« 「夜明けまでバス停で」 | トップページ | 「RRR」 »

2022年11月11日 (金)

「金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅」 (VOD)

Voyagetotheplanetoftheprehistoricwomen 1968年・アメリカ   79分
(オリジナル:1962年・ソ連)
製作:アメリカン・インターナショナル・ピクチャー
原題:Voyage To The Planet Of The Prehistoric Women
製作:ロジャー・コーマン、ノーマン・D・ウェルズ
監督:デレク・トーマス(ピーター・ボグダノヴィッチ)
脚本:ヘンリー・ネイ
撮影:フレミング・オルセン(ピーター・ボグダノヴィッチ)
音楽:キース・ベンジャミン
ナレーション:ピーター・ボグダノヴィッチ 

1962年のソ連映画「火を噴く惑星」に追加撮影・編集したSFホラー。監督はデレク・トーマスの変名でピーター・ボグダノヴィッチが担当。追加部分の出演者はマミー・ヴァン・ドーレン、メアリー・マー、ペイジ・リー、アルド・ロマーニ、マーゴット・ハートマンなど。

アマゾン・プライムを閲覧してたら、こんな作品を無料配信してたので観る事にした。これ、前から観たかった作品だった。

というのは、これは「ラスト・ショー」「ペーパー・ムーン」等で知られるピーター・ボグダノヴィッチがメジャー・デビュー前に監督した作品なのである。なのにあまり知られてないのは以下の理由による。

Planeta-bur 当時ボグダノヴィッチはB級映画の帝王、ロジャー・コーマンの下で働いていたが、コーマンがソ連から買い付けたSF映画「火を噴く惑星」色気が足りないからと、ボグダノヴィッチに女優を使った追加撮影・編集を命じ、それに応じたボグダノヴィッチが当時人気のグラビアモデル マミー・ヴァン・ドーレン等総勢10名ほどの女優を起用して完成させたのが本作である。監督名もデレク・トーマス名義で、クレジットにはナレーションとしてボグダノヴィッチの名前があるだけ。

元のソ連映画に追加撮影を行っただけなので、単独監督作とは言い難く、実質監督第1作は、この直後にやはりコーマン・プロデュースで撮った「殺人者はライフルを持っている!」(68)である。

(以下ネタバレあり)

物語は、二人乗りの金星探査ロケットが着陸後に連絡不能となり、救出の為の第2陣として3人の宇宙飛行士たちがロケットに乗り金星に向かう。しかしそこには怪獣や巨大な食中植物、それに何故か翼竜を神と崇める美女群がおり、彼女たちは地球人を侵略者と判断し、次々と攻撃を仕掛けて来る…というもの。

お話だけ聞けば面白そうだが、ソ連製のオリジナル部分の特撮がチープなのと、ボグダノヴィッチによる追加撮影部分がとって付けた感があり、そもそも科学調査では気温も数百度で生物が住めないとされる金星に、地球人とそっくりの美女がいる事自体ナンセンスで、ツッ込みどころ満載のZ級サイテー映画と評価する人が多いのも当然である。

オリジナル部分は、当時のソ連の技術的問題なのか低予算作品のせいなのか、画質が悪いしピントも甘く、色調も良くない。しかも縦揺れが激しい。追加撮影部分がまずまずの色調でちゃんとした画質になっているだけに余計差が目立つ。

特撮部分も、当時の「ウルトラマン」レベルかそれ以下で、出て来るゴジラに似た怪獣も明らかにヌイグルミでしかも人間と等身大、チョロッと出て来て以後出て来ず。

Voyage-to-the-planet-of-the-prehistoric-

しかも怪獣に対し、拳銃で対抗している、せめて「ウルトラマン」並みにレーザー光線銃くらい出せよ(笑)。円谷プロのテレビ作品の方がまだマシである。

まあ何とか見どころがあるのは、第1陣ロケットに同乗していたロボット・ジョンの造形がまあまあなのと、ホバークラフト型探査機がちゃんと浮き上がって走行しているように見える点くらいか。これは「スター・ウォーズ」のランドスピーダーに影響を与えているかも知れない。

