「Broken Rage」 (VOD)
2024年・日本 66分
製作:T.Nゴン=MGM
配信:Amazon Prime Video
監督:北野武
脚本:北野武
撮影監督:浜田毅
衣装デザイナー:黒澤秀之、黒澤爽
音楽:清塚信也
エグゼクティブプロデューサー:北野恵美子
プロデューサー:福島聡司
北野武が監督・脚本、及びビートたけし名義で主演を務め、「暴力映画におけるお笑い」をテーマに型破りな演出で撮りあげた一種の実験作。出演は北野監督の「首」にも出演していた浅野忠信、大森南朋、中村獅童。その他宇野祥平、白竜、仁科貴、劇団ひとり等が共演。第81回ベネチア国際映画祭に日本の配信映画として初の正式出品作に選出された。2025年2月14日よりAmazonPrimeで独占配信。
(物語)裏社会で凄腕の殺し屋として暗躍して来た男・ねずみ(ビートたけし)は、“M”というクライアントからの殺しの依頼を淡々とこなす日々を送っていた。しかし警察に自身の犯行が暴かれ、遂に逮捕されてしまった。二人の刑事、井上(浅野忠信)と福田(大森南朋)はねずみに、罪を見逃す代わりに覆面捜査官として麻薬組織に潜入するよう命じられる。
数々の異色作、秀作を作って来た北野武監督による新作であるが、本作は初の劇場公開なしの配信作品である。そして構成は、前半が殺し屋が主人公のクライム・サスペンスで、"Spin Off"と題された後半では前半と同じストーリーを、セルフパロディのコメディとして描くという、なんとも人を食ったと言うか、実験的な作品になっている。しかも上映時間は全部で66分、前半パートはたった27分という短さである。30分足らずの短編を2本繋いだ作品と言った方が正しい。
こんな大胆な作品を作れるのは、世界広しと言えども北野武監督だけだろう。
「その男、凶暴につき」(89)、「ソナチネ」(93)、「HANA-BI」(97)など傑作バイオレンス・ノワールの監督として高く評価されながらも、一方でお笑い芸人“ビートたけし”としてのスタンスも今なお持続しているのだから。
たまに「みんな~やってるか!」(94)や「TAKESHI'S」(2005)のようなコメディも監督したりはするが、正直言ってどれもつまらなかった。最近ようやく「龍三と七人の子分たち」(2015)のような、コメディとしても成功作(と個人的には思っている)を作れるようにはなったが。
(以下ネタバレあり)
本作は、一見ハード・バイオレンス風の作品でも、違う角度から見ればコメディになるのではないか、という実験をやってみたかったのだろう。
前作、「首」でも、戦国武将たちの残酷な殺し合いをグロテスクかつ凄惨に描きながら、随所に笑える部分を盛り込んだ、やはり実験的な作りであった(私は前作評で“バイオレンスと笑いを巧みに両立させた成功作”と評価した)。本作はその延長線上にあると言える。
前作でコメディ・パートを請け負った浅野忠信と大森南朋をそのまま刑事コンビにキャスティングしているのもその為だろう。
よって本作の物語も、いつでもコメディに転用出来るよう、相当考えて脚本を書いている。
その狙いは分からなくもないが、その為か前半パートはどこか緩い作りになっている。そして“ねずみ”を演じるたけし本人の演技も、なにしろ78歳という高齢もあって、動きは緩慢だし身体はしまりなく、走るシーンはドタドタと、とても凄腕の殺し屋には見えない(まあそれが後半パートのギャグになってるわけだが)。
ねずみを捕まえた井上、福田の刑事たちが、彼に潜入捜査官をやらせるのも無理があり過ぎる。何人も人を殺していて、通常なら死刑を宣告されてもおかしくない犯罪者を、ほぼ野放しにするわけだから。潜入するフリして、トンズラされる可能性の方がずっと高いだろう。ラストも潜入捜査が成功したからと無罪放免なんて甘すぎる。井上刑事たちがねずみを裏切って殺し合いになり、どちらも血まみれになって死んでしまうという結末の方がしっくり来ると思う。
そんな具合に、前半パートですらあまり面白くないのに、後半のコメディ・パートはさらにつまらない。ギャグ自体が、頭をぶつけたり蹴つまづいたりすっ転んだりの古臭いものだし、井上が剣を呑み込むマジックをやるシーンなんて面白くもなんともない。ラストの“ネズミがチュー”もさむ過ぎて笑えない。たけしのギャグは昭和からまったく進んでないのかとうんざりした。もっと時代に合ったギャグを考案すべきだろう。例えば振り込め詐欺とかA.I案内嬢をギャグにするとか。
厳しい言い方をするが、こんな実験にすらなっていない凡作、とても金を払えるシロモノではない。配信で正解だろう。
俳優たけしも、もう年齢的には限界だろう。俳優を続けるなら、年齢相応の老人役を演じるべきではないか。クリント・イーストウッドは「許されざる者」では馬から落っこちたり、「人生の特等席」では小便がなかなか出なかったりテーブルに蹴つまづいたりの(本作後半のたけしみたいだ(笑))老いぼれぶりを晒していた事だし。
ただこれまでも、くだらないコメディを作った後に本領発揮の秀作を監督しているので(「みんな~やってるか!」→「キッズ・リターン」、「アキレスと亀」→「アウトレイジ」等)、本作の後、また秀作を作ってくれる可能性はある。それをとりあえずは期待したい。 (採点=★★☆)
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