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2023年5月21日 (日)

「最後まで行く」 (2023)

Saigomadeyuku 2023年・日本   118分
製作:日活=WOWOW
制作プロダクション:ROBOT
配給:東宝
監督:藤井道人
オリジナル脚本:キム・ソンフン
脚本:平田研也、 藤井道人
撮影:今村圭佑
音楽:大間々昂
製作:鳥羽乾二郎、 石垣裕之、 藤島ジュリーK、 竹澤浩、 山田久人
プロデューサー:西村信次郎、 加茂義隆、 小出真佐樹

一つの事故を発端に、次々とのっぴきならぬ状況に追い詰められて行く刑事の姿を描いたクライムサスペンス。監督は「ヴィレッジ」の藤井道人。主演は「ヘルドッグス」の岡田准一と「ヤクザと家族 The Family」の綾野剛。共演は「あちらにいる鬼」の広末涼子、「PLAN75」の磯村勇斗、「ヴィレッジ」の杉本哲太、「シャイロックの子供たち」の柄本明など。

(物語)ある年の瀬の夜、刑事の工藤(岡田准一)は危篤の母の元に向かう為、雨の中で車を飛ばしていたが、妻・美沙子(広末涼子)からの着信で母が亡くなった事を知らされる。焦ってスピードを上げた工藤は、突然車の前に現れた一人の男を撥ねてしまう。その男は既に死んでいた。工藤は遺体を車のトランクに入れ、その場を立ち去り母の元に向かう。男の遺体をなんとか処分しようと悪戦苦闘する工藤だったが、ある時、彼のスマホに「お前は人を殺した。知っているぞ」というメッセージが届く…。

2014年に製作された韓国映画「最後まで行く」は、その予測不能な展開に本国だけでなく、世界中の映画ファンから熱狂を浴び、中国、フランス、フィリピンなどでもリメイクされた。

この人気作品を日本でリメイクしたのが本作である。監督は「ヴィレッジ」が公開されたばかりの藤井道人。1作ごとに異なるジャンルの作品を手掛けて来た藤井監督だが、今回は初めてのクライム・アクション・エンタティンメント。「ヴィレッジ」が個人的にはいま一つだったのでちょっと不安だったのだが…。

なんと!予想をはるかに超えて、無茶苦茶面白い!日本映画としては近年稀にみる痛快娯楽アクションの快作である。

(以下ネタバレあり)

オリジナルの韓国製「最後まで行く」(以下オリジナル)は、Netflixでも配信しているので、予習のつもりで一足先に鑑賞。
これもなかなか面白かったが、本作はプロットは生かしつつ、オリジナルにない要素をいくつか加えて日本的にうまく改変しており、特に終盤のクライマックスはオリジナルにない日本版独自のストーリー展開で、全体的に見ればオリジナルを凌駕していると断言出来る。リメイクでオリジナルを超えるなんて、過去にあっただろうか。それだけでも凄い事だ。


冒頭からしばらくは、オリジナルとほとんど同じ構成。雨の中、危篤だという母の元に車を走らせる主人公工藤。彼は刑事で、途中警察署から、署の裏金疑惑が週刊誌で報じられ、工藤が関わっていないかと問われるが工藤は知らないとやり過ごす。
やがて母が死んだと妻の美沙子から電話が入る。間に合わなかったと落胆する工藤の前に若い男が飛び出して来て、その男を撥ねてしまう。

事故を届ければ足止めを食らって母の元に行くのが遅くなるし、何より警察官としての経歴に傷がつく、と考えたのだろう、工藤は男をシートに包んで車のトランクに隠す。

ここから後は、まさに一難去ってまた一難、次から次とピンチが訪れては回避、またピンチと、息もつかせぬスリリングな展開が待ち受ける。

まず警察の酒気帯び運転の検問。工藤は酒が入ってる上、フロントグラスにはヒビ、怪しんだ警官はトランクを開けろと工藤に言う。絶体絶命。
オリジナルでは、主人公が本庁の刑事としての肩書を振りかざして強引に切り抜けるのだが、本作ではたまたま通りかかった不正を調査する監察官・矢崎(綾野剛)が取りなしてくれて危機を逃れる。オリジナルのやり方はちょっと無理があるのでこの改変は正解。しかも後でこれには裏があった事が判明するわけで、脚本がよく練られている。

この後も、葬儀の準備を進める工藤の家族と、矢崎が調査する裏金疑惑の解明の為工藤が尋問されるエピソード、男の死体を隠す為に汗みどろになって奮闘する工藤と、さまざまなエピソードが矢継ぎ早に進む、そのスピーディでキビキビとした演出が小気味良い。

母の通夜は自分一人で過ごしたいとの懇願で一人になった工藤が、男の遺体を、なんと母の棺の中に隠すエピソードも原作通り。狭いダクトを通って死体を運び、葬儀場の係員が部屋に来る前に棺に死体を無理やり詰め込もうとしたり、死体のポケットの携帯が鳴ったり、このくだりはハラハラしながらも、なんともコミカルで笑える。
岡田准一の、こんな情けないコミカル演技も珍しい。見ものである。

