「ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!」 (VOD)
2024年・イギリス 82分
制作:アードマン・アニメーションズ=BBC
提供:Netflix
原題:Wallace & Gromit: Vengeance Most Fowl
監督:ニック・パーク、マーリン・クロシンガム
原案:ニック・パーク、マーク・バートン
脚本:マーク・バートン
撮影:デイブ・アレックス・リデット
音楽:ローン・バルフェ、ジュリアン・ノット
製作総指揮:ニック・パーク、 マーク・バートン、 サラ・コックス、 ピーター・ロード、 カーラ・シェリー
アードマン・アニメーションズによる人気ストップモーション・アニメ「ウォレスとグルミット」シリーズの、「野菜畑で大ピンチ!」(2005)に続く2作目の長編作。監督はずっとシリーズを監督しているニック・パークと、監督としてはデビュー作となる新進マーリン・クロシンガム。ウォレスの声の出演はベン・ホワイトヘッド。その他の声はピーター・ケイ、ローレン・パテル、リース・シェアスミスなど。第82回ゴールデングローブ賞で最優秀長編アニメーション映画賞にノミネート。2025年1月3日よりNetflixで配信。
(物語)発明家のウォレスが、新たにお手伝いロボットのスマートノーム(賢いノーム)「ノーボット」を発明した。ノーボットは芝生を刈ったり庭木を綺麗に剪定したりと大活躍。近所からも是非貸して欲しいとの要望が続出してウォレスは大満足。だがある時ノーボットは突然言う事を聞かなくなり暴走を始めた。そのせいで彼らの周囲では不審な盗難事件が次々に発生し、ウォレスが犯人だと疑われてしまう。忠犬グルミットは、ウォレスを救おうとすぐさま行動に出るのだが、一連の出来事の陰では、ウォレスとグルミットに恨みをいだく、あの犯罪者が糸を引いていた…。
アードマン・アニメーションズが制作するストップモーション・アニメ「ウォレスとグルミット」シリーズの、短編「ベーカリー街の悪夢」(2008)以来16年ぶりの続編。長編としては「野菜畑で大ピンチ!」以来19年ぶりとなる。ファンとしては待ち焦がれていた。しかも、なんとなんとこれは1993年に作られたシリーズ2作目の短編「ペンギンに気をつけろ!」の悪役ペンギン、フェザー・マッグロウが31年ぶりに再登場する続編なのである。アニメでこんな例は珍しい。
ただし劇場公開はなく、Netflixによる配信のみ。残念だけど制作費がかかる割に興行的には厳しいのでやむを得ないかも知れない。
ちなみにウォレス役の声優は1作目からずっとピーター・サリスが務めていたが、2017年に亡くなったのでベン・ホワイトヘッドに交代となった。
(以下ネタバレあり)
16年ぶりの「ウォレスとグルミット」作品だが、ウォレスの珍発明道具による日常生活は昔とまったく変わらない。この機会に「ペンギンに気をつけろ!」(以下「前作」)をDVDで再見したが、前作にも登場した起き上がりマシンやトーストジャム塗りマシンなどが、かなりバージョンアップしてたのには笑った。
届いた郵便物が請求書ばっかりなのも前作と同じ。こんな具合に、前作を観ていれば余計笑える作品になっている。
ウォレスは気にする様子もなく、またまた新発明のお手伝いロボット、「ノーボット」を完成させる。ご主人の言う事を何でも実行する優れもので、ウォレスが「庭を綺麗にしろ」と命令すると、猛スピードで芝生を刈り取り、庭木を剪定してしまう。グルミットが大切に育てていた植木までバッサリ切ってしまったのでグルミットは落胆するのだが。

この様子を見ていた近所の住人たちからは、「是非貸して欲しい」との要望が相次ぎ、ウォレスは「これで溜まっていた請求書が払える」と大喜び。
