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2025年2月28日 (金)

「野生の島のロズ」

Thewildrobot 2024年・アメリカ   102分
製作:ドリームワークス・アニメーション=ユニヴァーサル・ピクチャーズ
配給:東宝東和、ギャガ
原題:The Wild Robot
監督:クリス・サンダース
原作:ピーター・ブラウン
脚本:クリス・サンダース
音楽:クリス・バワーズ
製作:ジェフ・ハーマン
製作総指揮:ディーン・デュボア

アメリカの作家ピーター・ブラウンによる童話「野生のロボット」シリーズのアニメ映画化。最新型ロボットと野生の島の動物たちとの交流を描くファンタジー。監督は「リロ&スティッチ」「ヒックとドラゴン」のクリス・サンダース。声の出演は「クワイエット・プレイス:DAY 1」のルピタ・ニョンゴ、「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」のペドロ・パスカル、「ビートルジュース ビートルジュース」のキャサリン・オハラ、「生きる LIVING」のビル・ナイなど。日本語吹き替え版は綾瀬はるか、柄本佑、鈴木福、いとうまい子らが担当。第97回アカデミー賞で長編アニメーション賞のほか、作曲賞、音響賞の3部門にノミネートされた。

(物語)最新型アシスト・ロボットのロズ(ルピタ・ニョンゴ)は、大自然に覆われた無人島に流れ着き、偶然にも起動ボタンを押されて目を覚ました。都市生活に合わせてプログラミングされた彼女は、なすすべのない野生の島をさまよう中で、動物たちの行動や言葉を学習し、徐々に未知の世界に順応し始める。そんなある日、雁の卵を見つけて孵化させたロズは、ひな鳥から「ママ」と呼ばれた事で、思いもよらなかった変化の兆しが現れる。ロズは雛鳥をキラリ(キット・コナー)と名付け、キツネのチャッカリ(ペドロ・パスカル)や島の動物たちの知恵を借りながら子育てという“仕事”をやり遂げようとするが…。

クリス・サンダース監督作品は 2010年公開の「ヒックとドラゴン」がとても見事な秀作だったので名前を覚えたのだが、次作がなかなか発表されず、ようやく14年ぶりの新作となる本作の登場である。

待った甲斐があった。本作もまた素晴らしい秀作だった。

(以下ネタバレあり)

主人公のアシスト・ロボット、ロッザム7134、通称ロズは搭載されていた輸送機が嵐で墜落し、ある無人島に漂着する。唯一生き残ったロズは、ご主人様を探そうとするが無人島にいるのは野生の動物たちばかり。当然動物の言葉も理解出来ず、動物たちを怖がらせるばかり。

Thewildrobot2

ロズはA.I学習機能で動物たちの言語を学び、やがて動物たちと会話する事も出来るようになる。

だが、自分が仕えるはずの人間がいない事を悟ったロズは、製造元のユニバーサル・ダイナミクス社に救助信号を送ろうとするが失敗する。そうするうち、熊のソーン(マーク・ハミル)に襲われ、逃げる途中に崖から転落し、崖の中腹にあった雁の巣の上に落ちて、親鳥と数個の卵を潰してしまう。

アクシデントとは言え、雁の親を死なせてしまうシーンはちょっとショック。親鳥の翼を持ち上げる絵だけで間接的な表現にはなっているけれど。

かろうじてたった一つだけ、無傷の卵が残っていた。その卵をキツネのチャッカリが狙う。奪われてはロズが取り返すシークェンスがマンガチックで笑える。

キツネが奪おうとするのは大事なものに違いないと、ロズはその卵を体内に格納して様子を見る。やがて卵は孵化し、小さな雛鳥が生まれる。
刷り込み効果で、雛鳥は最初に眼にしたロズを母親と思い込み、どこまでもついて来る。

子連れのオポッサムのピンクシッポ(キャサリン・オハラ)のアドバイスを受け、母親を死なせてしまった負い目もあって、ロズはその雛鳥にキラリと名付け、渡り鳥として無事飛べるようになるまでキラリの母親代わりとして育てる事を決意する。ロズが女性である事がここで生きて来る(ロボットに性別があるのはヘンなのだけど(笑))。
アシスト・ロボットとしての仕事を見つけられなかったロズが、キラリの子育てを自分の使命として実感して行くプロセスが、なかなか丁寧に描かれているのがいい。

