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2025年8月10日 (日)

「スタントマン 武替道」

Stuntman 2024年・香港   114分
製作:武替道電影製作有限公司
配給:ツイン
原題:武替道  (英題:Stuntman)
監督:アルバート・レオン、ハーバート・レオン
原作:アルバート・レオン、ハーバート・レオン
脚本:アナスタシア・ツァン、オリバー・イップ
撮影:チョン・タイワイ
音楽:チュー・ツァンヘイ、アンディ・チュン
アクション監督:コン・トーホイ、トミー・リャン
製作:アンガス・チャン

香港アクション映画界を支えるスタントマンたちの姿を描いたドラマ。監督は双子のアクション俳優として活躍し、本作が初監督となるアルバート・レオンとハーバート・レオン。主演は数多くのカンフー・アクション作品でアクション指導を務めた、香港アクション映画界のレジェンド、トン・ワイ。共演は「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」のテレンス・ラウとフィリップ・ン、「返校 言葉が消えた日」のセシリア・チョイなど。

(物語)1980年代、売れっ子アクション監督として活躍していたサム(トン・ワイ)は、撮影中の事故でその時のスタントマンを半身不随にしてしまい、それがきっかけで映画業界を引退する。時は流れ、サムは今は細々と整骨院を営み静かに暮らしている。そんなある日、かつての盟友だった老監督に「自分の最後の作品でアクション監督をやって欲しい」と依頼され、数十年ぶりに映画制作に参加する事に。だが、現代のアクション映画の撮影はコンプライアンスも厳しく、出演俳優のワイ(フィリップ・ン)を始め製作陣はリアリティを追求するサムのやり方に反発し、ぎくしゃくする。さらに忙しさのあまり、結婚式を控える娘チェリー(セシリア・チョイ)との関係も悪くなるばかり。サムのアシスタントとなった若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)は、サムを献身的にフォローし、何とか撮影を進めようとするのだが…。

今年公開の「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が大ヒットし、香港アクション映画が再び脚光を浴びている現在、その「トワイライト~」でソンヤッ(信一)とウォンガウ(王九)を熱演したテレンス・ラウとフィリップ・ンが重要な役で出演しているとあっては、見逃す訳には行かない。

ただ、先に言っておくと、「トワイライト~」のようなド派手なアクションを期待すると、少々がっかりするかも知れない。スタント・シーンはいくつかあるけれど、総体的には人間ドラマにウェイトが置かれているからだ。これから観る方はそのつもりで。

(以下ネタバレあり)

冒頭いきなり、夜のデパートを舞台に、刑事が悪人を追いかけ乱闘となるアクションが矢継ぎ早に展開される。エスカレーターを転げ落ちたり、ガラスのショーケースにぶち当たって壊したり、吹き抜けの2階から投げ飛ばされて屋台の上に落ちたり…と、ファンならすぐにジャッキー・チェン監督・主演「ポリス・ストーリー 香港国際警察」(1985)の終盤クライマックス・シーンのオマージュだとピンと来るだろう。そこに「カット!」の声がかかり、これが実は映画の撮影だった事が分かる。ツカミとしては申し分ない、スカっとするシーンである。

で、映画的なアクション・シーンはここだけで、その後はスタントマンを使っての撮影シーン(つまりアクション映画撮影の裏側)ばかりが続く事となる。

この映画撮影シーンのアクション監督がレイ・サム(トン・ワイ)であり、本作の主人公である。

香港映画はかなり観ている私でも、不覚にもトン・ワイの名前はこれまで知らなかった。それで調べたら、子役からスタートして多くの映画に出演、16歳の頃からスタントマンとしても活躍を始める。ブルース・リー主演の「燃えよドラゴン」で、リーから「Don't Think、Feel(考えるな、感じろ)」と声をかけられていた少年がそのトン・ワイだった(下)。

Stuntman2

その後も俳優、スタントマンとして多くの映画に出ていたが、1977年頃からは武術指導、アクション監督としても香港アクション映画を支えて来た。あの秀作「男たちの挽歌」の武術指導も担当している。実にキャリアの長い人である。アクション監督としての受賞歴も数多い。俳優として映画に出演するのは2009年の「スナイパー」以来15年ぶりとなる。

2023年公開のドキュメンタリー「カンフースタントマン 龍虎武師」にも、アクション監督の一人として出演していたそうだが気が付かなかった。


閑話休題、お話に戻ると、同じ映画の撮影で、サムは陸橋の上からトラックに飛び移るという危険なスタントを指導し、スタントマンが一瞬遅れて飛び降りた為に失敗、半身不随となる。

サムはその責任を取って映画業界を引退、数十年後の現在は整骨院を営んでいる。本作撮影時には66歳という年齢相応の顔をしているが、冒頭の'80年代の顔が若く見えるのはCG加工でもしているのだろう。

ある日、そのサムの所に、かつて一緒に仕事をしていた老監督が現れ、「今度の作品が最後の監督作になるかも知れないので、アクション監督をやってくれないか」とサムに声をかける。

