「ゴールド・ボーイ」
(物語)事業家の婿養子、東昇(岡田将生)は、富と地位を手に入れる為、義父母を崖から突き落とて殺害する。それは、完全犯罪のはずだった。ところが偶然、その様子を安室朝陽(羽村仁成)、上間夏月(星乃あんな)と上間浩(前出燿志)の兄妹ら3人の少年少女たちのカメラが捉えていた。それぞれに複雑な家庭環境や家族の問題を抱える少年たちは、東を脅迫して大金を手に入れようと画策するが…。
原作は中国の作家、ズー・ジェンチンのベストセラー小説「坏小孩(邦訳版:悪童たち)」。これを「あゝ荒野」(2017)や「宮本から君へ」(2019)、「正欲」などの秀作、意欲作を手掛けて脂の乗ってる港岳彦が脚色し、近年もコンスタントに監督作品を発表している金子修介がメガホンを取った。
金子監督のファンなので、監督作品は大抵観ているのだが、2012年の「百年の時計」(これも港岳彦脚本)が面白かったのを除けば、ここ数年の作品はどれもいま一つの出来で、一部はごく小規模公開だったり、いつの間に公開されたかも判らない作品もあった。
そんな所に登場した本作、あまり期待しないで観たのだが、これが本当に久しぶりの、いかにも金子監督らしい秀作だった。観て良かった。
(以下ネタバレあり)
物語は一言で言うと、“完全犯罪クライム・サスペンス・ミステリー”。刑事コロンボでお馴染み、犯人が殺人を犯すシーンから始まる“倒叙ミステリー”である。犯人・東昇は警察に疑われないよう、周到に計画を立て、完全犯罪を企んでいる。しかも東は大手企業のオーナー夫妻の娘婿でリッチな生活ぶり。この犯人像もコロンボではお馴染み。
一応刑事(江口洋介)は登場するが、コロンボや古畑任三郎のような頭の切れる名刑事ではない。代りに東の犯罪を暴き追い詰めるのが、なんと13歳の子供たち、というのが異色である。このアイデアが秀逸。
金子監督と言えば、2006年の「DEATH NOTE デスノート」2部作でも、完全犯罪を企む知能犯・夜神月(ライト)と、天才的名探偵エルとの対決をスリリングに描いて秀作に仕上げており、私はコロンボに似ていると評価した。そういう意味では、本作の監督には打ってつけである。
冒頭で、東昇が義父母を崖の上から突き落とすシーンが登場するが、そこから時間が遡って、3人の少年少女、朝陽、夏月、その兄の浩に関するエピソードが描かれる。
朝陽は母・香(黒木華)が父・一平(北村一輝)と離婚し、朝陽は母と暮している。母は生活費と朝陽の学資を稼ぐ為、夜遅くまで働いている。
そんな時、朝陽の同級生で今は隣町に引っ越していた浩が、父の再婚相手の娘である夏月と一緒に朝陽の家にやって来る。夏月が浩の父からレイプされそうになり、包丁で父を刺して逃げて来たのだと言う。もしかしたら殺してしまったのかも知れない。
3人は大人の目から逃げるように、海辺を彷徨う。「私の写真を撮って」と言う夏月の依頼で、朝陽は写真を撮ろうとするのだが、間違えて動画モードになっていた。ところがその映像に、崖の上から一人の男が2人の人間を突き落とす姿が写っていた。これが冒頭の東昇の殺人だったというわけである。
また、“夏月の写真”がラストの伏線にもなっている。
目撃されただけでは、誰かに見られたとしても事故なのか故意なのか判断は難しい。人間の記憶は曖昧だからだ。だが映像に残っていれば、拡大すれば殺人の証拠となり得る。この設定がいい。
3人はこの映像データをネタに、東を脅迫する。朝陽はなかなか頭が切れ、東を巧みに翻弄する。
物語はこの後、東昇と朝陽、二人の虚々実々の駆け引き、頭脳合戦の様相を呈して行く。スリリングな展開に目が離せない。
ここから後はネタバレになるのであまり書けないが、とにかく物語は二転、三転、どう転んで行くのか予想がつかない。ミステリーとしてもなかなか上出来である。
この展開と並行して、朝陽と夏月の淡い恋模様も描かれる。共に父親に裏切られたり酷い仕打ちをされたという共通点もあり、二人の気持ちは急速に接近する。ここも丁寧に描かれており、青春映画の味わいもある。
完全犯罪を企み、冷酷に殺人を繰り返して行くサイコパス的犯人東昇を演じた岡田将生も役柄に絶妙に嵌まっている。その東と対等に渡り合う朝陽。終盤の出し抜き合い、騙し合いの対決はこの作品の白眉。そう来たか、と驚かされる。
ラストもいい。完全犯罪が成立し、これでもう安泰…と思った所に、思わぬほころびが生じて破綻…というエンディングは完全犯罪ミステリーものの王道であるが、本作はその犯人像を捻ってあるのが秀逸。最後まで楽しめた。
朝陽を演じた羽村仁成が素晴らしい。後で思い出したが、「リボルバー・リリー」でリリーが守る少年慎太を演じた俳優だった。あの作品では演技が拙いように見えたのだが、本作では見違えるような好演。夏月役の星乃あんなもナチュラルな演技で、将来が楽しみだ。
少年少女ものを描かせては定評のある金子修介監督、若い俳優たちから自然な演技を引き出す演出ぶりは相変わらず見事である。
舞台が沖縄というのもいい。沖縄の風景とカラッとした空気感がドライな完全犯罪描写にマッチしている。撮影を担当したのは北野武監督作品のキタノ・ブルーでお馴染みの柳島克己。本作ではやや緑がかった映像で、これもいい。そう言えば柳島が撮影を担当した北野監督の「3-4x10月」及び「ソナチネ」でも沖縄ロケを行っていて、これらの撮影も見事だった。適任と言えよう。
ミステリー(特に完全犯罪もの)ファンにはお奨めの、金子修介監督久々の快作である。 (採点=★★★★)
(付記)
エンドロール後にもちょっとしたサプライズ(と言うかイタズラ?)があるので注意。でもあまりヒットしていないようだから続編は難しいかな ?
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コメント
金子修介監督のファンなので見ました。
ドラマ化もされた中国の小説を舞台を沖縄にうつして映画化。
岡田将生がサイコパスの殺人者を演じますが、中学生の少年たちが殺人者と対等に渡り合うのは驚きます。
とはいえ人がばたばた死ぬので苦手な人は注意。
金子監督らしく演出が冴えているので一気に見せられましたが、後味はあまりよくないかなあ。
投稿: きさ | 2024年4月 1日 (月) 11:02
◆きささん
最後のセリフのないワンカットだけで、完全犯罪が崩れ去る、というシャれたオチは、日本映画には珍しいですね。アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」を思い出しました。
確かにいっぱい人が死にますが、犯罪ミステリーに連続殺人はつきものですから、割り切って楽しめばいいと思いますよ。
投稿: Kei(管理人 ) | 2024年4月20日 (土) 21:18