キツネのチャッカリもいつしかロズの相棒として、キラリの成長の手助けをするようになる。チャッカリのスパルタ特訓が面白い。


物語はこうして、雛鳥だったキラリが、ロズとチャッカリの手助けを経て、泳ぎを覚えたり、やがて翼を広げて飛べるようになるまでを、雄大な自然の光景や、夥しい数の鳥が空を舞う美しい映像を交えて描いて行く。

だがキラリは、他の鳥たちとの交流の中で、ロズが実は自分の母や兄弟を殺してしまった事を知る。キラリは怒り、ロズを難詰する。
だがこれまで自分を育ててくれた恩もある。キラリがロズへの愛と憎しみの間で葛藤する姿は、子供向けアニメとは思えないほど複雑だ。

やがて冬が来て、渡り鳥たちが暖かい地へ飛び立つ時がやって来る。雁の群れのリーダー、クビナガ(ビル・ナイ)の支援もあってキラリもどうにか間に合い、群れと共に旅立って行く。この別れのシーンも切ない。自分の使命が終わったと感じたロズは、寂しさを堪えながらダイナミクス社に救助信号を送る。


ここまでで一応の物語は終わったように見えるが、ここからさらに深いテーマが呈示されて行く。

物語の途中で、動物たちの弱肉強食の姿も描かれる。カニがあっと言う間に食べられたり、クマが弱い動物をエサにするシーンもある。自然界の掟である。
だが例年にない厳しい吹雪がやって来て、このままでは森の動物たちも冬は越えられないと思ったロズは、チャッカリの手助けも得て、ロズが作った巨大なドーム型の大きな家に動物たちを招き入れる。ここは旧約聖書「ノアの方舟」を思い起こさせる。

それまでは食うか食われるかの生きる闘いを行って来た動物たちは、ここでは厳寒の冬を乗り越える為、共存共栄をしなければならなくなる。熊のソーンも、餌が目の前にあっても喰う事を断念する。

「ヒックとドラゴン」でも描かれた、“敵対し憎み合うよりも、お互いが生きる為に共存と寛容の道を歩むべきではないか”というテーマがここでも強く打ち出される。

後半に明らかになるが、実は地球は温暖化の影響か、沿岸部が水没し、人々は外の自然とは隔離されたドーム内で暮らしているのだ。
前述の、これまでにない厳しい冬も、あるいは気候変動が原因なのかも知れない。
ちょうどこの映画を観た頃、猛烈な寒波が何度も襲来して大雪になったニュースが告げられていたが、絶妙のタイミングだ。

温室効果ガスの影響で地球温暖化は進み、北極の氷も解け、一方では猛烈な気候変動で、人類の生存が脅かされている。くだらない戦争やいがみ合いをやってる場合ではないという訴えは、前作以上に強調されている。

やがて春が来て、キラリたち渡り鳥はこの島に戻って来る。再会を喜ぶロズとキラリ。
だがそこにロズを回収に来たダイナミクス社の輸送機が現れ、ロズは逃げるが回収ロボットに捕えられる。それを見たキラリたちは輸送機に侵入し、大暴れの末にロズはキラリのおかげで脱出出来、輸送機は炎上し墜落する。

このシークェンスはかなりスピーディかつダイナミックなアクションの連続で、さらに地上では山火事が起きて、その消火の為に動物たちは力を合わせ、無事火を消し止める事にも成功する。
これら一連のアクション・シーンは本筋にはあまり関係ない。実際ロズはその後ダイナミクス社に戻る事を決め、迎えに来た回収機に乗って島を去って行くのだから。
まあこれらは、エンタティンメントとしての一種のサービス・シーンと考えるべきだろう。

最後は、ユニバーサル・ダイナミクス社の温室で働いていたロズの元にキラリが訪ねて来て、両者は再会を喜ぶ所で物語は終わる。


面白かった。映像は綺麗だし、動物たちのデザインがリアルなCGでなく、絵画のような柔かなタッチなのも好感が持てる。

本作はピーター・ブラウンによる原作(「野生のロボット」)があるにも係わらず、サンダース監督が前作でも訴えたテーマ”異なる世界で生きて来た者同士の交流と友情”“敵対し戦うよりも、この地で生きるもの同士、共存し助け合うの道を選ぶべきではないか”がさらに推し進められているのがいい。

地球温暖化を認めず、分断化と不寛容を煽るトランプ大統領に対する痛烈なアンチ・メッセージにもなっている。本作の製作が開始されたのはかなり以前だろうが、期せずしていい時期に公開された事になる。

