« 「午後10時の殺意」  (VOD) | トップページ | 「パディントン 消えた黄金郷の秘密」 »

2025年5月18日 (日)

「アンジーのBARで逢いましょう」

Anjisbar 2025年・日本   88分
製作:ザフール
配給:ナカチカピクチャーズ
監督:松本動
脚本:天願大介
撮影:福本淳
音楽プロデューサー:田井モトヨシ
製作総指揮:澤田秀雄
企画・プロデュース:古賀俊輔 武藤陽子

突然町に現れ、いわくつきの物件でバーを開店した老女と町の人々との不思議な交流を描いたファンタジー・ドラマ。監督は「星に語りて-Starry Sky-」の松本動。主演は「九十歳。何がめでたい」の草笛光子。共演は寺尾聰、石田ひかり、松田陽子、青木柚、六平直政、木村祐一など。

(物語)ある街に、風に吹かれて一人の白髪の女性アンジー(草笛光子)がやってきた。自らをお尋ね者だと言うアンジーは、いわくつきの物件を借り、そこにBARをオープンさせる。それぞれ問題を胸に抱えながら日々を懸命に生きる街の人たちは、アンジーからの厳しくも優しいさまざまな言葉、他人に左右されない凛とした生きざまに触れて、まるで魔法にかけられたかのように自分らしさを取り戻して行く…。

昨年、90歳で映画「九十歳。何がめでたい」の主演を務めた草笛光子が、今年も91歳で堂々の主演を果たしたのが本作である。

90歳を超えて、2年連続主演映画を撮った女優なんて前代未聞、ギネス級である。それだけでも凄い事だ。敬服に値する。

本作の監督、松本動(ゆるぐ)は初めて聞く名前だが、調べてみると、自主制作映画を何本か手掛け、石井隆や高橋伴明監督作品で助監督を務めたほか、大林宣彦監督「野のなななのか」では助監督、同監督の「花筐/HANAGATAMI」では監督補を務める等、名匠、鬼才監督の元で監督修行を続けて来た。特に「野のなななのか」「花筐/HANAGATAMI」でそれぞれ数種類の予告編を作る等、大林監督の信頼厚い人でもある。

そして脚本は「十三人の刺客」(三池崇史監督)や、草笛光子も出演した「デンデラ」(2011)の脚本・監督を務めた天願大介である。草笛光子主演の上にこうしたスタッフが参加しているとなれば、これは観たくなる。

(以下ネタバレあり)

東京近郊の工業地帯と思しきある町に、白髪の老女が風に吹かれてフラリとやって来る。演じるは無論、草笛光子さん。おしゃれなドレスに、カクシャクとして歩く草笛さんの姿を見るだけで胸が熱くなって来る。

ある古ぼけた、廃屋のようになっている貸し物件を見つけると、中を覗く。カウンター越しに酒のボトルが見える。元はバーだったかも知れない。蛇も這っていたが驚く様子もない。

Anjisbar3

老女はその足で連絡先の不動産屋に行き、あの物件を借りたいと申し出る。不動産屋の石塚(宮崎吐夢)は、あの物件はいわく付きだと言って貸したがらない。
老女も引き下がらない。バッグから出した札束を積み上げ、どうしても借りたいと言う。

そこに、くだんの物件の持ち主である熊坂(寺尾聰)が入って来る。話を聞いた熊坂は老女を観察し、何も聞かずに貸すことを決めた。

こうして、アンジーと名乗る老女は、この町でBARを開設すべく、動き出すのである。


アンジーは自らを“お尋ね者”だと言う。バッグに入った札束は少なく見ても4~5百万円はあったようだ。なんとも謎めいた不思議な老女だ。

ある町に風に乗ってフラリと現れた自称“お尋ね者”…と聞くと、西部劇を連想する。冒頭のシーンからして、後ろ姿のアップから町に向かって進むアンジーを捉えた長いショットも西部劇っぽい(「続・荒野の用心棒」の冒頭シーンと似ている)。これは監督も意識しての演出だろう。草笛光子もインタビューで、「西部劇の様だなと思った」と答えている。

アンジーは公園でテント生活のホームレスの中から、大工仕事の経験者を探し出し、元大工の百田(六平直政)、元電気工の金(黒田大輔)、一言も喋らない舞踊家の河竹(工藤丈輝)の3人が、半ばアンジーの強引さに引き寄せられるように、BAR改装の仕事を引き受ける事となる。

BARの向かいには、シングルマザーの満代(松田陽子)が経営する美容院がある。彼女の息子・麟太郎(青木柚)は知り合いの政志(田中偉登)が営む石材店を訪れるのが日課のようになっている。その隣には手製のリングがあり、政志の妹でプロレスラーを目指す治子(駿河メイ)が政志を相手に猛特訓を行っていた。
また、満代の顔馴染みの梓(石田ひかり)は、あのBARは呪われていると言って、行者(木村祐一)にお祓いしてもらうとアンジーに申し出るが、アンジーに水をかけられ塩を撒かれて、けんもほろろに追い払われてしまう。