やがて工藤のスマホに、「お前は人を殺した、何もかも知ってるぞ」との脅迫メッセージが届く。一体何者か、何故それを知っているのか、謎が深まる。

そして時制が2日前に戻って、今度は矢崎の視点から、物語の冒頭に至るまでの経緯が描かれ、周到にバラ撒かれた伏線が回収され、尾田という名の死んだ男(磯村勇斗)の正体が判明する。ここらはオリジナルよりずっと良く出来ている。

後半は、正体を現した矢崎が、工藤の娘を誘拐して、尾田の死体と引き換えに娘を渡すと脅迫して来る。

ここからが怒涛の展開、それまでは情けない姿も見せていた工藤が、愛娘を取り戻す為に知恵を絞り、懇意にしているヤクザ・仙葉(柄本明)の力も借りて反撃を開始する。
この終盤は二転、三転、これで終わりかな、と思った所にまた意外な展開、最後の最後まで飽きさせない。あの人が最後に美味しい所をさらって行くのもニヤリとさせられる。実に見事な脚本である。

矢崎が、ターミネーターかとツッ込みたくなるくらいの不死身ぶりを見せるのだが、これはフィクションのエンタメなのだから何でもあり、楽しませてもらったのだからあれでいいと思う。

ラストシーンは、二人はどうなるのかボカされているが、後は観客がそれぞれ想像して自分なりの結末を考えればいいのである。


いやー面白かった。日本映画には珍しい、悪い奴ばかりが登場するピカレスク・ロマンであり、サスペンスあり、スリルあり、アクションあり、笑いあり、そして工藤の家族愛にちょっぴり泣かされたり、最後はカーアクションのサービスもあり…エンタティンメントのあらゆる要素をぶち込んで楽しませてくれ、爽やかな気分で劇場を後に出来る、これぞ映画である。

時制を、年末の12月29日から元日までの4日間(プラス回想の1日)に絞ったおかげで、オリジナルよりも緊迫感、サスペンスが増幅し、スピーディで畳みかける藤井演出は快調で、これで上映時間が2時間足らずに収まってるのだからいかにテンポが早いかよく分かる。

脚本が素晴らしい。藤井監督と共同で脚本を書いたのは、やはり韓国映画のリメイク「22年目の告白 私が殺人犯です」も手掛けている平田研也。オリジナルの不備や問題点をクリアし、きめ細かく練り込まれた見事な脚本である。

無論ツッ込みどころはある。火葬場の場面、私も喪主を務めたから知っているが、棺を焼却場に入れた後は、喪主が点火のボタンを押し、燃えだしたのを確認してから参列者はその場を離れる。あんな具合に尾田の死体をあの場から(しかも真っ昼間)取り出す事は不可能だ。

それでも展開に勢いがあるので、観ている間はあまり気にならない。ちなみに韓国版は遺体は土葬にしていたので問題はなかった。

藤井監督、アクション娯楽映画を撮らせても着実な演出力を見せて見事だ。まったく、その守備範囲の広さには驚嘆する。綾野剛曰く、“カメレオン監督”の称号にふさわしい八面六臂の活躍ぶりだ。凄い。

本年を代表するアクション・エンタティンメントの秀作である。年末のベストテンでも上位に入れたい。見逃すなかれ。 (採点=★★★★☆

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※採点は★★★★☆としたが、気分的には限りなく満点に近い、点数で言えば95点辺りと考えていただいきたい。

 

 

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コメント

これは面白かったです。
オリジナルも気になっていたのですが、脚色がうまいんですね。
個人的にはラストはもうちょっとハッキリさせて欲しかったです。

投稿: きさ | 2023年5月24日 (水) 09:20

我が家は岡田准一推しで出演作は家族揃って鑑賞が
お約束でしたが、進学で親元離れ、本作から各々で
観る事になりました…。ちょっと切ないですね…。
オリジナル版は知ってましたがあえて観ないで、
本作は予告すら情報入れずに鑑賞が正解でした。
熱量高い展開と視点が変わる構成が見事!
藤井道人監督は「宇宙でいちばんあかるい屋根」で
私の地元、鶴岡市立加茂水族館でロケされており、
親近感を持っておりましたので、本作の素晴らしさも
感慨深かったです!今後も注目したいですね。

投稿: ぱたた | 2023年5月25日 (木) 16:17

◆きささん
ラストは、あの二人がこれからどうするかをあれこれ想像する楽しみもありますし、日本映画には珍しい洒落たエンディングとして私は楽しめました。私が考えたのは二人揃って金を取り戻しに仙葉組長の所へ殴り込み…て案ですがどうでしょうかね。あ、ひょっとしたらそういう続編を作る可能性もありかも。


◆ぱたたさん
家族揃って岡田准一ファンですか。うらやましいですね。
>本作は予告すら情報入れずに鑑賞…
こういう先が読めないタイプの作品は予備知識なしで観るのが正解ですね。
特に予告編、大事なシーン(アレが落ちて来るシーン)をネタバレしてるのは困りものです。考えて作って欲しいですね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2023年5月30日 (火) 10:36

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