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2025年4月17日 (木)

「プロフェッショナル」 (2024)

Professional 2024年・アイルランド   106分
製作:Facing East Entertainment=London Town Films 他
配給:AMGエンタテインメント
原題:In the Land of Saints and Sinners
監督:ロバート・ロレンツ
脚本:マーク・マイケル・マクナリー、 テリー・ローン
撮影:トム・スターン
音楽:ディエゴ・バルデンベーク、 ノラ・バルデンベーク、 リオネル・バルデンベーク
製作総指揮:ロバート・ロレンツ、 マーク・ジェイコブソン、 ビクター・ハディダ、 エフド・ブライベルグ、 ニコラス・ベネット、 ダニー・ディムボート

北アイルランド紛争が激化した1970年代を舞台に、アイルランド共和軍(IRA)のテロ集団と対決する元殺し屋の活躍を描くハードボイルドアクション。監督は「人生の特等席」のロバート・ロレンツ。主演は「マークスマン」でもロレンツ監督と組んだリーアム・ニーソン。共演は「イニシェリン島の精霊」のケリー・コンドン、「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのジャック・グリーソン、「ベルファスト」のキアラン・ハインズ、「エア・ロック 海底緊急避難所」のコルム・ミーニイほか。

(物語)1974年、アイルランド北部の村。長年にわたり殺し屋として暗躍して来たフィンバー・マーフィー(リーアム・ニーソン)は、周囲にその正体を隠しながら、人里離れた海辺の田舎町グレン・コルム・キルで静かな生活を送っていた。だが、フィンバーが引退を決意した矢先、首都ベルファストで爆破テロ事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派グループがこの町に逃れてくる。彼らの一人が地元の少女を虐待していることを知ったフィンバーは、少女を助けるために制裁を下す。だがIRAリーダーでその男の姉・デラン(ケリー・コンドン)は、弟を殺したのがフィンバーである事を突き止め、復讐の炎を燃やす。後戻り出来ない事態に巻き込まれたフィンバーは、テロリストたちとの、命懸けの戦いに身を投じて行く…。

またリーアム・ニーソン主演のアクションかと、当初は観る気はなかった。邦題も安っぽいし。

だが監督のロバート・ロレンツの名前に聞き覚えがあって、ちょっと食指が動いた。2012年のクリント・イーストウッド主演、「人生の特等席」の監督だったからである。これがロレンツ監督デビュー作。

ロバート・ロレンツは30年以上も前から、クリント・イーストウッド監督作の助監督、第二班監督、プロデューサーとして永年イーストウッド監督を補佐して来た人である。2002年の「ブラッド・ワーク」以後は2014年の「アメリカン・スナイパー」に至るまで、すべてのイーストウッド監督作品で製作及び製作総指揮を務めて来た。

それを知っていたから、これは観ておかねばと劇場に赴いた。

舞台は北アイルランド。実はニーソンは北アイルランド出身で、脇役のケリー・コンドン、キーラン・ハインズ、ジャック・グリーソン、コルム・ミーニイも全員がアイルランド及び北アイルランド出身である。重要な役割を果たすケリー・コンドンはやはりアイルランドが舞台の「イニシェリン島の精霊」にも出演していた。

そんなわけで、本作は映像的にも、「イニシェリン島の精霊」を思い出す、いかにもアイルランドらしい風景の中で物語が進む。この点も重要である。派手なドンパチ・アクションは期待しない方がいい。

(以下ネタバレあり)

リーアム・ニーソン扮するフィンバー・マーフィーの仕事は殺し屋である。と言っても、舞台がアイルランドの最僻地と言えるひなびた村で、住民もおっとりした性格の人たちばかり。フィンバーもそんな空気の中に溶け込んで、村人とも気さくに会話し、地元の警官ビンセント(キアラン・ハインズ)とも銃の腕前を賭けたりする。

そしてたまに、殺しの元締め・マキュー(コルム・ミーニイ)の依頼を受けて殺しを行う。標的の人間を密かに拉致し、森の奥に連れて行って自分で穴を掘らせ、1分間だけ時間を与えて言いたい事があれば言わせてから殺し、穴に埋めて、その上に木の苗を墓標代わりに植えて仕事は完了。その周りにはいくつも同じ木が植えられている。

フィンバーは第二次大戦に従軍した退役軍人で、妻を早くに亡くし、孤独に生きて来た。戦地では多くの敵兵を殺したであろうし、その腕を買われて殺し屋になったのだろう。

だが老境に差し掛かり、また最後の標的となった男に「あんたも死ぬ前に良い事をしろよ」と言われた事で、これを最後に殺しの稼業から引退する決意を固める。
「これから何をするのか」とマキューに訊かれたフィンバーは「庭に菜園でも作るさ」と答える。
実際、彼はいろんな種をどっさり買い、庭に植える準備を始める。近所には話相手の老婦人もいて、残りの人生も幸せだろうと思わせる。

