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2023年9月28日 (木)

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」

Johnwick-chapter4 2023年・アメリカ   169分
製作:LIONSGATE=THUNDER ROAD FILMS
配給:ポニーキャニオン
原題:John Wick: Chapter 4
監督:チャド・スタエルスキ
キャラクター創造:デレク・コルスタッド
脚本:シェイ・ハッテン、マイケル・フィンチ
撮影:ダン・ローストセン
音楽:タイラー・ベイツ
製作:ベイジル・イバニク、 エリカ・リー、チャド・スタエルスキ
製作総指揮:キアヌ・リーブス、 ルイーズ・ロズナー、 デビッド・リーチ

キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋に扮した大ヒットアクション・シリーズの第4弾。監督はシリーズ全作を手がけるチャド・スタエルスキ。共演はシリーズお馴染みのイアン・マクシェーン、ローレンス・フィッシュバーンの他、「イップ・マン」シリーズのドニー・イェン、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」のビル・スカルスガルド、「ブレット・トレイン」の真田広之など。

(物語)裏社会の掟を破り、粛清の包囲網を逃れた伝説の殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)は、裏社会の頂点に立つ組織・主席連合から自由になるべく動き始める。それを知った主席連合の若き高官グラモン侯爵(ビル・スカルスガルド)は、これまで聖域としてジョンを守ってきたニューヨークのコンチネンタルホテルを爆破し、さらにジョンの旧友でもある盲目の暗殺者ケイン(ドニー・イェン)を強引に引き入れ、ジョン・ウィック狩りに乗り出した。一方、ジョンは大阪のコンチネンタルホテルを訪れ、ジョンの旧友にして支配人のシマヅ(真田広之)に協力を求める。果たしてジョンは、かつて忠誠を誓った裏の世界と決着をつけて、真の自由を手にする事が出来るのか。闘いの時は迫る…。

社会派の重いテーマの作品「福田村事件」の後は、殺し屋が暴れまくるド派手なアクション。凄い落差だが(笑)、私はどちらも大好きである。

シリーズ1作目と2作目は劇場で観ているが、もうあんまり覚えていない。1作目から、もう8年も経ってるし。キアヌ・リーブスのスピーディなガン・フー・アクションだけは記憶に残っている。

3作目は評判は今一つだったので見逃している。あまり期待はしていなくて、観ようかどうか迷ったけれど、アジアを代表する2人のアクション・スター、ドニー・イェンと真田広之が出演しているので興味を持った。真田は「ブレット・トレイン」のアクションが素晴らしかったので、本作にも期待したくなる。考えたらあの作品も殺し屋が一杯出て来る映画だった。

観たら、これが予想を上回る面白さだった。上映時間は3時間近くあるのだが、アクションにもストーリーにも工夫が凝らされ、ほとんどダレる所がなく一気に観終えてしまった。トム・クルーズの「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」も面白かったが、本作はさらにその上を行く傑作だった。

(以下ネタバレあり)

本編前に、前3作の簡単なおさらいが付いているので、前作を観ていなくても問題はない。

アクションはシリーズを重ねる毎に派手になっている。それに舞台は冒頭のモロッコの砂漠に始まり、日本のコンチネンタル・ホテル、ドイツ・ベルリン、最後はフランス・パリと世界各地を移動し、それぞれに工夫を凝らした見せ場があって、アクション・シーンを見ているだけでも堪能させられる。

監督のチャド・スタエルスキはスタントマン出身で、「マトリックス」シリーズのスタント・コーディネーターや「ウルヴァリン:SAMURAI」のアクション・コーディネーターを手掛けたというだけあって、アクションの殺陣の素早さ、何十人もがジョンに次々殺されて行く長いアクションをワンカットで撮ったり、さまざまな道具(刀、弓矢、ヌンチャク等)を巧みに使ったりと、至る所に工夫が凝らされている。

