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2025年7月 7日 (月)

「フロントライン」

Frontline 2025年・日本   129分
製作:木下グループ=エイベックス・ピクチャーズ、他
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:関根光才
脚本:増本淳
企画・プロデュース:増本淳
製作:バディ・マリーニ、木下直哉、山本大樹、黒川精一、勝股英夫、弓矢政法、五十嵐淳之
撮影:重森豊太郎
音楽:スティーブン・アーギラ

日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で、未知のウイルスに最前線で立ち向かった医師や看護師たちの闘いを事実に基づいて描いたドラマ。監督は「かくしごと」の関根光才。主演は「キングダム」シリーズの小栗旬、「雪の花 ともに在りて」の松坂桃李、「本心」の池松壮亮、「スイート・マイホーム」の窪塚洋介、その他森七菜、桜井ユキ、美村里江、吹越満、光石研、滝藤賢一が共演。

(物語)2020年2月、乗客乗員3,711名を乗せた豪華客船が横浜港に入港した。香港で下船した乗客1名に新型コロナウイルスの感染が確認されており、船内では既に100人を超える乗客が症状を訴えていた。日本には大規模なウイルス対応を専門とする機関がなく、災害医療専門の医療ボランティア的組織「DMAT」(Disaster Medical Assistance Team)が急遽出動する事に。彼らは治療法不明のウイルスを相手に、自らの命を危険に晒しながらも、乗客全員を下船させるまで誰一人諦めずに戦い続けた。

新型コロナウイルスの蔓延で世界中がパニックになった“コロナ禍”から、早いものでもう5年。その日本での発端となった「ダイヤモンド・プリンセス」事件と言うか騒動を事実に基づいて映画化したのが本作である。

ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナ感染事件については、当時多くの国民がテレビで見ていたし、話題にもなったが、クルーズ船の中で何があったのか、医療チームはどんな働きをしたのか、という点についてはほとんど語られていなかった。

本作はそこに焦点を絞り、企画・プロデュースの増本淳プロデューサーが、医療チーム(DMAT)、厚労省、自衛隊、クルーズ船の乗員と乗客などに半年以上にわたって取材を重ね、出来上がった300ページを超える取材メモを元に増本自ら脚本を書き上げ、映画化した。これまで我々が知らなかった事実も明らかになっている。

増本淳プロデューサーはこれまでフジテレビで「救命病棟24時」「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」、などの骨太の医療ドラマのプロデューサーを手掛け、2023年には2011年の福島第一原子力発電所事故を政府、電力会社、原発所内の3つの視点から描いたNetflix配信ドラマ「THE DAYS」の企画・脚本・プロデュースを担当している。

前の2作は緊急事態下における医療チームの奮闘を描くドラマで、「THE DAYS」実際に起きた国難的パニック状況を政府、現場等の複数の視点から描いた作品と、まさに本作の内容とリンクするような意欲的な作品なのが面白い。増本プロデューサーが本作を企画・製作したのも当然の成り行きと思われる。

監督はこれまで「生きてるだけで、愛。」「かくしごと」の2本の劇映画を監督している関根光才。それ以前には「太陽の塔」というドキュメンタリーも監督しており、これがなかなか凝ったビジュアルの異色作で、面白い監督が出て来たなと注目したが、次作の劇映画デビュー作「生きてるだけで、愛。」は、趣里の好演が光る人間ドラマの秀作だった。私はこれで関根監督のファンになった。

そんなわけで観る前から期待していたが、出来上がった作品は期待を上回る秀作になっていた。

(以下ネタバレあり)

事実に基づいてはいるが、物語の中心となる主な出演者、DMATのリーダー結城英晴(小栗旬)、船内で対応に当たる結城と旧知の医師・仙道行義(窪塚洋介)、愛する家族を残して船に乗り込む事となったDMAT隊員・真田春人(池松壮亮)、厚労省役人の立松信貴(松坂桃李)、それにクルーズ船スタッフで医師と患者の間の通訳を担う羽鳥寛子(森七菜)などは、実際に行動した複数の人物を一人に集約して脚色している。これがなかなかよく出来ている。

特にいいのは、それぞれのキャラクターが個性的でうまく描き分けられている点。

結城は県庁の対策本部に陣取ってチーム全体を統括し、関係部署との連絡、調整も担っている。
仙道は船内で患者の病状に迅速かつ的確に対応する、現場のリーダー的存在。東日本大震災で結城と共に活動した“戦友”で、彼を気安く“結城ちゃん”と呼んだり、時に「結城ちゃん、現場で見てないのに、何でそんな事言えんの?」と突っ込んだり。しかし困難な状況でも冷静沈着、決して怒ったり取り乱したりしない。窪塚洋介の飄々とした巧演が見事。
医師の真田は、口数は少ないが命がけで治療に当たる真面目な性格。最後に家に帰った時の池松の自然な演技がとてもいい。

