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2025年8月 3日 (日)

「「桐島です」」

Iamkirishima 2025年・日本   105分
製作:北の丸プロダクション
配給:渋谷プロダクション
監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴、高橋伴明
撮影監督:根岸憲一
音楽:内田勘太郎
製作総指揮:長尾和宏
プロデューサー:高橋惠子、高橋伴明

1970年代の連続企業爆破事件で指名手配されていた桐島聡の半生を映画化。監督は「夜明けまでバス停で」の高橋伴明。主演は「ケンとカズ」の毎熊克哉。共演は「碁盤斬り」の奥野瑛太、「春画先生」の北香那、「金子差入店」の甲本雅裕、「アナログ」の高橋惠子など。

(物語)1970年代、日本では高度経済成長の裏で社会不安が渦巻いていた。そんななか、大学生の桐島聡(毎熊克哉)は反日武装戦線「狼」の活動に共鳴し、組織と行動を共にする。しかし1974年、三菱重工爆破事件に関わり、多数の犠牲者を出したことで、深い葛藤に苛まれる。組織は警察当局の捜査によって壊滅状態になり、指名手配された桐島は偽名を使って逃亡し、ある工務店での住み込みの職を得る。ようやく手にした穏やかな日々の中で、桐島はライブハウスで知り合った歌手キーナ(北香那)が歌う「時代遅れ」に心を動かされ、相思相愛となる…。

連続企業爆破事件で指名手配された桐島聡の手配写真は、交番前の掲示板や公衆浴場などでよく目にした記憶がある。一緒に並んでいる、いかにもワルそうな人相の他の犯人と比べて、桐島聡だけが笑顔なのが妙に印象に残っている。

Iamkirishima5

彼は半世紀近くも逃亡を続け、偽名を使って街中でひっそりと生き、末期の胃ガンで入院中、「自分は桐島聡です」と名乗って、数日後に亡くなった。

この男の、謎に満ちた半生を映画人―特に同時代を生き、学生運動にも関りのあった人―なら映画化したいと思うのは当然だろう。
まず、パレスチナに渡って日本赤軍と合流した過去を持つ足立正生監督が今年3月「逃走」を発表し(未見)、次いで学生時代、第二次早稲田大学闘争に参加した経験のある高橋伴明監督が本作に取り組んだ。高橋監督は以前にも連合赤軍事件を扱った「光の雨」(2001)を監督している。

脚本を書いたのは、高橋監督の前作「夜明けまでバス停で」の脚本を書いた梶原阿貴(高橋伴明と共作)。実は彼女の父親も爆破事件に関与し、指名手配され逃亡していたという。一時は桐島と並んで指名手配写真が掲示されていたそうだ。嘘みたいな話だが実話である(梶原のノンフィクション著書「爆弾犯の娘」(ブックマン社・刊)に詳しく書かれている)。なんとも不思議な縁を感じてしまう。高橋監督が梶原に脚本を依頼したのも当然の流れだろう。

映画に出て来る事件、主要な人物名はほとんど実名である。なので当時を知っている観客にとっては思い当たる事件、人物ばかりなので話が分かり易い。

ただし、桐島が逃亡中の生活ぶりは、桐島が何も語らず死んでいるので、その部分はフィクションとして高橋監督が自由に話を膨らませている。

(以下ネタバレあり)

桐島は、多くの死傷者を出した1974年の三菱重工爆破事件に関わっていた、とばかり思っていたが、本作で明らかになった事実はそうではない。彼は反日武装戦線「狼」の活動に共鳴し、仲間の宇賀神寿一(奥野瑛太)らと共に、反日武装戦線「さそり」を立ち上げる。三菱重工爆破事件を実行したのは「狼」の方である。
「さそり」はその後、間組の作業所爆破などの企業爆破事件を実行しているが、死者は出さなかったようだ。

やがて警察の捜査で次々とメンバーが逮捕され、組織は壊滅、桐島と宇賀神は指名手配され逃亡生活を送る事となる。

転々と逃亡を続けた後、桐島はある工務店で、内田洋という偽名で住み込みの職を得る。

ここでの生活ぶりの描写が面白い。毎朝、歯を磨き、コーヒーを入れ、作業着に着替えて仕事に出て、夜は銭湯に浸かる。…その単調な日課が繰り返し描かれる。役所広司主演の「PERFECT DAYS」を思わせる。