さっそくバンに機材を積み込み、ノーボットを乗せて商売に出かけるのだが、そのバンのボディには「ウォレスとノーボットのべんり屋」と書かれていたのでグルミットは愕然となる。もう自分はウォレスの相棒ではなくなったのか。
前作でも、ウォレスとペンギンのフェザーが仲良くやってるのを見たグルミットが気落ちして家を出て行くという、似たようなシーンがあった。
ノーボットの活躍がテレビでも紹介され、ウォレスはすっかり有頂天。
ところが、その番組を刑務所(実は動物園の中なのだが)の独房の窓越しに見ていたのがあのペンギンのフェザー・マッグロウ。自分を捕まえたウォレスとグルミットに復讐の炎を燃やすフェザーは、ガラクタを集めてマジックハンドを作り、深夜、看守が眠っている隙にその部屋にあるパソコンを操作し、ウォレスのパソコンをハッキングして、ノーボットの思考プロトコルを「EVIL(悪)」に変えてしまう(目玉も真っ黒になる)。
悪いノーボットはウォレスに無断でコピーノーボットを大量に作る。ウォレスはべんり屋の仕事がはかどると喜ぶが、やがてノーボットたちは近所の家を訪問しては仕事をしているフリをして盗みを働くようになり、ノーボットの発明者ウォレスは犯人と疑われて大ピンチに陥る。
そして深夜、ウォレス家の地下では、大勢のノーボットたちが盗みで集めた機材、道具を使って巨大な潜航艇を建造し、これを使ってフェザーは脱獄に成功し、さらにある企みを実行しようとしていた。それは、昔盗もうとしてウォレスたちに阻まれた、“ブルー・ダイヤモンド”を再び奪還する事だった。
…とまあこんな具合に、悪知恵の働くフェザーがノーボットを使って、ウォレスたちへの復讐とブルー・ダイヤ強奪を実行して行くのだが、後半はグルミットの懸命の奮闘で形勢は逆転し、終盤はウォレスとグルミットが力を合わせ、逃げるフェザーを追っての疾走感ある大追跡劇へとなだれ込んで行くのである。
特に終盤の「ミッション・インポッシブル」を思わせる追いつ追われつの大アクション、高所から墜落寸前のクリフハンガー劇はハラハラさせられた。
この時、ぶら下がっているグルミットにウォレスが、「失いたくないのは、僕の大切な相棒だ」と声をかけるシーンはホロッとさせられた。
サブキャラクターとしては、警察のマッキントッシュ警部(ピーター・ケイ)と、新入り婦人警官ムカジェー(ローレン・パテル)が登場し、事件を追って捜査を行う流れが並行して描かれる。
マッキントッシュ警部は定年間近で、ブルー・ダイヤ展の警備を引退前の晴れの舞台とする事ばかり考えていていて、まるで捜査に熱が入らず、思い込みでトンチンカンな言動を繰り返す役立たず。逆に新米のムカジェーの方がテキパキと有能な働きをしているのが笑える。
前作と比べると、クレイ(粘土)の質感がずっと滑らかになっている。前作は初期の頃の為か、ややゴツゴツして指紋もついていたりする。それと水のリアル感がよく出ていた。
エンドロールにはCG・アーティスト、CGプロダクションの名前がズラリ並んでいたので、今回は水の表現など、かなりCGを多用しているようだ。
ツッ込みどころもいくつかあって、何十年も刑務所に入っていて世の中の進歩に疎いはずのフェザーが、パソコンを使いこなしてハッキングするテクニックをどうやって学んだのかとか、前作でブルー・ダイヤをフェザーから取り戻した警察側が、袋の中を確かめもせず金庫にしまい込むなんて事はあり得ないとか。
まあフェザーは前作でもウォレスが発明したテクノズボンを勝手に改造する等、メカには強いようだし、随所にギャグやアクションのつるべ打ちで最後まで楽しませてもらったので、細かい事はどうでもよくなる。
