「温泉シャーク」
(物語)市長の万巻(藤村拓矢)が主導する複合型巨大観光施設の建設が進むS県暑海(あつみ)市。ある日、温泉客が忽然と姿を消す連続失踪事件が発生。被害者はその後、海でサメに襲われた遺体として発見される。捜査に乗り出した警察署長・束伝兵衛(金子清文)と海洋生物学博士・巨勢真弓(中西裕胡)は、古代から蘇った獰猛なサメが暑海各地の温泉を自由に行き来し、人々を襲っている事実を突き止める…。
この所観たい映画がなかなか見当たらない。マーベルコミックは最近見る気をなくしているし、映画館はアニメに占領されているし、後はアイドル主演映画とか観る気の起きないものばかり。
本当は九条シネ・ヌーヴォで開催中の「新東宝まつり」を観に行きたいのだが、家からはかなり遠いので、働いていた時は仕事帰りに何とか行けたが、リタイアしてからはちょっと無理。
そんな時、たまたま時間があってこの作品に触手が動いた。「温泉シャーク」という題名からしておバカ映画確定。私は結構この手のおバカ映画が好きである。しかも日本映画。
日本製おバカ映画と言えば、このブログでも井口昇監督の「片腕マシンガール」や「ロボゲイシャ」をレビューして来たし、河崎実監督「いかレスラー」、「かにゴールキーパー」、「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」なんかもお気に入りである。
最近はこのお二人の作品がちょっと低調気味で、これといったおバカ映画がなかったので、監督についてはまったく知らなかったが観る事にした。
(以下ネタバレあり)
「ジョーズ JAWS」以降、サメ映画は超大作からZ級おバカ映画まで無数に作られて来た。「ディープ・ブルー」(1999・レニー・ハーリン監督)や「ロスト・バケーション」(2016・ジャウム・コレット=セラ監督)等の良作もあれば、おバカ映画の方ではロジャー・コーマンが製作した、サメとタコ合体の「シャークトパス」シリーズ、さらにはフランケンシュタインと合体の「シャーケンシュタイン」(2016・マーク・ボロニア監督)なる珍品まで、そのレパートリーの広さには呆れるほどである。
そのほとんどは外国製で、日本製のサメ映画もない事はないが、ほとんど話題になっていない(注)。本作は劇場によっては満席になったり、拍手が巻き起こっているとの事。そういう評判が立つだけでも観たくなる。
舞台は多くの観光客が訪れる温泉名地・暑海(あつみ)市。無論、熱海市がモデル。ここで、温泉客がこつ然と姿を消す失踪事件が連続して発生、その後海岸で死体となって発見された。
メインタイトルの前に、温泉に浸っていた女性の後ろに突然サメが現れるシーンがあるので、当然失踪事件の犯人はサメだと観客には知らされている。
しかしどうやって、海から離れた建物の中の温泉にサメが現れたのか、と言えば、正体は絶滅したはずの古代サメで、その身体は柔らかく変形出来るので、給湯管の中を通ってやって来た、というわけ。
この発想には笑った。そんなアホなと文句を言ってたらこの映画は楽しめない。しかも、そのうちにサメはアスファルトの地中でもスイスイ泳ぐようになる。お前は「4Dマン」か、とツッ込んでしまった(古いネタで御免。「4Dマン」を知らない方は映画検索サイトで調べてください)。
もう徹底的におバカ映画のパターンである。こういう映画に慣れていないと退いてしまうだろう。
しかしこの映画が凡百のおバカ・サメ映画と異なるのは、意外とストーリーがきっちりとよく練られている点である。
サメ映画の傑作にして頂点とも言うべきスピルバーグ監督の「ジョーズ JAWS」のストーリー構成を巧みに換骨奪胎、まず海岸でサメが目撃される→やがて犠牲者が続出し、パニックになる→潜航艇に乗った数人で海に出てサメと対決→最後にサメを退治して大団円…
とまあ大まかな所はほぼ踏襲、しかし細部にいろいろと工夫を凝らしているし、「ジョーズ」へのリスペクト・オマージュもあちこちに盛り込んでいるのが楽しい。
最初にサメのヒレが現れるシーンでは、ジョン・ウィリアムズ作曲の「ジョーズのテーマ」と似た旋律が流れるし、主要登場人物が観光施設誘致に熱心な市長、警察署長、そして海洋生物学博士、と「ジョーズ」の登場人物とほぼ同じだが、警察署長がサメに噛まれて退場、変わってサメ退治に出かけるのが頼りないと思われていた万巻市長と女性生物学博士の巨勢、それに謎のマッチョマン、とちょっと捻ってある。
