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2024年7月22日 (月)

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」

Flymetothemoon 2024年・アメリカ   132分
製作:アップル=コロムビア映画
配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
原題:Fly Me to the Moon
監督:グレッグ・バーランティ
原案:ビル・カースタイン、キーナン・フリン
脚本:ローズ・ギルロイ
撮影:ダリウス・ウォルスキー
音楽:ダニエル・ペンバートン
製作:キーナン・フリン、サラ・シェクター 、スカーレット・ヨハンソン、ジョナサン・リア
製作総指揮:ロバート・J・ドーマン

1969年の人類初の月面着陸に関し囁かれる捏造説を題材にしたドラマ。監督は「Love, サイモン 17歳の告白」のグレッグ・バーランティ。出演は「ブラック・ウィドウ」のスカーレット・ヨハンソン、「ザ・ロストシティ」のチャニング・テイタム、「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」のウディ・ハレルソン。コロムビア・ピクチャーズ100周年記念作品。

(物語)1969年、アメリカ。人類初の月面着陸を成功させる国家的プロジェクト「アポロ計画」の開始から8年が過ぎ、失敗続きで予算は膨らむ一方のNASAに対して国民の関心は薄れつつあった。そこでニクソン大統領の側近モー(ウディ・ハレルソン)はこのプロジェクトを全世界にアピールする為、PRマーケティングのプロフェッショナルであるケリー(スカーレット・ヨハンソン)をNASAに雇用させる。ケリーは月面着陸に携わるスタッフによく似た役者たちをメディアに登場させ、偽のイメージ戦略を仕掛けて行くが、NASAの発射責任者コール(チャニング・テイタム)はそんな彼女のやり方に反発するものの、やがて月面着陸が全世界注目の話題となり、盛り上がって行く。そんなある時、モーはさらに驚きの極秘ミッションをケリーに託す…。

ポスター、チラシに「人類初の月面着陸、リアルか、フェイクか」とはっきり書かれているので、ネタバレにはならないだろう。これは1969年のアポロ11号の、世界初の人類月面着陸は捏造だ、とする噂をモチーフにした奇想天外なコメディである。

捏造説は数多くあり、中には前年に「2001年宇宙の旅」を監督したスタンリー・キューブリックが映像を作ったなどとまことしやかに噂されたものまである。

1977年には、捏造説を題材にしたSF映画「カプリコン・1」(ピーター・ハイアムズ監督)も製作された。これはなかなかサスペンスフルで面白かった。着陸先が月ではなく火星だったが。

ポスターのキャッチコピーから、本作も「カプリコン・1」と同じく、実際には月に着陸しなかった捏造説ものだと最初は思ったが、ちょいと捻りを効かせてあるのが面白い。なるほど、そう来たか。

(以下ネタバレあり)

本作が面白いのは、主要な3人の登場人物、スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソン、それぞれのキャラクターがくっきりと色分けされ、それぞれのぶつかり合いがドラマを牽引して行く構図となっている点。

スカヨハ扮するケリーはプロのPRマーケッターだが、目的の為には平然と嘘を言ったり、巧妙にハッタリや虚実織り交ぜ相手をケムに巻く、したたかな行動ぶりを見せる。冒頭の会議シーンからして、お腹の大きな妊婦姿で登場するが、それもフェイクだった。名前も偽名である。

つまり彼女の人生はほとんど嘘(フェイク)だらけなのである。

そんなケリーの手腕に目を付けたのが、ニクソン大統領の側近モーである。宇宙開発競争でソ連に後れを取り、予算は膨らむし、国民の関心も薄れて来ている。そんな状況の中で、国家的プロジェクトを全世界にアピールするには、ケリーのフェイクお構いなしのPR戦略が適任と考えたモーは、彼女をNASAに送り込む。期待通りケリーは「アポロ11号の宇宙飛行士たちをビートルズ以上に有名にする」と公言し、NASAのスタッフによく似た役者たちをテレビやメディアに登場させ、堂々フェイク交じりのイメージ戦略を仕掛けて行く。

そしてモーは、失敗が許されない月面着陸計画において、万一の場合のバックアップ手段として月面からの中継映像を地上のセットを使って撮影する、つまりフェイク映像を用意しろとケリーに命じる。ケリーは早速一人の映画監督を雇って撮影の準備を進めて行く。

目的の為には手段を選ばない政府エージェントのモーを演じるウディ・ハレルソン。その強持てな顔と態度で、いかにもこんな裏で暗躍する政府関係者、いそうだなと思わせてくれる。適役だ。後にウォーターゲート事件で辞任する事になるニクソン大統領の側近だから、余計胡散臭く見える(笑)。

そんなフェイクお構いなしの二人に対し、チャニング・テイタム扮するNASAの発射責任者コールは、実直、真面目を絵に描いたような堅物である。当然、は大嫌い。
そんなコールがひょんな事からケリーと知り合い、お互いに惹かれ合うが、平気でフェイク交じりのPR戦略を実行して行くケリーの仕事ぶりには当然ながら反撥する。
融通の利かない真面目一徹のコールを演じるチャニング・テイタムも役柄に嵌まった好演ぶりを見せる。

そんなコールと心の交流を重ねるうち、次第にケリーの心境にも変化が訪れるようになる。
子供の頃からの過酷な人生経験を経て、生きる為にはフェイクでも何でもあざとく利用して来たケリーだが、コールの誠実な仕事ぶり、考え方に触れて、これまでの自分の嘘で固めた人生に疑問を感じるようになる。そして、本物の月面映像を地上に送るべく撮影機材の点検など入念な準備を進めて行くコールを、何とか助けてあげたい、と考えるようにもなる。

