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2023年6月22日 (木)

「M3GAN ミーガン」

M3gan 2023年・アメリカ   102分
製作:ブラムハウス・プロ=ユニヴァーサル
配給:東宝東和
原題:M3GAN
監督:ジェラルド・ジョンストン
原案:アケラ・クーパー、ジェームズ・ワン
脚本:アケラ・クーパー
撮影:ピーター・マキャフリー
音楽:アンソニー・ウィリス
製作:ジェイソン・ブラム、ジェームズ・ワン

子供を守るようプログラムされたAI人形が引き起こす暴走と惨劇を描いたサイコスリラー。監督はニュージーランド出身でこれが監督2作目となるジェラルド・ジョンストン。出演は「ゲット・アウト」のアリソン・ウィリアムズ、「ブラック・ウィドウ」のバイオレット・マッグロウ。製作は「アナベル」シリーズのジェームズ・ワンと「透明人間」などのブラムハウスを率いるジェイソン・ブラム。

(物語)おもちゃ会社の優れた研究者であるジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は、交通事故で両親を亡くし孤児となった姪のケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)を引き取る事になるが、仕事が忙しくて相手が出来ない為、ケイディの世話と話し相手をする人間そっくりのAI人形M3GAN(ミーガン)を開発する。最初の頃はうまく行き、会社も出来に満足し、ミーガンを商品として売り出そうと計画する。だが「あらゆる出来事からケイディを守るように」と指示されたミーガンはやがて予想もしなかった暴走を開始する…。

低予算ながら異色の面白さを持った快作を連発して来たブラムハウス・プロダクションズの新作である。最近では2020年に公開された「透明人間」がとても面白かった。
この作品が出色なのは、古くからある怪奇ホラー映画に、最新のテクノロジーを持ち込んだ点で、薬を飲んで透明になるのではなく、超小型カメラと液晶パネルを駆使した“光学迷彩”という最先端技術を組み合わせているのが秀逸。

本作も、これも「チャイルド・プレイ」シリーズや、本作にも参加しているジェームズ・ワン製作の「アナベル」シリーズ等でお馴染みの、“人形に悪魔が乗り移って動き出し人間に危害を加える”というパターンに、AI技術というこれまた現代ハイテクノロジーを組み合わせているのがうまい。その点では「透明人間」と同じ趣向である。さすがはブラムハウスである。なおジェームズ・ワンは原案も提供している。

(以下ネタバレあり)

幼い少女ケイディは、交通事故で両親を一度に失ってしまう。そこで叔母に当るジェマがケイディを引き取る事になるのだが、独身で子供の育て方を知らず、また仕事が忙し過ぎてとても面倒を見る余裕がない。
そこでちょうど会社でAI人形の研究開発をしていたジェマは、人間そっくりの少女型アンドロイド、M3GAN(ミーガン)を作り上げ、“あらゆる出来事からケイディを守る”ようプログラムを組み込んでケイディに与える。
ちなみにM3GANとは"Model 3 Generative ANdroid"の略称である(生成型アンドロイド3型の意味か)。

ミーガンはケイディの身の回りの世話、話し相手、絵本の読み聞かせ、寝かしつけまで完璧にこなしてくれる。ケイディはすっかりミーガンを気に入り、いつもミーガンと一緒にいるようになる。両親を失って心に傷を持つケイディにとって、ミーガンは只の世話係に留まらず、心の傷を癒してくれる、人間以上に心の許せるかけがえのない友になって行くのである。

ジェマは自分の研究が多大な成果を得た事に自身を持ち、会社のCEOにも報告する。ミーガンとケイディを使った公開のプレゼンテーションでもミーガンはその能力を発揮してCEOたちを唸らせる。ジェマは鼻高々だ。会社はミーガンの商品化を打ち出す。

だが、やがてミーガンは“ケイディを守る”行動を次第にエスカレートさせて行き、ケイディを襲った隣家の犬を誰にも知られぬうちに殺し、それを疑った犬の飼い主である主婦も空き家に誘いこんで殺し、さらには野外学習でケイディを苛めたワルガキにも襲いかかり結果的に事故死させてしまう。

ジェマもさすがにミーガンの行動に疑いを抱き、ミーガンを緊急停止させて会社の研究室に移送する。ケイディはミーガンから引き離される事に頑強に抵抗するが、ジェマはなんとかなだめる。
ジェマたちはミーガンの行動を分析し、場合によっては永久機能停止も検討するが、それを察知したミーガンは自分で再起動し、会社の人間たちを血祭りにあげ、次にはジェマの家に向かい彼女をも殺そうとする。

終盤はこの手のホラー映画の定番通り、ジェマたちとミーガンとの血みどろの対決へとなだれ込んで行く。このバトルシーンには「エイリアン2」や「ターミネーター」等のオマージュを盛り込んでなかなか楽しませてくれる。さすがはブラムハウスである。

ただ、あれだけミーガンと心が繋がっていたケイディが、母代りのジェマを守る為とは言え、突然大活躍してミーガンをズタズタにしてしまうのはどうなんだろうという気もするが、後から考えるに、これはそれまでミーガンに依存してばかりだったケイディが、自身の弱さを克服し、自立心を持って成長したと考えれば納得できるかも知れない。


コンピュータが制御不能となって反乱を起こし、人類が危険に晒される、というパターンは「2001年 宇宙の旅」以来数多く作られ、もはや食傷気味だが、その大半は国家や大企業が構築した大型コンピュータ・システム(「ターミネーター」のスカイネット等)であるのに対し、本作はおもちゃの発展形として、家庭にも入り込むほど身近な存在となったAIが暴走するという点が目新しい。

本作にはそれ以外にも、さまざまな現代への警鐘、教訓が盛り込まれている。AIは便利だが、育児も何もかもまかせっきりにするのは正しい事ではない、というテーマがはっきりと打ち出されている。
現実社会でも、子供にタブレットを与えて、何時間も遊ばせている親が増えている。親はその分家事がはかどって楽だろうが、子供と生身で触れ合う機会がどんどん減って行く事は決して子供の為にはならないだろう。ミーガンを、タブレットの未来形と考えたらゾッとさせられる。最近話題のチャットGPTのように、人間が深く考えずにAIに頼る時代は現実になっている。怖い事だ。

人間は一度立ち止まって、考え直すべきではないか…そんな事まで考えさせてくれたという点においても、本作は単なるB級ホラー映画を超えた、時代を照射する秀作と言えるだろう。 (採点=★★★★

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(付記)
なお最初に観ようと思っていた劇場は既に満席で入れなかった。後日行った別の劇場もほぼ満席に近かった。スクリーン数が少ないのもあるが結構客が入ってるようだ。

既に続編の製作も決定しているようで、本作のラストにチラッと続きを匂わせる描写もあった。公開は2年後らしい。気長に待つ事にしよう。

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