サメが次第に狂暴化し、街や交通網も破壊され、自衛隊も歯が立たず、大勢の市民が逃げ惑う、という流れは初期東宝怪獣映画へのオマージュである。逃げる群衆は結構な数のエキストラを使っている。
サメ退治の為の潜航艇が、なんと3Dプリンターで作られるというのにも大笑い。
そして終盤の潜航艇対サメとの対決シークェンスでは、なんと数百匹ものサメの大群が登場。ショボいながらもCGをフル活用して、ちゃんと見せ場を用意してあるのがエラい。
よく見ればサメのエラが温泉マーク(♨)になっている(笑)。
ここでマッチョマンが大活躍、水中を泳ぎながら素手でサメをボコボコにする。まるで「アクアマン」だ(笑)。
ようやく退治した所に、真打ちとも言うべき頭に王冠(?)がある巨大なボスザメが登場、マッチョマンとの一対一の対決となるのは、ジェイソン・ステイサム主演の「MEG ザ・モンスター」のパロディか。
大群との戦いの後、キング・モンスターとの対決という流れは「エイリアン2」オマージュっぽい。あっちはクイーンだったが。
こんな具合に、結構スペクタクルな見せ場あり、いろんな洋画のパロディありと、サービス満点、おバカ映画とは思えない程よく出来ている。
何より、作者たちが過去のサメ映画、怪獣映画、特撮映画を丹念に研究し、限られた予算の中で面白い映画をどう作るか、それらを熟慮した上で、あえてチープであるかのように見せかける事で、逆に最後に予想外のカタルシスを呼び込むよう周到に考えられている。変な言い方だが、おバカ映画を一生懸命真面目に作っている。その製作姿勢には感動を覚える。
少なくとも、「シャーケンシュタイン」や「シャークネード」のようなトホホ・サメ映画よりはずっと面白い。
脚本・監督の井上森人についてはまったく知らなかったのだが、調べたらお笑いコンビの一人で、現代美術界隈でコント活動も行い、第23回岡本太郎現代芸術賞に史上初のコントで入選するという変わった経歴の持ち主。しかも映像作家としても活躍、全国自主怪獣映画選手権東京総合大会にて、大会初の2連覇を果たしたというから凄い。
そしてこの映画の製作費を調達する為、クラウドファンディングを募ったら、100万円の目標額に、なんと1,000万円を超える資金が集まったというから大したものだ。既にファンが大勢いるのかも知れない。
井上監督は本作で遂にメジャー・デビューを果たしたわけだが、おバカ映画に留まるのはもったいない。出来れば東宝辺りがスカウトして、もっと予算をかけたサメ映画や怪獣映画を作らせたら面白いと思う。…もっとも、三木聡監督に予算をかけた「大怪獣のあとしまつ」を作らせて失敗した例もあるので、少し予算をかけたおバカB級映画くらいの方が本人には合っているかも知れないが。
採点は、将来への期待も込めて。 (採点=★★★☆)
(注)
過去に作られた、日本製サメ映画を探してみた。
2009年の、その名も「JAWS IN JAPAN ジョーズ・イン・ジャパン」(監督: ジョン・ヒジリ)。DVDは出てるが正式には劇場公開されていない。
Gカップの巨乳アイドルが砂浜で戯れるだけで、サメは最後にチョロっと出て来るだけらしい(笑)。題名負けしてるぞ。
KINENOTEの採点は100点満点で9.9点(笑)。内容は推して知るべしだろう。
「妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク」(監督:坂本浩一)。2023年に一部の劇場で公開。
題名通り江戸時代を舞台に忍者とサメが闘う時代劇アクション。なんとゾンビも出て来る、何でもありのゴッタ煮ホラー・スプラッター時代劇。
監督が「仮面ライダー」、「ウルトラ」シリーズを数多く撮って来た坂本浩一なので、それなりに見られる作品になっているらしい。
予告編観ても面白そうだ。しかしほとんど話題にならなかったのは、時代劇忍者アクションか、サメ・パニック映画かどっちつかずになったせいかも知れない。
AmazonPrimeでは有料配信しているようなので、暇があればどうぞ。
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