「新幹線大爆破」 (2025・VOD)
2025年・日本 137分
配信:Netflix
監督:樋口真嗣
原作映画・脚本:小野竜之助、佐藤純彌
脚本:中川和博 大庭功睦
撮影:一坪悠介、鈴木啓造
VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀
音楽:岩崎太整、yuma yamaguchi
エグゼクティブプロデューサー:佐藤善宏
1975年・東映製作の同名サスペンス・パニック大作を、JR東日本の全面協力を得て現代版として新たに映画化。監督は「シン・ゴジラ」の樋口真嗣。主演は「碁盤斬り」の草彅剛。共演は「線は、僕を描く」の細田佳央太、「私にふさわしいホテル」ののん、「こちらあみ子」の尾野真千子、その他要潤、豊嶋花、ピエール瀧、六平直政、斎藤工ら豪華キャストが集結。Netflixで2025年4月23日から配信。
(物語)新青森から東京へ向けて定刻通り出発した東北新幹線「はやぶさ60号」。車掌の高市和也(草彅剛)は、いつもと変わらぬ思いで乗客を迎える。そんな中、1本の緊迫した電話が入る。その内容は、はやぶさ60号に爆弾を仕掛けた、爆弾は新幹線の時速が100キロを下回ると即座に爆発するというものだった。高市は極限状況の中、乗客を守り、爆発を回避すべく奔走する。一方、犯人は爆弾解除のかわりに1000億円を要求してくる。はやぶさ60号の乗務員・乗客はさまざまな窮地と混乱に直面し、事態は鉄道会社や政府、警察、国民をも巻き込み、犯人とのギリギリの攻防戦へと展開して行く。
1975年公開の佐藤純彌監督「新幹線大爆破」はリアルタイムで観ている。最初に劇場で観た時には、息をもつかせぬスリリングな展開と骨太のドラマに圧倒された。日本映画でも、洋画に負けない映画が作れるのだと興奮し感動した。その後もテレビ放映、DVDで繰り返し何度も観た。
この傑作パニック映画が当時興行的に当らなかったのは、日本映画界全体がジリ貧で、東映は任侠映画から実録ヤクザ路線に舵を切った頃で、東映の主顧客層であるヤクザ映画ファンは、いつもと違う健サン映画に戸惑ったし、本当に観て貰いたい洋画パニック映画ファン(同時期に「タワーリング・インフェルノ」が大ヒットしていた)は、日本映画には拒絶反応を示していたからである(注)。観れば絶対洋画ファンでも満足したはずである。
本作を観る前に、ちょうどNetflixで1975年作品(以下“旧作”と呼ぶ)が配信されていたので、予習を兼ねて再見したが、やっぱり面白い!日本映画史に残るサスペンス・パニック映画の最高峰だと改めて実感した。
ただ旧作では、当時の国鉄に協力を断られた事と、特撮技術もレベルが低かった事もあって、今見直してみるとミニチュアを使ったシーンはよく見れば分かるし、車内シーンはほとんどセットで、窓の外の風景もスクリーン・プロセスである事が丸分かりなのはちょと残念だった。
(以下ネタバレあり)
そして本作の鑑賞である。今回はJR東日本の特別協力が得られた事で、疾走するシーンはほとんどが実際の東北新幹線列車を借り切って撮影している。また50年前よりVFXの技術が格段に向上している事もあって、ミニチュア感はまったく感じられず、クラッシュ・シーンもリアルで本物にしか見えなかった。
前作にも登場した、前方の列車の故障で、対向列車をやり過ごして間一髪反対車線に切り替え移動するシーンは凄い迫力。モニター画面でも手に汗握ってしまった。
このシーンや、後半の並走する別の列車から機材を受け渡すシーンなど、旧作の名シーンがいくつか再現されており、樋口監督が旧作を熱烈にリスペクトしている事がよく分かった。
乗客を救出する為、後部車両を切り離し、別の新幹線列車をドッキングさせて乗客を後続車両に移動させる作戦は、実は旧作でもこの作戦が検討されていた事を今回見直して思い出した。
