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2024年8月 5日 (月)

「ディメンシャ13」 (1963)  (VOD)

Dementia133 1963年・アメリカ   75分 (日本未公開)
製作:アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ(AIP)
原題:Dementia 13
製作:ロジャー・コーマン
監督:フランシス・フォード・コッポラ
脚本:フランシス・フォード・コッポラ
撮影:チャールズ・ハナウォルト
第二班監督:ジャック・ヒル
音楽:ロナルド・スタイン

フランシス・フォード・コッポラがロジャー・コーマンのプロデュースにより脚本・監督を手掛けたホラー映画。コッポラの実質劇場映画監督デビュー作である。出演はロジャー・コーマン監督「栄光のレーサー」のウィリアム・キャンベル、ルアナ・アンダース、パトリック・マギーが引き続き出演。テレビ放映時の題名は「死霊の棲む館」


B級映画の帝王、ロジャー・コーマンが今年の5月9日、98歳で亡くなった。

私はコーマンが映画史に残した功績を高く評価しているので、追悼で何か観る作品はないかとAmazonPrimeで探していたら、これを見つけた。コーマンの元で修行していたコッポラが、コーマンから監督を任された、本格監督デビュー作である(但しそれ以前に三流ポルノ映画を3本監督している。詳しくは後述)。

以前、ピーター・ボグダノビッチがやはりコーマンの元で修行していた時に、コーマンが買い付けたソ連製SF映画にお色気シーンを追加するようコーマンに命じられ、ボグダノビッチが追加撮影して公開された映画「金星怪獣の襲撃 新・原始惑星への旅」についてレビューしたが、フランシス・F・コッポラも同じようにコーマンに命じられ、ソ連製SF映画にヘンテコな怪獣が登場するシーンを追加撮影して「燃える惑星 大宇宙基地」として完成させた。

そして二人とも、これらの仕事ぶりが認められ、コーマン製作により、ボグダノビッチは「殺人者はライフルを持っている!」(68)で、コッポラは本作でそれぞれ監督デビューを果たす事となるのである(但し監督デビューはコッポラの方がボグダノビッチより5年早いが)。

二人とも、似たような経過を辿ってコーマンにシゴかれ、才能を認められ、コーマンの後押しで監督デビューを果たしたわけで、ロジャー・コーマンが若手監督を発掘する才に長けた名プロデューサーだった事がこの事実からも分るだろう。謹んで哀悼の意を捧げたい。


さて、そこで本作だが、これの製作経緯もいかにもコーマンらしい。コーマンは1963年、ヨーロッパを舞台にした「栄光のレーサー」を製作・監督するのだが、この撮影がアイルランドのダブリンで終了した際に、この作品で録音技師、第二班監督を務めたコッポラに、「私が2万2千ドルの製作費を出すから、ここ(ダブリン)を舞台にしたヒッチコックの「サイコ」(60)のようなホラー映画を自分で脚本を書いて監督しろ」と命じるのである。

一説には「栄光のレーサー」の製作予算が2万2千ドル余ったので、コーマンがこれを使ってもう1本映画を作ろうと考え、当人が忙しいのでコッポラに任せたとも言われている。いずれにせよ、コッポラの働きぶりを評価しての抜擢であるのは間違いない

監督デビュー出来ると勇んだコッポラは、3日で脚本を書き上げ、「栄光のレーサー」に出演していたウィリアム・キャンベル、ルアナ・アンダース、パトリック・マギーらを本作にも出演させ、コーマンが期待するホラー映画を作り上げた。

なお、クレジットではミドルネームはなく、「フランシス・コッポラ」と表記されている。

(以下ネタバレあり)

(物語)アイルランドの裕福な一家・ハロラン家は、7年前に死んだ末娘キャスリーンを追悼する為、毎年命日に家族全員でハロラン城に集まり追悼式を行う事になっていた。ハロラン家の次男ジョンと結婚したアメリカ人妻ルイーズ(ルアナ・アンダース)は、生前分配される義母ハロラン夫人(イースネ・ダン)の財産を虎視眈々と狙っていた。ところがある晩、夫婦2人で池でボートに乗っていたところ、ジョンが発作を起こして急死する。夫がいなければ財産分与から外されてしまうので、ルイーズはジョンの遺体を池に沈め、夫の置き手紙を捏造する等偽装工作をする。次に、ハロラン夫人を心理的に操ろうとしたルイーズだが、突然何者かに襲われ…。

