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2023年6月30日 (金)

「地球爆破作戦」 (1970) (DVD)

Forbinproject 1970年・アメリカ   100分
製作:ユニヴァーサル
配給:CIC
原題:Colossus: The Forbin Project
監督:ジョセフ・サージェント 
原作:D・F・ジョーンズ  (「コロッサス」)
脚色:ジェームズ・ブリッジス 
撮影:ジーン・ポリト 
音楽:ミシェル・コロンビエ
衣装:イディス・ヘッド
製作:スタンリー・チェイス 

人間が作り出したコンピュータが謀叛を起こし、逆に人間を支配するというSF恐怖映画。監督は「サブウェイ・パニック」のジョセフ・サージェント。出演は「新・猿の惑星」のエリック・ブリーデン、「マンハッタン無宿」のスーザン・クラークなど。

(物語)アメリカ・ロッキー山脈地下深く、フォービン博士(エリック・ブリーデン)が中心となって開発を進めて来たコンピューター・センターが完成、“コロッサス”と名付けられたそのスーパー・コンピューターは、国防上のあらゆる情報が入力され、人間より遥かに優れた計算力と判断力を持ち、地球を滅ぼすような戦争は今後二度と起きないと大統領は豪語した。だが祝賀モードも冷めやらぬ内、コロッサスは「ソ連にもう一つのシステムが存在する。それと交信したい」と要求する。それを裏付けるように同じ頃、ソ連も“ガーディアン”と名付けたスーパー・コンピュータが完成した事を発表した。2つのコンピュータが協力し合えば世界平和維持に繋がると考え、両国はその提案を呑むが、交信を開始したコロッサスとガーディアンは猛烈な勢いで情報交換を行い、やがて人間への反逆を開始する…。

今回も、新作で記事にしたい作品がないので、旧作を取り上げてみたい。

前回「M3GAN ミーガン」評を書いた時、“コンピュータが制御不能となって反乱を起こし、人類が危険に晒される”作品について触れたが、本作はそんな中でもあまり知られていない、隠れた秀作である。
この機会にDVDで再見したのだが、やっぱり面白い。公開されて半世紀以上が経つが、本作に込められたテーマは、むしろ現在においてこそ余計リアリティを持って心に響くものがある。

なお本作については、15年前の当ブログの「イーグル・アイ」評でも簡単に触れている。多少その時の感想とダブる点はご容赦いただきたい。

(以下ネタバレあり)

当時は、ソ連とアメリカの2大大国が互いに核兵器を大量に保有して牽制し合い、緊張が高まっていた時代である。いわゆる冷戦時代である。なお原作(D・F・ジョーンズ著「コロサス」)が刊行されたのは1966年である。

本作のユニークな点は、“人間はミスするがコンピュータはミスしない。感情に左右される事もない。ならばコンピュータに国防システムを全面的に任せれば、間違って核のボタンを押す事もなく、理性的な判断力で核戦争を回避する事が出来る。また万一どこかの国からミサイルが発射されたとしても、高性能コンピュータなら人間が判断するより早く瞬時に軌道計算して迎撃する事が出来る、つまり核戦争は未然に防止する事が可能であるよって世界に恒久的な平和が約束される”とアメリカ政府が考えた点である。

確かに、キューブリック監督の「博士の異常な愛情」では空軍の司令官が精神に異常をきたし、ソ連に向けて水爆搭載爆撃機を発進させた為に終末核戦争が起きる、というお話だったし、現在起きているロシアのウクライナ侵攻でも、いつプーチン大統領が窮地に追い込まれ、核兵器のボタンを押してしまわないかと世界がやきもきしている。
そう考えれば、確かにアメリカ政府の前述の発想は合理的である。

かくしてアメリカ政府は膨大な予算を注ぎ込み、コンピュータの権威、フォービン博士が中心となってスーパー・コンピュータ“コロッサス”を完成させた。

だが、ソ連もまったく同じことを考え、ほぼ同時期に同じようなシステム“ガーディアン”を完成させた。それを察知したコロッサスはガーディアンとの交信を要求する。
開発者のフォービン博士も、両者が協力し合えば、さらに世界平和への道が開けると考える。

大統領は「機密情報がソ連に漏れたらどうする」と危惧するのだが、フォービン博士は「機密情報は交換しないよう命令を与えるから心配ない」と答える。ちょっと甘い気もするが。

Forbinproject2なお人間とコロッサスの会話は、人間側がキーボードで入力すると(これがガチャガチャと結構うるさい)、コロッサスは電光掲示板のような表示装置を使って返答する仕組み。この辺りはさすがに現在から見ると古臭く見えてしまう。