躊躇するサムだが、今は川沿いに移設されているブルース・リー像の下で監督はサムに「香港映画は死んだと言われるが、俺より先に香港映画を死なせたくない」と心情を吐露する。
「トワイライト~」にも書いたが、1997年の香港返還以後、中国政府の干渉もあって多くの映画人が中国本土に移ったり、多くの撮影所が閉鎖されたりで香港映画は急速に衰退してしまった。「香港映画は死んだ」とは実際に香港で囁かれている言葉である。

老監督のその言葉に、サムは数十年ぶりにアクション監督に復帰する事を決断する。偶然出会った、サムを敬愛する若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)を助手に加え、撮影現場に向かう。

だが、サムのブランクの間に撮影現場のやり方はすっかり変わり、コンプライアンスが重視され安全第一、危険な撮影は許されなくなっていた。サムはそんな事情も知らず、昔ながらの体を張った危険なスタントを要求するものだから、出演俳優との間に軋轢が生じるのは当然。
特に出演俳優のワイ(フィリップ・ン)は、かつてはサムの指導の元でスタントマンを務めていたが、今では有名アクション・スターとなり、自分のスタント・チームを持っているので、サムの現場入りを待たずに勝手にスタント・シーンの撮影を始めるものだから、サムは激怒し、現場には不穏な空気が流れる。

一方サムは家庭でも、仕事中心の生活で家族との時間を大切にして来なかった為に、妻は離婚し、別の男と再婚していた。娘のチェリーとの確執も解けてはいない。
それでも、近日結婚式を挙げるチェリーは、せめてバージンロードはサムと一緒に歩きたいとは願っている。

ロンは兄の商売を手伝っていたが、ロンが映画の現場に行くと聞いて兄は反対し、兄弟の仲も微妙となる。
さまざまな人間模様をうまく組み合わせた脚本が良く出来ている。

ギクシャクしながらも撮影は続くが、製作プロダクションからは予算をオーバーするなと厳命され、予算を抑える為にサムは警察の許可を得ない街中でのゲリラ撮影を強行するが、予期せぬアクシデントで民間人にケガを負わせてしまい、あわや製作中止になりかねない事態となる。プロデューサーもカンカン。サムを外そうとする動きも出て来る。それを知ったサムはまた大喧嘩、チェリーの結婚式の為に用意した礼服も破いてしまい、バージンロードは再婚した義父に交代させられてしまう、ともう踏んだり蹴ったり。助手のロンもさすがに呆れてしまう。

まあこんな調子で、時代の波について行けない、時代遅れのサムの頑固オヤジぶりが描かれる。

ところが、意気消沈していたサムの元に、監督から連絡が入る。ラストシーンに何かが足りない、考えてくれ、という依頼である。

ワイやスタントマンたちは、やり方は乱暴でも、本物の映像を作りたいというサムの情熱に次第に感化されたようだ。現場の空気が一つになり、ラストの、6階建てビルの屋上から飛び降りるという圧巻のスタント・シーン撮影へと一気になだれ込んで行くのである。ここは感動的だ。

ロンがスタントマンとなり、安全を考えワイヤー・スタント撮影を行う事となるが、屋上のボルトが緩んでワイヤーを吊るす機材が仕えなくなる。修理には数日かかるが、それでは期限内撮影完了は不可能となる。代替策としてサムは地上にダンボール箱を積み上げ、その上に落ちるという案を考える。ワイヤーよりもかなり危険であるが、それ以外に方法はない。

スタッフたちは大急ぎでダンボール箱集めに奔走する。…ここからはサムやワイたち俳優、スタントマン、現場スタッフたちが一致団結していい作品を作ろうとする情熱が高まって行く。ロンの兄まで協力に駆け付けるシーンは泣ける。

ラストシーンは書かないでおこう。観れば感動する。

エンドロールでは、ジャッキー映画でお馴染みのNGシーン、メイキング・シーンも流れる。これも楽しい。危険なシーンはちゃんと安全第一でやっていた事が判るが、これはない方が良かったかも(笑)。


「カンフースタントマン 龍虎武師」
にも登場するが、'80年代の全盛期の香港アクションは、まさに命がけのスタントばかりだった。「ポリス・ストーリー~」では、悪人たちが急停止したバスの二階の窓を突き破って地面に叩きつけられるまでをワンカットで撮影している。
CGもない時代、スタントマンたちは本当に痛そうなスタントを体を張って演じていた。あの時代ではサムのやり方が当たり前だった。その分、アクションのリアル感、痛さが伝わって観客は喝采を浴びせた。

コンプラや安全第一の今の時代では、本物のアクションは描けない、というサムや本作の作り手たちの気持ちは痛いほど分かる。

“香港映画を死なせない為には、もう一度、あの頃のアクション監督やスタントマンたちの情熱、意気込みを取り戻すべきではないか”、というのが本作のテーマなのだろう。
「トワイライト・ウォリアーズ~」はまさしく、その熱意が結集した傑作である。そう考えると胸が熱くなった。

派手なアクションが連続するような作品ではないので、評価が低いのが残念だが、時代に抗う男の生きざまを描いた感動のヒューマン・ドラマとして大いに評価したいと思う。   (採点=★★★★

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