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2024年2月 5日 (月)

「ゴールデンカムイ」

Goldenkamui 2024年・日本   128分
製作:WOWOW・集英社
制作プロダクション:CREDEUS
配給:東宝
監督:久保茂昭
原作:野田サトル
脚本:黒岩勉
撮影:相馬大輔
音楽:やまだ豊
アクション監督:下村勇二
製作:田代秀樹、 井原多美、 瓶子吉久、 市川南、 堂山昌司、 荒木宏幸、 弓矢政法、 舛田淳、 長嶋潤二、 松橋真三

野田サトル原作の同名コミックの実写映画化作品。明治末期の北海道を舞台に、アイヌの埋蔵金争奪戦を描くアドベンチャー・アクション大作。監督は「HiGH&LOW」シリーズの久保茂昭。出演は「キングダム」シリーズの山﨑賢人、同じく玉木宏、「山女」の山田杏奈、「アルキメデスの大戦」の舘ひろし、その他眞栄田郷敦、工藤阿須加、井浦新、マキタスポーツら豪華キャストが結集した。

(物語)明治末期、二〇三高地での鬼神の如き戦いぶりから“不死身の杉元”との異名を持つ杉元佐一(山﨑賢人)は、ある目的のために北海道で砂金採りに没頭していた。そこで、のっぺら坊という男がアイヌ民族から莫大な金塊を強奪し、捕まる直前にとある場所に隠したことを知る。その男は、金塊のありかを記した刺青を身体に彫った24人の囚人を脱獄させた。刺青は24人全員でひとつの暗号になるのだという。そんなある日、ヒグマに襲われた杉元は、アイヌの少女アシㇼパ(山田杏奈)に助けられる。金塊を奪った男に父親を殺されたアシㇼパは、父の仇を討つため、杉元と行動を共にする。一方、大日本帝国陸軍第七師団の鶴見中尉(玉木宏)も同じく金塊を狙っていた。そして、戊辰戦争で戦死したはずの新撰組の“鬼の副長”こと土方歳三(舘ひろし)もまた、自らの野望を実現するため金塊を探していた。杉元とアシㇼパ、第七師団、土方歳三による、金塊を巡っての三つ巴の争いが始まる…。

評判の「哀れなるものたち」を観るつもりで劇場に行ったのだが、なんと満席札止め。渋い内容の作品なのでまさか満員ではあるまいとタカをくくっていたのだが甘かった。
最近、満席を経験したのは「PERFECT DAYS」「枯れ葉」、本作と3回目。どれもミニシアターが似合う地味な印象の作品ばかりで、こうした作品が多くの客を呼んでいるのは映画ファンとしては嬉しいが、せっかく劇場に来ても、出直さなければいけないのはなんとも痛し痒し。次からはネットで座席状況を確認して、ネット予約の利用も考えよう。

そんなわけで他の作品で時間が合うものを探したら、この「ゴールデンカムイ」が少しだけ空いてたのでこれを観る事にした。

監督の久保茂昭は、「HiGH&LOW」シリーズを2本観てるがどれも面白くなかった。他の作品も全然話題になっていない。原作の漫画も読んだ事はない。なのでまったく期待していなかったのだが、これが予想外に面白かった。やはり映画は観てみないと分からない。

(以下ネタバレあり)

冒頭の日露戦争、二〇三高地での戦闘シーンがまず凄い。日本軍兵士たちが銃撃でバタバタと倒れて行き、砲撃でふっ飛ばされて行くシーンは、「プライベート・ライアン」とまでは行かないが、日本映画でここまでリアルかつ凄惨な戦闘シーンがきちんと描けている作品はあまり記憶にない。同じく二〇三高地戦を描いたズバリ「二百三高地」(1980・舛田利雄監督)を上回っていると言える。まあCGがあの頃より発達している事もあるが。
特に突撃シーンを、CGを使って疑似ワンカット処理している長いシーンは「1917 命をかけた伝令」を思わせニヤリとさせられる。

このツカミは上々。この戦いで主人公・杉元佐一が後に「不死身の杉元」の異名を持つほどの戦闘能力に長けた男である事を示している。

その後、杉元が北海道に渡り、ふとした事からアイヌの莫大な金塊の隠し場所を記した暗号の刺青が、網走監獄を脱走した24人の囚人の身体に彫られている事を知り、以後杉元による、この金塊の在りかを探しての冒険活劇が始まる事となる。

“莫大な財宝を巡っての敵味方入り乱れての宝探し冒険アクション”というのは、映画・小説でも古くからある王道パターンである。古今東西、いろんな映画が作られて来た(詳細は後述)。

これを、CGも駆使して、北海道の原野を舞台に物語が展開されて行くわけだから、面白くならないはずがない。

登場する人物も、杉元を助けるアイヌの美少女・アシㇼパとか、見るからに憎たらしい風貌の陸軍第七師団の鶴見篤四郎中尉、戦死したはずだが実は生きていた新選組副長・土方歳三、網走刑務所にいる「のっぺら坊」と呼ばれる謎の男、と悪役も魅力的。さらにコメディ・リリーフ的な位置の脱獄の名人、白石由竹(矢本悠馬)もいたりと、この手の冒険活劇のパターンをことごとく取り入れた原作がまず秀逸なのだが、映画も玉木宏や舘ひろし、眞栄田郷敦といった個性的な役者もうまく配置され、ダイナミックなアクション、サスペンスが連続して飽きさせない。
特に脳みそに戦傷を受けている為か、ほとんど狂ってる鶴見中尉を演じた玉木宏の怪演は見ものである。

