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2025年6月11日 (水)

「ごはん」  (VOD)

Gohan 2017年・日本   118分
製作:未来映画社
配給:未来映画社
監督:安田淳一
脚本:安田淳一
撮影:安田淳一
音楽:柴田悠、飛行船
照明:安田淳一
編集:安田淳一

日本の米作りを巡る現状を背景に、農業を引き継ぐことになった若い女性の奮闘を描くヒューマンドラマ。監督は「拳銃と目玉焼」の安田淳一。主演も「拳銃と目玉焼」の沙倉ゆうの。共演は「あなたへ」の井上肇、「潤の街」の紅壱子、「太秦ライムライト」の福本清三など。

(物語)東京でOLとして働く寺田ヒカリ(沙倉ゆうの)の元に、父・肇(井上肇)が急逝したとの報せが入る。ヒカリは米作りの仕事に明け暮れて家庭を顧みなかった父とはぎこちない関係にあった。葬儀のため京都に戻ったヒカリは、父が生前、年老いた農家の人々に頼まれ引き受けていた水田が30軒分もあることを知って愕然とする。さらに父の元で農作業をしていた源八(源八)は足の骨折で動けない。「誰かが田んぼを見なければいかんのです」と言う源八の懇願に、ヒカリは彼の足が治るまでという約束で、田んぼを見守る作業に取り掛かる。米作りの経験も知識もないヒカリだったが、丁寧に教えてくれる源八や、親切な西山老人(福本清三)にも助けられたりするうち、ヒカリは父の仕事を引き継ぐ決意を固めて行く…。

「侍タイムスリッパー」が大変面白かったので、安田監督の旧作で何かないかと探していたら、監督2作目というこの作品がアマプラで有料レンタルしていたので観る事にした。

この作品も、「侍タイ」を下回る低予算で、スタッフも少人数、安田は監督・脚本・撮影・照明・編集の他、エンドクレジットを見たら小道具製作、整音、ロケハン、衣装、チラシデザイン、プレスリリースまで、なんと一人11役。完成するまでに4年もかかったそうだ。

作品のテーマは、米作り。安田監督の実家は米作り農家で、農作業の大変さはよく知っているし、もし父に何かあったらどうなるのだろうと、ふと考えたことがこの作品を生み出すきっかけとなったそうだ。

昨年からの令和米騒動に、最近では備蓄米放出で連日米の話題でもちきり。タイミング的にも絶好だ。

(以下ネタバレあり)

主人公の寺田ヒカリは、小さい頃は父を慕っていたが、父・肇は農作業に打ち込むあまり家の事は放ったらかし。母の臨終にも間に合わず、その事でヒカリは父を責めた。その為父とはギクシャクした関係になり、ヒカリは学校卒業後、実家の京都を出て東京に行き、今は派遣会社に勤務している。父とは疎遠になったままで正月も実家に帰っていない。
だがある日、叔母の敏子(紅壱子)から、父が急逝したとの知らせが入る。

葬儀のため京都に戻ったヒカリは、年老いた農家の人々に頼まれて生前に父が引き受けていた水田が30軒分(15,000坪)もあることを知らされる。甲子園球場4つ分の広さだ。

肇の元で働いていた源八(通称源ちゃん)は折悪しく足を骨折していて動けない。近所の人たちも自分の所の田んぼで手一杯。父の田んぼの面倒を見る者が誰もいなければ米は作れない。かと言って今さら元の所有者に返すことも出来ない。既に田植えから1ヵ月が経過、水田では稲が順調に育っていた。

源ちゃんはヒカリに、せめて自分の足が治るまで田んぼの面倒を見てくれないかと頭を下げる。ヒカリは自分には無理だと一旦は断るが、父が懇意にしていた野菜農家の西山老人(福本清三)から、「お父さんがなんであんなに一生懸命やったんか、知りとうはないか」と問いかけられ、ヒカリは父が残した田んぼの面倒を見る決心をする。但し源ちゃんの足が治るまでという条件付きで。

