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2024年1月15日 (月)

「枯れ葉」

Fallenleaves 2023年・フィンランド=ドイツ合作   81分
製作:Sputnik=Oy Bufo Ab=Pandora Film
配給:ユーロスペース
原題:Kuolleet lehdet (英題:Fallen Leaves)
監督:アキ・カウリスマキ
脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
音楽:マウステテュトット
製作:アキ・カウリスマキ、ミーシャ・ヤーリ、マーク・ルオフ、ラインハルト・ブルンディヒ

孤独を抱えながら生きる男女のぎこちない愛の行方を描くラブストーリー。監督は5年ぶりにメガホンを取ったフィンランドの名匠アキ・カウリスマキ。主演は「TOVE/トーベ」のアルマ・ポウスティ、「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」のユッシ・ヴァタネン。共演は「街のあかり」のヤンネ・フーティアイネン、「希望のかなた」のヌップ・コイブなど。第76回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。

(物語)フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で仕事を失ったアンサ(アルマ・ポウスティ)と、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)は、ある夜、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざけてしまう。果たして2人は、無事に再会を果たし、想いを通い合わせることが出来るのか…。

前回書いたけど、観ようと思ったら満席で入れなかった。その時は土曜日だったので、平日なら大丈夫だろうと11日に行ったら、なんとまたまた大混雑で、なんとか席が取れたがもう5~6席しか空いてなかった。公開から1ヵ月近く経つのにすごい人気だ。カウリスマキ監督にこんなにファンがいるとは知らなんだ。

カウリスマキ監督作は、社会の底辺で生きる人々や、孤独な男女の生活を描いた作品が多い。演出もセリフが少なかったり、さりげないユーモアがあったり、ちょっとオフビートな感覚があったりする。本作もそんな作品である。

(以下ネタバレあり)

アンサ(アルマ・ポウスティ)は大型スーパーマーケットで働いているが、ある日賞味期限切れの商品をこっそり持ち帰ろうとした所を警備員に見つかり、それが原因で解雇されてしまう。

一方、工事現場で粉塵の処理業務を担っているホラッパ(ユッシ・バタネン)は、内線電話ボックスなどに酒を隠し、仕事中に隠れて飲んでいたりする。アル中のようだ。仕事が終われば同僚のフータリ(ヤンネ・フーティアイネン)と一緒にカラオケバーに行くが、歌うのはいつもフータリの方。ホラッパは口数も少ない。
ある日、そのカラオケバーでホラッパはアンサと出会う。互いに少し惹かれ合うが、その時はそのまま別れる。

ところがホラッパは、勤務中の飲酒がバレ、遅刻も多い事も併せてこちらもクビになってしまう。どこか似た二人だ。

その後、偶然に再会した二人は、一緒に映画を観に行く。上映していたのはジム・ジャームッシュ監督のゾンビ・ホラー映画「デッド・ドント・ダイ」というのが笑える(デートにふさわしくないだろう)。

いろいろとマニアックな小ネタが仕込まれているのもカウリスマキ監督らしい。映画館を出た二人の中年観客が、一人はブレッソンの「田舎司祭の日記」を思わせるとか、もう一人は、いやゴダールの「はなればなれに」だろうとか会話してるのがおかしい(どっちもゾンビ映画とは関係ないだろう)。ちなみにロベール・ブレッソンはカウリスマキが最も尊敬する3人の監督の一人である。あとの2人については後述する。
また映画館のロビーにはデヴィッド・リーン監督、ノエル・カワード原作・製作の「逢びき」(1945)のポスターが掲示されている。カウリスマキの発言によると、本作は「逢びき」からインスピレーションを得ているとの事である。後のシーンではゴダールの「気狂いピエロ」のポスターもあった。ゴダールからも何がしかのヒントを得ているのかも知れない。

Fallenleaves3

なお、劇場の外に貼られているポスター(上の写真の左側)も、ブレッソン監督の最後の作品「ラルジャン」のポスターである。

劇場を出た後、再会を約束してアンサは自分の電話番号を書いたメモをホラッパに渡すのだが、ホラッパはうっかりメモをなくしてしまう。

アンサは、名前も知らない男からの電話を待つが、かかって来ないので、フラれたのかと気に病む。デートした映画館の前にも行ってみるが、やはり逢えない。足元には大量の吸い殻が。さっきまでホラッパがいたのかも知れない。大庭秀雄監督「君の名は」にも似た、すれ違いのメロドラマである。

どこか不器用で、ぎこちない二人の恋。無口で孤独な所も過去のカウリスマキ監督作と共通する。

アンサは何とか仕事を探すが、カフェのコップ洗いくらいしか見つからない。起用にコップを積み重ねて運ぶシーンがおかしい。ホラッパも底辺の日雇いみたいな仕事にしかありつけない。