引退した男が、余生を草花を育てて過ごすのは、イーストウッド監督・主演の「運び屋」を思わせる。その後もイーストウッド作品に似たシーンがいくつか登場する。


だが、そんな土地に、ベルファストで爆弾テロを起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派グループの4人が密かに逃げ込んで来る。
グループの一人、カーティス(デズモンド・イーストウッド)が近所の子持ち女性の親類という事で、その女性の住み家に時折やって来るのだが、女性が仕事に行っている間に小さな娘を虐待していた事をフィンバーは突き止める。

フィンバーはその女の子を可愛がっていたので、カーティスを何とかすべく、巧みに彼を車に乗せて、殴り倒した上、例の森に連れて行くが、逃げられそうになった時、殺し屋仲間の若い男、ケビン(ジャック・グリーソン)が現れカーティスを仕留める。

ケビンは最初の頃はフィンバーに絡んだりしていたが、徐々にフィンバーを尊敬するようになり、やがてフィンバーの相棒のような存在になって行く。

Professional2

ところが、カーティスの姉であり、IRAグループのリーダーであるデランは、弟がいなくなった事で必死に彼を探し回り、マキューの家を訪れ、カーティスを殺したのはフィンバーだった事を知る。

こうして物語は、フィンバーに復讐の炎を燃やすデランたちIRAと、心ならずも彼らと戦う事となるフィンバーとの対決へとなだれ込んで行くのである。


デランを演じたケリー・コンドンは、「イニシェリン島の精霊」ではコリン・ファレルの賢明な妹役を演じていたが、本作では狂暴性をむき出しにするテロリストを怪演。マキューを情け容赦なく射殺するシーンには凄みを感じさせられた。
ケビンを演じたジャック・グリーソンもいい。最期は泣かせる。

フィンバーが、女の子を虐待する男に制裁を加えた事で、却って復讐の連鎖をもたらしてしまうという展開は、イーストウッド監督の「グラン・トリノ」を思わせる。あの作品でも、モン族の少年タオを苛めたギャングに制裁を加えた事がやはり暴力の連鎖を生み出してしまった。

そして、イーストウッド監督の作品における重要なテーマ、“正義とは何か”も浮かび上がる。IRAの過激派たちも、自分たちの正義の為に戦っている。フィンバーにも、悪い奴は懲らしめるべき、という自分なりの正義がある。殺し屋と言うより、必殺仕事人である。殺しの元締めもいるし(笑)。

さらには、何人もの人を殺して来た男が、年老いて銃を捨て、ゆったりと暮らしていたが、心ならずも再び銃を取る事となる、というイーストウッド監督「許されざる者」との類似性も見える。若いガンマンが、主人公の相棒となる所まで似ている。

最後のパブでの銃対決シーンは、西部劇を思わせる。パブ自体が西部劇のサルーンにも見えて来る。西部劇もイーストウッドとは馴染み深い。

さすがはイーストウッドと永年タッグを組んで来たロバート・ロレンツ監督だけの事はある。お見事。

なお、撮影も「グラン・トリノ」「アメリカン・スナイパー」など、近年のイーストウッド監督作品のほとんどを担当しているトム・スターンである。

ラストは、殺し屋である事を知られてしまったフィンバーは、せっかくの安住の地と思っていたこの村を去る事にする。ビンセントにドストエフスキーの本「罪と罰」をプレゼントして。
「罪と罰」とは、自分の犯して来た罪を悔いる意味を示しているのかも知れない。そう言えば、“贖罪”もイーストウッド作品の重要なテーマであった。


アクションもあるけれど、冒頭の殺しのシーンでも判るように、派手さを抑えたクールな味わいの演出と、リーアム・ニーソンの渋い演技が見事。アイルランドの荒涼とした風景が作品にうまくマッチしていた。

ただし作品のムードとまるで合っていない邦題(同時期公開の「アマチュア」への対抗?(笑))は大いに減点である。原題は"In the Land of Saints and Sinners"。「聖者と罪人の土地で」という意味で、ロレンツ監督自身、「聖人にも過去があり、罪人にも未来がある」というメッセージだと語っている。なんとなく分かる気がする。まあこの原題から邦題を決めるのは難しいだろうが。

ロバート・ロレンツ監督、あるいは引退も近いクリント・イーストウッドの精神を受け継ぐ、後継者になれるかも知れない。今後は要チェックである。

期待していなかった分、とても面白かった。見逃さなくて良かった。クリント・イーストウッド・ファンの方には是非お奨めしたい秀作である。 (採点=★★★★☆

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(付記)
カーティスを演じたデズモンド・イーストウッド。名前からしててっきりクリント・イーストウッドの子か孫かと思ったが、調べてみたがどうやら関係はなさそうである(父親の名前はデズモンド・イーストウッド.sr)。

 

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コメント

 シブい映画でした。地味ながらアクションシーンには緊張感があり惹きつけられます。フィンバーとケビンが師匠と弟子みたいになっていくのも良いですね。淡々とした中、子役とネコが可愛いのでほっとします。

投稿: 自称歴史家 | 2025年4月29日 (火) 19:54

◆自称歴史家さん
最後のパブでの対決シーン以外、アクションは少なめのシブい映画でしたね。いつものニーソン無双アクションだと思って、私もうっかり見逃す所でした。是非多くの映画ファンに観ていただきたいですね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年5月 6日 (火) 20:38

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