源ちゃんから農作業の手順を教わるヒカリ。それは想像以上に大変だった。美味しいコメを作る為には、田んぼに張る水の量の細やかな調整が必要で、一時水を抜いたり、また水を張ったり。それを手際よく、根気よくやらねばならない。土の養分を奪う雑草の刈り取りも必要だ。
私もこの映画で、米を作るのに農家の人たちがどれだけ知恵と工夫と手間をかけているかを初めて知った。勉強になる。

ヒカリは、時に失敗しながらも、源ちゃんの教えを守って稲を育てて行く。稲穂が出る事を出穂(しゅっすい)と言う事も教えられた。

しかし困難はそれだけではない。ヒカリが熱中症で倒れたり(源ちゃんのおかげで助かるが)、突然の暴風雨で稲が根こそぎ横倒しになったり。

やがて源ちゃんの足が治り、ヒカリは約束通り東京に帰ろうとするが、稲が青々と育った広い田んぼを眺めているうち、ヒカリはここに残って最後まで米作りをすると決断する。源ちゃんは大喜び。
確かに青々とした稲が一面に広がる水田、収穫期になって黄金色に実った稲穂、等の風景は、まるで一幅の絵画のようにとても美しい。感動すら覚える。

Gohan2

そして収穫時期を迎えるが、収穫中に稲刈り・脱穀機械のコンバインが故障してしまう。代替機を借りようにも、収穫期に入るとどこもコンバインはフル稼働で貸してくれる所はない。機械がなければ手作業で稲刈りするしかない。気の遠くなる作業だ。
ヒカリと源ちゃんが鎌で刈って行くのだが、コンバインの稼働力にはとても及ばない。一日中刈り取りをするとヒカリの手には血マメが出来、つい源ちゃんに当ったり。

そんなヒカリたちが難儀してる所に、西山老人が近所の仲間を連れて鎌を持って助っ人にやって来る。
西山老人の鮮やかな鎌さばきに感心してると、老人が「刃物のことならまかしとき」と言うのには笑った。さすが5万回刀で斬られた福本さんらしい(笑)。

さらに、新型機に買い替えて使わなくなったコンバインを只で貸してくれる農家まで現れて、ヒカリと源ちゃんは大喜び。捨てる神あれば拾う神ありだ。

こうした人々の善意に助けられ、遂にすべての田んぼの収穫が終わった時には、ヒカリたちだけでなく、こちらも感動して涙が溢れ出た。

自分で収穫し、精米した米で作ったご飯を一人で食べるヒカリ。その美味しさにヒカリは泣いてしまう。私までもらい泣きしてしまった。

そしてヒカリはやっと、父があれだけ米作りに一生懸命頑張ってた、その理由を知った。源ちゃんに教わり、もっと一から、田植えから米作りを学ぼうと改めて決意する。


…素敵な、いい映画だった。何度も泣けた。観終わって、爽やかな感動に包まれた。

父・肇が亡くなるまで被っていたボロボロの麦藁帽子がいいアクセントになっていたり、回想シーンを効果的に使ったりと、脚本が実によく出来ている。

4年かけて、田んぼの四季さまざまの風景を撮った事も作品の厚みになっている。

米作り農家の大変さを、ドキュメンタリー的にきちんと描きながら、困難を乗り越え、努力を積み重ねて、最後に素敵な感動を呼ぶエンターティンメント作品にもなっている。それが素晴らしい。

安田監督の長編デビュー作が、ヒーロー・アクションのパロディ「拳銃と目玉焼き」で、2作目の本作は一転して人間同士の触れ合いを描くヒューマン・ドラマ
この2つの作品を撮った経験が、両方の要素をミックスした「侍タイ」の成功に繋がったのは間違いない。努力が報われて本当に良かった。

出演者では、父・肇役を演じた井上肇がいい。ほとんどセリフはないけれど、娘の事を思ったり、農家を守る為に献身的に行動する回想シーンなどで渋い演技を見せている。「侍タイ」では撮影所長を軽妙に演じていた。
西山老人を演じた福本清三も味わい深い好演。この演技を見て安田監督が「侍タイムスリッパー」の脚本を書いたというエピソードは既に同作批評に書いた。

Gohan3
左が福本清三

米の話題が連日報道される現在、米作り農家の大変さ、努力を知る上でも格好の教材と言っていい。多くの人に観ていただきたい秀作である。    (採点=★★★★☆

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