「ゴジラ-1.0/C」 (VOD)
昨年11月に公開され、大ヒットを記録したばかりか、アメリカのアカデミー賞では日本映画初となる視覚効果賞まで受賞した「ゴジラ-1.0」。その進撃は留まる所を知らず、アカデミー賞効果もあって、現在も続映中だ。
そして今年1月12日には、モノクロ映像版の本作が公開された。観に行きたかったが時間が合わず、見逃してしまった。残念。
ところが、この5月3日から、AmazonPrimeでこの作品のカラー・オリジナル版と併せてモノクロ版も見放題配信される事になった。これは有難い。
という訳で、早速観る事にした。以下はモノクロ版を観ての感想。
作品そのものは、映像がモノクロになった以外に変わった所はない。但し冒頭の会社マークは、カラー・シネスコの東宝マークが出た後、モノクロ・スタンダードの東宝マークが出る。
おそらく1954年公開の第1作当時のものを使っているのだろう。芸が細かい。
作品内容と感想についてはカラー版の記事で既に書いたので、ここでは割愛する。
モノクロになった分、戦後の混乱期の様子がよりリアルに感じられた。昭和20~30年代の古い日本映画を観ているような気分である。これは予想外の効果だ。
それとカラー版でストーリーや人物設定は把握済みなので、細部のディティールもより細かく観察する事が出来た。
そして大戸島にゴジラが初めて登場するシーン、これが凄く怖い。夜なので、暗闇をバックにゴジラが動くシーンは、第1作を最初に観た時の怖さが蘇えって来て体が震えた。
思えば第1作でゴジラが暴れるシーンも、ほとんどが夜だった。得体の知れぬ怪物が現れ、人々を恐怖に陥れるシーンは、夜の方が適している。モノクロである事で、その恐怖感はさらに倍増する。
改めて観ても、このシーンのVFXは圧巻である。ゴジラが兵士をパクッと加え、放り投げるシーンは、本当にそこにゴジラがいるようなリアリティを感じた。小さな子供なら泣きだすだろう。
よく見れば、ゴジラの口の中で唾液が糸を引いているのが見える。最初に観た時は気付かなかった。実に細かいVFXだ。
その後敷島が日本に帰って来て、空襲で焼け野原となった東京の風景を観るシーンも、モノクロゆえ余計リアル感がある。
ゴジラが銀座に現れ、大暴れするシーンも、第1作の同様のシーンが思い出され、迫力と恐怖感はカラー版よりも勝っていると言える。
…といった具合で、最後まで緊迫感が途切れぬまま、怖いゴジラを体感する事が出来た。劇場で観たならもっと怖かっただろう。
思えば、1960年代、カラー全盛の時代であっても、サスペンス映画に関してはモノクロ作品が結構多かった。例えば松本清張原作の「黒い画集・あるサラリーマンの証言」(60)や「ゼロの焦点」(61)、「霧の旗」(65・山田洋次監督!)などはみんなモノクロだった。黒澤明監督「天国と地獄」(63)がもしカラーだったら、あれほどスリリングな緊迫感を味わえたかどうか。サスペンスフルな映画には、モノクロ映像が似合う。本作もそれを実証したと言えるだろう。
もっとも、70年代以降はさすがに松本清張作品でもカラー作品ばかりになってしまったが。
本作はまた、1954年の第1作へのリスペクト愛が強い作品だったので、その意味でもモノクロ版を作ったのは正解だった。
エンドロールの最後に、“In memory of 阿部秀司 (1949-2023)”の字幕があったのにも感動した。カラー版が公開された時にはまだご存命だったので(12月11日逝去)そこにはなかったが、今回の配信に合わせて追加したのだろう(カラー配信版にもこの献辞はあった)。素敵な事である(1月の本作劇場公開時にもあったのだろうか)。
そう言えば米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した時、山崎監督が受賞スピーチで「天国の阿部秀司さん、俺たちはやったよ!」と述べていた事を思い出す。この作品は、本作のエグゼクティブ・プロデューサーであり、山崎貴監督の育ての親でもある阿部秀司さんを称え追悼する作品とも言えるだろう。 (採点=★★★★☆)
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