「ザ・クリエイター 創造者」
2023年・アメリカ 133分
製作:20世紀スタジオ=リージェンシー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:The Creator
監督:ギャレス・エドワーズ
原案:ギャレス・エドワーズ
脚本:ギャレス・エドワーズ、クリス・ワイツ
撮影:グレイグ・フレイザー
音楽:ハンス・ジマー
製作:ギャレス・エドワーズ、キリ・ハート、ジム・スペンサー、アーノン・ミルチャン
A.I.との戦争が続く近未来を舞台にしたSFアクション。原案・脚本(共同)・監督は「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」のギャレス・エドワーズ。主演は「TENET テネット」のジョン・デビッド・ワシントン。共演は「インセプション」の渡辺謙、「エターナルズ」のジェンマ・チャン、「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」のアリソン・ジャネイなど。
(物語)2075年、ロサンゼルスで人類を守るために作られたはずのA.I.が、核爆発を引き起こした。それからも数年の間、人類とA.I.との壮絶な戦いが続く中、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる高度なA.I.兵器を創り出した“クリエイター”の潜伏先を突き止め、暗殺に向かう。だがそこにいたのは超進化型A.I.の少女“アルフィー”だった。ジョシュアはある理由から、暗殺対象であるはずのアルフィーを守り抜くことを決意するが…。
7年前の「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」がとても面白かったギャレス・エドワーズ監督の新作である。
今回は自ら製作、原案、脚本(共同脚本は「ローグワン-」でもタッグを組んだクリス・ワイツ)も担当する等、気合が入っている。
お話そのものは、これまでも古くは1970年の「地球爆破作戦」(レビュー済)をはじめとして、「ターミネーター」シリーズ等、過去にも数多く作られて来た、人類が開発したコンピュータもしくはアンドロイド(その後はA.I.に進化)が人類に対して反乱を起こし、A.I.と人類の壮絶な戦いが繰り広げられる…というパターンの作品。
―と思わせておいて、実はもっと捻りを加え、後半は予測がつかない展開となって行き、終盤には泣かせる感動のシーンが待っていた。これはやられた。さすが「ローグワン-」でも感動のラストを用意したエドワーズ監督、今回もやってくれる。
(以下ネタバレあり)
物語設定はやや複雑だ。A.I.がロサンゼルスで核爆発を起こした、という事でアメリカはA.I.を人類の敵とみなし、西側陣営も参戦してA.I.と人類の壮絶な戦争が始まった…という所まではこれまでの同系統作品と似ているが、異なるのは、アジア地域にある“ニューアジア”という国家では逆にA.I.と人類は共存していて、西側諸国を追われたA.I.がレジスタンスとしてこの地に潜伏し、反撃の機会をうかがっているという点である。
ニューアジアの風景が、「地獄の黙示録」に登場するようなベトナムのそれに酷似しており、住民の衣装や暮らしぶりまでベトナムやタイの人々とそっくりなので(ロケも両国で行われている)、攻撃して来るアメリカに対しゲリラ戦で戦うレジスタンスA.I.たちが、ベトナム戦争時のベトコンに見えて来る、のは狙っての事だろう。
主人公であるアメリカ特殊部隊員のジョシュア・テイラー軍曹は、A.I.の創造主である“ニルマータ”(ネパール語で「創造者」を意味する)と呼ばれる謎の人物を探るべくレジスタンス組織に潜入し、ニルマータに近いとされるマヤ(ジェンマ・チェン)という女性に接触し、やがて二人は恋仲になるが、そこに米軍が急襲し、ノマド(NOMAD)という名の巨大兵器の攻撃で拠点は爆破され、マヤはその攻撃で死んだと思われた。
