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2024年11月 1日 (金)

「トラップ」

Trap 2024年・アメリカ   105分
製作:Blinding Edge Pictures
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Trap
監督:M・ナイト・シャマラン
脚本:M・ナイト・シャマラン
撮影:サヨムプー・ムックディプローム
音楽:ヘルディス・ステファンスドッティル
製作:アシュウィン・ラジャン、マーク・ビエンストック、・ナイト・シャマラン
製作総指揮:スティーブン・シュナイダー

「シックス・センス」「ノック 終末の訪問者」のM・ナイト・シャマランが脚本・監督を手がけるサスペンススリラー。主演は「オッペンハイマー」のジョシュ・ハートネット。共演は「ブルーバック あの海を見ていた」のアリエル・ドノヒュー、「女神の見えざる手」のアリソン・ピルなど。

(物語)クーパー(ジョシュ・ハートネット)は溺愛する娘ライリー(アリエル・ドノヒュー)の為に、彼女が夢中になっている世界的歌手、レディ・レイヴン(サレカ・シャマラン)が出演するアリーナライブのプラチナチケットを入手した。クーパーと共に会場に到着したライリーは、最高の席に大感激する。ライブが始まり、3万人の観客が熱狂する中、クーパーはある異変に気づく。会場には異常な数の監視カメラが設置され、警察官たちが会場内外に続々と集結しているのだ。クーパーは口の軽いスタッフから、指名手配中の切り裂き魔がライブに来るというタレコミがあり、このライブ自体が仕組まれたトラップ(罠)であることを聞き出す…。

M・ナイト・シャマラン監督作品は、出来のムラが多いしガッカリする事もあるが、それでも新作となるとつい見に行ってしまう。

シャマラン監督作には、超能力、超常現象を扱ったものが多い(というか大半)。非現実的な世界だから、荒唐無稽であっても許される。それで風呂敷を広げ過ぎて失敗する事も多い。

ところが本作は、超能力も超常現象も登場しない、ホラーでもない、スリリングなサスペンスものである。これは珍しい。お得意のドンデン返しすらも登場しない。シャマラン監督の新機軸と言えるだろう。

(以下ネタバレあり、注意)

 

 

既に紹介記事のあらすじにはっきり書かれているのでバラすが、警察が追っている連続殺人犯“ブッチャー”の正体は、なんと娘を溺愛する良き父親のクーパー(ジョシュ・ハートネット)であった。映画は早々にその犯人を明らかにし、多数の警官隊に厳重に包囲された会場から、犯人がどうやって脱出するかというサスペンスを描く。

連続殺人鬼であるクーパーは、なかなか知恵が回り、あの手この手を使って巧みに警察の目を搔い潜り、裏をかこうとする。人のいいスタッフから捜査情報を得たり、警官との合言葉を教えてもらったり、スタッフルームへのカードキーを失敬したり、それを使って一般人立入禁止のエリアに忍び込み、警察無線機を盗み出したり。

一方警察側は、FBIの腕利きプロファイラーが、犯人の行動を先読みし、無線で警官隊に指示を出す。クーパーも盗んだ警察無線機を使ってその情報を仕入れて先手を打つ。

例えば、クーパーが火災報知器を押して混乱に乗じて逃げようと考えるが、プロファイラーは「犯人は火災報知器を利用すると思われるので注意せよ」と指示を出す。それを無線で聞いたクーパーは報知器作戦を断念し他の方法を考える、といった具合。

こうした、どちらも頭の切れる犯人と警察との丁々発止の知恵比べ合戦、という展開は、「刑事コロンボ」を思い起こさせる。あるいは、ヒッチコック監督の「ダイヤルMを廻せ!」もそんな作品である。

そういったミステリーが大好きなファンなら、この先どう話が転がって行くか、先行きが楽しみでワクワクさせられる。

さらにクーパーは、愛する娘を連れている。父親としては、絶対に娘に気付かれないように行動せざるを得ない。二重の枷(かせ)となっている。

クーパーは、ここを脱出する為には、Ⅴ.I.Pである世界的アーティスト、レディ・レイヴンに連れ添ってもらうしかないと考え、レイヴンの担当スタッフに、自分の娘は難病を克服して頑張っているとかの美談をデッチ上げて同情心をくすぐり、首尾よくライリーがレイヴンと一緒に舞台に立てる「夢見る少女」に選ばれる。ライリーは大喜び。
このスタッフを演じているのが、いつも自作に出演するM・ナイト・シャマラン本人。今回はセリフも多い。

レイヴンに近づいたクーパーは、彼女に監禁している少年の映像をスマホで見せ、言う通りにしないと少年は死ぬ事になると脅迫し、娘と一緒にレイヴンのリムジンに乗せてもらって脱出に成功する。

