「雑魚どもよ、大志を抱け!」
2023年・日本 145分
配給:東映ビデオ
監督:足立紳
原作:足立紳
脚本:松本稔、足立紳
製作:與田尚志、佐藤晃子、坂井正徳、狩野善則
撮影:猪本雅三、新里勝也
音楽:海田庄吾
地方の町に暮らす7人の小学生男子を主人公に、コンプレックスや葛藤を抱えながらも、人生の何かをつかみ取ろうとする日々を描く青春映画。「喜劇 愛妻物語」の監督・足立紳が自身の小説「弱虫日記」を自らのメガホンで映画化した。主演は関西ジャニーズJr.の人気グループ「Boys be」の池川侑希弥、「CUBE 一度入ったら、最後」の田代輝ら、オーディションで選ばれた子役たち。共演は「ウェディング・ハイ」の臼田あさ美、「鳩の撃退法」の浜野謙太、「百花」の永瀬正敏など。
(物語)地方の町に暮らす小学生の瞬(池川侑希弥)は、成績が落ちた事で母から無理やり学習塾に行けと言われる。そんな彼の周囲には、犯罪歴のある父を持つ親友・隆造(田代輝)や、学校を休みがちのトカゲという仇名の戸梶元太(白石葵一)、ファミコンに夢中の星正太郎(松藤史恩)、いじめを受けながらも映画監督になる夢を持つ西野(岩田奏)など、様々な悩みを抱えながらも懸命に明日を夢見る仲間たちがいた。ある日、瞬はいじめを見て見ぬ振りしたことがきっかけで、友人たちとの関係がぎくしゃくするようになってしまう。
小学6年生になった仲良し4人組の、悪戯や悪ふざけを繰り返したり、時には悩んだりしながら成長する姿を描いた青春映画である。4人の子供たちが主人公で、鉄道の線路が何度も出て来たりする所からも、青春映画の金字塔「スタンド・バイ・ミー」を思い起こさせる。
(以下ネタバレあり)
時代は昭和の終わり近い1988年である。舞台が岐阜・飛騨の田舎町という事もあって、まさに昭和の香り漂う、ノスタルジックな雰囲気に満ちている。昭和に青春時代を過ごした世代にはたまらない。
瞬、隆造、トカゲ、正太郎の悪ガキ4人組は、駄菓子屋の口の悪いババアと諍いを起こし、万引きしたり飼ってるネコを危うく轢き殺しかけたり、学校の池にいるオオサンショウウオを釣り上げたり、風邪で寝込んでいる正太郎の姉の寝姿にムラムラッとなったりと、悪さのし放題。今の時代だったら問題になりそうな行いだが、ユーモラスでテンポいい演出と昭和の田舎町という舞台のおかげであまり気にならない。
子供たちは時々、今は廃線になっている線路の先にある閉鎖されたトンネルを見に行くが、「地獄トンネル」と呼ばれるそのトンネルを出口までくぐり抜けると願いが叶うと言われている。しかし中は真っ暗で、誰も入ろうとはしない。このトンネルは終盤に重要な働きをする事となる。
瞬と一緒に学習塾に通う西野は映画好きで、将来は映画監督になりたいと思っている。中盤には西野が瞬と隆造を主演にした映画を撮るシーンもある。
映画と言えば、瞬がジャッキー・チェン主演の「サイクロンZ」を観に行くシーンがあり、その映画館には「またまたあぶない刑事」のポスターも掲示されていた。いずれも1988年公開作である。それらも含めて当時の時代風景が巧みに配置されているのも面白い。
しかし物語が進むにつれ、表向きには明るく見えるこの子供たちにも、内面ではそれぞれにシビアで複雑な事情を抱えている事が分かって来る。
瞬の母(臼田あさ美)は乳がんで片方の乳房を無くしているし、トカゲの母親は宗教にハマっているし、正太郎の家は母子家庭だし、隆造の父・村瀬真樹夫(永瀬正敏)は犯罪歴のある元ヤクザである。
西野は、学校では苛めに会い、不良仲間に金を脅し取られている。瞬はそれを目撃するが、見て見ぬ振りしてしまう。瞬は自分を卑怯で弱虫だと自覚し、その事で友人たちとの関係もぎくしゃくしてしまう。悪い事は重なり、母親の乳がんも再発し手術する事となり、家の雰囲気も暗くなる。西野は脅されていた事もあって、やがて転校して行く。
