映画本「『カサブランカ』 偶然が生んだ名画」
「カサブランカ」と言えば、映画史に残る名作として知られ、古い映画ファンならベストの1本に必ず挙げるでしょう。
私もそうで、映画館で何度も観ましたし、DVDも購入して時々鑑賞しますし、テレビ放映があればつい観てしまうほどのファンです。なので、この本のタイトルを観て、すぐに入手して読みました。
これが、予想以上に面白い!。あまりに面白いので、夢中になって一気に読んでしまいました。
内容は以下の通りです。
第1章が映画「カサブランカ」の成立から撮影開始に至るまでの経緯と完成後の反響
第2章では、プロデューサー、監督、脚本家、主な出演者のプロフィール、並びに作品参加に至るまでの経緯について詳細に解説
第3章では原作戯曲の登場人物、簡単なストーリー、そして映画との相違点について解説
第4章では、本作が作られた当時の時代背景と映画との関連、映画の構成、細部における工夫の数々についての分析
そして最終章では、本作がなぜ映画史に残る永遠の名作となったのか、その理由について著者自身の見解
これだけ見てても、相当の参考文献を集め、かなりの時間をかけて書き上げた事が想像できますが、瀬川氏の文章も丁寧で分かり易く、読み進めると面白くてやめられなくなります。
本作誕生の経緯は、まずブロードウェイの芝居を書く事が夢だったマリー・バーネットという男性と、上流階級に属するジョーン・アリスンという女性がバーネットの戯曲脚本を通して知り合い、やがて二人は共同で創作活業を始める所から始まります。
1938年、ナチス・ドイツがヨーロッパ各国への侵攻を開始すると、バーネットはナチスの脅威を訴える戯曲を書こうと決心し、二人で何度も改稿を重ねた結果、「カサブランカ」の元となる戯曲「誰もがリックの店に来る」が完成します。
しかしここからが難産、舞台化が進まず、時間が経過するうち、41年になって映画化の話が持ち上がりますがここでも難航します。
ところが41年12月、日本軍が真珠湾攻撃を行った翌日にその脚本がワーナーの脚本部に届き、アメリカの参戦でハリウッドも戦争に関する映画を作るべく動き出したタイミングで、「誰もがリックの店に来る」はその流れに一致するという事で急速に映画化が進む事となります。作品にナチス批判が込められている事も後押しとなりました。
運命というものは分からないものですね。日本の真珠湾攻撃がなかったら、もしかしたら本作は陽の目を見なかったかも知れません。
ワーナーはこの原作を2万ドルで買い取ります。バーネットとアリスンにとっては大金だったので有頂天になり、契約の中身も読まないままサインし小切手を受け取ります。これは大失敗でしたね。映画は後に膨大な利益を生み出したにも関わらず、二人には以後1ドルも利益配分は入って来なかったのですから。
この後も、複数の脚本家によって脚本が何度も書き換えられ、その為脚本が完成しないうちに撮影はスタート、撮影現場が混乱したり、イルザを演じたイングリッド・バーグマンが脚本到着の遅れに不満たらたらだったりといった面白いエピソードが満載です。
その他、原作者マリー・バーネットとジョーン・アリスンのその後や、続編の計画があった事、本作にオマージュを捧げた作品やパロディ作品一覧なども楽しく読めます。第3章では原作戯曲の中身についても紹介されており、映画化においてどう改変されたかが解るようになっています。
まだまだ面白い話がありますが、あまり書くとこれから読む人の楽しみを奪う事になりますので、このくらいにしておきます。
少しだけ付け加えると、本書のタイトルにあるように、この映画にはさまざまな偶然が重なって、作品的にも認められ、興行的にも大成功を収め、映画史に残る名作になったという事です。先に述べた日本軍による真珠湾攻撃のタイミングもそうですが、公開されたちょうどその時期、カサブランカという地名が戦局の重要なポイントとなって知名度が一気に上がるなど、運命の不思議な巡り合わせを感じざるを得ません。
本書の帯カバーには右のように、バーグマンが、「カサブランカ」は代表作に選びたくないと答えたとありますが、その理由も本書には詳しく書かれています。
なお先にバーネットとアリスンには当初の原作料以外に金が入らなかったと書きましたが、その後著作権法の改正により、お二人には相応の金額がワーナーより支払われ、原作の舞台上演も認められたとの事です。良かったですね。
とにかく面白いです。映画「カサブランカ」のファンなら絶対お奨めです。これを読んで、改めて映画を観ると、面白さ、楽しさが倍加する事請け合いです。
著者の瀬川氏にも感謝したいですね。これまであまり存じ上げませんでしたが、略歴を読むと、「ビリー・ワイルダーのロマンチック・コメディ」など、本作と同じように楽しめそうな著作が多数あるので、それらも読みたくなりました。探してみようと思います。
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