「キネマ旬報」に何が起こっているのか
私も学生時代から購読を始め、今も購読している。「読者の映画評」にも投稿する等、私の長い映画歴においても大変お世話になって来た、愛着のある映画雑誌である。
その、キネマ旬報(通称キネ旬)が、2023年の8月から、それまでの月2回発行をやめ、月1回発行の、いわゆる月刊誌になった時には、時の流れとは言え寂しい思いをしたものだった。雑誌名はそのままだったのがせめてもの慰め。「キネマ月報」では略称だって語呂が悪いしサマにならない。
ページ数は約20ページほど増えたが、連載記事にしろ評論家による星取り映画レビューにしろ、記事の量は元のままだから、情報量は半減した事になる。1冊の値段も上がったけど、月間当りの購読料は3割ほど安くなったので有難いとは言えるが。
まあそのくらいは仕方ないと思っていたが、今月20日発売の3月号に、「次号からページ数減を選択いたしました」との社告が掲載されていた。
確かにここ数年、どこの雑誌も販売部数の低迷に加えて、用紙代、印刷代、配送費などが高騰していて苦しい状況にあるのは理解しているし、やむを得ないだろう。おそらくいくつかの連載も終了したり、特集記事などもページ数減になるだろうなとは思った。
だが、誌面を読んでいるうち、愕然となった。いくつかの連載記事のほとんどが今月号で終了となっていたのだ。以下執筆者、題名、連載回数を、連載スタートの古い順に列記する(敬称略)。
立川志らく 「立川志らくのシネマ徒然草」 633回
大高宏雄 「ファイト・シネクラブ」 549回
川本三郎 「映画を見ればわかること」 512回
秋本鉄次 「カラダが目当て」 359回
鬼塚大輔 「誰でも一つは持っている」 348回
賀来タクト 「映画音楽を聴かない日なんてない」 166回
斎藤 環 「映画のまなざし転移」 154回
宮崎祐治 「映画は顔だ!」 20回
土居伸彰 「まだ見ぬアニメーションを求めて」 20回
その他回数は不明だが、かなり長く続いて来たものが、
「BOX OFFICE」 (動員ランキングを匿名の対談形式で)
「映画は社会の何を映すのか」 (石飛徳樹他4名による作品評座談会)
「アカデミー賞予想座談会」 (毎年3月号に渡辺祥子、襟川クロら3名の座談会)
なんと、1つ(尾形敏朗「てくてくシネマテーク」)を除いてほぼすべての連載が終了である。これは異常としか言いようがない。
「立川志らくのシネマ徒然草」は28年間、「ファイト・シネクラブ」は25年間、「映画を見ればわかること」は24年間ものもの長期連載である。川本さんはそれ以前にも「あした遠足」という連載があった。なお「カラダが目当て」は途中中断もあって「カラダが目当て リターンズ」、最近は「-Only You!」と何度かタイトルが変わっているのでそれらの通算である。
「シネマ徒然草」や「映画を見ればわかること」は、「キネ旬読者賞」という読者が選考する映画賞を何度も受賞していて、近年はこのお二人がほぼ交互に受賞してる程の名物でもあった。
斎藤環さんの「映画のまなざし転移」はやっと昨年度の読者賞を受賞したばかり。これからという時の終了である。まだまだ続いて欲しかったのに。
も一つ気になったのは、連載記事の文章中に、いくつかはお別れの挨拶が入っていたものもあるが、「映画を見ればわかること」、「映画のまなざし転移」、「まだ見ぬアニメーションを求めて」については、文章中どこにもそうした終了の挨拶文が無かった。「最終回」の文字がなかったら来号以降も続くと勘違いしそうだ。
おそらくこれらは、3月号の記事を送稿した後に突然終了を告げられたのではないかと思う。また大高宏雄氏は記事中に、「本号を持って終了するようだが(中略)本誌の方針なのだが、残念極まりない。もっともっと伝えたいことがあったんだよな」とあからさまに不満の言葉を述べている。これらから察するに、どの方もキネ旬から一方的に連載終了を告げられたのではないだろうか。
おそらく来月号からは、連載記事がバッサリなくなった分、ページ数は予想以上に削減されるのではないか。ペラペラになってしまいそうだ。それで定価は1,320円の据置きだ。
これで発行する為の経費は幾分かはコストダウンにはなるだろう。
だが私は、これは却って逆効果になりそうな気がする。こんなに面白かった連載が一度に終了しては、キネ旬を購読する意欲も失せてしまう。実際そういった声も上がっているようだ。
上記の連載に代わる、面白くて読み応えのある連載が始まればよいが、志らく師匠や川本さん以上に面白い連載を書ける人がいるとはとても思えない。おそらく、いや間違いなく購読者は相当数減るだろう。それによってページ数減による経費節減効果はふっ飛んで、赤字はさらに増えるのではないかと心配になる。自分で自分の首を絞めるようなものだ。内部で、そんな反対の声は出なかったのだろうか。
ともかくは来月号が発売されたら手に取って、誌面がどれだけ変わったか見てみよう。私の心配が杞憂である事を望むだけである。
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