冒頭からずっと、ボグダノヴィッチ自身によるナレーションが続いており、この声は第2陣の一人、アンドレのものだと途中で判る。

なお、「マーシャと連絡を」というセリフが何回か登場するが、映画には一切マーシャは登場していない。実はソ連製のオリジナルには機内に残った女性乗組員として登場しているのだが、再編集した本作では全面カットされている。ならどうせ英語吹替なのだから違うセリフに変えればいいのに。これもいいかげんだ。

追加撮影部分の美女も、そのスタイルは髪はブロンド、まつ毛パッチリ、ホタテの貝殻ビキニ(笑)に下半身はジャージ風パンタロン。もう脱力するしかない。

Voyagetotheplanetoftheprehistoricwomen2

彼女たちはプテラノドンに似た翼竜(但し体長は3メートルくらい)を、守り神テラとして崇めていたが、それが地球人によって簡単にやっつけられてしまったので、地球人に復讐を誓う。
彼女たちは超能力があるらしく、呪いだけで火山を噴火させたり、大雨を降らせたりして地球人たちの帰還を妨害する。

ロボット・ジョンがなかなかの活躍。第1陣の二人を乗せて溶岩流の中を進み、第2陣の救助隊に引き渡した後、溶岩の中に没して行くシーンはちょっとホロッとさせる。

呪いで天変地異を起こしたにも関わらず、地球人たちのロケットが無事発進し、地球に向かって去って行ったので、守り神テラは役立たずと怒って石像に石をぶつけて破壊してしまうのも笑える。
そして溶岩で黒く焦げたジョンの残骸を、新たなる神として崇拝するというオチ。

結局地球人たちと美女たちはニアコンタクトしないまま。まあ美女群は追加撮影だから当然だが。

そしてアンドレは美女の存在を信じ、いつの日か金星に戻る事を誓って映画は終わる。


まあとにかくチープでショボい、トホホなC級SF映画の珍作である。エド・ウッド監督の「プラン9・フロム・アウタースペース」よりはちょっとだけマシ程度の出来である。

しかしこれがロジャー・コーマン製作、ピーター・ボグダノヴィッチ監督と知って観れば、また別の味わいがある。ソ連B級SF映画に追加でセミヌード美女群撮影部分をぶっ込んで、悪戦苦闘しながらもなんとか話として繋がっている作品に仕上げただけでもボグダノヴィッチ、頑張っていると言える。この作品でコーマンに認められたボグダノヴィッチが、コーマン製作で劇場映画監督デビューを果たすわけだから、本作も意義ある仕事だったという事になる。
ロジャー・コーマン・ファン、ボグダノヴィッチ・ファンなら観ておくべき、愛すべき珍品と言えよう。  (採点=★★☆

なおボグダノヴィッチは本年1月6日、ロサンゼルスの自宅で82歳で亡くなった。謹んで哀悼の意を表したい。

Amazon Primeでは他にもロジャー・コーマンの製作、及び監督作品を多数配信しており、これらを観るのも楽しみだ。

ちなみに、コーマンに関してもっと知りたい方はドキュメンタリー「コーマン帝国」がお奨め。ボグダノヴィッチも出演している。拙作品評はこちら。

 ランキングに投票ください → にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ


(さて、お楽しみはココからだ)

Battlebeyondthesun 実は、ソ連映画「火を噴く惑星」に追加撮影・編集した映画はもう1本ある。それが本作より5年前の1963年に製作された「原始惑星への旅」(原題:Battle Beyond The Sun)。本作のサブタイトルが「新・原始惑星への旅」となっているのはその為である。

これもロジャー・コーマンが本作と同様の方式で製作したものだが、追加撮影・編集・演出を担当したのがなんと、こちらもコーマンの下で助監督をやっていたフランシス・フォード・コッポラ。コッポラは2体のモンスターが闘うシーン等を追加撮影し、再編集した上セリフを英語に吹き替えて完成させた。監督クレジットはトーマス・コルチャートの変名を使っている(資料によって、ジョン・セバスチャン、御大ロジャー・コーマンなどまちまち。IMDBで確認したらトーマス・コルチャートとなっていた)。