それから5年後、ジョシュアは米軍上層部より、ニルマータが新たに生み出した、米軍にとって脅威となる新兵器を破壊せよとの命令を受け、再びニューアジアに向かう。
そして破壊対象である新兵器がある場所に辿り着くのだが、そこにいたのは、小さな少女の姿をしたシミュラント(模造人間)、“アルフィー”(マデリン・ユナ・ボイルズ)だった。
…という所から、物語は佳境に入って行く。ジョシュアはアルフィーのイノセントな無垢の魂を持ったような姿を見て破壊を躊躇し、やがてアルフィーを守ろうと決心する。
それはおそらく、アルフィーはもしかしたら、愛するマヤ(=ニルマータ?)が造り出した、二人の子供のような存在、とジョシュアが思ったからかも知れない。実際、アルフィーと行動を共にするうち、ジョシュアとアルフィーの間には、本当の親子の様な情愛が生まれて行くのである。
アルフィーには他のA.I.を自由に操れる特殊能力が備わっているようで、そのおかげで何度も危機を脱出し旅を続けて行く。
「GODZILLA/ゴジラ」も監督したエドワーズ監督はかなり日本カルチャー・オタクのようで、テレビではなんと宇津井健主演の「スーパージャイアンツ」や千葉真一主演「宇宙快速船」のワンシーンが放映されていた。その「GODZILLA/ゴジラ」に出演していた渡辺謙が本作にもA.I.レジスタンスのリーダー、ハルン役で出演している。
そして意外な真実が明らかになる。ロサンゼルスの核爆発はA.I.ではなく、なんと人類側が誤って引き起こしたものだった。アメリカはその事実を隠蔽する為A.I.に罪をなすり付け、それを口実にA.I.を滅ぼそうとしているのだ。
なんだか、“大量破壊兵器がある”との偽情報をでっちあげ、それを元にイラクに侵攻したアメリカ軍を思わせる。
そして物語は終盤、レジスタンスの拠点を見つけたアメリカ軍が巨大戦車を送り込み、空からはノマドがミサイルを発射する等、A.I.殲滅作戦を実行に移し、それに対しジョシュアたちも含めたニューアジア・レジスタンス軍が必死に抵抗する一大バトルへとなだれ込んで行くのである。この戦闘シーンはかなりの迫力。自爆型ロボット等面白い兵器も登場する。
レジスタンスが形勢不利になった時、ジョシュアとアルフィーは月へ向かうシャトルを経由してノマドに乗り移り、ノマドを破壊すべく艦内を縦横に動き回る。ここもなかなかスリリング。
アルフィーはA.I.保管庫の中に、母マヤの姿をしたシミュラントを見つけ、再起動させる。ジョシュアはアルフィーを先に脱出ポッドに送り込むが、ノマドの破壊準備に手間取ったジョシュアは乗り遅れ、「ダメ、一緒に!」と懇願するアルフィーを脱出させ、ジョシュアはノマドに残る。
そしてジョシュアと、再起動したマヤは、墜落して行くノマド内の花畑(?)で再会し抱き合う。このシークェンスでは泣けてしまった。「ローグワン-」のラストもちょっぴり思い出させる。
地上に降り立ったアルフィーの、悲しみを堪える姿を見せて、映画は終わる。
随所に、アメリカという大国の横暴に対する痛烈な批判を込めている点が興味深い。ニューアジアへの苛烈な爆撃シーンは、いやでもベトナム戦争を思い出させる。
あるいはアメリカを代表とする欧米人種の白人優位思想と有色人種への蔑視精神が、アメリカ・インディアンへの差別と迫害や、ベトナム戦争、さらにはイギリス、フランスによるインド、アジア植民地政策をも生み出したのではないか、とふと思ってしまった。
さらに、ニューアジアがA.I.との共存、共生を目指し、それが成功している姿を通して、人類は国家、人種の間で敵対するよりも、互いに共存の道を探るべきではないか、という遠大な理想のテーマをも、この映画は示しているのではないだろうか。
折しも現在、イスラエルとハマスとの戦争が勃発しているが、イスラエルの抑圧的なパレスチナ政策は、まさに前記の白人優位思想が根底にあるのではないかと思ったりもする。そして報復の連鎖を繰り返すよりも、両者は共存の道をこそ模索すべきべきではないか。そんな事まで考えさせられた。