そして後半3分の1は、今度は少年を無事救い出したいレイヴンと、クーパーとの知恵比べ合戦となる。ここの駆け引きもなかなかスリリングで面白い。ネタバレになるので以後は省略。

ここまでで謎だったのが、一体誰が、切り裂き魔がライブに来るというタレコミを行ったのかという点。その謎がラストで明かされるのだが、これはまったく意外だった。これがドンデン返しと言えなくもないが。


いつもと違うタッチで、なかなか面白く観れた。最近のシャマラン作品の中では、出来のいい方である。

無論、ツッ込みどころは満載である。
クーパーがあんなに会場内をうろうろ動き回っていたら、あちこちにいる警官に怪しまれ、呼び止められると思えるのだが。犯人は腕に動物の刺青をしているという情報もあるのだから(実際クーパーの腕の刺青がチラリ見えるシーンがある)、腕を見せろと言われたら万事休すである。
ライブ公演中なのに、ロビーにごった返すほど人が多いのも不自然。まあ人が少なかったらクーパーの動きが目立ってしまうからでもあるのだが。それともみんなクーパーと同じように自分の子供に付き添って来た親ばかりなのか(笑)。
最大の疑問は、少年を監禁した映像をレイヴンに見せて脅迫するくだり。クーパーは罠がかけられている事など知らないはずだし、少年を前もって監禁していた理由が見当たらない。レイヴンがとても心配して身を案じていたが、レイヴンの身内なのか。それなら少年が行方不明というニュースを伏線としてどこかで描くべきだろう。他にもあるが以下省略。

それでも、テンポのいいスリリングな演出で楽しめたし、まあいいか、と許せる気分になるのはシャマランの人徳か(笑)。

レディ・レイヴンに扮していたのは、シャマラン監督の長女、サレカ・シャマランと知って驚いた。歌もうまいし、ライブ会場で歌う歌もすべてサレカが作曲したという。才能があるようだ。
また次女のイシャナ・ナイト・シャマランは先般、「ザ・ウォッチャーズ」で映画監督としてデビューしてるし、シャマラン一家は才人揃いのようだ。それぞれ今後は楽しみだ。


そして随所に感じられるのは、本人もファンだという、ヒッチコックへのオマージュである。

警察に包囲された劇場から主人公が機転を利かせて脱出する、というエピソードは、ヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」(1966)に登場している。

表向き優しそうな男が、実は凶悪な殺人鬼という設定は「サイコ」(1960)からの引用だろう。ラストで、警察に逮捕された男が、ニヤリ、と笑う所でエンドとなるのも同じである。

ヒッチ晩年の「フレンジー」(1972)も連続殺人鬼が主人公である。殺人鬼の行動をカメラがずっと追いかけるシーンもある。「ダイヤルMを廻せ!」との類似性は前述済。

そういった点も含めて、本作はシャマラン監督が本格サスペンス・スリラーに舵を切った作品として注目したい。次作がどっちの方向に進むのか、やっぱりシャマラン監督作は見逃せない。
(採点=★★★★

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(付記)
Trap2 FBIのプロファイラー、ジョセフィン・グラント博士を演じていた老女、気になってエンドロールのキャストを見ていたら、なんとヘイリー・ミルズだった(右)。

よっぽど年配の映画ファン以外は知らない方も多いだろうが、子役出身の名女優で、父親も名優ジョン・ミルズ。

13歳の時、J・リー・トンプソン監督の「追いつめられて…」(1959)で映画デビュー。これで英国アカデミー賞有望映画新人賞を受賞。以後多くのディズニー映画に出演しており、中でも1961年の「罠にかかったパパとTrap3ママ」は一人二役で、双子として生まれながら両親の離婚で離れ離れに暮らしていた二人が、両親を和解させるべく奮闘するディズニーらしいコメディで、これは私も見ている。とてもキュートで演技も自然で可愛らしかった。代表作と言えるだろう。

その後も多くの映画に出演。1966年の「ふたりだけの窓」(ジョン&ロイ・ボウルディング監督)は青春映画の佳作だった。その後はこれといった作品はなく、1988年の「死海殺人事件」が日本で公開された最後の作品。

そんなわけで私もほとんど忘れかけていたが、本作でまったく久しぶりの再会となった。すっかりシワだらけのお婆さんになっていたが、元気な姿を見れて良かった。

Parenttrap3 で、前掲の「罠にかかったパパとママ」。これの原題が"The Parent Trap"。なんと題名に"Trap"がついている。シャマランが本作にヘイリー・ミルズを起用したのは、このつながりではないだろうか。

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