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2023年8月24日 (木)

「リボルバー・リリー」

Revolverlily 2023年・日本    139分
配給:東映
監督:行定勲
原作:長浦京
脚本:小林達夫、行定勲
撮影:今村圭佑
衣装デザイン監修:黒澤和子
音楽:半野喜弘
企画・プロデュース:紀伊宗之
エグゼクティブプロデューサー:和田倉和利

ハードボイルド作家・長浦京の同名小説を映画化したアクションサスペンス。監督は「窮鼠はチーズの夢を見る」の行定勲。主演は「はい、泳げません」の綾瀬はるか、共演は「シン・ゴジラ」の長谷川博己、Go!Go!kids/ジャニーズJr.の羽村仁成、その他シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー(SixTONES)、阿部サダヲ、野村萬斎、石橋蓮司、豊川悦司ら豪華キャストが集結した。

(物語)1924年、関東大震災からの復興で鉄筋コンクリートのモダンな建物が増え、活気にあふれた東京。16歳からスパイ任務に従事し、多くの殺害に関与して来た小曽根百合(綾瀬はるか)は、今はスパイ任務から足を洗い、東京の花街の銘酒屋で女将をしていた。ある時、謎の男たちに屋敷を襲われ女中らを惨殺された細見慎太(羽村仁成)は、辛くも現場を脱出するが、追っ手に取り囲まれてしまう。窮地に陥る慎太の前に現れたのは百合だった。二人は陸軍の精鋭部隊から追われながらも、百合の持つS&Wリボルバーの助けを借り、逃避行を続ける。その裏には巨大な陰謀が隠されていた。

東映の敏腕プロデューサーとして、「孤狼の血」シリーズ、三池崇史監督の「初恋」など異色のアクション映画をプロデュースして来た紀伊宗之が企画製作したハードボイルド・アクション…と聞くだけで観たくなる。しかも監督がお気に入りの行定勲、と来ればなおさらである。予告編も綾瀬はるかが実にカッコいい。これを見逃す手はない。

―が、気になったのは、行定監督は青春映画(「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」)、文芸ドラマ(「春の雪」)、爽やかな人間ドラマ(「今度は愛妻家」「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」)等では実力を発揮していたが、アクション映画は初めてである。この点がやや不安材料だったのだが…。

(以下ネタバレあり)

冒頭の会社マークが、「孤狼の血」「初恋」でも使われた、昔の画質の荒いアナログ映像。もう紀伊宗之プロデュース作品のトレードマークになった感がある。期待が高まる。

続いて、字幕で主人公である小曽根百合が、「16歳からスパイ任務に従事し、3年間で57人の殺害に関与した経歴を持つ凄腕の元女スパイ」であった事が語られる。そして今は足を洗い、東京の花街の銘酒屋で女将をしている事になっている。
ここでまず、これはダメだ、と思った。字幕だけでなく、短いフラッシュ・インサート・カットでもいいから百合の俊敏なガン・アクションを映像で描くべきである。
アクション映画はツカミが大事である。文字よりもまず映像。それで観客は百合の凄腕ぶりが納得出来、これからどう展開するのか期待感が膨らむのである。

本編が始まっても、物語進行も演出テンポもどうもユルい。セリフでの説明が多過ぎる。

百合が、事件に首を突っ込むきっかけも疑問である。ある日新聞で旧知の筒井国松(石橋蓮司)が細見一家殺人事件の首謀者で死亡したとの記事を見て何かを感じた百合は、現地の秩父に向かうのだが、今は普通の女将をやってる百合がなんで唐突にそんな行動を取るのか。しかも昔愛用した銃を持って
もう少し、銃を携えてまで事件に首を突っ込もうとした理由を練っておくべきだろう。

しかも、現地からの帰りの列車の中で、細見一家の生き残りの慎太が軍人に捕まっている所に遭遇し、慎太と一緒に逃げる事となるのだが、後で慎太が父から「玉の井の小曾根百合の元へ行け」と言われた事を知る。
…って、余りに偶然が過ぎるだろうが。慎太が飛び乗った列車に彼を探している軍人と、慎太の探す百合が同時に乗り合わせるなんて何%の確率か。あまりにご都合主義だ。

この後も、船で逃げようとしたら、陸軍が数隻の船で追って来る。船を用意するのにかなり時間がかかるだろうに、手回し良過ぎないか。
やっと玉の井に逃げ帰っても、ここにも早速陸軍がやって来て慎太が捕まってしまう。なんでそんなに次々と素早く慎太たちの居所が判るのか。その理由も不明。まるで慎太にGPSでも付けられてるのかと思ったよ(笑)。

脚本が良くない。いちいち挙げないが、あちこちにツッ込みどころが満載である。白髪の老婆等、伏線も回収せずほったらかしだ。
原作では百合が秩父に向かった理由もきちんと説明されていたそうだ(手紙で連絡があった)。なんで脚本を偶然に頼る変な方向に改変したのだろうか。