映画は、暗い夜の池でルイーズという女性が、夫のジョンと共にボートを漕ぎ出すシーンから始まる。ボートの中ではハロラン家の当主、ハロラン夫人の財産贈与の話をしており、ルイーズはその遺産相続を狙っているようだ。ところが元から心臓の悪かったジョンがボートの中で急死してしまう。贈与の前に夫が死ねばルイーズは財産分与の権利を失う事になる。そこでルイーズは夫を池に重しを付けて投げ込み、ジョンは急用で出張したとの偽手紙を作成し、ジョンが生きているかのように装うのである。

ハロラン家の財産に関する状況を冒頭で要領良く説明し、ルイーズの偽装工作を手際よく描くコッポラ演出はなかなか快調である。

この後の登場人物の紹介もテンポよく進む。ハロラン家には3人の息子がおり、長男リチャード(ウィリム・キャンベル)は前衛彫刻家で、追悼式に合わせて婚約者ケーン(メアリー・ミッチェル)を呼び寄せる。次男ジョンは前述のように急死。三男ビリー(バート・パットン)はどこか神経質で、ビリーが時々キャスリーンと仲良く遊んでいた頃の回想シーンが挟み込まれる。その他夫人の主治医ケイレブ医師(パトリック・マギー)が物語進行上のキーパーソンとなる。

舞台となるのがハロラン城と呼ばれるお城のような大邸宅。おそらくダブリンにある古城でロケしたのだろう。これもゴシック的な雰囲気を醸し出して悪くない。

ルイーズは、迷信深いハロラン夫人を意のままに操ろうとさまざまな工作を仕掛ける。深夜、こっそりとキャスリーンの部屋に忍び込み、キャスリーンが愛用した人形を盗み出して池に沈め、これをハロラン夫人に自分を信用させる道具にしようとするのだが、水中で突然、少女の死体と出会い、驚いて水から上がった所を、現われた謎の人物に斧で惨殺されてしまう。

なんと、主役だと思われたブロンドの美女が途中で殺されてしまうのだ。冒頭の死体を沼に沈めるシーンも含めて、これらは「サイコ」からの明らかないただきである。

その後も池の近くの茂みで猟師の男がやはり少女の死体らしきものを見つけると、こちらも斧で殺されてしまう。切断された首がゴロリと転がるグロいシーンがあるが、これはラッシュを見たコーマンが、残酷さが足りないと第二班監督のジャック・ヒルに追加撮影させた、というのもいかにもコーマンらしい。

さらに、ハロラン夫人がキャスリーンが遊んでいた小屋に行くと、ここでも先のと同じ少女の姿をしたものを見つけ、またまた斧を持った男に襲われ、ハロラン夫人は恐怖のあまり逃げ惑う。

こんな具合に、不気味な少女(の死体?)、正体不明の連続殺人犯人、そいつに斧で襲われるショック・シーンと、コッポラの脚本・演出はホラー映画の要素満載で飽きさせない。

最後にケイレブ医師がすべての謎を解き、犯人の正体が明かされるラストも、「サイコ」を巧みにアレンジしている。

冒頭のメイン・タイトルバックで、マネキンのような人形が池の底に沈んでいるシーンがあったり、ビリーとケーンが池の傍で会話しているとき、ビリーが斧に触れるシーンが意味ありげに登場したりと、伏線も周到にバラ撒かれている。


さすがに、短期間で書かれた脚本、僅か9日間という撮影日数、予算不足という悪条件もあって、細部に辻褄の合わない箇所やアラが目立つのは致し方ないが、コッポラはよくやっていると思う。

なにしろこの映画を撮った時、コッポラは若干23歳!。この若さでコーマンの期待に見事応えているのは大したものである。

AmazonPrimeの画質は以前出ているDVDよりもかなり良好。コッポラのファンには、若き日のデビュー作という事でお奨めである。 (採点=★★★☆

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(さて、お楽しみはココからだ)

本作はコッポラの監督デビュー作という事になっているが、実はその前、1961年のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)在学中に3本のエロ映画(今で言うポルノ映画)を監督している。この時コッポラ21歳。早熟の天才と言えるだろう。

Tonightforsure その内の1本が、何故か我が国に輸入され、劇場公開されている。題名は「グラマー西部を荒らす」。荒れくれ男たちがサボテンの荒野を進んでいる時、突如としてヌード美人が出現するという珍妙な西部劇である。

出演者はヴォードヴィル出身のコメディアン、ドン・ケニーとカール・シャンツァーのコンビで、ヌード美人はヌード・モデル、ストリッパーが本職の女性たちを出演させている。低予算で上映時間も65分ほどのエロ映画であり、コッポラもさすがにこれを監督デビュー作とは認めたくないのだろう。

現在この作品はビデオにもなっておらず、配信される予定もない幻の作品である。私も観ていないので、どこかでビデオ化してくれる事を望みたい。

 

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