仕事ぶりは真面目で、同僚とも打ち解け、社長の信頼も得て行く。ただ、夜は万一を考え、靴を枕元に置いて寝る。

時々、企業が爆破される夢を見て、その都度飛び起きる。罪の意識が心の奥にあったのだろう。

宇賀神とは年1回、ある場所で出会う約束をしていたが、次第に疎遠になり、すれ違っても知ってか知らずか、顏も合わさず別れる。そして1982年7月に宇賀神は逮捕され、懲役17年の刑に服する。

90年代に入り、桐島はライブハウスで歌手キーナ(北香那)と知り合い、彼女と仲良くなる為ギターを練習したりする。好きな歌「時代遅れ」を二人で熱唱したりもする。
このエピソードはフィクションだろうが、歌詞にある♪目立たぬように、はしゃがぬように、似合わぬことは、無理をせず♪は、まさに桐島の生きざまそのままだ。うまい選曲である。

二人は相思相愛の関係となるが、自分は警察に追われている逃亡犯だ、という負い目から、彼女の愛を拒絶する。ここは切ない。

もう一つ、印象的に描かれるのが、桐島の弱者への共感である。同僚の若者が、一緒に働く在日朝鮮人を差別する言葉を吐くと、その場はやり過ごすが、誰もいない所で「ワアーッ」と怒りを込めて何度も叫ぶ。在日クルド人にも共感を示し、優しく接する。

企業爆破という行為も、戦前・戦中から続く日本企業のアジア系民族や底辺労働者を搾取して来た歴史に対する怒りが行動原理となっているのかも知れない。
また、テレビで安倍首相が集団的自衛権の行使を得々と語っているのを見て、思わずコップをテレビに投げつけたりもする。
これらの事から判断するに、桐島と言う男は、根は優しく、社会的弱者に共感し、彼らを差別する人たちや企業、政治体制に怒りを覚える、正義感の強い人間だったようだ。

これは考えさせられる。こんないい人間がどうして企業爆破と言う犯罪行為を行ってしまったのか。もっと他に方法はなかったのか。
素性を隠している故、健康保険にも入れず(よって医者にも掛かれず)、免許証も持てず、恋愛さえも出来ない、それでも強い意志を持ってその境遇に耐えて生きて来た。
彼の罪は許されるべきではないが、逃亡後の生き方にはシンパシーを寄せたくなる。

もし時代が違ったなら、もう少し前か、後の時代に生まれていたなら、もっと有意義な、幸せな人生を送れたかも知れない。
反体制運動が終焉する中、不器用な生き方しかできない、時代遅れの男だったと言えるだろう。

ラストは、中東のどこかにいる、AYAという名の女性(高橋惠子)が、ライフルを構えながら「桐島くん、お疲れ様」と呟く所で映画は終わる。多分超法規的措置で釈放された大道寺あや子と思われる。


無論、映画で描かれた事は、公的に知られている事以外は作者たちの創作である。あの時代に思い入れのある高橋伴明と、爆弾犯の父を持つ梶原阿貴の、それぞれの思いが凝縮され、見事な作品に仕上がった。

Iamkirishima4つい笑ったのが、桐島たちが爆弾作りの教本「腹腹時計」を読みながら爆弾を作っているシーン。前作「夜明けまでバス停で」でも主人公がバクダンと呼ばれる男と一緒に「腹腹時計」を基に爆弾を作っていた。
前作では何で爆弾作りか?と思っていたが、なるほど父親が爆弾作っていたからなのね(笑)。次作にまたまた「腹腹時計」が登場するとは梶原自身も予想出来なかっただろう(「夜明けまでバス停で」の製作は2022年)。

桐島を演じた毎熊克哉が、桐島聡になり切って好演。顏もよく似ている。キーナを演じた北香那も印象深い名演技。

あの時代の空気感を的確に再現しつつ、一人の男の数奇な半生を通して、人間の生き方とは何かを描き切った、高橋伴明監督らしい秀作である。   (採点=★★★★☆

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梶原阿貴・著「爆弾犯の娘」
Bakudanhannomusume


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コメント

毎熊さんがそっくりで驚きます。ずいぶん昔に、松下竜一さんの「狼煙を見よ」を読みましたが、あれには狼しか出てこなかったような気がします。映画では分からない部分を上手くまとめていて、最後まで見せますね。梶原さんのお父さんが、そういう経歴だったとは。時代を感じさせます。

投稿: 自称歴史家 | 2025年8月 6日 (水) 13:48

◆自称歴史家さん
「狼煙を見よ」は「狼」についてだけですね。反日武装戦線は他にも「大地の牙」があったりややこしい(笑)。
毎熊克哉は以前からうまい役者だなと思っていましたが、本作は見事ななり切りぶりですね。「国宝」がなかったら本年度の主演男優賞候補に挙げたい所です。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年8月 8日 (金) 17:28

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