「ウィキッド ふたりの魔女」
2024年・アメリカ 161分
製作:マーク・プラット・プロ=ユニヴァーサル
配給:東宝東和
原題:Wicked
監督ジョン・M・チュウ
原作:グレゴリー・マグワイア
原作ミュージカル(作詞・作曲):スティーブン・シュワルツ
原作ミュージカル(脚本):ウィニー・ホルツマン
脚本:ウィニー・ホルツマン、デイナ・フォックス
撮影:アリス・ブルックス
音楽:ジョン・パウエル、スティーブン・シュワルツ
製作:マーク・プラット、 デビッド・ストーン
製作総指揮:デビッド・ニックセイ、 スティーブン・シュワルツ、 ジャレッド・ルボフ、 ウィニー・ホルツマン、 デイナ・フォックス
2003年の初演から20年以上にわたり愛され続けるブロードウェイ・ミュージカル「ウィキッド」を映画化した2部作の前編。監督は「イン・ザ・ハイツ」のジョン・M・チュウ。出演は「ハリエット」のシンシア・エリヴォ、「ドント・ルック・アップ」のアリアナ・グランデ、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のミシェル・ヨー、「ジュラシック・パーク」シリーズのジェフ・ゴールドブラム。第97回アカデミー賞で作品賞の他10部門にノミネートされ、美術賞と衣装デザイン賞の2部門を受賞した。
(物語)魔法と幻想の国・オズにあるシズ大学の学生として出会ったエルファバ(シンシア・エリヴォ)とグリンダ(アリアナ・グランデ)は、寄宿舎で偶然ルームメイトになる。緑色の肌を持ち、周囲から疎まれ孤独なエルファバと、野心的で美しく人気者のグリンダ。見た目も性格もまったく異なる2人は、最初こそ反発し合うが、次第にかけがえのない友情を築いて行く。そんなある日、国を統治し、誰もが憧れる偉大なオズの魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)に特別な力を見出されたエルファバは、グリンダとともに彼が司るエメラルドシティへと旅立つ。そこで二人は、オズに隠され続けていた“ある秘密”を知る事となるが…。
20年以上も続演されているブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品だが、その元となったのはライマン・フランク・ボームが1900年に発表した児童文学「オズの魔法使い」。それをミュージカルでは定評のあるMGMが1939年にジュディ・ガーランド主演で映画化した(監督:ヴィクター・フレミング。当時の映画邦題は「オズの魔法使」。以下「旧作」と呼ぶ)。
この作品は年を経るごとに人気が高まり、何度も再公開されたり、ビデオ、DVDで手軽に観れるようになった事もあって根強いファンがいる。
実は私も大ファンで、再公開時に劇場で観て感動し、その後DVDも入手して何度も観ている。戦前の作品なのにカラーがとても鮮やかで、夢があって音楽も素敵なMGMミュージカルの代表作と言える。主題歌「虹の彼方に」(Over The Rainbow)も今も愛される名曲だ。
2013年には、奇術師の若者オズが魔法の国にやって来て、偉大なオズの魔法使いになるまでを描く前日譚「オズ はじまりの戦い」が公開されている(監督:サム・ライミ)。これは結構面白かった。
で、本作であるが、こちらは一人の女性エルファバがどういう経緯で邪悪な西の魔女(と原作や旧作ではそうなっている)になったのかを描く、こちらも前日譚である。
原作は1995年にグレゴリー・マグワイアが発表した小説。それをミュージカル化した作品が2003年にブロードウェイで初演され、現在まで続く人気ミュージカルである。日本でも2007年から劇団四季で演じられている。
それくらい評判がいいミュージカルの映画化という事で、映画の前評判も上々、観てみる事にした。
(以下ネタバレあり)
冒頭いきなり、西の魔女が水をかけられ、死んでしまったシーンから始まる。旧作の終盤のシーンである。
悪い魔女が死んだという事でマンチキンの住民たちは大喜び。そこにやって来た南の善い魔女・グリンダに一人の少女が、「あなたは西の悪い魔女と親友だったという噂は本当なのか」と問いかける。そこでグリンダが、西の魔女・エルファバとの出会いから、現在に至るまでの物語を語り始める、という訳である。
一瞬だけどドロシーとカカシ、ブリキ男、ライオンが黄色いレンガ道を歩いて行くシーンが登場し、旧作ファンなら喜びたくなるだろう。
エルファバは生まれた時から緑の肌だった為に家族からも疎まれ、周囲からも差別されて来た。それにもめげず、彼女は毅然と生きて来た。
エルファバの妹ネッサローズ(後に東の悪い魔女となる)は生まれつき足が悪く、車椅子の障害者である。そうなった理由も自分のせいだとエルファバは思っている。オズの国にあるシズ大学にネッサローズが入学したので、その付き添い兼世話係としてエルファバも大学にやって来たという訳だ。そしてやはりシズ大学に入学したグリンダと出会う事となる。なおこの時点では彼女の名前はガリンダなのだが、後にグリンダと改名する。
グリンダは美人で家族からも愛情いっぱいに育てられて来た。性格的にはやや高慢で野心家、なにもかもアルファバとは正反対である。従って偶然ルームメイトとなった二人は、最初こそ何かと衝突するが、次第に心が打ち解け合い、友情の絆を深めて行く。
しかしやはり世間知らず、彼女はエルファバに黒いとんがり帽子をプレゼントする。悪気はないのだが、これが後に“悪い魔女”の象徴になってしまうのだ。
エルファバは怒ると無意識に魔法の能力を発揮してしまうのだが、それを見た大学の学部長、マダム・モリブル(ミシェル・ヨー)は、エルファバを利用しようと考える。数日後エルファバは、誰もが憧れる偉大なオズの魔法使いからの招待状を受け取り、グリンダとともにエメラルド・シティへと旅立つ。
