」のファンで、「サマータイムマシン・ブルース」を未見の方が一番楽しめると思う。私の場合は(採点=★★★★)という所か。

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コメント

これは面白かったですね。
まあ「サマータイムマシン・ブルース」は大好きなのでお話は知っている訳ですが。
声優さんたちの達者な芝居が楽しかったです。

投稿: きさ | 2022年10月19日 (水) 14:05

◆きささん
「サマータイムマシン・ブルース」を観ていないほうが、いろんな謎の解明を楽しむ余地があっていいのですが、「サマータイム-」を観ていて謎を知っていても、お話がよく出来ているのでやはり面白いですね。また「サマータイム-」を観たくなりました。

投稿: Kei(管理人 ) | 2022年10月24日 (月) 09:01

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