「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」
2024年・香港 125分
製作:寰亞電影製作有限公司=天下一電影製作有限公司、他
配給:クロックワークス
原題:九龍城寨之圍城
(英題:Twilight of the Warriors: Walled In)
監督:ソイ・チェン
脚本:アウ・キンイー、チャン・タイリー、サム・クァンシン、ジャック・ライチュン
撮影:チェン・シウキョン
音楽:川井憲次
アクション監督:谷垣健治
製作:ジョン・チョン、ウィルソン・イップ
香港にあった迷宮のような巨大スラム街・九龍城砦を舞台にしたアクション大作。監督は「西遊記」シリーズのソイ・チェン。出演は「インビジブル・スパイ」のルイス・クー、「カンフースタントマン 龍虎武師」のサモ・ハン(キンポー)、「神探大戦」のレイモンド・ラム、「極道統一」のリッチー・レンなど。
(物語)1980年代。香港に密入国した青年チャン・ロッグワン(レイモンド・ラム)は、黒社会のルールを拒み、己の道を選んだために組織に目を付けられる。追い詰められたチャンは運命に導かれるように巨大スラム街・九龍城砦に逃げ込み、そこで城砦のリーダー、ロン・ギュンフォン(ルイス・クー)と出会う。チャンはロンに仕事を与えられ、ロンの右腕のソンヤッ(テレンス・ラウ)、医者のセイジャイ(ジャーマン・チョン)、サップイ(トニー・ウー)ら同世代の若者たちと深い友情を育んで行く。しかし九龍城砦の利権を狙う黒社会の大ボス(サモ・ハン)との間で抗争が激化し、チャンたちはそれぞれの信念を胸に命をかけた戦いに身を投じて行く…。
香港映画界はブルース・リー登場後、ジャッキー・チェン、チョウ・ユンファ、ジェット・リーなど続々とアクション・スターを輩出し、一時は世界的なブームを巻き起こした。
だが1997年の香港返還によって徐々に自由な映画作りが脅かされ、それと共に有力スター、監督たちも中国本土に移って行き、香港映画の黄金時代を象徴したショウ・ブラザーズやゴールデンハーベストも中国資本に買収されてしまい、香港映画は急速に衰退して行った。
香港影業協会によると、全盛期の1993年に年間234本製作された香港映画は、2013年には43本に激減している(Wikipediaより)。
そんな厳しい状況の中で登場したのが本作である。製作費は
3億香港ドル(60億円)、本作の主役となる九龍城砦は5千万香港ドルを費やして巨大なセットを建造した。まさに香港映画の威信をかけた超大作である。
公開されるや香港映画史上歴代1位となる動員数を記録した。
(以下ネタバレあり)
主人公は船で香港に密入国したチャン・ロッグワン(レイモンド・ラム)。身分証を得る為黒社会の大ボス(サモ・ハン)が開催した賭け試合で勝利し、大ボスにその金で身分証を作って欲しいと頼む。大ボスからは自分の元に来いと誘いを受けるが、黒社会との繋がりを嫌がったチャンは拒否する。後日身分証を受け取りに行くが、それは偽物だった。代金も返してもらえず、怒ったチャンはドラッグの入った袋を奪い逃げる。追い詰められたチャンは大ボスの支配が届かない九龍城砦に逃げ込み、そこで九龍城砦を支配するロン・ギュンフォンと出会い、やがてロンが経営する理髪店で働く事になる。ロンの右腕であるソンヤッやサップイ、顔を隠すモグリ医者のセイジャイらとも仲良くなり、4人の若者たちは友情を育んで行く。
…という所から物語がスタートして行くが、のっけからアクション、逃亡、ロンと出会ってからもまたアクションと香港映画ではお馴染みのカンフー・アクションのつるべ打ち。狭い迷路のような九龍城砦の中を動き回るカメラワークもダイナミックである。
チャンとソンヤッたちとの友情の始まりも丁寧に描かれている。チャンはある時、妻を暴力で死なせた男を許せず、玩具で顔を隠してそいつを成敗しようとするのだが、やはりお面をかぶった3人組が現れ、成り行きで4人が力を合わせてDV男に鉄槌を喰らわせる。後でお面を取ったら、予想通りソンヤッ、サップイ、セイジャイたちだった。
こうして4人はかけがえのない友情で結ばれて行く。これが終盤のクライマックスで効いて来る。
物語はその後急転する。ロンの義兄弟であるチョウ( リッチー・レン)は以前、抗争の中でチャン・ジム(アーロン・クオック)という男に妻子を惨殺され、チョウの盟友タイガー(ケニー・ウォン)はジムに片目を潰されていた。チャン・ジムは死ぬがチョウとタイガーのチャン一家に対する恨みは尽きず、その息子を探していたが、実はチャン・ロッグワンがその息子だった事が判明する。
チョウとタイガーはチャンを殺そうとするが、ロンはそれを止める。こうしてロンが束ねる九龍城砦内の雲行きは怪しくなり、その隙に付け込んだ大ボスが、取り壊しが決まった九龍城砦の利権を得ようと画策する。
とまあ、単なるアクション映画に留まらず、復讐を巡る複雑な人間関係、黒社会のボスの強欲な陰謀も絡めて、物語は怒涛の展開となる。
そして何より、ロンとチャンとの師弟の枠を超えた疑似的な親子関係や、チャンと3人の仲間たちの深い絆、友情に胸が熱くなった。