陸軍の一個小隊が百合の銘酒屋「ランブル」を襲って来る展開も無茶だ。慎太に死なれては困るはずなのに無差別に撃って来るし。慎太に流れ弾が当ったらどうするのだ。そもそも軍隊の役目は海外(中国、満州、東南アジア等)に派兵され戦う事が目的で、法治国家である日本国内では治安を預かるのは警察の役目で、軍隊と言えど、警察以上の権限は持っていない。あれだけ昼日中派手にドンパチやらかしてるのに、警察がやって来ないのは不自然だ。

クライマックスの日比谷海軍省前での大戦闘も、たった数人(4名)で数百人の陸軍軍隊と戦うというのも荒唐無稽過ぎる。しかも戦闘訓練された軍隊がどんどん撃たれて、味方はほとんど傷も負わずピンピンしてるのも不自然極まりない。しかも百合は胸を刺され、かなりの重傷のはずなのに平然としてるし。普通はあれだけ動いたら傷口開き、出血多量で死んでるよ。

そもそも、慎太が海軍省に到達出来たら助けるという山本五十六の考えもおかしい。慎太を海軍の手中に入れたいなら、そっちから車を派遣して慎太たちの元に向かわせれば手間はかからないのに。なんだか、ド派手なアクションの見せ場を設けたいという所から逆算して脚本を書いてるとしか思えない。

ここでも、警察の姿がまったく見えない。いっその事、陸軍がクーデターを起こして全権を掌握し軍事独裁国家となった、パラレルワールドとしての日本が舞台だったらまだましだっただろう。


まあとにかく、脚本も酷いが、問題なのはやはりアクションは初めての行定監督の演出だろう。アクション映画はもっとスピーディさ、演出のキレが必要である。上映時間(139分)も長くてダレる。アクション派の監督ならもっと短く出来るだろう。いっそ「ベイビーわるきゅーれ」の阪元裕吾を監督に起用するくらいの冒険をした方がまだマシだったかも知れない。

行定監督と言えば、やはり東映で撮って映画賞を総ナメした傑作「GO」を思い出すが、あの作品ではスローモーション、早送りを組み合わせたスタイリッシュな映像処理が見事だった。このテクニックを本作でも取り入れてくれたら面白かったのに。残念だ。
行定監督を起用した紀伊プロデューサー、もしかしたら「GO」のあの映像センスが頭にあったのだろうか。でもあれから22年。行定監督、さすがに演出感覚は鈍って来たのかも知れない。

強いて見どころを探すなら、CGで再現した大正時代の街並みの風景、当時の衣装デザイン(黒澤和子監修)、それと綾瀬はるかとシシド・カフカのアクション演技は悪くなかった。

頭をカラッポにして、物語の辻褄なんか考えずに、綾瀬のガン・アクションと、陸軍部隊との派手な戦闘シーンを見てるだけならなんとか楽しめる、そんな作品である。続編があるような終わり方だが、もし続編を作るなら監督は是非、アクションが得意な方にバトンタッチして欲しい。 (採点=★★☆

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コメント

お久しぶりです。原作は買ったんですが、まだ読んでません。文庫で厚いので、まるまる映画化は無理とは思います。しかし、省略の仕方がマズい。あまり、考えずに涼しい映画館で、綾瀬はるか、シフドカフカ、古川琴音を眺めているだけでも楽しいですが。

投稿: 自称歴史家 | 2023年8月25日 (金) 18:01

綾瀬はるかはファンだし楽しく見ましたが、おっしゃる通りちょっとお話がなあ。
少年が陸軍に追われているのに出歩いたり(案の定捕まる)、東京の街中で銃撃戦が起こっても警察は現れないし。
綾瀬はるかはじめ俳優陣はみな好演しているし、アクション演出はそれなりなのに残念でした。
少年を守って女性が銃を撃ちまくるというのは「グロリア」ですね。

投稿: きさ | 2023年8月26日 (土) 14:42

日本のダメ実写大作を観て閉口しましたら、アニメ映画の秀作「SAND LAND」をオススメします。

子ども向けと思われてるのか、私の周りでは完全に無視されてます。

「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」の時代の宮崎駿作品が好きな人にピッタリでしょうか。さすがにあそこまでの傑作ではありませんけど。

投稿: タニプロ | 2023年8月27日 (日) 23:15

◆自称歴史家さん
>省略の仕方がマズい ―のは同感ですね。
原作読み終えたら、どこがマズいか出来たら教えてくださいね。


◆きささん
「グロリア」はじめ「ガントレット」「ワイルドバンチ」などの洋画からの拝借もあってアクション・シーンはいいのにお話がねぇ。
配役も、山本五十六が阿部サダヲじゃ貫禄ないですし、ジャニーズ系もダメ。
いっそ豊川悦司に山本五十六役を演らせたらまだ良かった。なにしろ「ミッドウェイ」(2019)で豊川、山本五十六に扮してましたからね(笑)。


◆タニプロさん
「SAND LAND」、評判よさそうですが、私、鳥山明のマンガに興味がないので観るかどうか迷ってます。オススメなので、時間が合えば観ようかな。

投稿: Kei(管理人 ) | 2023年8月30日 (水) 17:55

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