「午後10時の殺意」 (VOD)
1974年・アメリカ 70分
製作:スペリング=ゴールドバーグ・プロ
原題:Death Sentence
監督:E・W・スワックハマー
原作:エリック・ローマン "After The Trial"
脚本ジョン・ニューフィールド
撮影:ティム・サウスコット
音楽:ローレンス・ローゼンタール
製作総指揮:アーロン・スペリング、レナード・ゴールドバーグ
エリック・ローマンの小説「審判の後で」をTV・ムーヴィーとして映画化したサスペンス。監督はテレビ「警部マクロード」シリーズのE・W・スワックハマー。出演は「ラスト・ショー」(71)のクロリス・リーチマン、「真夜中のパーティ」(70)のローレンス・ラッキンビル、当時新人のニック・ノルティ、「ウエスト・ワールド」のアラン・オッペンハイマーなど個性的な俳優が揃っている。
テレビ用に作られた1974年製作の映画。いわゆるTV・ムーヴィーである。当時は「刑事コロンボ」を」はじめ、TV・ムーヴィー花盛りの時代であった。本作は日本での劇場公開はなく、テレビで放映されたのみ。2011年になってDVDが発売された(DVDタイトルは「午後10時の殺意/私は殺される!」)。
TV・ムーヴィーにしては、配役がなかなか豪華だ。3年前のピーター・ボグダノヴィッチ監督「ラスト・ショー」で見事アカデミー助演女優賞を獲得したクロリス・リーチマンに、後に「48時間」(82)でブレイクするニック・ノルティが出演。ノルティはその前年にテレビでデビューしたばかりの無名の新人だった。
これが最近アマゾン・プライムで配信されたので、上映時間も短いし観てみる事にした。
VHSテープからのダビングなのだろうか、画質はかなり悪い。
(以下ネタバレあり)
冒頭から、夜にマリリン・ヒーリー(C・J・.ヒンクス)という女性の家にやって来た不倫相手の男、ドン・デイヴィス(ローレンス・ラッキンビル)とマリリンとの言い争いが始まる。ドンは別れようというが、マリリンは別れたくない、今も愛してると言う。別れると言うなら、奥さんにすべてバラすとドンを脅す。切羽詰まったドンは自分の黄色いマフラーでマリリンを絞殺する。
「刑事コロンボ」等と同様、犯人の殺人を最初に描く倒叙ミステリーの手法だ。
演出的に面白いのは、ドンがマリリンの首にそっとマフラーをかけた後、音楽が高鳴り、アップになったドンの顔がピンボケになる。しばらくしてピントが戻ると音楽も止み、ドンが放心したように立っている。
直接的な殺しの描写はないが、視聴者はこれでドンがマリリンを絞殺したのだろうと理解する。なかなかうまい演出だ。
次のシーンは、酒場で飲んだくれているマリリンの夫・ジョン(ニック・ノルティ)の姿。彼を知り合いの警察官が自宅まで送り届けると、マリリンが死んでいた。
警察はジョンが殺したのだと疑い、ジョンは妻殺しの容疑で逮捕され、裁判にかけられる。
その裁判の陪審員を務める事になったのが、ドンの妻スーザン(クロリス・リーチマン。右)。夫と仲睦まじく、子供もいる幸せそうな家庭である。が、視聴者はドンが真犯人である事を早々に知っているが、スーザンは知る由もない。
スーザンは几帳面で、車の走行距離をいつもノートに記録している。これが伏線になっている。またスーザンは眼が悪く眼鏡をかけているが、これもまた伏線だ。脚本が意外によく出来ている。
裁判を陪審員席で傍聴しているうち、スーザンは絞殺の道具として提出された黄色いマフラーが夫の持っていたものと似ている事に気付く。帰ってみるとドンはいつもの黄色いマフラーをしていない。夫に対する微かな疑惑が生まれる。
さらに裁判に出廷した証人が、当日夜にマリリンの家にやって来た車があって、運転席の男の顔は見なかったが、車種はクリーム色のステーション・ワゴンだったと証言する。
それを聞いてスーザンは驚く。その車は自分たちが乗っているものと同じ色と型なのだ。
そこで例の走行距離記録ノートで確認すると、何故か14マイルだけ計算が合わない。夫が内緒で乗ったのか。そこで自宅からマリリンの家まで車を走らせると、7マイルだった。往復で14マイル!
スーザンの疑念は確信に変わる。夫がマリリン殺しの犯人なのだ。だが真実が明らかになると、幸福だった家庭は崩壊してしまう。このまま黙っているのが得策なのか。だがそれではジョンが濡れ衣を着せられたまま有罪となってしまう。自分の生活を守るべきか、哀れなジョンを救うべきか…スーザンは苦悩する。
ここまでで気が付いた。これ、今年1月に配信されたクリント・イーストウッド監督の「陪審員2番」と、メイン・プロットがそっくりなのだ。
真犯人本人か、真犯人の妻かの違いはあるが、どちらも陪審員となった主人公が実は事件に大きく関わっていた、というありえない偶然が物語の基本ラインとなる。
スーザンもまた、12人の陪審員中、無罪を主張する3人の一人となる。
さらに、スーザンの陪審員席は、前列の左端に座る陪審員長の右隣である。陪審員長を1番とするなら、スーザンは陪審員2番という事になる。偶然にしては出来過ぎだ(笑)。
イーストウッド監督や脚本家がこんな昔のB級TV・ムーヴィーを参考にしたとは思えないので、この類似性は全くの偶然だと思うが、同じ年にこの2本の作品を観る事が出来たのも何かの縁だろうか。
ラストは、いよいよ本性を現したドンとスーザンとの緊迫した対決となる。スーザンは遂に意を決し、警察に電話しようとするが、ドンは電話を遮断する。さらにドンは彼女の眼鏡を奪った上、部屋に鍵をかけ、近くに捨てる。彼女を殺す気だ。スーザンは隙を見て部屋から出ようとするが、眼鏡がないので部屋の鍵がなかなか見つからない。ハラハラするシーンの連続で緊迫感が高まる。よく出来た脚本と演出だ。結末は…まあ予想通りだが、スパッと終わるのもいさぎよい。
70分と短い尺なので、テンポよく物語が進む。
夫を愛しながらも、正義と真実の狭間で葛藤するヒロインを、クロリス・リーチマンが熱演。ニック・ノルティも新人ながら落ち着いた好演。裁判の証言席で、淡々と妻の事を語り続けるシーンがとても良かった。
TV・ムーヴィーながらも、裁判劇としても、サスペンス・スリラーとしても予想外に良く出来た拾い物の佳作である。AmazonPrime加入者にはお奨めだが、DVDも出ているので機会があれば是非。
(採点=★★★★)
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