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2024年10月 6日 (日)

「拳銃貸します」 (1942) (DVD)

Thisgunforhire 1942年・アメリカ   81分
製作 :パラマウント映画
日本公開:2014年
原題:This Gun for Hire
製作:リチャード・ブルーメンソール 
監督:フランク・タトル 
原作:グレアム・グリーン 
脚本:アルバート・モルツ、W・R・バーネット
撮影:ジョン・サイツ 
音楽:デヴィッド・バトルフ 
衣装:イディス・ヘッド

グレアム・グリーンの原作を映画化した犯罪サスペンス。監督は「ガラスの鍵」(1935)のフランク・タトル。出演は当時新人だったアラン・ラッド、「サリヴァンの旅」のヴェロニカ・レイク、「大平原」のロバート・プレストン、「Hudson's Bay」のレイアード・クレイガー。

アラン・ラッドの実質主演デビュー作で、ラッドの出世作ともなったフィルム・ノワールの佳作。

実は以前に観ているはずなのだがほとんど記憶にない。川本三郎さん著の「サスペンス映画ここにあり」でも紹介されているが、ストーリーを読んでもやはり思い出せない。ただ川本さんの解説が観たいと思わせる素敵な文章だったので、機会があれば観ようと思っていた。

やっと最近、DVDで観る事が出来た。期待通り、なかなか面白い作品だった。

(物語)フィリップ・レイブン(アラン・ラッド)は殺し屋。依頼主・ゲイツ(レイアード・クレイガー)から殺人を請け負い、首尾よく殺しに成功するが、報酬としてゲイツから受け取った金は強盗事件で盗まれたもので、札の番号が控えられていた為、その金を使ったレイブンは警察に追われる事となる。騙された事を知ったレイブンはゲイツを追ってロスに向かう。その列車内で偶然隣合わせとなったのが歌手兼マジシャンのエレン(ヴェロニカ・レイク)。警察が駅で待ち構えていたので、レイブンはエレンを無理やり協力させてその場を逃れる。こうして何度か窮地に陥りながらも、レイブンは復讐の為どこまでもゲイツを追い詰めて行く…。

Thisgunforhire2冒頭のシーンが面白い。安アパートで一人暮らしの殺し屋レイブンは、窓の外にいた猫を部屋に入れミルクをやる。掃除に来たメイドがその猫を乱暴に追い出そうとするやそのメイドの頬を引っ叩く。そしてまた優しく猫を撫でる。孤独で冷酷な殺し屋の性格がよく現れている。
仕事に出かける時は、トレンチコートにソフト帽。このスタイルといい、孤独で動物を可愛がるという性格といい、後のジャン=ピエール・メルヴィル監督、アラン・ドロン主演の「サムライ」とそっくりだ。メルヴィル監督は恐らくこの作品をリスペクトし、引用したのではないだろうか。

Thisgunforhire3ヴェロニカ・レイク(左)扮するエレンの登場シーンも面白い。クラブで、歌いながらマジックを披露する。このマジックがなかなか堂に入っている。一部カットを割っているシーンもあるが、流ちょうかつ鮮やかな手捌きで本職のマジシャンにも引けを取らない。かなり練習したのだろう。このマジシャンという仕事が後の伏線になっているのもうまい。

エレンの恋人が刑事であるクレイン(ロバート・プレストン)。殺しの犯人と睨んだレイブンを執拗に追い詰めて行く。

(以下ネタバレあり)

エレンの人物設定がやや込み入っている。歌手兼マジシャンというショーガールでありながら、実はある議員に依頼され、ナチスと関係があるらしいゲイツに接近して秘密を探る事になる。

エレンはロスへ行く列車の中でたまたまレイブンと隣合わせになるが、二人ともゲイツを追っている事は互いに知らない。その列車に偶然ゲイツも乗っていた、というのは偶然が重なり過ぎでちょっとご都合主義。
ゲイツがレイブンが乗っている事を警察に通報したので、到着駅では警察が待ち構えていた。レイブンはエレンを無理やり道連れにして窮地を逃れる。

主人公が警察の目をくらます為、居合わせた女をカムフラージュに利用する、というのはよくあるパターン。二人での逃避行の途中、レイブンはエレンを殺すべきか迷うが、邪魔が入って、エレンは何とかレイブンから逃げる事に成功する。

ゲイツは実はある化学会社の社長・ブリュースター(タリー・マーシャル)の下で働いていて、その会社は製造した毒ガスを秘密裡にナチス、及び日本に売ろうとしているらしい。レイブンに依頼した殺しもその秘密を知って強請って来た男を抹殺する為だった。
本作が製作されたのが太平洋戦争が始まった翌年の1942年。早速日本を悪者にしているのがアメリカ映画らしい。

