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2023年10月 9日 (月)

「ヒッチコックの映画術」

Mynameisalfredhitchcock 2022年・イギリス   120分
製作:Hopscotch Films
配給:シンカ
原題:My Name Is Alfred Hitchcock
監督:マーク・カズンズ
脚本:マーク・カズンズ
音楽:ドナ・マクケビット
製作:ジョン・アーチャー
製作総指揮:グララ・グリン
ナレーション:アリステア・マッゴーワン 

「サスペンス映画の神様」と称されるアルフレッド・ヒッチコックの監督デビュー100周年を記念して製作されたドキュメンタリー。ヒッチコックが監督した多くの作品の映像と過去の貴重な発言を再考察し、その映画作りの裏側に迫る。脚本・監督は「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」のマーク・カズンズ。


冒頭のクレジット・タイトルに、“脚本&音声:アルフレッド・ヒッチコック”と出たので、おおーっとなった。もしかしたら過去にヒッチコックが語った音声を拾い集めて再構成したのかと思った。訥々と語るナレーションもヒッチの声に似ているし。

だが、「私が死んでもう40年になる」とか、近年の映画について語ったり、携帯電話の話まで出て来るので、ヒッチコックによく似た声の誰かに語らせたのだと気付く(エンドロールでは、ナレーション:アリステア・マッゴーワンと出る)。それでも、もしヒッチコックが現在も生きていたなら、こんな感じで語ってくれるだろうな…と思ったりもする。

(以下ネタバレあり)

映画は全体で6つの章に別れ、それぞれ逃避、欲望、孤独、時間、充実、高さと名付けられている。そしてそのテーマに沿ってヒチコック映画の特色についてヒッチコック(に扮したナレーター)の語りで進行して行く。

最初の「逃避」。ヒッチコック映画には、濡れ衣を着せられたり、悪人に追われたり、またその他の理由で逃げ回る主人公を描いたものが多数ある事は、ヒッチ映画ファンならご承知のはず。「サイコ」のジャネット・リーの車による逃避行、「下宿人」の冤罪で大衆から追われる主人公などの映像と共にナレーションによる解説が行われる。「第三逃亡者」「北北西に進路を取れ」などもその代表作だ。

第2章「欲望」。これはあまり意識していなかったが、初期の「リング」「快楽の園」「恐喝(ブラック・メイル)」等の映像を使って、ヒッチコック映画における“人間の欲望”について語っているのが面白い。これらはビデオは持っているが(「快楽の園」を除く)まだちゃんと観ていない。いずれ観て確認したいと思う。

まあこんな感じで、以下第3章「孤独」、第4章「時間」、第5章「充実」、第6章「高さ」について、膨大なフィルムの中からそれぞれのテーマを象徴する映像をピックアップして解説が行われているのだが、第6章「高さ」を除いて、ちょっと違うのでは、と思われる解説がいくつかあった。
例えば第3章、「北北西に進路を取れ」のケーリー・グラントが広大な原野の中にバスでやって来るシーン、確かに一人ぼっちだが、これは主人公を危険な状況に追い込みサスペンスを盛り上げるいつもの手法で、これを「孤独」のテーマに入れるのは違和感あり。第5章「充実」なんて、そもそもテーマが意味不明。

最後の「高さ」は、これはヒッチコック作品では特徴的な技法で、ヒッチコック作品を多く観ているファンなら誰もが感じている事で、特に目新しい視点はない。

もっとも、挿入される過去作品フッテージの中には、現在日本では観る事が困難な初期のサイレント作品、「快楽の園」「ダウンヒル」などがあるので、その点では貴重とは言える。

Mynameisalfredhitchcock2

本作は、いかにもヒッチコック自身が過去に語った言葉を元に構成したように思わせているが、本当にヒッチコックがそんな風に思っていたか疑問である。むしろ、カズンズ監督自身の独断、推論を元に脚本を作ったフシが窺える。それなら初めから“脚本・構成:マーク・カズンズ”として、これは自身の意見である事を明示しておくべきであった。

ただ数ヵ所、なるほど、と思えるシーンもあった。例えば「舞台恐怖症」の中で、ある家に入って行く一人の男を後ろからカメラが追うシーンで、男がドアを開けるが、背後にカメラがあるのでそのままではドアが閉まらない。そこで男が後ろ手でドアを閉める仕草をした後、ドアの影と、バタンと閉まる音を入れ、あたかもドアが閉まったかのように思わせる。これはうまい撮影トリックで、ナレーションもその説明をしている。映画を見た時には気付かなかった。今度観る時確認しよう。

まあそんなわけで、大のヒッチコック・ファンである私の眼から見たらやや物足りない、少々期待外れの出来であった。かと言ってヒッチコック初心者の方には難し過ぎる。強いて言うなら、ある程度ヒッチコックの代表作を観ていて、これからもっとヒッチコック作品を観ようと思っている方なら観ておいて損はないと言えるかも知れない。 
(採点=★★★☆

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(付記)
Hitchcocktruffaut ヒッチコックの映画作りの秘密、本人の発言については、既に2016年に「ヒッチコック/トリュフォー」が公開されていて、1962年に映画監督のフランソワ・トリュフォーがヒッチコックに直接インタビューした時の音声とスチール写真、ヒッチコック作品からのワンシーン抜粋、ヒッチを敬愛するスコセッシ、ウェス・アンダーソン、黒沢清らの監督たちによるインタビュー、等で構成されていて、作品的にはヒッチコック自身の貴重な生の声が聞けるだけでも垂涎ものである。ヒッチコック・ファンには、こちらの方がお奨めである。

なおこのトリュフォー・インタビューは「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」のタイトルで晶文社より出版されている。少々高いけれど、ヒッチコック・ファンなら必読の名著である(私も持っている)。

 

  
「定本 映画術 ヒッチコック/」トリュフォー」

 

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