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2025年6月26日 (木)

「ルノワール」

Renoir 2025年・日本=フランス=シンガポール=フィリピン合作  122分
製作:ローデッド・フィルムズ=鈍牛倶楽部 他
配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:早川千絵
脚本:早川千絵
エグゼクティブプロデューサー:小西啓介、 水野詠子、 國實瑞恵、 木下昌秀、 小林栄太朗、 ジョセット・カンポ=アタイデ、 マリア・ソフィア・アタイデ=マルード、 フラン・ボルジア
プロデューサー:水野詠子、 ジェイソン・グレイ、 小西啓介、 クリストフ・ブリュンシェ、 フラン・ボルジア
撮影:浦田秀穂
音楽:レミ・ブーバル

1980年代後半の夏を舞台に、少女の目線を通して大人たちとその時代を描くヒューマンドラマ。脚本・監督は「PLAN 75」の早川千絵。出演は「ふれる」の鈴木唯、「ふたり」の石田ひかり、「偶然と想像」の中島歩、「あんのこと」の河合優実、「万引き家族」のリリー・フランキーなど。第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門出品作。

(物語)1980年代後半のある夏。11歳の沖田フキ(鈴木唯)は、母・詩子(石田ひかり)、父・圭司(リリー・フランキー)と3人で郊外の家に暮らしている。時に大人たちを戸惑わせるほどの感受性豊かなフキは、得意の想像力を膨らませながらマイペースに過ごしていた。そんなフキにとって、折々に垣間見る大人の世界は刺激的で滑稽で、フキは楽しくて仕方ない。だが末期癌で闘病中の父と、仕事に追われる母との間にはいつしか大きな溝が生じ、フキの日常も否応なしに揺らぎ始める…。

長編監督デビュー作「PLAN 75」が第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)のスペシャルメンションを受賞するなど、国内外で高い評価を得た早川千絵監督待望の長編監督第2作である。

「PLAN 75」は、日本の超高齢化社会に対する深刻な問題提起と批判を込めた異色作で、私は高く評価した。
次回作はどんな作品を作るか楽しみにしていたが、デビュー作の近未来老人問題に対して、本作は昭和末期が舞台子供が主人公と、時代もテーマもまるで対照的な作品なのが面白い。

監督インタビューによると、早川監督の父が実際にがんを患っていたそうで、その体験を元に、家族の物語を描きたかったと言う。時代を1987年に設定したのは、その年に早川監督(1976年生まれ)が11歳だったから。つまりは本作は早川監督の自伝的要素が強い作品だと言えると思う。

その事もあるのだろうが、本作には1987年頃に流行っていたアイテムがいくつか登場する。例えば予言、透視などの超能力ブーム、健康食品ブーム、怪しげな新興宗教の霊感商法、伝言ダイヤル等々…。キャンプファイヤーではYMOの「ライディーン」が流れていたり。
正確にはそれ以前からのブームもあるが、'80年代を知っている人には懐かしさを感じるだろう。

(以下ネタバレあり)

主人公の11歳の少女・フキ(鈴木唯)は好奇心旺盛、想像力豊かで、冒頭からして子供の泣き顔ばかりが写ったビデオを見ていたり、自分が死んで、葬儀に参列してくれた同級生たちが泣いている姿を夢想する。
作文発表では、「みなしごになりたい」などと平然と発表し、学校に呼ばれたフキの母・詩子は教師に、「変わっているお子さん」と言われてしまう。

家では、父・圭司が血を吐いて倒れ、医師に末期がんと伝えられて入院する事に。詩子はキャリアウーマンだが、部下に高圧的な態度を取った事でクレームをつけられ、会社からメンタル研修を受けさせられる。

この映画で面白いのは、両親も周りの大人たちも、みんなどこか欠陥があって自分勝手だ。
詩子は前述のようにメンタルマネージメントが出来ず、さらにメンタル教室で知り合った御前崎(中島歩)の口車に乗せられ健康食品を買わされてしまうし、夫が入院してるのを幸い御前崎とはラブラブだ。
父・圭司も病院で親しくなった女に勧誘されて、多分霊感商法なのだろう、100万円も払ってしまう。病院を抜け出してフキと一緒に競馬場に行ったりもする。

フキはそうした様子を観察し、大人の世界の不純さを感じ取って、大人への反抗を実践して行く。親しくなった友だちの家で遊んでいる時、その子の父親の浮気現場写真を見つけ、友だちと探し物ごっこをして、ワザとその写真を見つけるように仕組む。

上階に住む、夫を亡くしたばかりの北久理子(河合優実)の家に誘われると、催眠術ごっこをして彼女の夫について聞き出し、その死のきっかけとなったらしいビデオを見つけたりもする。これがどうやら冒頭のビデオのようだ。

フキはそんな具合に、子供らしい純真さと、残酷さを併せ持っている。また独特の観察力で、大人のいいかげんさを鋭く告発しているようにも見える。
こういう子供キャラクターは珍しい。ユニークである。11歳の鈴木唯がそんな難しい役柄を見事に演じ切っているのが素晴らしい。

ある時は、玄関ドアに挟まれていた“伝言ダイヤル”のチラシを見て、好奇心から電話してみたりもする。今で言う出会い系サイトみたいなものだろう。
小学生でそんなものに関心を持ったりするのも変わっているが、これまで見て来た、大人を翻弄するフキの行動力から妙に納得してしまう。

大学生を自称する男とデートし、さすがに危ない所まで行きかけるが、家人が急に帰って来た事で難を逃れる。

自宅からは相当離れた男の家を出て、フキが歩いて家までの路を探して彷徨うシーンが結構長く続くが、このシーン、相米慎二監督の「お引越し」の終盤部分を思い出す。思えばそれまでにも「お引越し」を引用したようなシーンがあった。早川監督によると、実際に影響を受けているとの事。

明け方の雨の中、父が道端にしゃがんでいたフキを見つける。フキの体を優しく拭く父。大人に反抗していたフキが父と心を通わせる、いいシーンである。

やがて父は死ぬ。そしてフキの夏も終わった。ラストは電車に乗った母と子が向かい合ってトランプの札当てごっこをするシーン、ここも「お引越し」のラストを思わせる。

Renoir2

大人の世界を少しだけ垣間見たひと夏の冒険を通して、少女はちょっぴり大人に成長した。これも「お引越し」のテーマと重なる。観終わって、相米監督の傑作「お引越し」を観た時と同じ感動を覚えて胸が温かくなった。

Renoir3タイトルの「ルノワール」は、病院のロビーで販売されている西洋画のレプリカの作者の名前、ピエール=オーギュスト・ルノワールから。その画(「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」・右)をフキが気にいって父に買ってもらい病室に飾る。物語とは一見関係ないような題名だが、ルノワール作の絵画には柔らかで温かみのある色調で少女を描いたものが多い。無理にこじつけるなら、“少女を優しくじっくりと見つめた作家の作品”という点で本作と共通するかも(笑)。

「PLAN75」とはまた違った切り口で、“人間の生と死”を見つめた作品と言えるだろう。出演者では母・詩子を演じた石田ひかりがいい。大林宣彦監督の「ふたり」の好演が今も忘れられないが、思えばあの作品も、“死と向き合い成長して行く少女の物語”だった。
フキを演じた鈴木唯も今後が楽しみな逸材だ。早川千絵監督は、これからも見逃せない。 
(採点=★★★★☆

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