ゲイツは列車でレイブンとエレンが隣合わせでいるのを見て、エレンはレイブンの仲間だと思い込み、エレンを自宅に招くと部下に依頼して彼女を縛り上げ、ダムに投げ込んで殺そうとする。
ゲイツが外出した後に彼の家を探り当てたレイブンが現れ、エレンを救い出す。そして二人でクレイン刑事たちに追われながらの逃避行となる。

エレンが途中で、トランプの札をわざと落として行く。それを見つけたクレインが彼女が目印に落としたのだと気付き、その後を追う。彼女がマジシャンという伏線がここで生きて来る。
古い工場から線路沿いの小屋へと逃避行を続けるうち、エレンはいつしかレイブンに惹かれるようになる

小屋の中でレイブンはエレンに、自分の悲惨な人生を語る。父は首吊り、母も死に、育てられた叔母はレイブンに暴力をふるい続けた。叔母に手首にアイロンを当てられたレイブンは叔母を殺した。人殺しと罵られた彼は殺し屋になるしかなかった。エレンは彼に同情し、彼を逃がす手助けまで行う。

警察を逃れ、ブリュースターの会社に侵入したレイブンは、ガスマスクを付けたゲイツの部下に成りすまして彼に近づき、ゲイツを脅して社長室に押し入る。
毒ガスの訓練中だという事で、部下がガスマスクを付けているのがちゃんと伏線になっているのがうまい。

この時代にしては珍しく、リモートコントロールで社長室の分厚いドアを開閉出来るのが面白い。何重ものドアに遮られ警察もなかなか社長室に近づけない。

レイブンはブリュースター社長を追い詰め、悪事をすべて白状させる。ブリュースターは心臓発作で死に、ゲイツもレイブンに撃たれて死ぬ。そこにクレインに率いられた警察が突入する。

レイブンは突入して来たクレインを狙うが、エレンがクレインを必死で助けようとする姿を見て彼がエレンの恋人だと気付き、クレインを撃てず、レイブンは警官に撃たれて倒れる。抱き合うエレンとクレインを見つめてレイブンは死ぬ。


脚本が良く出来ている。伏線や細かい小道具をうまく生かしている。スリリングな展開もあれば、エレンが恋人がいるのにも関わらず、いつしか殺し屋レイブンと心を寄せ合って行くプロセスも丁寧に描かれている。原作が「第三の男」のグレアム・グリーンというのも興味深い。

アラン・ラッドが見事な好演。実はクレジットでは、主演はヴェロニカ・レイクとロバート・プレストンで、ラッドは"Introducing"と、助演扱いとなっている。ラッドは当時まだ無名だったのでこういう序列になったようだ。本作が大ヒットしてラッドも有名になり、以降は堂々と主演作が続く事になる。

役者がみんないい。フランク・タトル監督の演出もテンポよく見ごたえがある。フィルム・ノワールの佳作として評価したい。

ただ邦題「拳銃貸します」がちょっと引っかかる。原題"This Gun for Hire"はそう訳せない事もないが、Hireは「雇われる」という意味もあるので、「この拳銃は雇われたもの」、即ち「殺し屋」という仕事を示したものとするのが正しいと思われる。この邦題では拳銃をレンタルする稼業と勘違いしてしまう(笑)。   (採点=★★★★

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(付記)
Yellowline ところで、映画を観ているうち、これは先日「新東宝 映画まつり」の特集で紹介した、石井輝男監督の「黄線地帯(イエローライン)」とストーリー内容がそっくりであるのに気が付いた。

殺し屋が仕事に成功するが、雇い主の罠に嵌まった事に気づき、雇い主に復讐すべく目的地に向かう。警察の目をくらます為、途中で会った女を道連れにして逃避行を続ける。女は恋人がいるのだが、逃避行を続けるうち、男に惹かれるようになる。雇い主のバックには大物がいて、大物の屋敷を急襲し雇い主と大物を倒すが、警察に追い詰められ、最後に殺し屋は警察に撃たれて死ぬ

…と全体のストーリーがほぼ一緒。細かい所でも、殺し屋と女が列車で目的地に向かうとか、女をショーガールとして雇ったのが、殺し屋の雇い主だったとか、ラストで女の恋人を撃とうとするが、二人が愛し合っていることを知って撃てなかったりとか、小道具の使い方がうまいとか、類似点がいくつもある。

そして一番あっと思ったのが、殺し屋が女に、自分の悲惨な生い立ちと殺し屋になった経緯を語る所。

ここまで似ているのは偶然とは思えない。本作は1960年当時は日本未公開だったので、石井輝男が劇場で観ているはずはないが、もしかしたらテレビで放映されたのかも知れない。

 

DVD 「拳銃貸します」
Dvdthisgunforhire

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