その上に、いろんな名作映画、アクション映画へのオマージュもあり、さらにアジアを代表するアクション映画の名優、ドニー・イェン、真田広之を起用して、彼らへのリスペクトもぬかりなく取り入れている点は高く評価すべきだろう。

冒頭からして、モロッコの砂漠での馬による追跡アクションがあるが、これは「アラビアのロレンス」あるいは黒澤明監督「隠し砦の三悪人」の三船が馬で逃げる敵兵を追いかけるシーンのオマージュだろう。

大阪のロケ・シーンでの、グリコのネオンやカニ道楽看板など、道頓堀界隈の風景は「ブラック・レイン」を思い起こさせる。

ドニー・イェン扮するケインは盲目で武器は仕込み杖。これは明らかに勝新の「座頭市」オマージュ。既に「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」でも同じような役を演じているし、ドニーはかなりの座頭市ファンなのだろう。真田広之扮するシマヅとの刀によるド迫力の斬り合いも、日本の時代劇(特に黒澤作品)を思わせる。

ジョンがヌンチャクを振り回すシーンはブルース・リーの「燃えよドラゴン」を思い出し笑ってしまった。ポーズまでキメてるし。そう言えば「ジョン・ウィック チャプター2」でも「燃えよドラゴン」の鏡の部屋での闘いへのオマージュがあったのを思い出す。

大阪コンチネンタル・ホテルでの、障害物を挟んでの向かい合っての銃撃戦は、ジョン・ウー監督作品から拝借してるようだ。スタエルスキ監督、よっぽど日本の時代劇や香港製アクションを敬愛していると見える。

中盤のベルリンのクラブにおける首席連合のキーラとの対決を経て、終盤のパリを舞台としたアクション・シーンではさまざまなアイデアが取り入れられ圧巻である。ジョンの懸賞金の金額が跳ね上がった事で、無数の殺し屋たちが束になってジョンに襲い掛かる。

特に凱旋門を囲むロータリーでの、車がビュンビュン走る道路上での殺し屋たちとの銃撃アクションは度肝を抜かされる。CGを使ってるのだろうが、殺し屋が次々と車に撥ねられ、ジョンも何度も車と衝突しながら戦い続ける。
その後の広大な建造物内での銃撃戦では、真上からの俯瞰ショットで移動しながら次々と敵を倒して行くシーンをワンカットで捕えている。さらに最後の決闘の目的地、サクレ・クール寺院に向かう220段もの階段での対決も凄い。ジョンはその階段を何百段も転がり落ちる。映画史上最大の階段落ちだ(笑)。


こうしたさまざまに趣向を凝らしたアクション・シーンを見ているだけでも楽しいが、本作は只のアクション映画ではない。考えさせられるテーマ、あるいは感動させられるシーンがいくつか仕込まれている。

ジョンの戦いは、最初は妻の遺した愛犬を殺された復讐に始まるのだが、復讐を果たせばその復讐の為にまた新たな敵がジョンを狙う。相互の復讐の連鎖は果てしなく広がって行く。
遂には裏社会を牛耳る主席連合の最高権力者・グラモン侯爵がジョンを倒すべく、多数の殺し屋に命じて彼の命を狙わせる。

ジョンは疲れ、この復讐の連鎖をどこかで断ち切りたいと思っている。だが、例えグラモン侯爵を倒したとしても、その後釜になった連合のトップがまたジョンを狙う。果てしがない。
この問題の究極解決案としてジョンが考え付いたのが、組織のルールによる、グラモンとの決闘である。決闘に勝てば、後腐れなくジョンは解放される。だが負ければそれはジョンの死を意味する。

復讐は空しい。どこかで復讐の連鎖は断ち切らなければならない。このジョンの決断には感動した。これは戦争が果てしなく続く、現代の世界状勢への批判も込められていると見た。


そしてもう一つ、ジンと来たのが、何度か登場する男の友情、男の侠気を描くシーンである。シマヅはジョンと男同士の強い絆で結ばれており、ジョンの為にホテルの支配人の座を投げうってでもジョンを守る為に総力を挙げて戦う。

