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2023年8月 9日 (水)

「CLOSE クロース」

Close 2022年・ベルギー・フランス・オランダ合作  104分
製作:Versus Production=VTM=RTBF
配給:クロックワークス=Star Channel Movies
原題:Close
監督:ルーカス・ドン
脚本:ルーカス・ドン、アンジェロ・タイセンス
撮影:フランク・バン・デン・エーデン
音楽:バランタン・アジャジ
製作:ミヒール・ドン、ディルク・インペンス

無垢な13歳の少年たちに起きる残酷な悲劇と再生を描く人間ドラマ。監督は長編デビュー作「Girl ガール」でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞したルーカス・ドン。主演はいずれも本作が俳優デビューとなるエデン・ダンブリンとグスタフ・ドゥ・ワエル。共演は「天国でまた会おう」のエミリー・ドゥケンヌ、「ふたつの部屋、ふた人の暮らし」のレア・ドリュッケールなど。第75回カンヌ国際映画祭グランプリ、第80回ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞、第95回アカデミー賞でも国際長編映画賞にノミネートされた。

(物語)花卉(かき)農家の息子のレオ(エデン・ダンブリン)と幼馴染のレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)は、学校でも家に帰ってからも一緒に時間を過ごして来た、親友以上で兄弟のような関係だった。13歳になって二人は同じ中学校に入学するが、いつも一緒にいる二人の親密ぶりをクラスメイトにからかわれたことで、レオは徐々にレミから距離を置くようになる。その事に傷つくレミ。やがて二人は些細なことで大喧嘩をしてしまう。そしてある日、レオに悲しい事実が知らされる…。

ベルギーの新進、ルーカス・ドン監督のデビュー作「Girl ガール」はトランスジェンダー(身体は男で心は女性)の主人公がバレリーナを目指すという物語。難しい題材を繊細な演出で描き、カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞した。

そのドン監督の2作目である本作で、今度は見事第75回カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞した。目覚しい躍進ぶりと言えよう。

今回も、概略を聞いた限りでは、またLGBTQ的な内容なのかなと思っていたが、もっと奥深い、子供から大人になる時期の、少年の心の葛藤をきめ細かく描いた人間ドラマの秀作であった。

(以下ネタバレあり)

冒頭の、赤やピンクの花が一面に咲き誇る花畑の中をレオとレミの二人の少年が駆け抜けるシーンを横移動のカメラで追った撮影が素晴らしい。

二人はいつも一緒。家が近くで、小さい時から家族ぐるみで付き合って来てるので兄弟のように仲がいい。食事も両家族一緒が多いし、夜はレオがレミの家に泊まり、同じベッドで並んで眠る。

小さい子供の時はそれで問題なかった。親たちも微笑ましい気持ちで見ている。

Close2

だが、思春期と呼ばれる時期になると、家族はともかく他人は好奇の眼で見る。二人は13歳になり、中学校に入ると、クラスメートの女子たちから「あんたたち、仲が良過ぎない?」と揶揄される。レオは「親友だから仲がいいのは当り前だろ?」とムキになるが、それが却って女子たちに「ムキになる所がやっぱり怪しい」と思われてしまう。

この辺りから、レオとレミの考え方の相違が明らかになって来る。

レミは女子たちにからかわれても気にせず、これまで通りレオと一緒にいるつもりである。

だがレオは、クラスメートの視線を気にして、レミと距離を置くようになる。他の男子生徒たちとも付き合い、“男らしさ”を強調する為、激しいぶつかり合いもあるアイスホッケー・チームに加入する。一方でレミは管楽器のオーボエを練習し、音楽家になろうと考えているが、これも両者の性格、方向性が微妙に違う事を暗示している。

これまで通り仲良くしたいレミにとっては、レオのこうした態度が理解出来ない。もう以前のように二人仲良く暮らす事も出来なくなるのでは…。レミは不安に苛まれ、理由を聞こうとしてレオにまとわり付く。それが一層レオの気を荒だたせる。
そしてある日、二人はついに大喧嘩をしてしまう。

観客から見れば、どちらの行動も理解出来る。レオは、“男子が付き合うのは女の子と”という世間の常識に沿った考え方に順応して行くのだが、レミは“親友との絆”、“男同士の友情”がいつまでも続くものだと思っている。

13歳という、子供から大人へと成長する微妙な時期の少年たちの心の内面をきめ細かく描写した脚本、演出が素晴らしい。

そしてある日、悲劇が起きる。レミが死んでしまったのだ。映画はその辺を具体的には描かないが、自殺したらしいのは薄々感じ取れる。

レオはショックを受ける。レミが死んだのは、自分が冷たくしたからだと思い、罪の意識にさいなまれる。しかし誰にも話せない。
息子を失った母のソフィは、これまで通り優しくレオに接してくれる。それがレオには余計辛い。

忘れようと、アイスホッケーに打ち込んでも、心は晴れない。心の迷いが影響したのか、練習中にレオは左手を骨折してしまう。
固定されたギプスが、レオの罪に対する拘束具であるかのようだ。そして後にギプスが取れた時に、レオの心も解放されて行く。うまい暗喩だ。

カメラは、レオにピタリ張り付いたようにアップで彼を捉える。アイスホッケー場の中でもひたすらレオを追い、その表情を見つめる。このカメラワークも見事。

そしてある日、レオは遂に意を決したかのように、ソフィが勤める病院を訪れる。レオの只ならぬ様子に、ソフィは何かを感じ、帰りにレオを車に同乗させる。

言おうか言うまいか…。悩んだ末にレオは車の中でソフィに真実を伝える。

ここからは本作の白眉だ。ショックのあまり、ソフィは車を止め、レオを追い出してしまう。だがレオが森の奥に入って行き、姿が見えなくなると、ソフィは必死でレオを探す。
ようやく見つけたレオを、ソフィは固く抱きしめる。このシーンでは泣いてしまった。


極力セリフを少なくし、ちょっとした印象的なショットの積み重ねで物語を的確に伝えるルーカス・ドン監督の演出、俳優たちの自然な演技、いずれも素晴らしい。

とりわけ、二人の少年、レオ役のエデン・ダンブリン、レミ役のグスタフ・ドゥ・ワエルが素晴らしい。二人ともこれまで演技経験はない新人だが、とてもピュアでナチュラルな演技に引き込まれる。ソフィを演じたエミリー・ドゥケンヌの演技も印象的だ。

二人の少年の間柄は、同性愛と言えるほどのものでもない。ただ純真な気持ちで、人間同士の心の繋がりを求めただけに過ぎない。それが悲劇を招いてしまう。

大人になるとは、どういう事なのか、人間とは、なんとも複雑でやっかいな生き物である事か。そうしたテーマを、美しい映像と繊細な人物描写で描き切った、これは見事な人間ドラマの秀作である。

題名の"CLOSE"の意味も探ると面白い。CLOSEとは一つには「接近」という意味がある。レオとレミはいつも接近して行動していた。カメラもクローズアップが多い。
もう一つは「閉じる」「終了」という意味である。二人の関係は、レミの死で永久に閉じられ、終わってしまった。秀逸な題名である。 
(採点=★★★★☆

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