旧作では、車両切り離しは列車側からは出来ない事と、切り離せばATCが作動して急ブレーキがかかってしまう、という問題点が出て、この案は不採用となる。
本作ではそれらをクリアし、後続列車ドッキング作戦は成功し多数の乗客が救出される。これも旧作で出来なかった作戦の実現という、樋口監督らしい旧作愛なのだろう。
そして最後のクライマックス。これも旧作にはなかった、新幹線を大爆発させ、なおかつ乗客乗員は全員救出するという離れ業を見事やってのけた。このアイデアには唸った。
スペクタクル、アクション・シーンに関しては、旧作を凌駕したと褒めておこう。
…と、一応良い所は褒めたが、ガッカリした点もいくつか。
(以下重要ネタバレあり、注意)
実は本作は旧作のリメイクではなく、旧作の続編になっている。50年前の事件を「109号事案」と呼び、旧作の映像も何度か出て来る。
そして「109号事案」に関わった人物が、実は今回の事件にも重要な役割を果たしていた、と言う創りになっている。
それはいいのだが、それによって少々辻褄が合わない事になっているのが問題。
実は事件を起こした主犯は、豊島花扮する女子高生の小野寺柚月だったという大胆な設定。否定的な意見もあるが、私はそれもアリだと思う。2006年公開の映画「初恋」(塙幸成監督・右)では、あの三億円事件の犯人は、宮崎あおい演じる女子高生だった。なるほど、それは盲点だったと私は膝を打った(映画そのものは残念な出来だったが)。だから主犯が女子高生でも、必然性があって納得出来るなら問題ないとは思う。
彼女の父親・小野寺勉(森達也)は「109号事案」に携わった元警察官で、犯人一味の一人、元過激派学生の古賀勝(山本圭)が、包囲する警官隊の目前で自爆してしまうのだが、警察の威信の為、勉が古賀を射殺した事にして彼を英雄に仕立て上げた。勉はその事をいつも自慢し、娘の柚月を精神的・肉体的に虐待していた。その溜まりに溜まった怒りが、“嘘の日常を壊したい”という思いに向かい、憎い父親の象徴である新幹線に爆弾を仕掛けた、という事だ。そして勉は柚月の遠隔操作により爆死する。
まあそれも悪くはないが、問題は勉の年齢である。「109号事案」当時、20歳代前半だったとしても、50年後の現在は70歳を超えている。森達也演じる勉はそんな年齢には見えない。さらに現在16歳の柚月は逆算すると勉が56~58歳の時に生まれた事になる。祖父と孫くらいの年齢差だ。無理があり過ぎ。
警察の威信の為、勉が古賀を射殺したと事件処理を捏造するのも変だ。この時は一刻も早く主犯沖田(高倉健)を逮捕しないといけないので、古賀を射殺してしまっては沖田の居所を聞き出せなくなる。生かして捕まえなければいけないのである。射殺は逆に非難の対象になる。本当に射殺してしまったとしても、自爆されたと捏造するなら分かるが。それを勉が自慢するのもわけが分からない。
もう一つ、古賀勝の息子で爆破装置を作った共犯者としてピエール瀧扮する古賀勝利が登場するのだが、元過激派学生の勝がいつ子供を作ったのか。旧作では愛人がいた事は匂わされているが、もしその愛人が子供を産んだとしても、父親は既に死んでいるので古賀の籍に入れる事は出来ない。なのに苗字が古賀になっているのはおかしい。
勝利の職業が発破技士となっているが、爆発物の取扱いに長けているとしても、時速100キロを超えるとスイッチが入り、100キロ以下になると爆発するという精密機械が作れるはずがない。大学で機械工学を学んだ学生か、旧作のように精密機器を製造する会社で働いていないと無理である。作れたとしても、4器もの爆破装置をどうやって新幹線の下に潜ってセットする事が出来るのか。ましてや、柚月の心臓モニターが心拍を検知できなくなると爆弾が解除されるというもの凄く複雑かつ高度な装置、誰が作ったのか?