序盤でウォレスが「AIとか、便利なテクノロジーは生活を豊かにしてくれる」と自慢するのだが、そのテクノロジーが暴走する怖さも描いて、最後にウォレスが、「やはりマシンに出来ない事もある」と言って、素手でグルミットの頭を撫で撫でする事で、何でも機械に任せる風潮への痛烈な批判になっているのが秀逸(最初の方でウォレスの作った“撫で撫でマシン”にグルミットが複雑な表情を浮かべるシーンがこのオチの伏線になっている)。
そんな具合に、本作は笑えるシーンやスリル、アクションてんこ盛りの楽しいアニメでありながら、現代社会批判も盛り込まれた、見事な秀作であった。
また随所に前作へのオマージュや反復ギャグ、それにいろんな映画のパロディ、オマージュも満載で(これについては後述)、映画ファンとしてはそれらを見つける楽しみもある。
配信なので、何度も見直すことも出来るし、一時停止して画面の隅々までチェックする事も出来る。こんな細部まで凝りに凝った作品の場合はその点ありがたい。
ただ劇場で映画を観るのが楽しみの、映画館主義の私にとっては、それも痛しかゆし。複雑な気持ちである。
ともあれ、アニメファン、ウォレスとグルミット・ファンの方には絶対お奨めの快作である。
ラストでフェザーは逃げおおせたので、また続編が作られるかも。ストップモーション・アニメは制作に時間がかかるので何年先になるかわからないけど、気長に待ちたいと思う。 (採点=★★★★☆)
1.前作のオマージュ・反復ギャグ
・ノーボットが充電中、騒音がするのでグルミットが眠れないシーンは、前作で隣室のフェザーが大音量で音楽を鳴らすので眠れないシーンの反復。・前作のフェザーが赤いゴム手袋をかぶってニワトリに変装するシーンが、本作にもやっぱり登場。
・前作でフェザーがブルー・ダイヤを盗もうとしてリモコン操作中、センサーにひっかかりそうになって大粒の冷や汗をかくシーンが、本作でもマジックハンドでパソコンを操作中の場面に再登場。
2.過去作品又はスピンオフ作品の登場人物の再登場
・マッキントッシュ警部は、実は「野菜畑で大ピンチ!」にも登場している。声の出演も本作と同じピーター・ケイ。
・終盤の追跡シーンで、ウォレスが迷走中、トラックに野菜を積んでいる農夫として「ひつじのショーン」の牧場主がカメオ出演。
3.いろんな映画からの拝借、パロディ
・ノーボットが猛スピードで剪定した庭木が綺麗な三角形や四角形になっているのは、ティム・バートン監督「シザーハンズ」オマージュ。
・刑務所内でフェザーが配管にぶら下がり身体を鍛えるシーン、「ケープ・フィアー」のロバート・デ・ニーロも同じような事をやっていた。ご丁寧にそのシーンのバックに流れる音楽まで「ケープ・フィアー」から拝借。
・フェザーがハッキングしたパソコンを通してノーボットのプロトコルを「EVIL」に変えた時、パソコン画面に緑の数字が縦に流れるシーンは「マトリックス」オマージュ。・ノーボットがプロトコルの選択次第で善人にも悪人にもなるのは、ジェームズ・キャメロン監督「ターミネーター」、「ターミネーター2」から。またノーボットの視線で、画面にセンサー情報が表示される(右)シーンも「ターミネーター」オマージュ。
・フェザーがノーボットに命じ、盗んだ鉄製品等を集めて潜航艇を作るエピソードは、宮﨑駿が監督したテレビアニメ「名探偵ホームズ・海底の財宝」からのいただき。モリアーティ教授がやはり盗みまくった部品で潜航艇を作っていた。
ちなみに同じシリーズの「青い紅玉(ルビー)」はモリアーティ一味が“青い宝石”を盗み出すお話で、これも本作や前作の、フェザーがブルー・ダイヤモンドを盗むエピソードに応用されたのではないだろうか。
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