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2022年11月16日 (水)

「RRR」

Rrr 2022年・インド   179分
製作:DVV Entertainment
配給:ツイン
原題:RRR
監督:S・S・ラージャマウリ
原案:V・ビジャエーンドラ・プラサード
脚本:S・S・ラージャマウリ
撮影:K・K・センティル・クマール
音楽:M・M・キーラバーニ

英国植民地時代のインドを舞台に、2人の男の友情と大義の為の戦いをスケール感豊かに描いたアクション・エンタテインメント。監督は大ヒットした「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ。主演は「バードシャー テルグの皇帝」のN・T・ラーマ・ラオ・Jr.と「マガディーラ 勇者転生」のラーム・チャラン。インド国内の初日興収歴代1位を記録した。

(物語)1920年、イギリス植民地時代のインド。ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr)は、イギリス総督夫妻にさらわれた幼い妹奪還の為立ち上がる。一方、インド人だがある大義の為イギリス政府の警察官となったラーマ(ラーム・チャラン)は、少女奪還を狙う正体不明の輩を逮捕せよとの特命に進んで志願し行動を開始する。敵対する二人は運命に導かれて出会い、互いの素性を知らぬまま唯一無二の親友となる。しかしある事件をきっかけに二人は友情か使命か、究極の選択を迫られる事となる。

2017年に我が国でも公開された「バーフバリ」2部作は、小規模公開ながらその面白さに徐々に人気が高まり、異例のヒット作となった。私も後編「王の凱旋」を劇場で観て大興奮、その面白さに圧倒された。

「バーフバリ」は遥か昔の古代インドを舞台にした貴種流離譚もので、ワイヤースタントとCGを駆使したアクション・シーンも素晴らしかったし、インド映画お得意の歌とダンス・シーンもふんだんに登場する、まさに娯楽映画の王道を行く秀作だった。

それに対し本作は、時代はほんの100年程前の20世紀、しかも当時イギリス植民地となっていたインドという歴史的事実がベースになっており、主人公のビームもラーマも実在した人物で、共にイギリスからの独立を目指し闘った革命家、反政府活動家だったという。

そんな実話ベースの物語で、しかも敵対する相手がイギリス総督府。これで前作のような娯楽映画になるのだろうかと観る前は心配したのだが、どっこいさすがはS・S・ラージャマウリ監督、今回も前作に劣らず、CGをフル活用したアクション、波乱万丈のストーリー展開に、ダイナミックなダンス・シーンもちゃんと盛り込んで、3時間近い上映時間を少しもダレさせる事なく突っ走った、実に楽しい王道エンタティンメントの快作に仕上がっていた。お見事!

今回は製作費も破格の97億円。今年8月時点でインド映画として世界興行収入1位を記録したのも納得である。

ちなみにタイトルは、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字を並べたものである。

(以下ネタバレあり)

冒頭は、イギリス総督のスコット・バクストン(レイ・スティーブンソン)の妻のキャサリン(アリソン・ドゥーディ)が、ゴンド族の少女に手にペイントしてもらっているシーン。少女は歌もうまく、それを気に入ったキャサリンが少女を無理やり連れ去ってしまう。そして追いかけて来た少女の母親を部下が銃殺しようとするとバクストンが、「銃弾は貴重品だ。無駄な事に使うな」と言い、部下は丸太で母親を殴って昏倒させる。

これだけで、イギリス総督・バクストン夫妻がいかに横暴、残虐で、インド人を人間とも思っていない人でなしであるかを端的に描いており、最後に倒されるであろう悪役として分かり易い。

ビームの登場シーンも面白い。罠で動物たちを捕獲しようとしているが、獰猛な虎と対峙するシーンでは、その俊敏ぶり、怪力ぶりと、それだけでなく頭もきれる男である事が観客に即座に分かると同時に、なぜ動物たちを捕獲しようとしているかも伏線となって後に生きて来る。脚本が実によく出来ている。

ビームは実はあの拉致された少女の兄であり、妹を取り戻す為に仲間と共にデリーに向かう。

一方、もう一人の主役・ラーマはインド人ではあるが、ある目的の為にイギリス政府の警察官となり、インド人たちの反政府行動を取り締まる任務を与えられている。

その登場シーンも面白い。イギリスの横暴に耐えかねた暴徒たちが大勢集まり、フェンスを壊して押し寄せると、首謀者を捕えよとの命令を受けたラーマがたった一人で暴徒の中に飛び込み、襲って来る数千人もの暴徒を手あたり次第なぎ倒し、とうとう首謀者を捕まえるまでをかなり時間をかけて描いている。