満代を除いて、この町にはなんとも変わった人たちばかりが住んでいるようだ。そのおかげか、本作はなんとなく、トボけた、メルヘンチックな雰囲気に満ちている気がする。そういう映画は私は好きである。

それまでホームレスで、無気力に目的もなく生きて来た百田や金たちは、元の経験を生かしてBARの改装に携わるうちに、高齢にも関わらず元気に指図し動き回るアンジーの姿に触発され、働く意欲を取り戻して行く。
夫を自殺で亡くした満代は、認知症の義母からは人殺しと罵られ、心に重いものを抱えていたが、アンジーと触れ合う事で心が癒されて行く。内向的で自分の生き方に自信が持てなかった麟太郎もまたアンジーの行動力と生き方に感化され、前向きな気持ちを得て行く。

アンジーはまるで、町の人々に希望の灯をともす、天使のような存在となって行くのである。
パンフレットには、「メリー・ポピンズのような」とあるらしいが、まさにフワッと町に舞い降りて、人々を元気づけ、夢を与えてくれるアンジーは、メリー・ポピンズを思わせるファンタスティックな存在だと言える。

Anjisbar2

そしてようやくBARの改装は完了する。アンジーはBARの名前を「Nobody's Fool」と命名する。直訳すれば、「誰も愚か者ではない」だが、「騙しにくい人、抜け目のない人、一筋縄ではいかない人」という意味もある。アンジーの性格を現していると言えなくもない。

だが、ここまででほぼ1時間以上を要している。88分という上映時間なので、残り時間はあまりない。ちょっと心配になった。

BARオープンの前夜祭として、豪華なパーティが催される。熊坂も、満代、麟太郎、政志や治子もやって来る。酒も入って、パーティは賑やかになる。

だが、息抜きで外に出た麟太郎は、BARを見張っている不審な車を目撃する。それをアンジーに伝えると、彼女は麟太郎に何事か伝え、麟太郎はBARにいる面々と相談して、アンジー脱出作戦を敢行する事となる。

ここからは、BARに乗り込もうとする不審者たちと、そうはさせじと対決する作戦メンバーとのシッチャカメッチャカの大バトルが展開される事となる。
暗黒舞踊家の河竹と、レスラー志望の治子のスキルがここで活きて来る。なお治子を演じた駿河メイは、本職のレスラーだそうだ。
このバトル・シーンはほとんどドタバタ・コメディのノリ。

やがて駆け付けた警察によって不審者一味は逮捕される。ここで刑事(田中要次)から、この一味は詐欺グループで、謎の女に詐欺の金を巻き上げられて、一味がその行方を追っていた事が伝えられる。その女がアンジーであるのは明白で、彼女は本当に“お尋ね者”だったというわけである。

そしてアンジーは首尾良く脱出に成功し、政志の運転する自動車に乗って、アンジーは何処ともなく去って行くのである。


最後まで、メルヘンチックな物語であったし、楽しめた。

ただちょっと物足りないのは、結局アンジーは一度もBARにお客を呼ぶ事もなく去って行ったわけで、この点は肩透かしされた気分である。

題名が「アンジーのBARで逢いましょう」となっているのだから、せめて数日間はBARを開業し、いろんな客が集まり、人気を呼んで遠くからも客がやって来たりして繁盛する、そんなシーンも見たかった。
そもそもまだ開業もしていないのに、詐欺グループはどうやってアンジーがこの町にいる事を突き止めたのか、それが描かれていない。
開業してしばらく経って、老女がBARをやっているという評判が広がって、それが詐欺グループの耳に入った、というのなら納得出来る。

これはやはり、改装が完了するまでをもう少し簡潔に、せめて30分くらいは短縮して、その分BARにやって来る人たちの人間模様を丁寧に描いておれば、秀作になったかも知れない。その点が残念である。

まあそれでも、91歳とは思えない、草笛光子さんの美しさ、闊達なセリフ回し、凛とした佇まいには感動を覚えた。彼女の一挙手一投足を眺めているだけでも、元気になれる。

これからも、体の続く限り、映画に出演し続けて、元気な姿を我々に見せて欲しいと願う。老後を送る老人たちにも勇気を与えてくれるはずだから。採点はをおマケして。   (採点=★★★★

 ランキングに投票ください → にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ


DVD「九十歳。何がめでたい」
Dvd_90sainanigamedetai

|

« 「午後10時の殺意」  (VOD) | トップページ | 「パディントン 消えた黄金郷の秘密」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「午後10時の殺意」  (VOD) | トップページ | 「パディントン 消えた黄金郷の秘密」 »