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2025年4月 7日 (月)

「ミッキー17」

Mickey17 2025年・アメリカ   137分
製作:Plan B Entertainment=Offscreen Production
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Mickey 17
監督:ポン・ジュノ
原作:エドワード・アシュトン
脚本:ポン・ジュノ
撮影:ダリウス・コンジ
音楽:チョン・ジェイル
製作:デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、ポン・ジュノ、チェ・ドゥホ
製作総指揮:ブラッド・ピット、ジェシー・アーマン、ピーター・ドッド、マリアンヌ・ジェンキンス

エドワード・アシュトンの小説「ミッキー7」を映画化したSFエンターテインメント大作。監督は第92回アカデミー賞受賞作「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ。主演は「THE BATMAN-ザ・バットマン-」のロバート・パティンソン。共演は「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のナオミ・アッキー、「ミナリ」のスティーヴン・ユァン、「陪審員2番」のトニ・コレット、「アベンジャーズ」シリーズのマーク・ラファロ。

(物語)失敗だらけの人生を送ってきた男ミッキー(ロバート・パティンソン)は、人類発展を使命に掲げる巨大企業が募集する、何度でも生まれ変われる“夢の仕事”で一発逆転を狙おうと、契約書をよく読まずにサインしてしまう。しかしその内容は、前人未到の氷の惑星で危険な任務を遂行し、命を落としては新たな身体で何度も再生する究極のミッションだった。文字通りの使い捨てワーカーとして搾取され続ける日々を送るミッキーだったが、ある日手違いによりミッキーの前に彼自身のコピーが同時に現れて…


「パラサイト 半地下の家族」
以来5年ぶりのポン・ジュノ監督の新作は、ハリウッドで作られたアメリカ映画でSF。…と聞くと、あの評判イマイチの「スノーピアサー」を思わせる。私もあれはつまらなかった。

そんなわけで、本作もちょと心配だった。ポン・ジュノは韓国で作った社会派人間ドラマ「殺人の追憶」「母なる証明」「パラサイト-」など)で本領を発揮する作家なのではと思っている。怪獣映画に分類される「グエムル 漢江の怪物」も家族の絆、国家への不信感、アメリカ批判といった社会的テーマはしっかりと打ち出されていた。

ただ、同じくハリウッド資本が入ったNetflix配信作(劇場未公開)の「オクジャ Okja」(2017)はまずまず面白かった(作品短評は2023年度ベストテンに掲載)。この作品にも人間の身勝手さへの批判が込められている。
この作品で製作に加わったのがブラッド・ピット率いるプランBエンターテインメント。プランBは最近でもアカデミー作品賞にノミネートされた「ニッケル・ボーイズ」を製作する等気を吐いているが、実は本作もプランBの製作である。これは期待が持てる。早速初日に劇場鑑賞した。

(以下ネタバレあり)

時代は遥かな未来。主人公ミッキーは何をやってもうまく行かず、借金取りにも追いかけまわされるどん底の日々。地球にいては命が危ないので他の惑星に逃げようと考えたミッキーは、何度でも生まれ変われる夢のような仕事があると聞いて、契約書の中味も確認せずにサインしてしまう。

着いた氷の惑星ニブルヘイムでの仕事はとても危険。文字通り命がいくらあっても足りないような過酷な仕事だが、作業に就く前にあらかじめ本人の身体データと記憶をコピーしておき、身体は3Dプリンターのような人体生成機で元の人間とそっくりなコピー人間を作る事が出来る。その為人命は軽視され、“エクスペンダブル”(消耗品=使い捨て)として何度も死んではコピー人間に生まれ変わり、また危険な任務に就かされる。その都度彼は“ミッキー2”、“ミッキー3”…と番号が付られ、現在は映画のタイトル通り、17回も死→再生を繰り返して来たのだ。

ある日ミッキーは、同僚のティモ(スティーヴン・ユァン)と共に雪原の探検に出かけたが、氷河の割れ目に落ちてしまう。ティモがロープを降ろすがミッキーの所までは届かない。
どうせ使い捨てだとばかり、ティモは救出をあっさり放棄して基地に帰る。おそらく彼は死んだと報告するのだろう。

ミッキーは死を覚悟する。おまけにクレバスの横穴から、“クリーパー”と名付けられた大きな団子虫のような生き物がゾロゾロと現れる。
てっきりこいつに喰われるのか、と思いきや、何故かクリーパーたちはミッキーを地表に助け上げてくれる。人間に害を与える気はないようだ。

地球の人間から見ればこの生き物たちは怪獣か異形のクリーチャーにように見えるが、実はこの惑星の先住民であり、知性も持っている事が後に判ってくる。

九死に一生を得たミッキーは基地に帰り、自分の部屋のベッドで寝ようとするが、なんとそこにはもう一人の自分がいた。彼は死んだと見做され、リプリントでミッキー18が作られていたのである(以下戻って来たミッキーを“ミッキー17”と呼ぶ)。
同じ人物が二人存在すると、両方とも抹殺されるというルールになっているので、二人のミッキーは協力してなんとか同時に見つからないように悪戦苦闘する。

