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2024年3月 8日 (金)

「アメリカン・フィクション」 (VOD)

Americanfiction 2023年・アメリカ   118分
製作:M.G.M = ORION Pictures
提供:Amazon Studio
原題:American Fiction
監督:コード・ジェファーソン
原作:パーシバル・エベレット 「イレイジャー」
脚本:コード・ジェファーソン
撮影:クリスティナ・ダンラップ
音楽:ローラ・カープマン
製作総指揮:ライアン・ジョンソン、ラム・バーグマン、パーシバル・エベレット

出版業界や黒人作家の作品の扱われ方を風刺的に描いたパーシバル・エベレットの小説を映画化したコメディドラマ。監督は「グッド・プレイス」「ウォッチメン」などのテレビシリーズを手掛けてきたコード・ジェファーソン。本作が劇場長編映画デビュー作となる。主演は「THE BATMAN ザ・バットマン」のジェフリー・ライト。共演は「ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢」のトレイシー・エリス・ロス、「アース・ママ」のエリカ・アレクサンダー、「バービー」のイッサ・レイ、「ブラックパンサー」のスターリング・K・ブラウンなど。トロント国際映画祭で観客賞を受賞した他、第96回アカデミー賞でも作品賞ほか5部門にノミネートされた。 2月27日からPrime Videoで独占配信。

(物語)黒人小説家セロニアス・エリソン、通称モンク(ジェフリー・ライト)は、教員をしている大学での言動が問題視され、休暇を命じられる。また出版社からは作品が「黒人らしくない」という理由で新作の出版をを却下される。実家に戻ると母は認知症が進み、妹リサ(トレイシー・エリス・ロス)は心臓発作で急死と災難続き。母の介護で金がかかる事もあって、半ばヤケクソでステレオタイプな実録風黒人小説をペンネームを使って書き上げると、これが大ベストセラーとなってしまい…。

まもなく発表される第96回アカデミー賞で作品賞・主演男優賞などにノミネートされている話題作だが、我が国では劇場公開されず、AmazonPrimeでの配信のみとなった。
これは製作したMGMが経営不振でAmazonに買収された為で、MGM作品は基本アマプラでの配信のみとなっている(詳しくは配信作「13人の命」評参照)。

というわけで、仕方なくAmazonPrimeで鑑賞。期待通り、面白い作品だった。

(以下ネタバレあり)

主人公セロニアス・エリソンは黒人の小説作家。名前が有名黒人ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクと同じなので、周囲からは“モンク”と呼ばれている。

性格はややヒネクレ者で、教授をしている大学の講義で"Nigger"を使って学生から「差別用語だ」と指摘されたり、ドイツ人学生に「君の先祖はナチスか」と聞いたりといった問題発言を繰り返した事で休職を命じられる。

実はモンクはアフリカ系アメリカ人の中でも上流階級に属し、実家も裕福な暮しをしており、昔と違って黒人だからと言って差別されたり迫害されたりの経験もあまりない。だから差別用語も大して意識はしていない。過去は過去と割り切っている。だからニガーやナチスといった言葉も平気で使うわけである。

また、新しい小説を書いても、出版社からは「黒人らしさが足りない」と言われ、作品はボツになってしまう。

モンクは、昔ながらの「貧しくて犯罪に走ったり、差別に苦しみながらも耐えて必死に生きる」なんてステレオタイプなものは描こうとはしない。だが白人社会の求める黒人像はそんなものばかり。実際、そうした黒人の固定観念に迎合したシンタラ・ゴールデン(イッサ・レイ)の小説はベストセラーになっている。モンクはくさる。

ここまででもかなり皮肉が利いた設定で面白い。ジェフリー・ライトがこんなユニークなキャラクターを楽しそうに快演している。

久しぶりに実家に帰ると、母はアルツハイマーが進行して介護を必要とし、妹リサは心臓発作で急死、弟のクリフ(スターリング・K・ブラウン)は整形外科医だが、ゲイが理由で離婚と問題が山積。

母の介護の為に金が要るのに、小説は売れない。もうヤケクソとばかり、貧困からギャングに落ちぶれ、犯罪を繰り返して来た黒人がこれまでの人生を赤裸々に告白するという、黒人あるあるパターンを網羅した実録風小説「マイ・パフォロジー」を書き上げる。作者名もSTAGG R. LEIGHという偽名を使う。

Americanfiction2 モンクは、ほとんど冗談のつもりで書いたのだが、出版社はこれは面白いと積極的に売り出そうとする。モンクは出版を止めさせようと、タイトルをなんと「FUCK」と、トンでもないものに変更したいと言うが、出版社は内輪で相談した結果、それでもいいと結論を出す。このプロセスも爆笑ものだ。

こうして出版された小説は、奇抜なタイトルが却って話題になって大ベストセラーとなってしまう。今さら作者は私だ、と名乗れないので、実は警察に追われ逃亡中なので顔は出せない、という事にする。それがまた話題となって、とうとう文学賞の候補にもなってしまう。

その文学賞選考会の一幕も笑える。白人審査員は「FUCK」を一押しし、モンクを含めた黒人審査員側が反対というのも皮肉。結果は多数決で「FUCK」が受賞作に決まる。この時白人女性審査員が「今こそ黒人の声に耳を傾けるべきよ」と力説するのもおかしい。

こうしたあれよあれよという一連の流れには笑いっぱなし。これがホントのブラック・ジョークだ(笑)。

(以下重要ネタバレに付き、未見の方は注意)

 

 

 

そして授賞式、「FUCK」が最優秀作品賞と発表される。会場にいたモンクはついにたまりかねて壇上に…。

…と、ここで舞台は映画会社のスタジオに変わり、今までの物語はすべてモンク原作の映画化作品の中味だった事が分かる。一種のメタ構造である。このアイデアも面白い。

どこまでが実話で、どこがフィクションか判別がつかない。あるいは全部がフィクションなのかも知れない。題名の意味がここでやっと判る、というわけだ。

モンクは結末を伏せて終わりにしたかったのだが、監督はOKを出さない。あれやこれや陳腐な結末を出しては却下され、ここでも半ばヤケクソの皮肉と冗談交じりのアイデアを出したら監督に「それで行こう!」と言われ、モンクはまたくさるやら呆れるやら。
最後まで大笑いの快作であった。


この作品が素晴らしいのは、白人が抱く黒人のイメージが一つの固定化したパターンとなっている現状に対する、痛烈な皮肉が全編に込められている点である。

我々もまた、固定概念に縛られているのではないか。理解しているつもりでも、実は何も分かっていないのではないか。ジェファーソン監督が固定概念に縛られる白人層に突き付けた刃は、我々観客にも向けられている。その事に深く感動した。

またそれだけでなく、モンク一家の家族愛や、モンクと弟クリフとの確執から和解のプロセスが繊細かつ丁寧に描かれているのもいい。

ゲイを公表し、自分らしく生きて行こうとするクリフの姿に、自分の主義を曲げた偽善的作品を発表してしまったモンクの心境の変化を予感させ、これがラストのエピソードに繋がって行く辺りも出色である。

出番は少ないが印象的な役柄を演じるクリフ役、スターリング・K・ブラウンが好演。アカデミー助演男優賞ノミネートも納得である。

ダジャレではないが、モンクの付けようがない秀作だ(笑)。監督デビュー作にして、これほどの力作を作り上げたコード・ジェファーソン監督(脚色も)の今後にも注目だ。
さて、11日発表のアカデミー賞ではどこまで健闘するか、今から楽しみである。  (採点=★★★★☆

 

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