いよいよアポロ11号発射の直前になって、カメラ機材の不備が見つかり、テレビの部品を探さなければという事になり、それを聞いたケリーがNASA職員を連れて電器店探すべく車を猛スピードで走らせるシーンがある。
ケリーが、コールの夢の実現の為に協力しようと一念発起する重要なシーンだが、電器店が休みだと知るとケリーが躊躇なくガラスをぶち破ったり、通報で駆け付けた警官を巧みに説得してNASAまで先導させる等、いくらなんでもそりゃあり得んだろうというシーンが続くのも狙いだろう。実話をベースにしているが、これはフィクションであり、コメディですよと明言してるわけである。

そしてクライマックス、月面着陸に合わせてフェイク映像を撮影しているシーン、2台のモニター画面にはフェイク映像と本物の映像が並んでいるが、どちらがどちらか見分けがつかない。モーも立ち会っているが、ハナから本物の映像を使う気はないようだ。
そこに黒猫が紛れ込んで大混乱となる。放送事故なんて生易しいいものじゃない。フェイクがバレれば国家の威信は完全に地に落ちるからだ。それこそ、月面着陸は捏造だと騒がれかねない。
果たして今全世界に放映されているのは、フェイクの方か、リアルな月面映像か…ハラハラさせられる。結果は、ご覧の通り。ここでは書かない。

前半で、何度か黒猫が登場し、「黒猫が横切ると不吉な事が起きる」との俗説を職員が囁き合ってたが、なるほど、これが伏線だった訳だ。


面白かった。捏造説をうまく取り入れて、笑わせ、ハラハラさせて、最後はロマンチック・コメディとしてうまく纏めている。

この物語が良く出来ているのは、キャッチコピーにもある“リアルか、フェイクか”は、月面映像が捏造されたフェイクか、リアルな映像か、という一番のポイントとは別に、ケリーのフェイクな生き方と、コールの真面目で真実(リアル)重視の生き方との対比をも示している点である。

コールと出会う事で、フェイク一筋に生きて来たケリーも心動かされる。そして最後に、月面着陸映像についてもフェイク映像はリアル映像に打ち負かされるし、ケリーもフェイクな生き方を捨てて、コールとの真実の愛に生きる決意をする。どちらの場合も、リアルがフェイクに勝利するのである。

フェイクニュースがまかり通り、AIによる偽(フェイク)画像がSNSで拡散される、今の時代状況に対するアイロニーも込められている気もする。

NASAの全面協力も得て、アーカイブ映像やスプリット・スクリーン(画面分割)等のテクニックも応用し、アポロ11号発進、月面着陸までをダイナミックかつスリリングに描くグレッグ・バーランティ監督の演出もなかなか達者である。まったく知らなかった監督だが、今後は注目していいだろう。

秀作とまでは言えないが、ウエルメイドな楽しめる娯楽映画としては十分及第点をあげられる。古いハリウッド・ロマンチック・コメディがお好きな方には特にお奨めである。  (採点=★★★★

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ところで脚本のローズ・ギルロイ、初めて聞く名前だが調べると、父は「ナイトクローラー」の脚本・監督で知られるダン・ギルロイ、母は俳優のレネ・ルッソ。本作は脚本デビュー作との事。

ダンの兄トニー・ギルロイも「ボーン・アイデンティティー」シリーズや「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」の脚本家として活躍しており、さらにトニー、ダン兄弟の父はピューリツァー賞受賞経験のある脚本家のフランク・D・ギルロイ、と、なんと錚々たる脚本家一族である。血は争えないという事か。
ローズ・ギルロイも今後注目しておこう。

 

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コメント

これは面白い映画でした。
スカーレット・ヨハンソンは制作も兼ねているし、クレジットもトップ。
綺麗に撮られているし役柄もいい。
衣装もいいしスカーレット・ヨハンソンファンには必見。
チャニング・テイタムも堅物ながらヨハンソンに惹かれていくという型どおりの役を好演していました。
ラブコメディとして良く出来ていますが、スクリューボールコメディというにはひねりが足りないかな。
とはいえそこがこの映画の良さでもあります。
素直な話なので楽しく見れます。
悪役のウディ・ハレルソンの演技も楽しい。
ラストの展開は楽しかった。
大活躍する黒猫はクレジットによると3匹の猫が演じていますが、撮影は大変だったでしょうね。
誰にでも楽しめる映画なので年に4、5本しか映画見ないという人にもお勧めです。
まあ、アポロは月に行かなかったと信じている人は楽しめないかもしれませんが。
トランプがまた大統領になるかもしれないからこそ、リアルがフェイクに勝利すると信じたいですね。
脚本家はレネ・ルッソの息子なんですか。
脚本家一家ですね。

投稿: きさ | 2024年7月23日 (火) 11:40

◆きささん
黒猫は助演賞ものですね。大笑いしましたよ。
バイデン大統領のヨボヨボぶりにもしトラがほぼトラ→確トラとまでいわれてましたが、ハリスが意外な人気で、もしかしたら大逆転もありかもですね。「ハリスの旋風」だなんて言ってる人もいます(笑)。ちなみにちばてつやの漫画です。

あ、ローズ・ギルロイは息子じゃなくて、レネ・ルッソの娘さんです。

投稿: Kei(管理人 ) | 2024年7月25日 (木) 17:08

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