このシーンによって、ラーマのずば抜けた身体能力ぶりが観客にも十分に伝わるというわけだ。うまい。

この2人が初めて出会うシーンにも工夫が凝らされている。橋を通過している列車が火災を起こし川に転落した事で、一人の子供が危険に晒されているのを見たビームとラーマが、目と目で見つめ合うだけで阿吽の呼吸で協力し、見事子供を助けるわけだが、まるでサーカスの空中ブランコ並みのロープ・アクションには、そんな回りくどい事しなくても(笑)とツッ込みたくなった。しかしカッコいいし、これでお互いの卓抜な身体能力を知り合うことになるわけだから、納得させられてしまう。とにかくあらゆる場面で、いかにカッコよく、観客を楽しませる事が出来るか、監督は工夫に工夫を重ねているのが分かる。

Rrr2

これで強い絆で結ばれた親友となった2人が、イギリス総督公邸の庭でナトゥーと呼ばれるダンスを踊りまくるシーンも圧巻だ。最初は2人がまるでMGMミュージカルのジーン・ケリーとフレッド・アステア・コンビのように優雅に踊りはじめ、やがてダイナミックでアップテンポの踊りとなって行くシーンには惚れ惚れさせられる。熱量がハンパではない。

Rrr3

その公邸に妹が拉致されている事を確認したビームが、例の狩り集めた猛獣をトラックに乗せ、公邸に突入するシークェンスは前半のクライマックス。

ここで、ラーマが実はイギリス政府警察官である事をビームは知るわけだが、互いの友情とそれぞれの使命の間で2人の心は揺れ動きながらも対決する事となる。このバトルシーンも凄い迫力。死闘の末にとうとうビームがラーマに捕らえられる所で前半が終了しインターミッションとなる。

ここまででももう十分、腹一杯になるくらいアクションとスリルを堪能したのに、まだ半分しか経っていなかったのかと驚いてしまう。

「インターミッション」と表示されたのに、すぐ後半部に移る。ただサイトによっては上映時間が9分長い188分となっているものもあるので、本国、あるいは一部の劇場では9分ほどの休憩があるのかも知れない。


後半の展開も波乱万丈である。

実はビームは、イギリス政府の信任を得て、武器庫に出入り出来る権限を与えられた時には、イギリスに対し反乱を起こす為の大量の銃を掠奪する事を使命としていたのだ。その為に親友のビームを裏切る事までやってしまう。

だがもう少しと言う所で、ラーマは使命よりビームとの友情を取り、処刑場に向かうビームと妹を救出する行動に移る。ここは泣かせる。

その為今度はラーマが捕らえられ、拷問されて地下牢に閉じ込められてしまうのだが、ラーマの婚約者シータからラーマの真意を知らされたビームは、今度は自分がラーマの救出に向かうのである。

ここから後はまさに怒涛のクライマックス。観ているこちらも歓声を送りたくなるくらいにスカッとしたアクションに次ぐアクション、遂に悪のバクストン総督一味を倒すまでがテンポよく描かれる。2人のアクロバティックなアクションも素晴らしいし、更にここぞという決めのショットで超スローとなる、まるで歌舞伎の大見得を思わせる演出もカッコいい。もうゲップが出るくらい満足させられた。

「バーフバリ」にも堪能させられたが、本作はさらにその上を行く痛快勧善懲悪アクション・エンタティンメントとして完成している。

イギリス統治の時代を歴史として知っているインド国民なら余計拍手喝采、溜飲が下がったであろう事は想像に難くない。大ヒットも当然だろう。

エンドロールもインド映画らしく、ダイナミックな歌と踊りで、最後までノリノリの気分にさせられる。3時間があっという間だった。いやあお見事。


観終わって、ふと考えさせられるのは、本作のベースにある“強大国家が力の弱い国を植民地化し民族の誇りを奪う事が、どれほど残酷で愚かしい事か”、という点である。

これは一世紀前のインドだけでなく、現代においても、中国はチベットや新疆ウイグル自治区の人々を徹底的に弾圧し、基本的人権を奪っているし、今年に入ってはロシアによるウクライナ侵攻があったのはご承知の通り。

単純に、“あー面白かった”で終わってはいけない。大国に領土を奪われ、弾圧、虐殺される国家、民族は現実に今の時代にも存在している、その事に是非思いを巡らせて欲しい。

ラージャマウリ監督も、きっとそうした思いを映画に込め、虐げられているチベット、ウィグルの人たちに、希望を捨てないで、とエールを送っているのだと思う。エンディングでチャンドラ・ボースやマハトマ・ガンジーなど、インド独立運動の闘士たちの映像を出している事からも、それが窺える。特にチベットはインドのすぐ近くに位置している事もあるし。

痛快、壮大な娯楽アクション映画でありながら、そんな事まで考えさせてくれる点でも、本作は本年を代表する傑作だと言えるだろう。
 (採点=★★★★★

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コメント

お話はかなり突っ込みドコロが多いですが、演出の勢いで見せますね。
主人公二人が強い。
インド映画にしてはダンスシーンは抑え目ですが、エンドタイトルでは派手に踊ってます。
やっぱりインド映画は面白い。

投稿: きさ | 2022年11月22日 (火) 13:14

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