本作はその辺りをまるで描いていないのも手抜きである。
その点は旧作が、沖田を精密機器会社の経営者とし、共犯の大城(織田あきら)が国鉄の清掃会社に雇われた事でうまくクリアしているのはさすがである。
といった具合に、観終わって考えると、あちこちに破綻が生じているのは困った事だ。やはり脚本(中川和博 大庭功睦)がよくない。
旧作をリスペクトするのは分かるが、無理やり繋げた事で、かえっておかしな事になっている。これはやはり、旧作とは無関係の現代的リメイク作品にすべきだった。犯人像も、親子関係とか余計なものを持ち込まず、単純に世間をあっと言わせたい誇大妄想狂の若者が仲間と組んで起こした、くらいでよかったのはないか。
高市車掌を演じる草彅剛、松本運転士を演じたのん、共に演技者として私は評価しているのに、本作ではも一つ精彩を欠いていた。樋口監督の演技指導が悪いのだろうが、アクション演出は得意だが人間描写は不得意という監督の難点がまたもクリア出来なかったようだ。旧作で運転士を演じた千葉真一は緊張で汗だくになったり、「俺たちを殺す気か!」と倉持に怒鳴り散らしたりの熱演が印象的だっただけに、そこらも旧作に倣って欲しかった。
キネマ旬報5月号に再録された1975年当時の関係者座談会を読むと、東映のプロデューサー・天尾完次、坂上順、脚本家の小野竜之助、カメラマン飯村雅彦、監督の佐藤純彌といった錚々たるメンバーが知恵を絞り、侃々諤々の議論を重ねて、面白い物を作ろうとする熱意が伝わって来る。
特に天尾完次氏は「十三人の刺客」、「二百三高地」などの優れた骨太アクションの秀作を手掛けた名プロデューサーで、私の敬愛する方である。脚本に徹底的にダメを出す事で脚本家、監督からも恐れられていた。こういうプロデューサーがいないのが残念である。
そんなわけで、私としては期待以上の出来にはならなかったのが残念。ただVFXを効果的に使ったサスペンス・アクション・シーンの出来は高く評価したい。劇場で観たならもっと面白かったかも知れない。採点するならアクション・シークェンスは★5個、人間ドラマ部分は★3個という事でトータルでは (採点=★★★★)
(注)
今の若い人には信じられないかも知れないが、当時の多くの映画ファンは洋画しか観ず、日本映画を、ダサい、暗い、ショボいとバカにしていたのである。彼女にこの映画を誘っても、「東映ってヤクザ映画とポルノばっかりでしょ」と軽蔑されるのがオチだった(笑)。
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コメント
こんばんは。
私は10代の頃にオリジナルの国内版と海外版を観て、正直犯人たちのバックグラウンドがバッサリ切られた海外版の方が「面白れー!」と思ってしまったクチ。
今回のノリもそれに近いものがあり、面白かったです。
ところで、件のブログの情報ありがとうございました。
見に行ってみたら、すでに記事が消されているようでした。
まあ以前は別のブログですが、半分くらいコピペされたことあります。
いまだにいるんですね〜
投稿: ノラネコ | 2025年5月18日 (日) 21:27
◆ノラネコさん
海外版は私も昔観ました。確かにテンポが速くてスリリング、外国の映画ファンが狂喜するのも分かる気がします。
今回の新作も、個人的には50年前との繋がりと、それに絡む犯人の父親、といった部分があまり面白くなく、旧作海外版のように、それらをばっさりカットした方がもっと面白くなったかも知れませんね(笑)。
投稿: Kei(管理人 ) | 2025年5月19日 (月) 21:19