また、アイヌの食文化や暮らしぶりも丁寧に描かれているのもいい。アシㇼパの大叔父役を演じた秋辺デボは、実際のアイヌの方で、本作のアイヌ監修も担当している。

終盤では、馬ぞりと追手との壮絶なチェイス、馬ぞりに引っ張られてのロープ引き摺られアクション、さらにそりの上での大格闘と、「インディ・ジョーンズ」シリーズ(特に1作目「レイダース・失われた聖櫃」)を彷彿させるシーンも巧みに引用(オマージュと言うべきか)されていたのには笑うやら感心するやら。
杉元を演じた山﨑賢人は、冷たい川に飛び込むシーンや、馬ぞりに引き摺られるシーンも自ら志願して演じたそうだ。見上げた役者根性だ。その意気込みは見事に作品に反映されている。

かつてのこの種の日本映画では、あまり製作日数や予算をかけられなかった事もあって、面白い題材なのに、洋画と比べて貧弱さが目立ってガッカリさせられた事も多かったが、本作では製作日数、予算もかけ、CGも巧みに活用して、予算をかけた洋画アクション大作と見比べても遜色ない出来になっていた。
特に(本作のヒグマなどの)動物登場シーンでは、以前はいかにもぬいぐるみが丸分かりでシラケた事もあったが、本作ではCGを使い、ヒグマも白オオカミも、本物と見まがうくらいの迫力ある出来になっていたのにも感心した。

日本映画も、遂にハリウッド大作アクション映画に、肩を並べたとまでは言えないが、かなり近づいたと言える所まで来た。その事に私はとても感動した。洋画の引用まで取り入れる余裕すら見せているのもいい。
「ゴジラ-1.0」のVFXもアメリカで絶賛され、アカデミー視覚効果賞にノミネートされるまでになった。日本映画のレベルは確実に上がっている。その事にも感動した。

一時、洋画ファンからは、「日本映画ってチャチだ」「洋画にはとても敵わないね」と蔑まれていた、そんな時代を知っている私から見れば、まさに隔世の感がある。それを思うとジーンとなってしまった。

いやあ面白かった。見逃さないで良かった。満席であの映画を観れなかった事に感謝したい(笑)。

ラストも、一応キリのいい所で終わっており、続編への期待も高まる。本作は全31巻ある原作の3巻くらいまでが描かれているそうなので、このまま原作に忠実に映画化すれば相当の長さになってしまうだろう。出来れば一部のエピソードをカットして、3部作程度に収めて欲しいものだ。原作ファンは文句言うかも知れないが。
(採点=★★★★

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(で、お楽しみはココからだ)

これまでも書いて来たが、宝探し冒険活劇は、古くはH・ライダー・ハガード原作の小説「ソロモン王の秘宝」があり、その映画化作品も数多くある。前述の「インディ・ジョーンズ」シリーズもそのパターンをなぞっている。

日本でも1954年に(「ゴジラ」1作目と同じ年だ)、中村錦之助主演の「新諸国物語・紅孔雀」が作られている。莫大な宝の在りかを示す紅孔雀の鍵を巡って、正邪入り乱れての争奪戦が展開される。これは全5部作で、毎回いい所で「続く」となっていた。いわゆる連続活劇パターンである。本作もそんなシリーズになりそうだ。

Threedragontatoos で、ほとんど知られていないが、1961年製作の日活映画で「三つの竜の刺青」(野口博志監督)という作品がある。三人の兄弟の背中にそれぞれ竜の刺青が掘られていて、その3つの刺青を合わせると、一千億円もの莫大な金塊の隠し場所が判る、というお話であった。

複数の人間の背中の刺青を合わせると千億円単位の金塊の在りかが判る、と言う設定が本作とそっくりだ。偶然だろうが興味深い。

面白そうなので観たいが、DVDは出ていないし、日活の旧作を配信しているAmazonPrimeにも出ていないのが残念。この機会にDVD出してくれないかな。

 

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コメント

これは私も面白かったです。
原作は読んでいないのですが、読んでいる人によると長大な原作なのでまだまだ序章で先は長そう。
最初の雪中の戦いや小樽でのインディジョーンズばりの橇での追跡などアクションは快調ですね。
主人公の山﨑賢人はじめ俳優陣もみないいです。
特にアイヌのヒロイン役の山田杏奈が可愛い。
割と作品に恵まれない感があったので本作での魅力を他の作品でも発揮して欲しいです。
続きが楽しみです。
「三つの竜の刺青」私も見たいです。

投稿: きさ | 2024年2月 8日 (木) 09:33

◆きささん
山田杏奈は昨年公開の「山女」で印象的な好演を見せていたので期待していました。これまではマイナーな作品が多くて、お書きのように作品に恵まれない感があったのですが、本作で一躍メジャーな存在になったと言えるでしょう。これからが楽しみですね。
しかし山﨑賢人、「キングダム」とメガヒット・アクション大作2本掛け持ちして、身体壊さないかが心配です。

投稿: Kei(管理人 ) | 2024年2月 9日 (金) 18:10

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