そして厚労省の立松は、最初こそ官僚的な堅物さを見せてイヤな奴だと思わせるが、物語が進むに連れて、結城たちに協力しバックアップする実はいい人、という顔を覗かせて行く。この変化を見事に演じ切る松坂桃李、さすがである。

不織布マスクだけで防護服もなく、患者の相談と通訳に当たる羽鳥寛子の存在も大きい。感染で夫と離ればなれになった外国人乗客の悩みに真摯に対応する。彼女の努力で夫と再会を果たす場面は泣ける。森七菜、「国宝」に次ぐ力演。

関根監督は増本プロデューサーと何度も議論を重ね、特に増本の最初の脚本にあった“作り手の怒り”といった部分は極力抑える等、二人で10回以上の脚本改訂を重ねたそうだ。


中盤、感染症の専門医(吹越満)が船内に立ち入り、船内の感染対策に疑問をぶつける動画をYouTubeにアップした事で世間が騒ぎ、医師や看護師の家族が風評被害に晒されるシーンはやりきれない。
これをあおるマスコミの視聴率優先主義も映画は厳しく断罪するが、一方で上司の轟(光石研)の命令と、結城たちへの共感との板挟みになり悩む記者の上野舞衣(桜井ユキ)を登場させ、バランスを取っている辺りもうまい。

そして終盤、下船した無症状感染者を受け入れてくれた愛知県の藤田医科大学病院への患者の移送シークェンスでは、患者の容体急変というサスペンスフルな展開となる。
受け入れた医師・宮田(滝藤賢一)が、「話が違うぞ。これで何かあったら、うちが殺したって言われるじゃねえか」と抗議するのだが、口はうるさいけれど本当は患者の命を救いたいと思っている事が判って来てちょっと泣かせる演出もうまい。滝藤賢一名演。


本来は災害対応がメインである医療ボランティア的組織DMATが、医者としての使命から、未知のウイルスとの闘いで自らの命を危険に晒しながらも、乗客全員を下船させるまであきらめずに闘い続ける姿を、緩急つけたスリリングな演出で引っ張る関根監督の手腕が冴える力作である。

未知のウイルスの恐怖を描くパニック・ディザスター・ムービーでもあり、医師や乗船クルーの働きぶりを描くお仕事ムービーでもあり、緊迫感に満ちたサスペンスあり、感動ありの良質エンタティンメント作品にもなっている。こんな映画は日本映画では珍しい。

増本プロデューサーは公式ページのプロダクション・ノートで「この映画を観れば、人と会って一緒に何かをしたり、喜び合ったり、今普通だと思っているこの日常が、それだけですごく幸せというか、とても貴重な時間だということを思い出してもらえるのではないでしょうか。それぞれが自分たちの暮らしに戻った時に、今の日常に感謝し、あの時頑張った、乗り越えた自分たちにも、最前線にいた名も無き人々に対しても、感謝の気持ちを感じてもらえる映画になったのではないかと思います」と語っている。

この言葉も感動的だ。平和な日常を取り戻した今、あのコロナ禍のさ中に最前線で闘った多くの人たちに感謝する事を、私たちは決して忘れてはならないだろう。

増本淳プロデューサーと、関根光才監督の今後の活躍も期待したい。本年度ベスト3に入る秀作である。  (採点=★★★★☆

 

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コメント

 オーソドックスな作りながら深く感動させられる映画でした。中心メンバーの男性4人が存在感あります。桜井ユキの記者、森七菜の客船クルーも光ってました。森さんは「国宝」といい、大活躍の年となりそうですね。

投稿: 自称歴史家 | 2025年7月10日 (木) 13:13

変に感動作的にしなかったり、政治色をぼかしたりせずに良く出来ていたと思います。ただ個人的には特に前半、まだまだ人ごとのように感じていた一般民衆の姿や、セリフで処理されてましたが感染者が発生した直後も船内で行われていたというパーティシーンとかがないことが残念だったかな。作る観点が違うと言われればそうなのかもしれませんが。途中健気に客室の世話をしていたのに感染が明らかになった外国人女性クルーのその後のシーンもなかったような。でも真田が家に戻って奥さんと抱き合う時にお互いに一瞬躊躇する(感じに見えた)シーンは一気に涙が溢れました。

投稿: オサムシ | 2025年7月12日 (土) 19:50

◆自称歴史家さん
中心メンバーの男性4人はいずれも好演ですね。特に仙道役を演じた窪塚洋介は、2001年の「GO」での名演技が今も忘れられません。あれからもう24年も経ったのですね。渋い名優になったと思うと、感慨深いです。


◆オサムシさん
確かに見る人によって、あれもこれも入れて欲しいという要望はあるでしょうが、2時間強の上映時間内でストーリーを完結させる為には、脚本家も悩んだ末に、どれかを切り捨てなければならなかったのではと思います。また脚本にはあっても、監督がカットしたものもあるでしょう。まあ観終わって、不満はあれどトータルで感動出来たなら、それでいいのではないでしょうか。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年7月18日 (金) 13:49

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