そして素晴らしいのが、ロボットも“心”を持つ事は出来るのだろうか、というテーマも内包されている点である。プログラムされた事しか実行出来ないはずのロボットが意思を持ち、本社の命令に逆らい、キラリとの間に、親子の情愛のような“心”が芽生えた事が本作で描かれている。
ジェームズ・キャメロン監督「ターミネーター2」でも、シュワちゃん扮するT-800が少年ジョン・コナーと交流する事で学習し、サラ・コナーやジョンと心を通わせて行くプロセスが描かれていた。A.Iが進化した今の時代は、ますますその可能性が高まったと言えるだろう。

深いテーマをきちんと描きつつ、美しいビジュアルにも魅せられ、波乱万丈の物語がダイナミックに進展し、最後は感動を呼ぶ、これは見事なアニメーションの秀作である。サンダース監督、お見事!
(採点=★★★★☆

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(付記)
宮﨑駿監督のファンである事を公言しているサンダース監督らしく、いくつかのシーンに宮﨑オマージュが散見された。

ロズのデザインは「天空の城ラピュタ」に登場するロボット兵を思わせるし、「ラピュタ」のラストシーンでは、空に舞い上がって行くラピュタの庭園で、鳥たちを肩に乗せたロボット兵の姿が描かれていた。

ダイナミクス社に回収されたロズを追ってキラリたち鳥の大群が輸送機に侵入し、ロズを救い出して輸送機を墜落させるシーンは、「未来少年コナン」の巨大飛行機ギガントにコナンが飛び移り、大暴れの末にギガントを墜落させるシーンを思い起こさせる。

奥深い森の風景が何度か登場するが、サンダース監督はインタビューで、「宮﨑監督が描く森には神秘性、没入感、奥行きがあり、私たちもそこにインスピレーションを受けて森を描きました」と答えている。そう言えば「となりのトトロ」にしろ「もののけ姫」にしろ、宮﨑作品には神秘的な森がよく登場していた。

Majonotakkyuubin2おしまいに、「魔女の宅急便」の中で、キキがクロネコのぬいぐるみが入った鳥籠をお届けに空を飛んで行くシーンで、キキの横を飛んでいたのが、雁の群れだったし、その後風に煽られて墜落し、落ちた所が卵がある鳥の巣の近くであった。

 

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コメント

今年初めて投稿する事が出来ました。管理人さんの上げた映画を見る機会がなかったので、ようやく感想が書けます。この映画、軽い気持ちで見たのですが、侮れない作品でした。まず映像がきれいだし、テーマもなかなか重い。ただ、字幕で見たかったのですが、周辺の映画館では、ほとんど上映してなかったのが残念。また、前回のキネマ旬報の話はショックですね。川本三郎さんの連載を立ち読みするぐらいでしたが、もう読めないのは悲しいです。

投稿: 自称歴史家 | 2025年3月 1日 (土) 09:15

本作見逃しているのですが、評判いいので見ようかと思っています。

投稿: きさ | 2025年3月 2日 (日) 13:38

◆自称歴史家さん
映像の美しさは特筆ものですね。特に初めの所の一斉に蝶が舞い上がるシーンや、キラリが旅立つシーンの鳥の群れなど、惚れ惚れします。
私も字幕で観たかったのですが、どこも吹き替えばかりでした。ルピタ・ニョンゴの声聞きたかったなぁ。


◆きささん
是非観てくださいね。映像、テーマ、どれも見応えありますよ。
それと、冒頭のドリームワークス・アニメの会社ロゴで、シュレックや長ぐつをはいたネコなど歴代名物キャラが登場しますのでここはお見逃しなく。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年3月 3日 (月) 21:36

本日見ました。いい映画でしたね。
お話も悪くないですが、映像の美しさに魅せられました。
もう近くのシネコンでは吹き替え版しか上映していませんでしたが、うまい俳優が揃ってとても良かったです。
特に綾瀬はるか、柄本佑のコンビが素晴らしい。
ラピュタのロボットがトトロの森に行ったらという話でしたね。
見逃さず良かったです。感謝。

投稿: きさ | 2025年3月 5日 (水) 20:32

リプート版新幹線大爆破、よくぞ、JRが協力したしかし、●●●●が犯人とは、無理がある
また、何で前作から50年も経過して作り直すのか
劇場公開しないのが、もったいないの、声がある、のんの代表作でもある

投稿: ゆきんぼう | 2025年4月29日 (火) 15:47

◆ゆきんぼうさん
ようこそ当ブログへ。
と歓迎したいのですが、重大なネタバレをここで書くのは問題があるので一部伏せ字にさせていただきます。ご了承ください。
いずれリブート「新幹線大爆破」については作品評を書く予定にしておりますので、またその時にでもお越しください。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年4月29日 (火) 22:54

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