つまりコーマン、安く仕入れたソ連製SF映画を、2度にわたって使い回して新作であるかのように作って公開したわけだ。まったく商売上手だ。

これでコッポラの才能を認めたコーマンは同年、AIPでコッポラの本格的監督デビュー作「死霊の棲む館」(原題:Dementia 13)をプロデュースし、以後コッポラは一流監督の道を突き進むこととなる。

 つまりソ連映画「火を噴く惑星」は、コーマンの戦略によって結果としてフランシス・F・コッポラ、ピーター・ボグダノヴィッチ、2人のハリウッド第9世代の旗手となる名監督を誕生させるきっかけとなった訳である。その意味でも記念碑的作品と言えるだろう。

いずれもDVDが出ており、マニアのファンはこの3本の映画を見比べて楽しんでいるそうだ。

 

(おマケ)
 「原始惑星への旅」「燃える惑星 大宇宙基地」 でコッポラが追加撮影したSFXによるモンスター対決のワン・シーンはこれ。Battlebeyondthesun2

チャチで笑えるが、これ、左が男性器、右が女性器を象徴しているそうだ(笑)。コッポラ、よくやってくれます。


(11/13追記)
その後いろいろ「原始惑星への旅」について調べてみると、原題は"Battle Beyond The Sun"ではなく、"Voyage To The  Prehistoric Planet"で、私が上に書いたような男女性器を思わせるヘンテコなモンスターは出て来ないらしい。監督名もカーティス・ハリントンとなっている。

それでもっと調べたら、コッポラが追加撮影・再編集したのは「火を噴く惑星」ではなく、もう1本のソ連製SF映画「大宇宙基地」(1959)の方だった事が判った。

こちらのソ連製オリジナル作品のストーリーは、米ソが宇宙開発にしのぎを削る中、火星に向かったアメリカの宇宙船が遭難し、ソ連の宇宙飛行士たちが救出するというお話である。

Battle-beyond-the-sun4 これを買い取ったロジャー・コーマンがコッポラに命じ、なんとソ連側の登場人物の名前をアルバート・ゴードン博士、ダニエルズ司令官、ポール・クリントン飛行士などとアメリカ風に改変し、南半球国家(アメリカを思わせる)と北半球国家(多分ソ連)の2大国家の対立に置き換え、南半球国家が北の飛行士たちを助けて2大国が和解する、という風に米ソの立ち位置を逆転させ、セリフを英語に吹き替え、あの卑猥な(笑)モンスターを追加撮影して完成させたのが、1963年公開のフランシス・F・コッポラ監督"Battle Beyond The Sun"(64分。DVD邦題:「燃える惑星 大宇宙基地」)というわけである。パッケージの表紙にはあのモンスターが大きく登場している(笑)。
なお劇場公開時は監督名がトーマス・コルチャート名義だったが、後にコッポラが有名になったので、ヴィデオ化された際に監督:コッポラとはっきり謳うようになったようだ(右)。

そんなわけで、上記の「原始惑星への旅」についてのデータは、1965年製作、監督カーティス・ハリントン、原題:"Voyage To The  Prehistoric Planet" と訂正させていただく。無論こちらにコッポラは参加していない。

こんな間違いが生じたのは、ネット上で「原始惑星への旅」がコッポラ監督だとする誤った紹介記事が結構出回っているせいである。私ももっと調べればよかった。

しかしロジャー・コーマン、本当によくやってくれる。ソ連から買い付けた2本のSF作品をコッポラやボグダノヴィッチに命じて、それぞれエロネタ盛り込んで作り変えてしまうのだから(笑)。

コッポラ監督「燃える惑星 大宇宙基地」もDVDが出てるようなので、観てみたいね。

 

 

DVD「金星怪獣の襲撃」




DVD「原始惑星への旅」

DVD「火を噴く惑星」

 

DVD「燃える惑星 大宇宙基地」

 

|

« 「夜明けまでバス停で」 | トップページ | 「RRR」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「夜明けまでバス停で」 | トップページ | 「RRR」 »