特に喀血して自分の命も長くないと悟ったロンが、自分の体を盾にしてチャンを守り、死んで行くシーンには泣けた。
終盤のクライマックスでは、大ボスの右腕だったウォンガウ(フィリップ・ン)が大ボスを暗殺してその後釜に座り、チャンたちの最大の敵となって、ウォンガウ対チャンたち4人組との壮絶なバトルが城砦内で繰り広げられる。
ウォンガウは気功術を会得していて、鋼鉄の身体となって刀も通さない無敵のヴィランとしてチャンたちを苦しめる。延々と続く両者の闘いぶりは、カンフー・アクションのあらゆるバリエーションを盛り込んで興奮させられる。
スーパーマンかよと突っ込みたくなるウォンガウといい、城砦から転落したチャンが竜巻の風で巻き上げられ戻って来たりと、マンガ的な場面もあるがそれもご愛嬌、痛そうなアクションを緩和させ、笑わせ楽しめるシーンとなっている。
いやー熱い!堪能した。アクションに次ぐアクションで見せ場も多いが、昔のカンフー・アクション映画よりさらにスケール・アップしたアクションは最高、アドレナリンが出るくらい興奮した。日本から参加した谷垣健治のアクション指導が最大の成果を上げている。
それだけでなく、師弟間の絆、信頼、男たちの厚い友情、熱血、さらには黒社会の陰謀、復讐、裏切りと、娯楽映画のエッセンスをこれでもか、と盛り込んだ、単なるアクション映画の枠を超えた素晴らしい作品になっている。感動した。
出演者も、ロンを演じたルイス・クーがいい。アクションもキレがあるが、チャンに寄せる男気にもシビれた。大ボスを演じたサモ・ハンはブルース・リーの時代から香港アクションを牽引して来ただけあって、73歳になった今でも貫録・オーラが滲み出ている。その他の役者もみんないい。
香港映画の復活、いや新たなる出発を感じさせる見事な力作である。ちょっと気が早いが、本年最高のエンタティンメントの傑作だと断言したい。必見! (採点=★★★★★)
(さて、お楽しみはココからだ) 本作を観てて、ふと思い出した作品がある。1995年のサイバーパンクSF映画の秀作「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」(押井守監督)である。
こちらもアクション・シーンが素晴らしいが、ところどころ明らかに香港らしき風景がある。そして九龍城砦を思わせる建物(解体中?)が登場する(下)。

また本作には城砦の上を航空機が低空で着陸して来る場面が何度か登場するが、これとそっくりなカットが「攻殻機動隊-」にもある(下)。

1995年と言えば、九龍城砦が取り壊された頃である。押井守監督はそんな変わり行く香港の風景を残したくて、敢えてこれらのシーンを入れたのではないかと推察する。
ソイ・チェン監督、もしかしたらそんなシーンを盛り込んでくれた押井監督への感謝を込めて「攻殻機動隊-」にオマージュを捧げたのではないだろうか。
さらに、「攻殻機動隊-」の音楽を担当したのも、本作と同じ川井憲次である。これも私の推測を裏付けているような気がするのだが、さてどうだろうか。
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コメント
私も本作を今日見ました。
エンタテインメイントの傑作ですね。
詳しくはまた感想書きますが、私も本作は「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」だなあと思いました。
城砦の上を航空機が低空で飛ぶシーンはまさにオマージュだと思います。
投稿: きさ | 2025年2月12日 (水) 22:59
◆きささん
私が観たのは公開4週目でしたけど、結構客が入ってました。ロングランになるといいですね。
ネットの検索で本作に関する書き込みを見てたら、ブログやⅩ(旧ツイッター)などで、いくつかのシーンで「攻殻機動隊-」を思い出したって書いてる人が結構いましたよ。私やきささんだけじゃなかったみたいですね(笑)。
投稿: Kei(管理人 ) | 2025年2月14日 (金) 21:38
山形から仙台に居る美大生の娘と翌日合流して
都内のミュージカル観る為、前日入りし本作を
フォーラム仙台で私と妻写真とで鑑賞です。
ほぼ満席で熱い男達の物語をラスト迄堪能です。
スタッフ、演者の熱気がスクリーン越しでも
伝わる作品の出逢いは近年無いですね。
フォーラム仙台のロビーでは各キャラ毎の
パネルがあり、推しの方が撮影してました。
私的には読み方がソンヤッでしたが、
字幕が信一だったので勝手に日本語読みして
(テレンス・ラウ)にハマりました。
娘と渋谷でのミュージカル鑑賞後にガード下
居酒屋で(テレンス・ラウ)の話ばかりした
ような気がします。地元の鶴岡まちなかキネマ
上映も強く推したいと思います!
投稿: ぱたた | 2025年4月17日 (木) 16:48
◆ぱたたさん
テレンス・ラウはこれまで公開作が少なかったのですが、本作に続いてこの夏には新作「スタントマン 武替道)が待機しているので、これから人気が出ると思いますよ。期待したいですね。
娘さんと映画にミュージカルに、ご一緒に鑑賞ですか。うらやましいですね。いいな。
投稿: Kei(管理人 ) | 2025年4月22日 (火) 16:06