ようやく二人は、あの映画館の前で再会する。アンサはホラッパを自宅に招き、手料理を御馳走する。これでいい雰囲気になりかけたのに、ホラッパが隠れて酒を飲んでいるのを咎め、酒はなるべく飲まないで欲しいとアンサが言うと、ホラッパは怒って出て行ってしまう。本当に不器用と言うか恋愛ヘタな二人だ。

その後も色々あって、アンサは工場で機材を動かす重労働の仕事に就いたり、ホラッパが交通事故で入院したり。ホラッパの友人のフータリに教えられてアンサは病院に行き、ホラッパと再会する。ようやく二人にも幸せが訪れそうだ。

ラストは、退院して松葉杖で歩くホラッパと、拾った犬を連れて歩くアンサが枯れ葉の散る道を歩いて行く後ろ姿を捉えて映画は終わる。

アンサの連れている犬の名前が「チャップリン」というのも笑える。そう言えば二人が去って行くラストシーンはチャップリンの「モダン・タイムス」のラストを思わせる。


いかにもカウリスマキらしい映画だった。カウリスマキ監督は前作で引退を表明していたそうだが、それを撤回しての新作である。その思いは、劇中何度もラジオから流れる、ロシアのウクライナ侵攻のニュースに現れている。このロシアの理不尽な行いに対する怒りを映画の中で示したい為に、引退を撤回したのかも知れない。

それで前述の、カウリスマキが元も尊敬する3人の監督の残り二人は、小津安二郎チャールズ・チャップリンだそうだ。チャップリン・オマージュはあのラストシーンで自明だが、小津安二郎オマージュもそこかしこに見られる。主人公たちのどこか訥々とした喋り方もそうだし、ポスターのアンサの着ている服は小津作品によく見られるだし、カラオケバーでのホラッパと友人のフータリが横に並んで座っている構図も小津作品ではお馴染みだ。

Fallenleaves2

最初の方では、ラジオから日本の「竹田の子守唄」が流れて来るし(日本語でないので最初はどっかで聴いたメロディだなと思った)、バーでは本作の音楽も担当しているバンド、マウステテュトットが歌う曲もノリがいいし(上の写真の後方)、エンドロールでは本作のタイトルにもなったフランスのシャンソン「枯れ葉」が朗々と歌い上げられる等、音楽の使い方も面白い。

社会の底辺で、厳しい現実に直面しながらも懸命に生きている、不器用な二人のもどかしい愛をやさしく見つめるカウリスマキ監督の演出は、いつもながら見応えがある。観終わって心が温かくなった。カウリスマキ監督、引退と言わず、これからも映画を撮って欲しい。   
(採点=★★★★☆

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(付記1)
Odutokataru カウリスマキ監督の小津安二郎愛は半端でなく、1993年に小津没後30年を記念して作られたドキュメンタリー「小津と語る」( 田中康義監督)の中で、やはり小津ファンの侯孝賢、ヴィム・ヴェンダースらと共に出演して小津監督への想いを述べているし、最後には「自分の墓に『生まれてはみたけれど』と刻むつもりだ」と語っている。

(付記2)
それにしても、昨年末に観たヴィム・ヴェンダース監督「PERFECT DAYS」にも小津オマージュがあったし、外国人監督が撮った小津安二郎にオマージュを捧げた映画2本が同時期に公開されているのが面白い。日本の監督も誰か撮ってみてはどうか。

 

 

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コメント

 良い映画でしたね。時間の流れがゆっくりして、大きな事件も起こらないのに惹きつけられる。カウリスマキ監督の作品は初めて見ましたが、DVDなど探してみようと思います。

投稿: 自称歴史家 | 2024年1月16日 (火) 07:49

カウリスマキ監督、しばらく前に早稲田松竹で2作ほど見ていたのですが、近くのレンタルに2作収録のDVDがたくさんあったので見てみました。
ハマってしまいました。
昨年だけでDVDで旧作を12作見てしまいました。
カウリスマキ監督クセになりますね。
本作も劇場で見ました。

投稿: きさ | 2024年1月18日 (木) 10:32

◆自称歴史家さん
>時間の流れがゆっくりして、大きな事件も起こらないのに惹きつけられる…
そういう点も小津安二郎作品と共通しますね。しみじみと心に残る、いい映画でした。
カウリスマキ監督作は、AmazonPrimeでも沢山見放題で出てますので、私も見逃したカウリスマキ作品を追いかけてみようと思います。


◆きささん
きささんもハマっていますね。まさにクセになる監督です。昔は「レニングラード・カウボーイズ」シリーズなんかのヘンなコメディ作ってたのに、老境に至ってこんなに味わい深い人間ドラマを作るようになったのですね。感慨深いです。

投稿: Kei(管理人 ) | 2024年1月19日 (金) 14:41

押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
新作『枯れ葉』が公開されるアキ・カウリスマキ監督はお好きですか?
https://lp.p.pia.jp/article/essay/48171/300381/index.html

押井さんも好きな監督だとか。
カウリスマキ=諸星大二郎説は面白い!

投稿: きさ | 2024年1月20日 (土) 13:55

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