そして同じくジョンの旧友であるケインは、ジョンとは戦いたくないのだが、グラモン侯爵に娘を人質に取られている為、心ならずもジョンと戦う破目になる。
だが、グラモンの汚いやり方に義憤を覚えたケインは、階段歩道の戦いではジョンに加勢し、最後はジョンとの阿吽の呼吸でグラモンを倒す。

ここは東映の任侠映画、特に「昭和残侠伝」シリーズにおける、高倉健と池部良の二人が無二の親友でありながら、互いに敵対する組に属する故に最初は対決するが、やがて池部が自分の組のあくどさに愛想を尽かして、最後は健さんと肩を並べて殴り込む、というパターンとよく似ている。

まさに東映任侠映画に通じる、男同士の侠気の世界が感じられる名シーンと言えよう。

もう一人、賞金稼ぎの通称ミスター・ノーボディ(シャミア・アンダーソン)も、最初は賞金の為にジョンを狙うのだが、ジョンの戦いぶりとシマヅやケインの男の侠気に心揺さぶられ、また彼の愛犬をジョンが助けた事もあって、最後はジョンを倒す事など忘れ、ジョンの戦いを感動の眼差しで見届けようとするに至る。これも、“男心に男が惚れた”任侠の世界を思わせる。

東映任侠映画ファンであっただけに、私は殊の外、これら男たちの世界に心揺さぶられた。

そうそう、思えば座頭市シリーズ第1作の「座頭市物語」のラストでも、友情で結ばれた座頭市と平手造酒(天地茂)が渡世の義理で対決する破目となり、心ならずも市が平手を斬るシーンがあった。これもケインとシマヅの決闘シーンに応用されている気がする。


本作は、単なる派手なアクション映画に留まらない。さまざまな過去のアクション映画へのオマージュ、奥深いテーマ、男の友情などといったいくつもの要素が巧みに縒り合わされているのが素晴らしい。やや荒唐無稽なシーンもあるが、そんな事も気にならないくらい、作品世界に没頭させられる、これは見事な秀作である。

それにしても、キアヌ・リーブス59歳、ドニー・イェン60歳、真田広之62歳…。「ミッション:インポッシブル」のトム・クルーズが61歳でアクションやってると賞賛されたが、こちらの3人も負けていない。還暦アクション・スター大奮闘の年だと言える。

エンドロール終了後にもおマケ映像があるので席を立たないように。これも、復讐の連鎖はジョンの信念をもってしても止められない、というやや皮肉なオチとなっている。見逃すなかれ。   
(採点=★★★★☆

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(付記)
ジョンが高い所から墜落しても、自動車に次々撥ねられても、ほとんど怪我もせずピンピンしてるのが不思議だが、よく考えればキアヌ主演の「マトリックス」にもそんなシーンがあった。
あれはもしかしたら、「マトリックス」にもスタント・コーディネーターで参加していたスタエルスキ監督の、ちょいとしたオマージュなのかも知れない。モーフィアス役のローレンス・フィッシュバーンも本作で共演してる事だし。

 

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コメント

前の3作は割と最近DVDで見ました。
今回は完結編という感じで、ウィックの旧友でドニー・イェンと真田広之が登場する豪華編。
お話はかなり無理がありますが、アクションが冴えているのは前作までと同じ。
最後は完結編らしい終わり方なんですが、、続編作る様です。

投稿: きさ | 2023年9月30日 (土) 14:26

◆きささん
優良コンテンツはなかなか手放さないのがハリウッドで、スピンオフ作品は既に製作されているようですが、本作はあのラストで完結してるので、どうやって続編を作るつもりでしょうかね。
可能性あるのは、ジョンの若き日を描く前日譚(エピソード0)でしょうけど、キアヌあってのシリーズですからね。まさかCGで若返らせる?(笑)。
それともあの墓は生前に既に作っていたもので、実は生きていた…なんてね。どっちにしても止めて欲しいですね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2023年10月 2日 (月) 11:18

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