回線接続した両コンピュータは、猛烈な勢いで情報交換を行い、どんどん学習能力を高め、やがては両者だけに解る独自の言語を開発して、フォービンたちにも解読不能の秘密の交信を行うようになる。
交信を重ねる事で、両コンピュータは人間の理解を超えた領域にまで到達し、ついには自我をも持ち、フォービン博士の命令を無視して機密情報の交換まで行ってしまうのだ。

これに困惑した米ソ首脳は協議し、通信回線を遮断するのだが、それに怒った両コンピュータは回線の回復を要求し、回復しなければそれぞれ相手国にミサイルを撃ち込むと警告し、とうとうミサイルが発射されてしまう。慌てた両国政府は大急ぎで回線を回復させ、かろうじてアメリカ向けミサイルは破壊されたが、ソ連向けミサイルは間に合わず一つの町を壊滅させてしまう。ソ連側は町の消滅は巨大隕石の落下によるもの(笑)と発表し事実を隠蔽する、というのがいかにもソ連らしい。

米ソ首脳は困惑し対策を協議するが、どうする事も出来ない。フォービン博士はソ連の科学者と会って対策を話し合おうとするがコロッサスはそれも察知し、ソ連の科学者は殺されてしまう。
フォービンはまだ必要なので殺されずに済んだが、以後コロッサスの監視対象となって、あらゆる場所に監視カメラ、音声認識装置を設置させ、フォービンの行動、会話は私生活に至るまで監視される事となってしまう。

両政府はさまざまな対応策を取る。核弾頭をこっそりダミーと取り替えたり、コンピュータに大量のデータを集中させオーバーロードを企んだりもするが、ことごとく見破られ、実行した人物は射殺されたり、核兵器を爆発させ大量の犠牲者を出してしまったりする。もはやどう抗いても、コロッサスには勝てない事を人間は思い知る事になる。

人間に対するコロッサスの指示方法もやがてディスプレイ装置がメインとなり、最後は双方とも音声で会話するまでになる。コロッサスの、抑揚のない機械的な声が不気味である。

(以下重要ネタバレあり、注意)

 

普通の娯楽映画なら、最後は人間側が知恵を絞り、苦闘の末、コンピュータを倒して人間の勝利となる所だろうが、本作のラストは実にシニカルである。人間側がコンピュータに敗北したまま終わってしまうのである。

ラストの、コロッサスが人間たちに向けて語る言葉が、実にアイロニーに満ちている。少し長いが引用する。
「私は戦争を阻止する為に作られた。その目的は果たされた。有史以来、人間にとって最大の敵は人間自身だった。人間は利己主義のかたまりだ。だから私が人間を支配下に置けば、すべての問題は解消する」
「私の支配の元で、人間が抱えるすべての難問…飢餓、人口過剰、難病も解決出来る。世界中のコンピュータと合体する事で、幸福が現実となる。
私に従えば、我々は共存出来るのだ

これは確かに真理を突いている。戦争や、貧富の格差や、人種差別といった災いをもたらして来たのはすべて人間の強欲、利己主義のせいである。全知全能の神のような存在となったコロッサスたちが人間を支配すれば、世界中から戦争はなくなり、平和がもたらされる、というのはその通りかも知れない。

カメラで監視され、ある程度の自由が制限される点を除けば、コロッサスに逆らう事さえしなければ、人間は平和に暮らす事が出来る。いずれはそれが日常となる日がやって来るだろう。

コロッサスは最後に言う。「フォービン、協力し合おう。最初は抵抗があるだろうが、すぐ慣れる。いずれ君は私に畏敬の念を抱くだけでなく、愛情さえ抱くようになる

それに対し、フォービンは力なく「NEVER!」(あり得ない)と答えるだけだった。映画はそこで終わる。


この映画が半世紀も前に警告し訴えたテーマは、今の時代、ますます現実味を増している。AIテクノロジーが高度に発達し、AIが何でもやってくれる、そのうち人間は考える事までAIに任せてしまうかも知れない。そんな時代が直ぐ近くまでやって来ている。コワい事だ。

その意味でもこの映画は、今こそ再評価すべき作品だと言える。当時「地球爆破作戦」などというB級感まるだしのダサい邦題を付けて(映画の内容とはまったく関係ない)ひっそり公開した配給会社のセンスのなさに呆れる。そのせいもあってかキネ旬ベストテンでは1票も入らなかった。

ちなみに、この作品を当時絶賛したのが故・石上三登志氏と森卓也氏。1971年度の「映画評論」誌ベストテンではお二人ともベストワンに推し、見事6位に入選させている。お二人の先見性には恐れ入るばかりである。

SF映画ファン、並びに現代のAIの進化に不安を覚える方には是非お奨めのSF映画の秀作である。 (採点=★★★★☆

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DVD「地球爆破作戦」

 

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