物語は終盤、西野から届いた、仲間で作ろうと言っていた映画のシナリオを読んだ事にも触発され、瞬が弱虫だった自分の殻を破り、勇気を出して前に向かって走り出す所がクライマックスとなる。この終盤は泣ける。
特に見事だったのが、それまで疎遠だった瞬と隆造が川べりで出会い、互いに本音をさらけ出して語り合うシーン。ここはなんと、かなり長回しのワンカット撮影である。5分以上はあるだろうか。話しているうち、感情が高まり、涙を流すシーンもある。ここは感動的である。
瞬を演じる池川侑希弥は、映画初出演という事もあって出だしの頃は演技もぎこちない感じだったのだが、物語が進むにつれてどんどんうまくなって行くのが目に見えて判る。隆造を演じる田代輝は映画出演経験もあるのでさすがにうまい。
このシーンに限らず、ワンカット長回しのシーンが多い。冒頭からしてかなりの長回しである。相米慎二監督作品を思い出した。これについては後述。
瞬は西野を恐喝していた不良中学生に工事現場の原っぱに呼び出されるのだが、勇気を出して一人で向かおうとする所に、父の錆びた日本刀を持った隆造が待っていて、二人で決闘場所を目指して歩くシーンはまるで「昭和残侠伝」の健サンと池部良みたいで笑えた。勝負は、4人組の仲間たちとの連携プレーもあって瞬たちが勝つ。このくだりはスカッとする(しかし意外と不良中学生、弱い(笑))。
ラストは、転校が決まった隆造が町を去るシーン。ここで瞬が見送りの前にあの地獄トンネルを走ってくぐり抜けるシーンがクライマックス。そしてそのまま電車で去って行く隆造を追いかけ、走りながら別れの言葉を交わす、このくだりも泣けた。
冒頭の数シーンでは逃げる為に走っていた瞬が、ラストでは前に向かって、逃げずに走り続ける、この対比も秀逸。
くったくのない遊びをしたり、喧嘩をしたり、友情を育んだり、時には悩んだり、勇気のない自分に自己嫌悪になったり…。そうしたさまざまな経験をして、子供たちは勇気を出す事、力を合わせて困難を乗り越える事の大切さを学び、大人へと成長して行くのである。
自分の子供時代はどうだったのだろうか。それを思い、観終わってもしばらくは涙が止まらなかった。
聞けば、足立紳監督は日本映画学校を卒業後、1990年代に相米慎二監督のアシスタントをしており、その時に本作の原型となる脚本を相米監督に見せた事があり、面白いから預からせてくれと言われたそうだ。
相米監督自身、「ションベン・ライダー」(83)、「台風クラブ」(85)、「お引っ越し」(93)、「夏の庭 The Friends」(94)などの子供たちが主人公の映画をいくつも作っており、本作との共通性も感じる。「夏の庭 The Friends」の子供たちも小学6年生だったし、「ションベン・ライダー」で映画デビューした永瀬正敏が本作に出演しているのも、相米監督との縁を感じさせる。
ちなみに本作で永瀬演じる隆造の父が雨の中、童謡「雨降りお月さん」を口笛で吹くシーンがあるが、この曲は「ションベン・ライダー」の中でも効果的に使われていた。これは永瀬の相米監督に対するリスペクトの意味も込められていると見た。
子供たちの自然な演技も素晴らしい。これも師匠の相米監督の子供たちに対する演技指導を見ていたであろう足立監督ならではである。
足立監督のデビュー作「14の夜」も、1987年の田舎町で暮らす中学生たちの青春の日々を描いていた。もしかしたら足立監督は、早逝した相米監督の遺志を継ぐ形で、これら等身大の子供たちを描く映画を作ったのかも知れない。ワンカット長回しシーンの多用もその意図の表れだろう。
本年を代表する、青春映画の秀作として推奨したい。1980年代に青春を送った世代の人たちや、相米慎二監督のファンには特にお奨めである。 (採点=★★★★☆)
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