それまでのデスペレートな物語展開とは打って変わって、ここからはコメディ要素が強くなり、笑えるシーンが多くなる。そして物語もここから面白くなる。

ミッキー17には、宇宙船の警備隊長であるナーシャ(ナオミ・アッキー)という恋人がいるのだが、彼女が二人を見つけてどっちも好きになってしまう辺りも笑える(3Pプレイシーンもある)。

コピーする度に性格も微妙に変化するらしく、ミッキー17が繊細で悩むタイプなのに対して、18は行動的でカラッとした性格なのも面白い。ロバート・パティンソンがこの二人を絶妙に演じ分けている。


この惑星の支配者は元落選議員のケネス・マーシャル(マーク・ラファロ)とイルファ(トニ・コレット)夫妻。地球で権力者になれなかった分、この星ではやりたい放題、権力を見せびらかす。どこかの大統領を思わせたりもする。

そのケネスが大衆の前で一席ぶっていた時、クリーパーの幼虫2匹が紛れ込み大混乱。ケネスは1匹を殺してもう1匹は生け捕りにし、巨大なマザー・クリーパーをおびき出す囮にして、クリーパーを抹殺しようと企む。

この辺り、先住民族(ネイティブ・アメリカン)を迫害し圧殺して来たアメリカの歴史に対する皮肉にも見える。

やがてミッキーが二人いる事がバレてしまうのだが、ケネスは遠隔操作の爆弾を17と18の身につけさせ、マザー・クリーパーに近づいた時に爆弾を爆発させる計画を立てる。まさに使い捨てだ。

子供を取り返そうとクリーパーの集団が基地に押し寄せて来る。ケネスは一番デカいのがマザーだからそいつに狙いを定めて撃とうとするが、クリーパー側は数十匹が一かたまりになってマザーに見せかけるので見分けがつかない。敵もさるものだ、

ミッキーたちは、研究員が開発したクリーパーの言語を翻訳する装置でマザーと会話を試みる。マザーは、生け捕りの仲間を返して、なおかつ一匹が死んだので誰か一人が死ぬ事を条件に引き揚げると約束する。
翻訳機の存在はちょっとご都合主義。まあクリーパーと意思疎通が出来なければ話が進まないので仕方ないか。

巨大クリーパーの姿や、子供を返す事でその怒りを鎮めようとする終盤の流れは、「風の谷のナウシカ」の王蟲とそのラスト・シークェンスそっくりだ。
ポン監督自身も「風の谷のナウシカ」にヒントを得た事は認めている。そう言えば「オクジャ Okja」でも、少女が仰向けに寝ているオクジャの腹に乗っている「となりのトトロ」とそっくりなシーンがあった。

最後は18が、ケネスを道連れに自爆して物語の決着をつける。使い捨て人間にだって、正義の為に身を犠牲にする意地は持っているのだ、という18の心意気にはちょっと感動した。


振り返れば、本作には現在の世界が抱えるさまざまな社会的テーマが巧みに張り巡らされている。一部の人間に富が集中し、多くの人間が貧困にあえぐ格差社会の現状と怒りは、本作のみならず多くのポン・ジュノ監督作品にも共通するテーマだし、大衆を扇動する支配者が権力を持つ事の危なさ大国による少数民族への迫害など、いくつもテーマが思い当たる。

特に、“使い捨てられる人間”と言えば、ロシアの依頼でウクライナに派兵された北朝鮮軍兵士が思い浮かぶが、戦争に駆り出される兵士はいつの時代も、使い捨ての駒なのだ。Theywereexpendable 第二次大戦中の日本の特攻隊などもその典型例だ。
そうそう、ジョン・フォード監督が大戦終結後に監督した「コレヒドール戦記」(1945)は、原題が"They Were Expendable"。「彼ら(兵士たち)はエクスペンダブルだった」と、ズバリの題名である。ミッキーたちエクスペンダブルは、戦争における下級兵士たち(これも階級格差の象徴)のメタファーと言えるだろう。

こうした、さまざまな考えさせられるテーマが網羅されていて、かつエンタティンメントとしても楽しめる作品になっている点でも、私は本作を大いに評価したいと思う。やはりポン・ジュノ監督作はあなどれない。 
(採点=★★★★☆

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コメント

私も本作見ました。面白かったですね。
感想にはほぼ同感。「スノーピアサー」がイマイチだったのも同感。
ブラッド・ピット制作作品は侮れないですね。

ところで、4月1日にSo-netブログが突然終了。
連絡は来ていた様ですが、全く気付かず。
全て消えてしまいました。参りました。

投稿: きさ | 2025年4月 9日 (水) 21:15

◆きささん
私も4月に入ってきささんのブログにお邪魔したら「SSブログは終了しました」となっていたので驚きました。
運営会社の都合もあるのでしょうが、せめて新規作成やコメント投稿は出来なくても、しばらくの間は過去記事を残しておいてくれればいいのにね。
是非また別のブログサービスで、ブログ再開するのを待ってます。頑張ってください。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年4月 9日 (水) 22:22

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