…といった所から物語は核心に迫って行くのだが、驚いたのがオズの魔法使いのキャラクター設定。旧作ではオズの魔法使いはカンザスから竜巻に巻き込まれてこの国にやって来た奇術師で、人々を騙してはいたけれど、悪い人間ではないという風に描かれていたのだが、本作では自分の権威を守る為に、ヤギの教授などの知性を持ち言葉を喋る動物たちを檻に閉じ込め言葉を奪うなどの迫害を行う、独裁者的権力者として描かれている。
エルファバはその魔法使いの企みを見抜き、その計画を阻止すべく魔法使いとマダム・モリブルと対決し闘う覚悟を決めるのである。
旧作の、オズの魔法使いと西の魔女のキャラクターをまるごとひっくり返し、アルファバが正義、魔法使い一味を邪悪な存在にしているのである。これにはぶったまげた。
旧作では神の使いの天使のような存在だったグリンダも、ここではどっちに付くかも決めかねる優柔不断な女性に設定している。魔法の才能もないように見える。
おそらく第2部では、この国を正しい方向に導く為、エルファバはあえて悪い魔女の汚名を被り、死んで行くのではないかと想像する。クリストファー・ノーラン監督「ダークナイト」をちょっと思わせる。
テーマ的には、肌の色の違う者や弱者に対する差別、リベラルな存在に対し言論の自由を奪い迫害し、大衆を扇動して自己の権力をほしいままに行使する国のトップに対する痛烈な批判が込められているのだろう。本当の正義とは何か?というテーマも見え隠れする。ロシア、中国などの全体主義的国家に対する批判にも見えるし、今だったらトランプ大統領に対する皮肉も感じられる。
そういうテーマを採り入れる事についてはおおむね賛成だし、よく作り上げられているとは思う。
だが、旧作のファンにとっては、複雑な気持ちになる。旧作を見て抱いていたイメージがぶち壊しである。旧作では西の魔女は、近所の意地悪なミス・ガルチと同じマーガレット・ハミルトンが演じていて、憎たらしい悪い魔女そのものだった。それが本当はいい人だったなんて、どう考えても納得できない。
随所で繰り広げられるミュージカル・シーンは圧巻だし、セット、美術も素晴らしい。とりわけラストでエルファバが宙を飛びながら歌い踊る"Defying Gravity"は見惚れてしまうほど見事。これはアテレコでなく実際に演技しながら歌っているというのも凄い。
旧作を観ていなければ感動する人も多いだろう。
だが繰り返す。旧作に思い入れのあるファンが、こうした大胆な改変を受け入れられるかどうか。旧作にヒントを得た、別の作品と割り切ればいいのだけれど。
また旧作を知らない人にとっては、本作でエルファバに感情移入してしまうと、今年の秋に公開される第2部を観て、エルファバがドロシーに水をかけられ、死ぬ結末に納得出来るかも心配になる。
まあブロードウェイや劇団四季の舞台は好評ロングランなので、心配はないとは思いたいけれど。
そんなわけで、ファンタジー・ミュージカルとしては楽しめたけれど、もう一つモヤモヤした気分が残ってしまったので星一つ減点させていただく。 (採点=★★★★)
(付記1)
旧作では善い魔女のグリンダは“北の魔女”だったが、舞台劇でもそれを映画化した本作でも、グリンダは“南の魔女”になっている。
ちなみに前述の「オズ はじまりの戦い」でもグリンダは南の魔女になっている。
また旧作並びに「オズ はじまりの戦い」では、いずれも東の魔女(本作のネッサローズ)は西の魔女の姉だったが、本作ではエルファバが姉、ネッサローズが妹と姉妹が逆転している。
(付記2)
旧作では、西の魔女と東の魔女には名前がない。その為リメイクや派生作品が作られる毎に名前が違っている。
前述の「オズ はじまりの戦い」では、西の魔女は“セオドラ”、東の魔女は“エヴァノラ”になっている。
旧作を元にして、1974年にブロードウエイの舞台で初演されたオール黒人キャストのミュージカル「ウィズ」。1978年にはその映画化作品が作られた(監督は名匠シドニー・ルメット)。この作品では、東の悪い魔女は“エバーミーン”、その姉は何故か北の悪い魔女(ややこしい(笑))で、名前は“アビレーン”だった。姉妹の逆転はここでも起きている。
ちなみに映画で“かかし”役を演じたのはマイケル・ジャクソンだった。ドロシーはダイアナ・ロス。
なお本作のエルファバ (Elphaba)という名前は、実は原作者のライマン・フランク・ボーム(Lyman Frank Baum) の頭文字L、F、Baから採られたそうだ。
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コメント
そうでしたか。私も「オズの魔法使」大好きです(本作鑑賞後に見直し、改めてよく出来ていることに感激!)が、おまけに舞台は未見なんだけど、私には半端ない大傑作でした。とんでもない没入感。初めて行ったテーマパークでの高揚感という感じで、ガ(グ)リンダとダンサーの動きに釣られ、顔を動かしそうになったほど。最後の最後のたたみ掛け方、最高のTo be continued!シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、そして前作も傑作ミュージカルだった「イン・ザ・ハイツ 」のジョン・M・チュウ監督、最高。後編が「バック・トゥ・ザ・フューチャー3」のように、テンション下がらないことだけ祈っておきます。
投稿: オサムシ | 2025年4月 6日 (日) 18:14
◆オサムシさん
「オズの魔法使」と連動しないオリジナル作品だったら、私ももっと感動し絶賛したでしょうね。
後編でどうオチをつけるのか、それ次第で評価が定まると思います。早く後編みたいですね。
投稿: Kei(管理人 ) | 2025年4月 8日 (火) 11:36