本作が偶然にも、この戦争のさ中に公開されたとは、実にタイムリーである。
SFアクション映画として観ても十分面白いが、上記のような深遠なテーマも内包されている点でも、見事な秀作だと断定したい。是非多くの人に観て欲しいと願う。 (採点=★★★★☆)
(付記)
ラストは一応、感動の結末を迎える…といったエンディングになっているが、単にアメリカ軍の巨大兵器・ノマドを墜落させただけで、アメリカが負けたわけでも、A.I.との共存に舵を切ったわけでもなく、アメリカ対A.I.の戦いは終わってはいない。第二、第三のノマドがまた襲って来るかも知れないし、むしろA.I.レジスタンス軍をかばったという事で、ニューアジアと西側諸国との全面戦争にエスカレートして行く可能性すらある。
そう考えると、続編が作られる余地は十分あるのだが、ギャレス・エドワーズ監督へのインタビューを読むと、あのエンディングが気に入っているので、続編を作る気はないとの事だった。
(さて久しぶりに、お楽しみはココからだ)
既にいくつか書いたが、本作にはそれら以外にも、過去のいろんなSF映画やアクション映画へのオマージュもあちこちに仕込まれている。
冒頭のロサンゼルスでの核爆発による“グラウンド・ゼロ”の巨大クレーター跡は大友克洋監督「AKIRA」を思わせる。エドワーズ監督も「AKIRA」から影響を受けたと公言している。私は気付かなかったが、その他にもいくつか「AKIRA」オマージュが仕込まれているとの事である。
ジョシュアとアルフィーの逃避行は、「グロリア」から「ROGAN/ローガン」に至る、命を狙われる小さな子供を守って奮闘するヒーローものへのオマージュが感じられる。
ジョシュアたちが到着したニューアジアの町では日本語が飛び交い、日本語の電飾広告があちこちで光り輝いている(「龍角散」のネオンもあった)が、これらは「強力わかもと」の広告サインが印象的だった「ブレードランナー」オマージュである。
ロボット兵器やシミュラントの造形は、押井守監督のSFアニメ「攻殻機動隊 Ghost in the Shell」からも参考にしているようだ。
強大なアメリカ軍と、抵抗するレジスタンスとの戦いは、「スター・ウォーズ」における帝国軍とルークたち反乱軍の戦いを思わせるし、巨大兵器ノマド(下)は、「スター・ウォーズ」のスター・デストロイヤーに見えて来る。

アメリカ軍がニューアジア人を見下し攻撃して来るくだりは、「アバター」における地球人部隊と衛星パンドラの住民ナヴィとの戦いを想起させる。
同作で、地球人でありながらやがてナヴィに味方する元アメリカ海兵隊員ジェイクは、本作のジョシュアにそのキャラクターが生かされているようだ。
トム・クルーズ主演の「ラスト サムライ」では、南北戦争の英雄であるアメリカ軍人が日本を訪れ、日本のサムライ精神や日本文化に触れたり、終盤は圧倒的な政府軍を相手に反乱軍の侍たちが最後の戦いを繰り広げ、トムのアメリカ軍人もそこに参加するという展開が本作によく似ている。
その反乱軍の侍リーダーを演じていたのが渡辺謙。
彼を本作でレジスタンス・リーダーにキャスティングしたのは、狙っての事ではないだろうか。
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コメント
快調なアクション、可愛らしいアルフィー、泣かせるラスト。滅びの美学とセンス・オブ・ワンダーもあり、最後まで堪能しました。
投稿: 自称歴史家 | 2023年11月 2日 (木) 12:31
◆自称歴史家さん
アルフィー、可愛かったですね。演じたマデリン・ユナ・ボイルズも今後が楽しみです。
坊主頭なので男の子とばかり思ってたら、女の子なんですね。
投稿: Kei(管理人 ) | 2023年11月 2日 (木) 13:32